「戻っても仕事がない」と思い込んでいた
「小来川(おころがわ)を初めて訪れたのは、雪が降っているときでした。
ここはどこ? っていうくらい幻想的な景色が広がっていて、感動したんです」
夫の上吉原隆浩さんとともに、東京から日光市小来川地区に移住した
上吉原麻紀さんは、小来川との出会いを興奮気味にこう語る。
市の南部に位置する小来川は、山に囲まれ、清らかな渓流が流れる日光の隠れ里。
ダイナミックな滝や湖、寺社仏閣、温泉街など、
観光スポットとしてイメージする日光とはひと味違う、
静かでゆったりとした時間が流れている。
麻紀さんはここで地域おこし協力隊となり、
隆浩さんは移住前に立ち上げた、ウェブや映像制作、イベント企画などを行う
〈upLuG(アプラグ)〉という会社の業務をしながら、
日光と東京で二拠点生活を送っている。

上吉原さん夫婦が暮らす、里山の風景が美しい小来川。
隆浩さんは、現在日光市になっている旧今市市出身で、麻紀さんは県内の栃木市出身。
U・Jターンともいえるのだが、もともと日光に戻ってくるつもりはなかったそう。
その理由として「仕事がないだろう」という先入観が少なからずあったようだ。
「日光でウェブや映像制作の求人がないか、なにげなく見たこともあったのですが、
人材を募集するほどのところは見当たらなくて、現状を知りようがなかったんです。
でもせっかく会社を立ち上げたのだから、
何かおもしろいことをしたいと思い、地元の同級生に声をかけて
プロモーションビデオを撮らせてもらうことにしたんです」(隆浩さん)

麻紀さんが小来川で一番好きな場所だという円光寺。石段を上がった先で眺める山並みも美しい。

その同級生というのが、日光の天然水を使って上質なあんこを製造している
〈黒須製餡所〉の3代目、黒須崇浩さん。
隆浩さんは東京で映像制作チームを結成して、日光へ。
ロケハンも兼ねてみんなで鬼怒川温泉に泊まり、
黒須さんのところでものづくりのこだわりを聞いたり、
日光の自然環境を映像に収めたりしていくうちに、あることにふと気がつく。
「高校時代まで毎日当たり前に見ていたはずの景色なのですが、
日光って実はすごくいいところだなと思えたんです」
隆浩さんの興味が地元に向き出したのと時を同じくして、
麻紀さんは移住関連の仕事をしていた友人を通して地域おこし協力隊の制度を知る。
そして栃木県内のさまざまな地域を見ていくなかで、
冒頭のように小来川にひと目惚れして、2017年4月の着任を機に移住することに。
小来川はそもそも移住者が珍しいうえに、
地域おこし協力隊を迎え入れるのは初めての試みだった。

円光寺の住職と奥様と。移住して間もない頃、「いつでもお茶を飲みにいらっしゃい」のひとことが心にしみたという麻紀さん。奥様からは漬物づくりや味噌づくりを教わっている。
「狭い地域ということもあって、知らない人が歩いていると、
みんな振り返って不思議な目で見るんです(笑)。
だから私がどうして小来川に来たのか、
地域おこし協力隊とはどういう存在なのかを知っていただくのが先決だと思い、
『協力隊通信』という広報誌をつくって、
自作の似顔絵入りの名刺とともに263全戸に手配りすることにしたんです。
そしたら初対面なのに『よく来たねえ、お茶飲んでいきな』と言ってくださったり、
採れたての野菜をもらったりして、全然進まなくて……。
結局すべて回るのに2か月くらいかかってしまいました(笑)。
でもそのおかげでみなさんに覚えてもらうことができました」

デザインもイラストもすべてひとりで手がけているという『協力隊通信』。小来川のコミュニティに溶け込むことができたのは、麻紀さんの明るくオープンな人柄も大きいようだ。
























































































