昔ながらの農家の暮らしを伝えたい。
古家を改修した
渡辺正美さんとの本づくり
昔ながらの農家の暮らしに想いを馳せて
改修工事は約5年をかけて少しずつ進められ、現在も進行中だ。
外壁の板を剥がし、4つあった部屋のひとつは土間にし、ひとつには囲炉裏を置いた。
その工程を渡辺さんは丁寧に記録していた。
本づくりにあたって、さまざまな写真を見せてもらうなかで、
私が一番興味を持ったのは、外壁の板を剥がして現れた土壁が写ったものだった。
写真には、こんな説明が加えられていた。
葦と竹を縄でしばり組み合わせた碁盤の網目に、
細かく切った藁に粘土を練り合わせた土が均等な厚さに塗ってある。
みな自然の恵みからできている。
葦も藁も竹もそして粘土も役目が終われば土に還る素材である。


外壁を剥がすと現れた土壁と葦と竹を縄でしばり組み合わせた碁盤。(撮影:渡辺正美)
こんなふうに、天井や床を剥がしたりするなかで、
先人たちがどんなふうに家を建てていったのかを
渡辺さんは想像し、写真におさめ文章を書いていった。
これらを読んでいくと、改修は単なる快適さを求めてではなく、
農家の昔の暮らしの知恵と工夫をあらためて学ぶ機会だったのではないかと思う。
改修後、もともとあったすりガラス戸や障子戸を取りつけ、
また、家にしまわれていた囲炉裏に鍋を吊るすための「自在鉤」や、
富士山、鷹、松が描かれていた縁起物の食卓もしっかりと生かされた。

鍋を吊るすための「自在鉤」はもともとこの家に残されていたもの。(撮影:渡辺正美)
土間には溶接の技術を生かして自分でつくった薪ストーブを置いた。
冬の間は、ここで温まりながら、種の選別など来春の農作業の準備を行っている。

玄関口から入ってすぐの部屋を土間につくり替えた。(撮影:渡辺正美)
その暮らしを見ていると、現在、各国で高まりを見せているSDGsの取り組みは、
実は自分たちの足元にあるのではないかと思えてくる。
日本の昔ながらの農家の暮らしは、どこか遠い出来事のように感じられるが、
渡辺さんと一緒にやってみると、グッと身近なものとなってくるのだ。
例えば昨年は、わが家の庭に蕎麦の種を植えてくれ、
収穫、そして脱穀を教えてもらった。
蕎麦は手のかからない植物で、日照りが続いた夏も乗り切り、
秋にはたわわに実をつけた。

可憐な白い花をつける蕎麦。
この実を千歯こぎという道具を使って茎から外す作業にもチャレンジ。
時間はかかるが、集めた実がおいしい食材になるのかと思うと心が躍り、
ひと粒ひと粒に愛着がわいてくる。


櫛のように歯がついた千歯こぎで実を取っていく。
渡辺さんと接するなかで、昔の日本の暮らしは過去のことではなく、
現在進行形のものだということを私は教えてもらった。
古家の改修をまとめた本からも、そうしたメッセージが伝わってくれたらと願う。
渡辺さんの『古民家再生物語』。制作ペースはとてもゆっくりなものだが、
長い冬が明けて、北海道の桜が満開になる頃に刊行できたらと思っている。
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