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連載

「豊島事件」を教訓に
次世代へ美しいふるさとを託す

「瀬戸内オリーブ基金」豊かな海と島を伝え紡ぐ決意と希望の25年
vol.003

posted:2026.1.29   from:香川県豊島  genre:暮らしと移住 / 旅行 / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  「豊島事件」をきっかけに、瀬戸内海エリアの美しい自然環境を守り、
再生することを目的として、設立された NPO 法人「瀬戸内オリーブ基金」。
2025年に25周年を迎えた「瀬戸内オリーブ基金」のこれまでとこれからを伝える連載です。

writer profile

Junko Shimizu

清水淳子

しみずじゅんこ/愛媛県松山市出身。都内で出版社勤務ののち、地元松山へUターンし四国の旅雑誌の編集長に。2013年からフリーランスの編集者・ライターとして活動を開始し、2020年には子ども図書館を開設するなど、地域活動にも力を入れる。

photographer

Masanori Kaneshita

兼下昌典

かねした・まさのり/写真家。1987年広島生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。広告制作会社、イイノスタジオを経て2014年より木寺紀雄氏に師事し、2017年独立。広告・雑誌などにおいて様々な分野で活躍中。
https://www.kanegonphoto.com/

香川県の〈豊島〉に大量の産業廃棄物が不法投棄された「豊島事件」。この事件を教訓とすべく、「瀬戸内オリーブ基金」は今新たな試みを開始した。連載第3回となる今回は、「瀬戸内オリーブ基金」の25年にわたる歩みを振り返り、現在取り組んでいる活動とこれからの展望について話を伺った。
(「豊島事件」についてはVol.2の記事へ)

島民の想いと希望をオリーブに込めて

【瀬戸内海が持つ環境的・文化的・歴史的価値を見直し、植樹活動によって破壊された自然を回復し、「美しいふるさと」瀬戸内海を次の世代に引き継ぐ】

この目的を実現させるために「瀬戸内オリーブ基金」が、設立されたのは2000年11月のこと。

「安藤さん、豊島のゴミを処理するだけではダメだ。かつての緑豊かな島に戻さなければならない」

「豊島事件」公害調停を闘った弁護士・中坊公平さんが以前から付き合いのあった建築家・安藤忠雄さんにこう声がけをした。安藤さんは、阪神・淡路大震災の復興への取り組み『ひょうごグリーンネットワーク』という被災地の緑化活動を続けており、植樹についてのノウハウを持っている、うってつけの人物でもあった。中坊さんは、〈豊島〉の問題を〈豊島〉のみととらえず、日本の「環境破壊を見ないふりして成立してきた社会」の負の象徴であると位置づけ、瀬戸内の自然を取り戻すことこそが、日本の、そして世界の人々の環境に対する意識を変えるきっかけになると考えた。

第1回の記念植樹式の様子(提供:廃棄物対策豊島住民会議)

第1回の記念植樹式の様子(提供:廃棄物対策豊島住民会議)

2000年11月15日、〈豊島〉で開催された第1回の記念植樹式では、中坊さんと安藤さんが豊島の小中学生とともに、オリーブの苗木1000本を植樹。「瀬戸内オリーブ基金」は、瀬戸内の里山・里海を守る活動を支援し、100万本の木を植える目標を掲げる。現在は、ユニクロをはじめ、様々な企業や個人が支援をしている。

「排出事業者が廃棄物を委託する際の責任の明確化と、不法投棄の未然防止を目的に実施される『マニフェスト制度』の導入により、不法投棄が社会的に非難される行為として認識されるようになったのは、『豊島事件』が社会に与えた大きな影響です」と語るのは、弁護団の一人として豊島事件の公害調停に関わり、現在は、同基金の理事長をつとめる岩城裕さん。その一方で、豊島住民たちの粘り強い闘いが一部で「住民エゴ」と批判されることもあったそう。しかし、想像してみてほしい。もし豊島住民たちの小さな、そして長い闘いがなかったならば、現代も、効率と利益を最優先する経済原理に基づいた、ゴミが大量に廃棄される社会のままだったかもしれないことを。

