連載
posted:2018.11.19 from:熊本県阿蘇郡南阿蘇村 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
南阿蘇鉄道にある、日本一長い駅名の駅「南阿蘇水の生まれる里 白水高原」駅。
その駅舎に、週末だけ小さな古本屋が出現します。
四季の移ろいや訪れる人たちのこと、日常の風景を〈ひなた文庫〉から。
writer profile
Emi Nakao
中尾恵美
なかお・えみ●1989年、岡山県勝田郡生まれ。広島市立大学国際学部卒業。出版社の広告営業、書店員を経て2015年から〈ひなた文庫〉店主。
〈ひなた文庫〉が週末営業をしている場所は、
日本一長い駅名で知られる「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」。
平成5年に建てられた駅舎には駅長室やきっぷ売り場はなく、
待合室のみの八角形の空間でした。
ガランとした駅舎内に本や什器、椅子などを持ち込んで
本屋を始めたのが2015年の春です。
営業を始めてから現在までの約3年の間、いくつもの出来事がありました。
今回はその中から、南阿蘇鉄道の駅舎管理者としての活動で
生まれた試みについてお伝えしたいと思います。
まずは駅の管理で行う業務について。
基本的には駅をきれいに保つことや
訪れた観光のお客さんに案内を行うことがメインです。
そのほかには、電球の交換や経年劣化で傷んでしまった箇所のチェックなど、
役所の方が頻繁にできないような保守・管理業務を指定管理者として任されています。
当駅が属している南阿蘇鉄道には、そのように駅舎を管理している方々が
私たち以外にも数名いらっしゃいます。
現在、ほとんどの駅舎でカフェ営業が行われています
(地震以前は温泉施設や蕎麦屋さんのある駅舎もありました)。
またひと言でカフェといってもそれぞれに趣も異なっています。
昭和以前に戻ったかのようなノスタルジックな雰囲気の漂う
国鉄時代からの駅舎が特徴の長陽駅では、
シフォンケーキがいただける〈久永屋〉が、
特撮もの好きな店主さんがアニメ内に登場した食べ物を提供する
〈ひみつ基地ゴン〉は中松駅。
アメリカに長年住まれていたご夫婦の営む
異国情緒漂うアンティークカフェ〈75th street〉は阿蘇白川駅で、
日常的に阿蘇登山のガイドも行う店主さんが営む〈cafe倶利伽羅〉は南阿蘇白川水源駅。
各々の駅舎に個性のある店主さんがいて、
阿蘇地域の観光案内や駅舎の管理業務を行いながら、
店舗の営業を続けています(どの駅も個性的で今回は詳しくお伝えできませんが、
あらためてそれぞれの駅をご紹介しようと思います!)。
私たちが本屋を始めてすぐの頃は、駅管理者や役所観光課の方、
南阿蘇鉄道の方々全員が集うことはありませんでしたが、
熊本地震以後は復旧復興イベントを通じてそれぞれがつながり、
だんだんと絆が深まっていったように感じます。
Page 2
現在では行政の方々に主導していただき、数か月に何度か
南阿蘇鉄道関連イベントについての情報交換会や、
鉄道を通じて南阿蘇地域をいかに楽しんでいただけるかを話し合う
企画会議が行われています。
そして、その会議の中で決まった2本の企画が、
今年の春先から順次、開催されています。
ひとつは、インスタグラムで南阿蘇鉄道の魅力を発信してもらうことを目標にした
「南阿蘇鉄道フォトグラム2018」という企画です。
熊本地震以降、南阿蘇への観光客の数も減っています。
それでも、南阿蘇鉄道では線路から見える変わらないのどかな風景や
気さくな運転士さん、かわいらしいつくりの駅舎に
個性豊かな店主のいるカフェなど、変わらない魅力がたくさんあります。
それを訪れた方にフォトコンテストを通じて発信してもらおうという企画です。
もう一方は、SNSが苦手な方も参加できるように、各駅舎を巡り
スタンプを集めて豪華景品を当てる「第1回南阿蘇鉄道沿線スタンプラリー」。
スタンプを集めビンゴを完成させると抽選で豪華商品が当たるこの企画、
なんと特賞は南阿蘇鉄道のトロッコ列車の貸切券という豪華なもの。
ふたつの企画を行うことで、お年寄りから若者まで
南阿蘇鉄道を楽しんでもらおうと考えました。
広報活動も各駅舎の方々が率先して行っていただけた甲斐もあり、
南阿蘇に訪れた多くの方がご参加くださいました。
スタンプラリー終了後、集計結果の応募用紙に目を通すと、
全駅のスタンプとともに熱い思いの込もったメッセージが添えられていたり、
フォトコンテストのためにはるばる沖縄から訪れた旅の方がいらっしゃたり、
予想を超えた反響がありました。
インスタグラム内で応募された写真の総数も、現在までで400枚を超えています。
インスタグラムを使った南阿蘇鉄道フォトグラムは、
この秋から秋冬編として新たに始まっています。
スタンプラリーについても今後も引き続き開催される予定です。
熊本地震以降、部分運転のみの南阿蘇鉄道ですが、
運行している区間の駅も、そうでない駅も、
全部含めて南阿蘇鉄道を楽しんでもらえる企画を、地域の行政と鉄道と一緒に
試行錯誤しながらこれからもできたらいいなと思っています。
information
ひなた文庫
Feature 特集記事&おすすめ記事