写真提供:和気町
岡山県の南東部に位置する和気町(わけちょう)。
岡山駅から電車で約30分、豊かな自然に恵まれた人口13600人ほどのこのまちに、
移住者が増えているといいます。
和気町への移住者はこの5年間で500人を超え、
関東や関西から移住する子育て世代に加えて、
ニューヨークやロンドンをはじめとした海外生活の経験がある移住者も増えています。
海外での暮らしを経て、和気町で暮らすことを選んだ4家族を取材しました。
最先端のカルチャーや技術とは無縁と思われそうな田舎町、和気。
ここで暮らす移住者に、ハリウッド映画のVFX(CGによる視覚効果加工)を
手がけるクリエイターがいる。
『スパイダーマン』などのVFXを手がけたファビオ・ピレスさんだ。
2019年、ニューヨークから妻の三村絵美さんと子どもたちと共に移住してきた。

約20年のアメリカ生活を経て移住した三村絵美さんと、夫のファビオ・ピレスさん。日々の暮らしでも備前焼のカップを。モダンな暮らしにもなじむ佇まい。
「移住先の候補に、和気町は考えたこともなかったです」
候補は広島と岡山、そして和歌山。帰国中の1か月間で
3か所を巡る予定を立てていた絵美さんが笑いながら話す。
「移動の途中、和気町は2週間からお試し住宅を利用できると知って
訪れてみたのがはじまり。
コンパクトなサイズ感のまちで、コミュニケーションのやりとりもラク。
移住者やまちそのものにポテンシャルを感じました。
将来の姿がなんとなく見えやすかったのも、移住を決めた理由のひとつになりました」

まちが持つポテンシャル?
それってどういうこと、と聞く前にファビオさんが続けてこう話す。
「町役場に出向けば、言葉がわからなくてもわかろうとしてくれる。
この個人を受け入れようとしてくれる姿勢が和気には強くありました。
人口が減るなかで価値があるのは人。そして人こそが資源。
人がやりたいこと、やろうとすることが発展につながるものなので、
そうした人の動きを町が認識してサポートしてくれることこそ、和気のポテンシャル」
なるほど。コンパクトだからではなく、まちそのものが暮らす人々をつなぎ、
サポートする姿勢にあふれているのだ。

小学生の娘、未就学児の息子と娘の、子ども3人とのんびり散歩を楽しむ時間も大切。
「it takes a village to raise a child」
子どもをひとり育てるのに、村全体が協力する。
このまちに暮らして実感を持った言葉だと絵美さん。
「医療費が18歳まで無料。これは大きな恩恵ですが、それ以上に人のよさに尽きます。
子どもが自転車でそこらへん回ってきていい? と聞いてきても
安心して行っておいでと。みんながうちの子どもだと知っているし、
なにかあったら連れて帰ってきてくれる。
みんなで子育てしようという、いいかたちが残っている気がしますね」
田舎ならではのことかもしれないけれど、と続けたが、
このあと出会った人の話を聞くと和気ならではのような気もした。

家の裏は見晴らしのいい景色が広がる。「見える範囲ならどこに行ってもいいよ」と絵美さん。
たとえばニューヨークでは、自宅のベランダであっても
子どもがひとりで遊ぶことは許されない。そして高額の医療費と教育費。
せわしなく過ぎるニューヨークの日常のなかでは、
なにもしない時間にも罪悪感を感じていたという。
ここでの暮らしは、ニューヨークとは180度異なる。
「和気にきて、初めてなにもしない時間が尊いものだと感じられました。
この自然豊かな地で、のんびりと過ごしながらも
新たなクリエイトにチャレンジする人は多い。
それが学びにも、そして刺激にもなる」と、ファビオさんは、新たにAIを学習中。
畑にイノシシがくると教えてくれるシステムも考案した。

ファビオさんのワークスペース。最先端映像が映るモニターの横には田んぼや畑。
夫婦共にクリエイター。絵美さんはWebデザイナーとして、
ニューヨークで暮らしていた頃からリモートワーク。
現在もその仕事を続けながら、新たにWebサイトを立ち上げた。
それが、備前焼の魅力を世界へ届ける『motsutou.com』。
Webデザインやテキストは絵美さん、撮影はファビオさんが担当し、
時にぶつかりながらも二人三脚で歩みを進めている。
「伝統工芸はそのルーツを含めて、受け継いでいってほしいもの。
備前焼でもその歴史を受け継ぎ、新たな挑戦を続ける若手作家が存在しています。
彼らの作品が多くの人に届くお手伝いになればと思い、サイトを立ち上げました。
和気のオーガニック糸なども、備前焼を取り巻く日常品として捉えて
発信できればと考えています。備前というエリアを活性化できれば。
若い人たちが都会ではなく、この地で働きたいと思う場所になればいいなと」
ポテンシャルがあるなと思ったから。
その言葉を見えるかたちにするためのチャレンジもスタートしている。

ふたりのお気に入りは、備前焼のイメージを変えようとチャレンジする若手作家の作品。