連載
posted:2022.3.31 from:岡山県和気郡和気町 genre:暮らしと移住
PR 和気町
〈 この連載・企画は… 〉
ローカルで暮らすことや移住することを選択し、独自のライフスタイルを切り開いている人がいます。
地域で暮らすことで見えてくる、日本のローカルのおもしろさと上質な生活について。
writer profile
Takeshi Tsuchihashi
土橋健司
つちはし・たけし●大阪府出身。出版社、広告制作会社での勤務を歴てフリーランスの編集・ライターに。遠方へ旅立つ際は、ローカルスーパーを訪問。その地ならではの惣菜や調味料探しが楽しみ。地図を見ない散歩もします。
credit
撮影:池田理寛
岡山県の南東部に位置する和気町(わけちょう)。
岡山駅から電車で約30分、豊かな自然に恵まれた人口13600人ほどのこのまちに、
移住者が増えているといいます。
和気町への移住者はこの5年間で500人を超え、
関東や関西から移住する子育て世代に加えて、
ニューヨークやロンドンをはじめとした海外生活の経験がある移住者も増えています。
海外での暮らしを経て、和気町で暮らすことを選んだ4家族を取材しました。
最先端のカルチャーや技術とは無縁と思われそうな田舎町、和気。
ここで暮らす移住者に、ハリウッド映画のVFX(CGによる視覚効果加工)を
手がけるクリエイターがいる。
『スパイダーマン』などのVFXを手がけたファビオ・ピレスさんだ。
2019年、ニューヨークから妻の三村絵美さんと子どもたちと共に移住してきた。
「移住先の候補に、和気町は考えたこともなかったです」
候補は広島と岡山、そして和歌山。帰国中の1か月間で
3か所を巡る予定を立てていた絵美さんが笑いながら話す。
「移動の途中、和気町は2週間からお試し住宅を利用できると知って
訪れてみたのがはじまり。
コンパクトなサイズ感のまちで、コミュニケーションのやりとりもラク。
移住者やまちそのものにポテンシャルを感じました。
将来の姿がなんとなく見えやすかったのも、移住を決めた理由のひとつになりました」
まちが持つポテンシャル?
それってどういうこと、と聞く前にファビオさんが続けてこう話す。
「町役場に出向けば、言葉がわからなくてもわかろうとしてくれる。
この個人を受け入れようとしてくれる姿勢が和気には強くありました。
人口が減るなかで価値があるのは人。そして人こそが資源。
人がやりたいこと、やろうとすることが発展につながるものなので、
そうした人の動きを町が認識してサポートしてくれることこそ、和気のポテンシャル」
なるほど。コンパクトだからではなく、まちそのものが暮らす人々をつなぎ、
サポートする姿勢にあふれているのだ。
「it takes a village to raise a child」
子どもをひとり育てるのに、村全体が協力する。
このまちに暮らして実感を持った言葉だと絵美さん。
「医療費が18歳まで無料。これは大きな恩恵ですが、それ以上に人のよさに尽きます。
子どもが自転車でそこらへん回ってきていい? と聞いてきても
安心して行っておいでと。みんながうちの子どもだと知っているし、
なにかあったら連れて帰ってきてくれる。
みんなで子育てしようという、いいかたちが残っている気がしますね」
田舎ならではのことかもしれないけれど、と続けたが、
このあと出会った人の話を聞くと和気ならではのような気もした。
たとえばニューヨークでは、自宅のベランダであっても
子どもがひとりで遊ぶことは許されない。そして高額の医療費と教育費。
せわしなく過ぎるニューヨークの日常のなかでは、
なにもしない時間にも罪悪感を感じていたという。
