連載
posted:2022.2.16 from:東京都新島村式根島 genre:暮らしと移住 / 旅行
PR 東京都
〈 この連載・企画は… 〉
独自の自然や風土、文化により魅力が磨かれた東京の島々。
感性豊かなゲストピープルがその魅力をレポートします。
Chizuru Asahina
朝比奈千鶴
あさひな・ちづる●トラベルライター/編集者。北陸の国道沿いのまちで生まれ育ち、東京とバンコクを経由して相模湾に面した昭和の残り香ただようまちにたどり着きました。旅先では、細い路地と暮らしの風景に惹かれます。
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『暮らしを考える旅 わが家の移住について』では執筆も担当。
東京・竹芝桟橋から南へ160キロほど離れた式根島へは、高速ジェット船で約3時間。
調布飛行場から新島行きの飛行機に乗れば、連絡船に乗り継いだ隣島になる。
東京都新島村にある式根島は、徒歩で散策すると
半日ほどで島のスケールを体感できる、面積3.7平方キロメートルの小さな島だ。
周囲を囲む切り立ったリアス式海岸では
黒潮の影響で年中集まってくる多様な魚種を目当てに、釣り人が集う。
そうかと思えば、島の南側の海辺には天然温泉が湧き、
毎夜の如く星を眺めながらの野天湯という楽しみも。
地球の胎動がつくり上げた地形と
それに寄り添う人の暮らしが息づいている。
information
足付温泉
あしつきおんせん
住所:東京都新島村式根島1006
Web:新島村観光情報サイト
夏は溢れんばかりの海水浴客で賑わう式根島だが、
シーズンオフは、観光地然とした表情はまったくない。
冬は、海岸線に髙波が打ちつける険しい風景もあれば
島の人たちとのたおやかな交流を持てる時間もあり、
どこか温かなムードがある。
そんな冬の式根島を訪ねたのは、写真家の在本彌生さん。
欧州と日本を往来する国際線の客室乗務員から写真家へ転身、
旅先でインスピレーションを得たものを作品にすることの多い在本さんは
カメラを持って旅することが日常の、いわば旅の達人だ。
夏場は家族連れなど海水浴客で賑わう式根島だが、
シーズンオフともいえる冬場のタイミングはカメラを持って歩くのにいい。
ゆっくりとした速度で在本さんと一緒に歩けば、
写真家がどんな風に一瞬の魅力を切り取っていくのかが見えてくる。
今回は、1泊2日の滞在で在本さんが抱いた式根島の印象に加え、
来訪者の長期滞在を可能にするコワーキングスペース、
〈式根島コワーキングスペース〉を運営する下井勝博さんと
旅先での仕事を可能にする“ワーケーション”について語ってもらった。
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在本: 私は東京育ちで、初めてのひとり旅は父島だったんです。
中学3年生の時に父に小笠原海運のチケットを買ってもらって
「ひとりで行っておいでー」って、背中を押されて。
高校時代は伊豆諸島出身者と学区が一緒でしたね。
彼らは寮から学校に通ってきていたんです。
それこそ、いろんな島から来ていて友だちになった子もいました。
だからなのか、東京の島にはなんとなくシンパシーがあるんですよね。
自分が「島に行く」ということの入り口になっている場所だからだと思います。
下井: 僕も東京出身です。
小学校くらいから夏は大島に連れて行ってもらって。
高校1年の夏休みは新島、それ以降はずっと式根島かな?
ダイビングインストラクターにくっついて海に潜っていました。
大学4年間は夏の2か月間ずっとこっちにいる生活でしたね。
社会人になってからも、「週末、忙しいから手伝って」と
呼ばれるたびに、夜、竹芝のターミナルから船に乗って。
そんな生活が8年くらい続きましたね。
在本: それくらい、式根島が好きってことなんですね。
下井: はい。車の営業をしながら、
いつかは式根島でダイビングと漁師で生活しようと考えていました。
でも、いざ来ようと思った時に三宅島噴火(2000年)があったんです。
それから、ずっと島には遊びに来ていて、
2013年4月に商工会が職員募集をしていたのがきっかけで、
やっとこちらに移住することができたんです。
在本: 今はいろんな職種の人がリモートワークをできるようになりましたよね。
コロナ禍では、結構な人が都心から地方へ移住をしています。
でも、場所に相当な思い入れがないと難しいですね。
下井: そうですね。
式根島では、移住定住をスムーズに進めるための手段として、
“ワーケーション”を推進しています。
その内容は、一般的にはワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合わせた
旅行商品の延長とされていますが、
式根島では、土地と関わってくれる“関係人口”を増やすという、
明確なゴールを見据えた取り組みを行っています。
在本: 具体的にはどのような内容ですか?