「我々『瀬戸内オリーブ基金』のビジョンは、人と自然が共存する持続可能な社会を目指すことです」

現在、「瀬戸内オリーブ基金」は、4つのプログラムを軸に活動をしている。

オリーブの樹と豊かな自然の象徴、スナメリをモチーフにした「瀬戸内オリーブ基金」のスタッフユニフォーム

オリーブの樹と豊かな自然の象徴、スナメリをモチーフにした「瀬戸内オリーブ基金」のスタッフユニフォーム

1. 【助成プログラム】
「瀬戸内オリーブ基金」の理念に賛同する、法人・個人サポーターからの寄付金を元に、瀬戸内海エリアの環境保全と再生に取り組む団体に、原資となる資金を助成。瀬戸内海エリアの環境保全と再生を目指す。
現在までに3億円以上の資金助成を行ってきた。豊かな環境を日本のふるさととして次世代に引き継ぐことを目的に、瀬戸内の山・森・川・海や、そこに生きる生きものを守る活動に加え、未来を担う世代が環境について学び、考える機会をつくる取り組みを支援している。

2. 【ゆたかなふるさと100年プロジェクト】
廃棄物の不法投棄によって荒廃した〈豊島〉の処分地の植生を、本来の豊かさを取り戻すことを目指し、自然の営みに寄り添いながら、その回復の過程を手助けする取り組み。「瀬戸内オリーブ基金」の運営委員でもある岡山大学院環境生命自然科学研究科・嶋一徹教授のサポートのもと活動している。
今もなお、処分地には地下水問題が残るため、香川県が管理をし、モニタリングを続けている。将来的に豊島住民の手に戻った後、どのような手助けが有効かを検証しながら、処分地周辺の同じような環境で植生を回復させるための実証実験兼事業を行っている。
ちなみに豊島の中で、植生が破壊された面積は285,000平方メートル、現在までの植生回復活動の実績は3,980平方メートルである。

3. 【ゆたかな海プロジェクト】
「瀬戸内オリーブ基金」では2009年度から、海洋プラごみ問題の解決に取り組んできた。近年では、楽しみながら環境問題に向き合えるように、チーム対抗のゴミ拾い競技「スポGOMI」を開催するなど、企業ボランティアとともに豊島でも海洋清掃に取り組んでいる。2024年からは、瀬戸内海の食物連鎖の頂点にいるスナメリをテーマとした環境学習会も行っている。

4. 【豊島事件語り継ぎプロジェクト】
近年特に力を入れているプロジェクト。事件の経緯や背景を伝える〈豊島のこころ資料館〉の整備をはじめ、「豊島事件」の教訓をアーカイブ化し、残す取り組みを進めてきた。2019年からは「豊島事件」の語り継ぎを取り入れた環境教育も開始。小学生から大人まで幅広い世代を対象に「豊島事件」の学びを伝えている。長い闘争の歴史を語れる人たちが高齢化している課題もあり、世代を問わず多くの方に事件を知ってもらうためにYouTube動画作成などを通じて資料保存と活用にも力を注いでいる。ちなみにこれらの動画は岩城理事長が脚本を書いたそうだ。

豊かな島の自然景観の原状回復、その現場へ

今回、コロカルチームは〈豊島〉を訪れ、実際に「瀬戸内オリーブ基金」の活動を見せていただいた。
「ゆたかなふるさと100年プロジェクト」では、住民や学生、法人など多くのボランティアらとともに、処分地背後の尾根(南側)で植生回復事業を行う。この場所を〈ゆたかなふるさと再生の森〉と命名し、元の植生を再現した見本園の整備や、地元の小中学生との植樹活動などを通じ、攪乱された処分地の再生を一歩ずつ進めている。

1970年代にガラス原料の珪砂を採取するため表土が全面的に除去されたが、産業廃棄物は投入されなかった場所。自然植生を回復させる活動を行う嶋教授は右から4人目

1970年代にガラス原料の珪砂を採取するため表土が全面的に除去されたが、産業廃棄物は投入されなかった場所。自然植生を回復させる活動を行う嶋教授は右から4人目

「自然を取り戻す方法はいくつかあると思います。例えば東京の夢の島。あそこはかつて、ゴミ捨て場でしたが今は立派な公園ですよね。それも緑が戻っていると言えると思います。しかし豊島の住民が考えているのは、新しく緑を造成するのではなく、元通りの自然に戻してほしいということ」と、嶋教授。