ここでの暮らしは、ニューヨークとは180度異なる。
「和気にきて、初めてなにもしない時間が尊いものだと感じられました。
この自然豊かな地で、のんびりと過ごしながらも
新たなクリエイトにチャレンジする人は多い。
それが学びにも、そして刺激にもなる」と、ファビオさんは、新たにAIを学習中。
畑にイノシシがくると教えてくれるシステムも考案した。
夫婦共にクリエイター。絵美さんはWebデザイナーとして、
ニューヨークで暮らしていた頃からリモートワーク。
現在もその仕事を続けながら、新たにWebサイトを立ち上げた。
それが、備前焼の魅力を世界へ届ける『motsutou.com』。
Webデザインやテキストは絵美さん、撮影はファビオさんが担当し、
時にぶつかりながらも二人三脚で歩みを進めている。
「伝統工芸はそのルーツを含めて、受け継いでいってほしいもの。
備前焼でもその歴史を受け継ぎ、新たな挑戦を続ける若手作家が存在しています。
彼らの作品が多くの人に届くお手伝いになればと思い、サイトを立ち上げました。
和気のオーガニック糸なども、備前焼を取り巻く日常品として捉えて
発信できればと考えています。備前というエリアを活性化できれば。
若い人たちが都会ではなく、この地で働きたいと思う場所になればいいなと」
ポテンシャルがあるなと思ったから。
その言葉を見えるかたちにするためのチャレンジもスタートしている。
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神戸で子どもと一緒に乗っていた電車。
目に止まった中吊り広告で、和気町を初めて知ったというのが
移住者の松田拓真(ひろみち)さん。
大学卒業後から約20年間ニューヨークで暮らし、
そこで出会った韓国出身のパートナー志恩(しおん)さんと、
授かったふたりの子どもの4人での生活を、神戸で始めていた頃だった。
テレビ番組で特集される移住に憧れを抱いていたので目に止まったのかも……とも。
すぐに子どもの夏休みに、和気町を訪問。
移住支援制度の宿泊費補助と移住相談員による現地ガイドを利用して、
さまざまな場所を案内してもらい、先輩移住者たちと出会った。
その際に、駅から5分の空き物件を見に行き、契約まで進んだというから驚きだ。
「ほかの場所を見ていなかったということも大きかったかもしれませんけど、
母の介護をしていた神戸まで、車なら約1時間で行ける距離感。
待機児童ゼロ。子どもの医療費は無料。英語教育に力を入れていること。
自然豊かな環境でありながら、生活圏内にスーパーや飲食店もあり困ることがない。
“現実的なまち”だったのも移住を決められた理由です。
ニューヨークでの料理人経験を生かす仕事もハローワークで見つけ、
現在は病院食を手がけています。勤務時間が決まっているので、
家族との時間がつくりやすくなりましたね」
海が見えるまちが理想だった。
けれど、2018年に移住してからの暮らしは、そうした憧れを払い、
2021年には家を購入するにいたるほど、心地よいものだったのだ。
同時に、志恩さんの理想も叶えた暮らしとなっていた。
「ニューヨークでも神戸でも、私がひとりで子育てを担当し、
人との出会いがない状態でした。自分の時間をつくって、
韓国語を教えたり、知り合いを増やせるような環境をつくりたい。
それが理想の暮らしだったのです。
いまでは気づけばつながりだらけ。
おすそ分けしたキムチがおいしいからつくってよと頼まれたと思ったら、
次の日には玄関に白菜が置かれていたり、
いつの間にか販売できるような段取りまで進めてくれていたり……。
なにかをしたいと言えば助けてくれて、必要な場所や人へとつなげてくれる環境!
