連載
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
仕事場の向かいにある旧美流渡(みると)中学校。
2年前に閉校になったこの校舎の利活用の取り組みが、約1か月前から始まった。
私が代表を務める地域PRプロジェクト〈みる・とーぶ〉が
活用の窓口になったことは、以前の連載で書いた。
その後、オンラインで校舎の試験活用についての説明会を行ったり、
月1回の清掃活動を行ったりするなかで、予想以上の広がりが生まれようとしている。
今年は試験活用期間ということで、
まず地域のみなさんにさまざまなかたちで使ってもらって、
意見をヒアリングして、今後につなげていこうと考えており、
さっそく、体育館を使ってみたいと申し出てくれたのは、
岩見沢市の山あいの万字地区に2018年に移住した岡林利樹さんと藍さんだった。
ふたりはアフリカ太鼓の奏者。週末に美流渡地区で開かれることになった
小さな音楽会に参加することになり、そのリハーサルを行いたいというのだった。
リハーサル当日には、道内各地からアフリカ太鼓仲間が集まってきて、
体育館で音合わせが行われた。
広々としたスペースでリハーサル。
その傍らで、太鼓メンバーの子どもたちがボールを蹴って駆け回っており、
これだけ広いスペースがあれば、練習をする大人も、
それを待っている子どもも伸び伸びできてハッピーだということがわかった。
駆け回るスペースも十分。
また、定期的に体育館を使いたいと言ってくれたのは、
一昨年に美流渡地区に移住した陶芸家のこむろしずかさん。
こむろさんは日本舞踊の名取にもなっていて、
地域の人たちと一緒に踊る教室を開くようになっている。
「ソーラン節」や「炭坑節」など、地域のお祭りがなかなか開催できないなかで、気分だけでも味わってほしいと、少人数で開催。
みる・とーぶでも、8月から9月にかけてイベントを企画。
校舎活用の中心的存在になってくれている、
昨年夏に美流渡に移住した画家のMAYA MAXXさんと
1階の窓に打ち付けられている雪止めの板に絵を描く企画を進めている。
期間は8月6~11日の6日間。
地元の人や市内にあるアートとスポーツに特化している
北海道教育大学岩見沢校の学生にも協力を呼びかけ、
MAYAさんの下描きをもとに、みんなで色を塗る予定。
中学校の隣に立つ、同時期に閉校した小学校側のものを合わせると、
窓は全部で40枚近く。
大きい窓は縦2メートル、横5メートルにもなるので、
絵ができたらきっと迫力あるものになるに違いない。
小学校の一部は煉瓦造り。窓は大きく幅は5メートルにもなる。(撮影:佐々木育弥)
このほか9月には教育大学と連携しながら
教室にMAYAさんの作品を展示する計画も進行中だ。
現在、福岡アジア美術館で開催中の『おいでよ! 絵本ミュージアム』で、
MAYAさんは何十メートルにもなるダンボールに、動物や木々を描いており、
これをなんとか美流渡に運び入れて、こちらでも展示ができたらと
調整をしているところだ。
『おいでよ! 絵本ミュージアム』の展示風景。縄文文様のようにうねる木々をMAYAさんが現地で描いた。(撮影:小川真輝)
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予定が決まってくるなかで、思いがけないコラボレーションも発生している。
校舎で夏休みの子ども向けワークショップを開催したいと声をかけてくれたのは、
万字にある〈ジン鍋ミュージアム〉の溝口雅明館長。
この私設ミュージアムは、溝口さんの実家であった元食料品店のスペースに、
所蔵する450点から選りすぐったジンギスカン鍋を展示。
毎月、週末の数日間、開館している。
旧校舎活用の趣旨に賛同してくれて、
中学校を盛り上げようと溝口さんらが考えてくれたのは、
ジン鍋に墨を塗って拓本のように、バッグや手ぬぐいに模様を転写するというもの。
ジン鍋にはそれぞれ独特のスリットが入っていて、
参加者が好きな鍋を選んで転写ができるという稀有な企画だ。
ジンギスカン鍋を使ったワークショップ。
開催はMAYAさんが窓のペイントを行っている期間中の8月7日と8日に決定。
7日には、すでにこむろさんの日本舞踊のワークショップが
体育館で開かれることになっていたことから、
せっかくならコラボをしてみようということになり、
アルミの軽いジン鍋を団扇がわりに持って、
こむろさんや参加者に踊ってもらおうという話まで持ち上がった。
こんな奇想天外な企画が膨らんでいくのは、本当にこの地域らしい。
移住者も元からここに住む人も独創的で、行動力がある。校舎の活用方法として、
外からアーティストを呼んできてイベントを開催することもできるが、
地域の人々の楽しいアイデアが積み重なって、ここが賑わっていくことが一番だと思う。
ワークショップとともに、ジン鍋クイズも企画中。溝口雅明館長(左)と、ミュージアムのアートディレクター吉田裕二さん。
さらにうれしかったことは、2回目に実施した校舎清掃に、
地元のメンバーだけでなく、岩見沢の市街地や長沼、千歳といった、
この地域に縁がない人たちもSNSを見て参加してくれたことだ。
「なんだかおもしろそうだなと思って」という参加者もいて、
清掃という大変地味な作業でも、興味を持ってくれる可能性もあることがわかった。
しかも、道内各地をめぐっているソフトクリームのキッチンカーも、
清掃日に応援に駆けつけてくれた。
休憩中、みんなでキッチンカーを囲んで、あそこをもっと掃除したいとか、
ここも草を刈っておきたいと話している時間がなんとも心地よかった。
義務感や責任感とは違う、楽しさの連鎖が起こっているように感じられたからだ。
西興部村の牧草だけで育った牛のミルクを使ったソフトクリームと自家焙煎コーヒーがおいしい〈カフェ・アルコバレーノ〉。記録的な暑さのなかで行った清掃作業。ソフトの冷たさに癒される!
1か月、校舎活用のために動いてみて、このようなオープンな場所があれば、
そこを使ってみたいと思ってくれる人が確実にいるということ。
そして、8月、9月に行うイベントを通じて、
新たな企画が自然発生的に生まれていったら。
とくに誰かがディレクションしたり、方向性を指し示さなくても、
美流渡や、この周辺地域らしさが感じられる場所になるかもしれない。
そんな期待を持っている。
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