40年近く放置されてきた土地は一見すると緑が生い茂って豊かな自然に回復されたように見えるが、住民は「元通りの自然ではない」と言う。それは一体、何が違うのか。
「調査してみたら、植物の多様性が非常に乏しいのです。表土が残された、もしくは堆積した場所では樹木が生育しているけれど、処分地やその周辺のように表土がほとんど残っていない場所は、いつまでも雑草が繁茂して遷移が全く進んでいません。このまま100年、200年放置したら、元通りに戻るかもしれないけれど、私たちが『少しだけ手を加える』介入をすることで、遷移の流れに沿って植生の回復が少し早く進むようにしているのです」

実施中の取り組みの中で最も労力のかかる作業の一つは、やっと土地に侵入できた小さい実生を残しつつ、林床に日差しが届くように、繁茂した雑草を人手で除去する作業。これを3年程度続けると、雑草の生育が少しおさまってくるそうだ。それと同時に、元来の植生が良好に回復している場所の表土を移植し、その表土に含まれる種が発芽出来るように環境を整える。こうした作業の繰り返しによって、多種多様な植生が早く定着できるようにしていく。

「全部芽が出なくてもいいです。たまたま芽が出た植物のうち、その立地環境に合ったものが残ってくれたらいいんです。ゆくゆくは風や鳥などの動物によって運ばれた種子が自然に発芽し、定着できる環境整備を行っています」

あくまで人が自然を造成するのではなく、「手助け」することで自然の回復力を活かして植生を元に戻すのだ。地道な作業の繰り返しだが、それを支えてくれる企業のボランティアにも支えられ、その規模は毎年少しずつ拡大している。

壊すのは一瞬、取り戻すには100年以上。「豊島事件」は、一度破壊された自然を回復させるには途方もない時間と多くの労力がかかることを教えてくれている。

再生を目指す土地の実生の生残率・樹高成長・種の多様性などをモニタリングし分析する

再生を目指す土地の実生の生残率・樹高成長・種の多様性などをモニタリングし分析する

「瀬戸内オリーブ基金」を支えるサポーターが楽しめる体験も

「瀬戸内オリーブ基金」は、理念に賛同し、「私たちに何かできることはないか」と声をかけてくれた多くの個人や企業・団体の存在に支えられている。彼らが「サポーター」となり、年会費などによる寄付やボランティアで活動を支える。法人サポーターの企業の中には、環境教育の一環として豊島でのボランティアへ参加し、現地で体験してきたことを社員間で発表するなど、学びの共有が行われている。その結果、社会貢献活動への意識が向上しているという。

2025年10月24日には、サポーター向けの『オリーブ収穫祭』が開催された。

オリーブ収穫祭でオリーブの実を摘む参加者。環境教育の一環として参加者を募るサポート企業も多い

オリーブ収穫祭でオリーブの実を摘む参加者。環境教育の一環として参加者を募るサポート企業も多い

〈豊島〉で栽培しているのは、2000年以降、全国から集まった寄付金によって植えられたオリーブ。成長にあわせた間伐などを経て、現在は約600本が大切に管理されている。このオリーブ収穫体験とともに、〈豊島のこころ資料館〉、かつての不法投棄の現場、そして〈ゆたかなふるさと再生の森〉を見学した。

収穫されたオリーブは24時間以内に島内の小さな搾油場で搾られ、エキストラバージンオリーブオイルや、そのオイルを使った石鹸や美容オイルとして商品化し、主に島内のお土産店や美術館で販売。売り上げは瀬戸内エリアの自然を守る活動に使われている。

収穫されたオリーブは24時間以内に島内の小さな搾油場で搾られ、エキストラバージンオリーブオイルや、そのオイルを使った石鹸や美容オイルとして商品化し、主に島内のお土産店や美術館で販売。売り上げは瀬戸内エリアの自然を守る活動に使われている。

参加したサポーターは、「オリーブの実を丁寧に摘み取る作業はとても楽しかったです。『豊島事件』への学びを深め、自然と人の共生や環境保護の大切さ、そして『瀬戸内オリーブ基金』の活動の一端を間近に感じることができました。一部の社員だけでなく、家族や友人にも〈豊島〉に行ってほしい」と、語った。

活動を支える次世代の力

「瀬戸内オリーブ基金」の事務局メンバー。左から松澤千穂さん、清水萌さん、塩川ゆうりさん

「瀬戸内オリーブ基金」の事務局メンバー。左から松澤千穂さん、清水萌さん、塩川ゆうりさん

「瀬戸内オリーブ基金」設立から25年、これまで様々な人材がこの活動に関わってきた。そして、現在、事務局の中心となるのは「3人娘」と、地元の人からも愛されている3名の女性。それぞれがそれぞれの想いやきっかけを持ち、そしてライフステージに合わせた持続可能なスタイルで、「瀬戸内オリーブ基金」の活動を支えている。