下井: この場所は夏の繁忙期はカフェですが
そのほかの時期はワーケーション施設〈式根島CWスペース〉として運営しています。
ここで過ごしながら、ふだんの仕事をしてもらい、
余剰時間を活用して島の人たちと交流してもらう、
つまりは、島を知ってもらうのが目的です。
在本: 旅行者が長くいるという前提で、仕事をする場所や住まいの
環境は整っているということですか?
下井: この施設と提携している宿が数軒あります。
2週間〜1か月など長期滞在の価格設定もあり、
都心で家賃や水道光熱費を払って生活するよりは安いと思います。
1か月くらいいると、宿の人と仲良くなって、
厨房で一緒にごはんを食べるようになったりすることもあるようです。
在本: 私はワーケーションできるタイプのライフスタイルなんですけど、
個人的には自分で料理できる環境が欲しいと思うんですね。
キッチンが充実しているとうれしい。
下井: もちろん、そういったニーズに対応している宿もありますよ。
information
湯ったり宿ひだぶんGH(ゲストハウス)
住所:東京都新島村式根島9番地
TEL:04992-7-0072
料金:ドミトリータイプ1泊食事なし3000円〜(3泊以上割引あり)
2週間ワーケーションプラン 30000円
1か月ワーケーションプラン 60000円
※夏季のワーケーションプランはありません。
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在本: ここには、ダイナミックで男性的な自然がありますね。
今日は特に、波も高いし風も強い。
そういうところで見るものは、撮りたい気持ちをそそられます。
黒い岩が海に対してニョキニョキと連なっていて
そこに波がバシャーンって、あたって。
力強い景色は絵になるので、ここにいて毎日海を見ていたら、
きっと毎日違う写真が撮れるんだろうなと思います。
下井: 今回とは正反対の、波のない湖みたいな海も、とてもすてきですよ。
自然のオンオフが見られるのが、島に長く滞在する魅力のひとつかなと思います。
私は趣味でドローンを飛行させて、式根島を空撮するのですが、
いいタイミングに、すぐに現場に撮りに行けるのはいいですね。
在本: それは、島に住む人の特権ですね!
在本: 式根には、温泉がいっぱいあるのも魅力的です。
海水で温泉に入れるなんて、「なにこれ、タラソテラビー?」みたいな感じで。
女性はすごい魅力的に感じると思いますよ。
下井: ごはんを食べた後にも、温泉に行くことができますね。
ゲストハウスひだぶんのおかみさん(前出)はお客さんと連れ立って
2時間ほど星を見ながらおしゃべりしたりしていますよ。
在本: そういうの、ここの暮らしの一部なんですよね。
そういう楽しみが日常になると、なかなか手放したくなくなりますよね。
先ほど、唐人津城(とうじんづしろ)まで歩きましたが、
燦々と降り注ぐ太陽のもと、木々に囲まれて歩いている時がとても気持ちよかったです。
毎日歩くことができたら、とても健康的でいられると思います。
下井: 島の周囲は12キロあるんですけど、人が住んでいるところは6キロ圏内。
だいたい歩いて1時間くらい。
途中、高低差もあるから歩き甲斐がありますね。
在本: 風に当たることが快感だったりしません?
自然を、まともに体にうけている感じが気持ちよかった。
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在本: ヨーロッパの人たちは、夏の休暇は1か月、冬の休暇は3週間とりますよね。
日本人は長期間、家を空けるというと、特別なことをするって気分になりますけど、
1か月間、完全に今までの自分と切り離した生活をしてみたらいいんです。
きっとおもしろいことがあるだろうし、それが毎年のことになったらさらに楽しい。
それが1か月おきになったら、別の場所への定住につながるかもしれない。
長い間拠点を行ったり来たりしていても、
キャリアの最後の何年かになってきた時にスローダウンして、
さて、自分の仕事やろうかって思えるといいですよね。
下井: ははは、ここって全然スローライフじゃないですよ。
都市部では分業制のものが全部、自分でやらないといけないですからね。
時間があっという間に感じられます。
information
式根島コワーキングスペース
住所:東京都新島村式根島344-5
TEL:090-3045-9701
営業時期:10月〜4月中旬
営業時間:9:00〜16:00
料金:共有ワークスペース@1時間(テーブルorカウンター)1名につき500円(税込)
Web:式根島コワーキングスペース
在本: ここでは、自分から体を動かしていかないといけないから
自ずと心身も鍛えられますね。
1か月いたら自然のリズムが身につきそうです。
体験としてはやってみたい気がします。
私は、釣りがしたいですね。
下井: 1か月も滞在するならば、島の人たちが教えてくれますよ。
短期でくるとどうしても「お客さん」になってしまうけど、
長くいるとそれなりに島の人たちと仲良くなるから。
そこは受け入れ側も、旅行客とは違う感覚なんじゃないかな。
そういうの、観光的な視点ではアクティビティとして売り出せるんでしょうけど、
島に住む僕らは、来た時にできるものをやりましょうという考えでいます。
マリンスポーツは強風が吹いているとできないですしね。
1週間とか1か月のワーケーションの中でその日にできるものをやっていく。
そういうほうが、ここでは無理がなくていいですね。
在本: 下井さんはダイビングインストラクターもしていらっしゃいますが、
何かここでしか見られないような特別なものはあるんですか?
