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旧美流渡小・中学校に
アートの力で賑わいを。
窓板にMAYA MAXXが絵を描く

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.143

posted:2021.8.18   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

30枚以上の窓板に絵を描く新たな挑戦

6月に、私の仕事場の向かいにある、
2年前に閉校した旧美流渡(みると)中学校の活用プロジェクトが始まり、
前回の連載では7月に行った活動についてリポートした。
今回紹介したいのは、8月に入って、
校舎の1階の窓に打ちつけられた板に絵を描く取り組みについてだ。

活用を進めている中学校に隣接して、同じく閉校になった小学校があり、
どちらの窓にも落雪による破損を防ぐために、閉校してすぐに板が張られた。
岩見沢市は豪雪地帯であるため雪止めの板を張るのは仕方のないこと。
けれど、ここが閉鎖された場所であることが強く感じられて、
建物全体が物悲しい印象となっていた。

煉瓦造りの小学校の校舎。窓に貼られた板の1枚は幅5メートルにもなる。(撮影:佐々木育弥)

煉瓦造りの小学校の校舎。窓に貼られた板の1枚は幅5メートルにもなる。(撮影:佐々木育弥)

白い壁の小学校の校舎。こちらにも大きな窓板が10枚ある。(撮影:佐々木育弥)

白い壁の小学校の校舎。こちらにも大きな窓板が10枚ある。(撮影:佐々木育弥)

この校舎活用の中心的なメンバーとなっている、
昨年美流渡に移住した画家のMAYA MAXXさんは、
あるとき窓の板に絵を描いてはどうだろうと提案してくれた。

窓にたくさんの板が張られているのは主に小学校側。
この校舎は築年数も古く、内部の活用は難しいのではないかという話が
持ち上がっており、それならばせめて廃墟のようなイメージにならないように
外観だけでも明るい印象にできたらとMAYAさんは考えてくれた。

そこで、私は市役所や教育委員会、町内会のみなさんと相談をし、
さらに市内にある北海道教育大学岩見沢校にも協力を呼びかけ、
8月6日から「MAYA MAXX 窓板ペインティング」を実施することとなった。

先頭に立って動くMAYA MAXXさん。(撮影:佐々木育弥)

先頭に立って動くMAYA MAXXさん。(撮影:佐々木育弥)

ペインティングの初日、北海道教育大学の学生9名と
札幌などからSNSを見て駆けつけた数名が集まった。
窓の板は非常に大きく、小学校の煉瓦造りの校舎にある3枚は、
高さ約2メートル、幅5メートル。
高い位置にあるため足場を組んでの作業となった。

まず、周囲にペンキがかからないように養生をして、
合板のヤニを止めるためにシーラーを塗る作業から始めていった。
しかし、この日は午前中で32度。
風通しが悪く壁面から反射する熱もあって、体感温度はそれ以上。
熱中症にならないようにこまめに休みを入れたものの、
体力の消耗が激しく、午前中で作業は終わらせることにした。

壁面にペンキがつかないように養生をする。(撮影:佐々木育弥)

壁面にペンキがつかないように養生をする。(撮影:佐々木育弥)

2日目も10数名の参加者が集まってくれたのだが、
この日もたいへんな猛暑だったため、思うように作業ははかどらなかった。
日陰部分の作業を優先させつつ、ようやくメインの壁面のシーラーが塗り終わり、
上から下地となる白いペンキを少し塗り始めたところで作業が終了。
当初の予定では、この時点で下地となる白いペンキをすっかり塗り終えて
絵を描いているだろうと予想をしていたが、状況はまったく違っていた。

あまりの暑さに水道水をかぶるMAYAさん。

あまりの暑さに水道水をかぶるMAYAさん。

「手伝いに来てくれる人は、下地塗りじゃなくて
絵を塗りたいと思っているんじゃないかな。
早く絵を描ける状態になったらいいよね」

そんなふうにMAYAさんも語っており、
とにかくどこか1面だけでも下地を完成させる必要があると私は感じた。

そこで、次の日、私は集合より2時間早く現場に行って、白ペンキを塗ることにした。
白ペンキは1度塗っただけでは下の板の色がうっすらと見えてしまうので、
2度塗りが必要。
なんとか集合時間までに2度塗りまで仕上げられれば、
すぐにMAYAさんが絵を描き始められるんじゃないかと考えた。

窓に張られていた板はOSB合板。細かな凹凸があるため刷り込むようにペンキを塗る。(撮影:佐々木育弥)

窓に張られていた板はOSB合板。細かな凹凸があるため刷り込むようにペンキを塗る。(撮影:佐々木育弥)

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作業は終わるのか…?

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下地が塗り終わり、ついに絵が現れた!