待機児童がゼロだったけれど、
条件が合わず学童には入れられないことがわかったときも、
住民同士のネットワークの濃さによって預かってくれる人が現れたり。
本当に助け合い、つながりを大切にしているまちだと思います」
突然訪れた学童問題も、和気町民のコミュニティ力によって解決。
移住者同士の子どもが同級生ということで、
さまざまなインフォメーションを共有し合える環境ということも
暮らしの大きな助けになっている。
和気町の移住者は、松田さん夫妻をはじめ、外国人や海外生活経験者も多い。
環境やコミュニティに惹かれたというのも大きいが、
和気町が英語教育に力を入れていることも魅力につながっている。
「子どもたちが和気にずっといるわけではないでしょう。
私自身ニューヨークでの暮らしは楽しかったですから、
子どもたちが世界へ行くことも考えられます。
その点でも英語教育への取り組みは惹かれた部分です。
また移住者の方にも海外での暮らしを経験している方や外国人の方も多く、
ここでの暮らしからでも多くの価値観を得られると思っています」
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2018年にオーストラリアから帰国して半年後、
和気町に移住を果たした吉岡香織さんご家族。
それから3年、つい最近、のどかな田畑が広がる地区から
和気駅のほど近くへと町内で引っ越しをした。
急な用事ができたときに、実家のある岡山市にも
電車で行き来しやすいという理由からだ。
駅前といえども、川や山はすぐそば。吉岡さんも含めた移住者が、
その決断理由にあげる「美しい自然と景色」がここでも広がる。
岡山市内から電車で30分圏内というアクセスの良い場所に。
「住み始めて3年。もうほかに移ろうなんて考えないですね。
子育て環境にすぐれた場所が移住の条件でしたが、困ることはほぼないですね。
コロナ禍ということで、先日も学校が突然お昼までになってしまいました。
お迎えに行けない……という状態でしたが、担任の先生が家まで送ってくださって。
通学路には踏切があるので安全面を考慮してのことでした。
少人数だからこそ、どこに住んでいて、どの道を通っているのか把握し、
子どもたちひとりひとりをしっかり見てくださっているんだなと、
驚きとうれしさでいっぱいでした」
子どもに向き合った教育環境が整う和気町。
移住者からの注目が集まるのは英語特区として外国語教育に力を入れている点だ。
ネイティブスピーカーである外国語補助指導助手が小・中学校に配置され、
幼稚園や保育園にも週2〜3回派遣されるほか、無料の英語公営塾も開校されている。
吉岡さん自身も、地域おこし協力隊の一員として
和気町とオーストラリアの小・中学校をつなげた遠隔授業を担当する。
「町内の小・中学校6校それぞれに異なるオーストラリアの6学校を見つけ出し、
各クラスごとでの交流カリキュラムを作成しています。
始めた当初は画面の向こうに外国人がいるなぁくらいに
ぼーっと過ごしていた子どもたちも、3年目を迎えて内容も改善していくことで
積極的に参加し発言するようになってきました。
やりがいもあり、任期満了後も活動につながることを続けられるよう準備しています」
そのひとつが人的な交流、留学だ。
和気町にはホームステイ先にカナダとの交流があるが、
授業で親睦を深めるオーストラリアにも留学ができないかと構想中。
そして同じ英語でも、さまざまな人種が話す異なる英語に触れられる機会を設け、
さらにワンステップ先に進む教育を考えている。
「きちんとした英語だけじゃなく、
いろんななまり、フランクな表現も知ってほしいなと。
枠を超えた英語に触れるのも、子どもたちの将来には大切だと思っています。
そのためにも、海外の方に和気町の魅力を伝えて移住してきてもらえたらなと。
いろんなことをクリアしないといけませんが、国外の人もターゲットにしたら
和気町がもっと発展していくんじゃないかなぁ」
地域の人と触れ合いながら働く地域おこし協力隊の仕事を経て、
さらに和気町への思いが強くなった吉岡さん。
目標はもうひとつ。和気町で家を買うことだ。
「周りのおばあちゃんがとっても元気で、ああいうおばあちゃんに憧れるなぁって。