下井: ここには、海底に炭酸泉の海中温泉があります。
ほかでは絶対に見られないものですね。
海の中に、パチパチって下から湧いているんです。
顔を近づけると明らかにCO2が出ているのがわかりますよ。
そこにはいつもウミガメがいるので、夏はウミガメを探して泳いだりして。
在本: それは楽しそうですね。
私は1か月間ここにいるとしたら、デジタルデトックスしたいな。
通信スピードが安定しているところだと聞いたので、
いざとなったら仕事ができるという安心感もある。
言っていることが矛盾しますが、現実的に考えるとそうなります。
下井: ここは、海岸でもWi-Fiがつながりますからご安心を。
そうそう、式根島の海岸は、入江が深く遠浅なので
子どもが泳ぐのにちょうどいいスケールなんです。
だから、特に家族連れに人気があるんですよね。
在本: 私は、シーズンオフの海辺が好きで、
スペインやイタリアの海辺にはわざわざ閑散期を選んで行くほどです。
そこには誰もいないし海にも入らないけど、海岸を独り占めできる感じがいい。
海は、いつだって美しいから。
そういうのをじっと見ていられる時間が好きですね。
下井: 中の浦海水浴場なら、今の季節ならば一日中誰も来ないですよ。
4か所あるビーチの中で、私は中の浦海岸が一番好きです。
夕方、誰もいないところに行ったりします。
6月から9月くらいまでは水着で泳げますね。
在本: そういえば、さっき誰もいないなと思って、海辺の温泉に行ったら
おじさんがひとりいて、「よっ」って声かけてくれました(笑)。
下井: 島の規模が小さいのもあって、よその人がいると話しかけてくれますね。
人懐っこいんです、式根の人は。
夏はみんな、目が血走ってますけどね。
夏に来ると、こんなに人が来るんだーって驚くと思いますよ。
シーズンオフに旅をすると、いろいろ違う目で場所を見られるからいいですよね。
住む視点で見ると、日常の島は観光地じゃないってわかるから。
ぜひ、ワーケーションのタイミングで島に触れてもらって
ここがいいな、と思える人に
島に関わってもらえるようになってもらえたらいいなと思います。
これまで2回、式根島の魅力を発信し、仲間を集うワークショップ、
「式根島アカデミー」を主宰してきた下井さん。
その結果、ワーケーションを通じて島人と交流し、
土地を知ったうえで島のファンになってくれる人なら
長きにわたっていい関係を結べるのでは、ということが見えてきたという。
自身の経験から、東京からのアクセスの点でも
2拠点居住におすすめできるといい、
自然や人との触れ合いを大切にしたい人に
とても相性がいい場所だと太鼓判を押す。
興味のある人は、ぜひ、シーズンオフの島での
ワーケーションを計画してみてはいかが。
小さな島で体験する、海のある自然と暮らしの時間を
日常のものにできたなら、
人生に新しい景色が見えてくるかもしれない。
profile
YAYOI ARIMOTO
在本彌生
東京都生まれ。大学卒業後外資系航空会社で乗務員として勤務、乗客の勧めで写真を撮り始める。2006年よりフリーランスフォトグラファーとして本格的に活動を開始、雑誌、書籍、展覧会で作品を発表している。衣食住にまつわる文化背景の中にある美を写真に収めるべく世界を奔走している。写真集『MAGICAL TRANSIT DAYS』(アートビートパブリッシャーズ)『わたしの獣たち』(青幻舎)『熊を彫る人』(小学館)など。
information
東京宝島
東京都では、東京の島々が持つすばらしい景観や特産品、文化などの地域資源を磨き上げ、高付加価値化を図ることで、東京の島しょ地域のブランド化を目指す東京宝島事業に取り組んでいます。東京宝島の詳細は、公式ホームページにて。
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