塩川ゆうりさんは、自然の中で働きたいと仕事を探している時に「瀬戸内オリーブ基金」と出会った。3年間〈豊島〉に住んだのち、現在は結婚して埼玉に移り、リモートで事務局の仕事をしつつ、定期的に〈豊島〉に通っている。
清水萌さんは父親が弁護団の一員(清水善朗弁護士)だったこともあり、幼い頃から〈豊島〉を訪れていたが、当時は事件について深く知ることはなかったという。改めて「豊島事件」について学び、子どもの頃に可愛がってくれていた島の人たちが、ふるさとを取り戻すために闘っていた事実を知ったことが、活動に関わるきっかけとなった。今は結婚し、子育てをしながら週に1、2回、岡山から船で〈豊島〉まで通っている。
そして、3名の中で一番新しいメンバー、石川県出身の松澤千穂さん。昔から夢だった自然や環境保全に関わる仕事がしたい、島で暮らしてみたいと思い立ち、2025年1月に〈豊島〉へ移住。現在、3名の事務局の中では唯一の島暮らしとなる。

様々な経歴ののち「瀬戸内オリーブ基金」に関わることになった皆さんを惹きつける、この仕事のやりがいは何なのか。
「『豊島事件』を遠くで起きた事として終わらせてほしくなくて、自分にも起こりうることだと知ってもらいたいんです。島外の子どもたちが〈豊島〉に学習に来て、その思いが伝わった時に、やっていて良かったなと思います」と塩川さん。

オリーブ収穫祭で参加者へオリーブオイルができるまでの工程を説明する塩川さん。オリーブの維持管理には地元の方との密なコミュニケーションが欠かせない

オリーブ収穫祭で参加者へオリーブオイルができるまでの工程を説明する塩川さん。オリーブの維持管理には地元の方との密なコミュニケーションが欠かせない

また、島の人たちとの関わりも活動の原動力だと3人は話す。
小さい島だからこそ、都会とは違った親密な人間関係を築くことができ、困り事は親身になってくれるし、農作物をいただくなど、交流もよくある。しかし、彼女らが生活を共にしている島民は、「豊島事件」で傷ついた人、戦った人たちだということを忘れてはならない。世間を騒がせた事件であることから様々な批判も受け、それでも一生懸命島を守った人たちなのだ。ふとした会話の中で、その葛藤の歴史を口にした島の方が涙を流す場面もあるという。だからこそ、常に誠実なコミュニケーションを心がけ、「私たちに何ができるか、何が求められているか」を模索している。

「応援してくださる島のみなさんのために、『豊島事件』を風化させたくない。今後、この学びを活かせるよう、次世代へ教訓として伝えていきたい」
と、3名は声を揃える。しかし現実には、豊島事件に当事者として関わってきた方々の高齢化も進み、どうこの教訓を伝えていくか試行錯誤を重ねている。島の中で様々な意見もある。「教訓を伝える」と言っても、当事者の語りを遺したり、当時の資料の収集・劣化対策の作業に加え、環境教育としての学びを体系化する取り組みも同時進行し、これまで以上に多くの協力者の支えが必要だと感じているという。

「活動への理解が深まり、応援してくださる方が一人でも増えるよう、支え合う仲間たちとこれからも頑張っていきたい」
島民の心に寄り添う若い力が大きな推進力となり、瀬戸内海の豊かな自然を未来へつなぐ活動は今日も、そしてこれからも続いていく。

支援の形は、個人でも法人でも、オンラインから自分に合ったタイミングで選ぶことが可能だ。 瀬戸内海の自然を次世代へつなぐために。あなたに合った方法で、この活動を支えてみてはいかがだろうか。
「瀬戸内オリーブ基金」の支援はこちらから
https://congrant.com/project/olivefoundation/20593

香川県の豊島

information

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瀬戸内オリーブ基金

所在地:香川県小豆郡土庄町豊島家浦3837-4

Web:https://www.olive-foundation.org/

Instagram:https://www.instagram.com/olive_foundation/

瀬戸内オリーブ基金を支援する:https://congrant.com/project/olivefoundation/20593

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