そのためにも、住み続けられる家は必要です」
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「朝起きて窓の外の風景を眺めては、『いいなぁ』。
お茶を飲んでは、『やっぱりいいなぁ』」
2019年、和気町内でも山奥の集落である延原に移住してきた藤岡さんご夫婦。
移住してからの毎日は、冒頭の言葉から始まる。
夫のデル・ホワイトさんは航空会社
〈ブリティッシュ・エアウェイズ〉のパーサーとして、
妻の藤岡弥生さんはフォトグラファーとして、共にイギリスで長年働いてきた。
忙しく働く日々のなか、弥生さんが仕事の縁で訪れることになった
「ブリティッシュフェア」。真庭市の〈蒜山(ひるぜん)ハーブガーデン ハービル〉で
開催されたこのイベントで出会ったふたりの女性に、
岡山県を案内されたことが移住のきっかけとなった。
「真庭は寒いからもう少し暖かいところがいいなぁ」と、
県内を巡った先の延原に惚れ込み、物件探し。
弥生さんの実家は滋賀県甲賀市。田舎暮らしという点では同じように感じた。
「滋賀はね、もっと家同士が近くて窮屈な感じ。
ここは小屋や畑があって、一軒の家をものすごく大切にした造り。
人を大事にした家の建て方だし、景色としても見ていて飽きないの」
選んだ延原は、半数が移住者。藤岡さん夫妻のインスピレーション同様なのか、
バレエダンサーや船乗りといった海外経験者が多い。
そうした人々が心地よく暮らしているのは、
昔から暮らしてきた人々が快く迎えてくれているからだ。
夫妻が移住前、イギリスと行き来しながら家を準備している際も
「寂しいから早く帰ってらっしゃい」とも。
母屋の完成までは離れで生活を始めていた夫妻。
キッチン・バス共に完備のこの離れを、今後ゲストハウスとして運営予定。
弥生さん自身が移住先を探す際、人の家にお邪魔するのではなく、
自分で生活ができる環境があればうれしかったとの思いも込められている。
さらには英語レッスン教室も準備中。
教科書を持ってではなく、自然豊かな環境のなかで感じたことを英語でどう言うのか。
瞬間的に話したいことや疑問を解消しながら楽しく学ぶ、子ども向けの教室。
「疲れ果てていた私たちが、ここでの暮らしで元気になった。
すてきな場所をもっと知ってもらいたいと思っています。
移住者の集いがあるけれど、もっと小さな輪。
デルが開催したいと考えているティーパーティや、
新設したミュージックバールームでも、場所はどこでもいいけれど、
小さな集いができればいいかなとも思っています」
理想の環境でも、寂しいのは嫌。つかず離れず、
1か月に1度の頻度でティーパーティや座談会を村の人と楽しむ夫妻。
「ずっといないのかしらと思っていたんです。
『いいカッコをしない、自然体ですてきな本物の人』って。
それが、この村で出会えたの。みんな人柄がすばらしくって本当にびっくりしたわ」
海外での生活を経て、移住先に和気町を選んだ4家族。
移住をするそれぞれの理由は違えど、共通して和気での生活を決めた理由の根底に、
和気町民の人柄の良さがあるのだと感じた。
自然環境の美しさ、子どもの医療費無料や英語教育への取り組みといった
子育て環境にすぐれた魅力は当然あるとしても、三村さん夫妻が語った
「和気町の持つポテンシャル」に惹かれたというべきだろう。
理想の暮らしもそれぞれ異なる。けれど、その暮らしを叶えているのは
和気町に昔から暮らす人と移住者が織りなすコミュニティ。
思ってもいなかった不安や悩みが現れる移住生活も、
気づけば解決へと導くつながりを育んでくれる。
「一軒の家をものすごく大切にした造り」
藤岡さんの言葉どおり、和気町に暮らす人は
それぞれの家族、人を大切にしているのだろう。
だからこそ、困ったときはお互い様。
けれど干渉しすぎない、それぞれの家を大切にした距離感で、
暮らす人々が心地よい生活を送ることができるのかもしれない。
information
和気町移住情報サイト
WAKESUM
Web:WAKESUM
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