朝10時、みんなが集まり、MAYAさんがついに絵を描き始めた。
赤一色で描かれたのは縄文の植物。
茎が渦巻き、葉っぱが伸びる、生命力の塊のような絵だった。
絵が描かれるのを見て、この計画を実行して本当によかったと確信した。
校舎がまるで息を吹き返したように感じられたからだ。

渦巻きが描かれた! ここに葉を描き、縄文の植物を浮かび上がらせていく。

渦巻きが描かれた! ここに葉を描き、縄文の植物を浮かび上がらせていく。

さらにこの日は、MAYAさんがグラウンドに白線で絵を描くというチャレンジも行った。
クマの顔とMIRUTOの文字が大地に浮かび上がった。

ドローン撮影:長坂智幸

4日目の最高気温は25度。
日差しのなかでの作業は暑さを感じることもあったが、
かなり過ごしやすく制作も進んだ。
暑い日に描いた縄文の草の葉の部分の形が甘いとMAYAさんは修正。
少しでも良くなるようにと筆を取り続けた。

5日目は雨でお休み。
MAYAさんも私も連日の疲れが溜まっていたので、この休息はありがたかった。

翌日、驚くほど気温が下がり、日中でもようやく20度に届く程度。
白いペンキはまだ塗られていない部分も多かったが、この日参加してくれた6名は、
黙々と作業を続けてくれ、32枚あった窓板すべてが白く塗られた。
MAYAさんも引き続き縄文の植物の制作を続け、ほぼ2枚が仕上がった。

札幌市立大学の教授を務めていたアーティストの上遠野敏さんや、イラストレーターの大西洋さん、バーナーでガラス細工を制作する杉山裕仁さんなど多彩な顔ぶれが集まってペンキを塗ってくれた。

札幌市立大学の教授を務めていたアーティストの上遠野敏さんや、イラストレーターの大西洋さん、バーナーでガラス細工を制作する杉山裕仁さんなど多彩な顔ぶれが集まってペンキを塗ってくれた。

計画では8月11日で作業のめどがつく予定であったが、
予定の3分の1ほどしかできておらず、このまま活動を継続していくこととなった。

素早く作業が進まない理由のひとつは、窓に張られた板がOSB合板というもので、
面に細かな凹凸があり、その穴の部分にペンキを塗り込んでいくことに
手間を要したため。また、合板に使われた接着剤が
白いペンキに染み出して部分的に色がついてしまうこともあり、
ペンキを3度塗りしなければならない部分もあったからだ。

さらにMAYAさんが描いた縄文の植物も赤いペンキを2度塗り。
細かな凹凸のある板にもかかわらず、エッジをシャープに描いていくので、
1日、1枚を仕上げるのが精一杯という状況だった。

縄文の植物とともにウサギやリスなどの動物も描かれた。

縄文の植物とともにウサギやリスなどの動物も描かれた。

「サッと流して描いてしまうと、長く時間がたってくると薄い印象になってくる。
やっぱり気持ちを込めて描かないとね」

いま原稿を書いている時点で、絵の枚数は残り25枚以上。
だいたいが縦2メートル、横3メートルと、ビッグサイズの板も15枚ほど残っている。
いったいいつ終わるのかと途方もない気持ちにもなるが、
これまでのMAYAさんの活動を振り返ると、きっとできるという勇気もわいてくる。

白く塗られた窓板。全長30メートル以上ある!

白く塗られた窓板。全長30メートル以上ある!

今年の2月には岡山県にある小さな島、北木島のフェリーの発着所付近にあった
スレートの倉庫に、鳥と赤い石を、地元の人たちと協力しながら描いた。
サイズは100畳。しかもスレートという凹凸のある壁で、
線がまっすぐに引けないという困難のなかでの作業だった。

100畳という巨大な壁面。「シマヲカナデル KASAOKA ART&MUSIC FESTIVAL 2021」のプレイベントとして実施された。

100畳という巨大な壁面。「シマヲカナデル KASAOKA ART&MUSIC FESTIVAL 2021」のプレイベントとして実施された。

また、7月には福岡アジア美術館で開催された『おいでよ! 絵本ミュージアム』で、
高さ2メートル40センチ、全長70メートルにもなるダンボールに、
縄文の植物やオランウータンを描いた。制作期間は6日ほど。

どちらも「自分ができる限りの精一杯のことをしよう」と決めて
MAYAさんは取り組み、限りある時間のなかで最善を尽くした。

『おいでよ! 絵本ミュージアム』展での制作風景。

『おいでよ! 絵本ミュージアム』展での制作風景。

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画面があるなら全部描く!

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母校のみなさんにやってよかったと言ってもらえるものを

今回、北海道教育大学の学生にもペイントに参加してもらったが、
事前にMAYAさんはこんなふうに彼ら彼女らに語りかけていた。

「みんなにも母校があるように、美流渡小・中学校が母校だった人がいます。
母校だった人たちが見て、やってくれてよかったなと
思ってもらえるようなことができたらと思います」

今回の窓板ペインティングでは、私はなるべく効率的に作業を進めていかなければと、
つい焦る気持ちが出てしまうこともある。
そんなときMAYAさんは、とにかくこの1枚をしっかり終わらせようと語り、
ひと筆ひと筆、心を込めて塗っていく姿が印象的だった。

「もしかして全部描かなくていいのかもしれないって思うけど、
画面があるなら全部描く! それが私の生き方」

どんなときでも、精一杯のMAYAさんのおかげで、
美流渡に新たな風景が立ち現れようとしている。
この真剣さに心を動かされ、サポートに来てくれる人たちも
日に日に力がこもっていっているように感じる。

美流渡にゆかりがない人も、「ペンキ塗り楽しかった〜」と
汗を吹きながら笑顔で帰っていく姿を見ていると、
こうした取り組みが地域活性という言葉を超えて、
もっと本質的に人の心に響くものになっているんじゃないかという希望を感じた。

ここに描かれた縄文の植物から、人々の精一杯の真剣さが
きっと感じとれるんじゃないかと私は思う。

窓板ペインティングの実施日は、みる・とーぶFacebookで情報発信中。

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