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下田に移住して1年半。
お金について変わったこと、思うこと|Page 4

暮らしを考える旅 わが家の移住について
vol.049

Page 4

マネー資本主義と里山資本主義

そこで、あらためて読み返した本があります。
藻谷浩介+NHK広島取材班著
『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』です。

この本では、お金の循環がすべてを解決することを前提にした
経済システム(マネー資本主義)の社会においても、
お金に依存しない経済システム(里山資本主義)を
持ち続けることの重要性、必要性を述べています。

移住を考え始めた頃に手にした、とても影響を受けた本です。

でも、この本やこの本に描かれている自給自足的な暮らしについて
「江戸時代に戻れというのか?」
「多くの人が自給自足経済を選択すると日本経済は壊滅する」
という批判も多かったそうです。
まさに自分が感じていた引け目もそこからきているともいえます。

こんな暮らしに喜びを抱いている僕も
もちろん江戸時代には戻りたいとは思いません。
経済が壊滅したら困ります。安定した経済活動があるからこそ、
地方でも快適に暮らすことできているのです。

我が家の朝食

でも、マネー資本主義の名において、消費を繰り返すことは
地球の資源が有限であることを考えれば持続可能でないことは明らかです。
そして、行き過ぎたマネー資本主義が
時には非常に不安定な状況を生み出すということは、
東京で不動産会社に籍を置いていたときに経験した
リーマンショックで身をもって感じていました。

また、東日本大震災の際には、社会のシステムが麻痺し
お金を持っていても手に入れられるものがない、そんな経験もしました。

震災翌日の都内大手スーパー

震災翌日の都内大手スーパー。

とはいっても、この本では
そんな「マネー資本主義」を否定しているわけではありません。

「里山資本主義」とは、お金の循環がすべてを決するという前提で構築された
「マネー資本主義」の経済システムの横に、こっそりと、
お金に依存しないサブシステムを再構築しておこうという考え方だ。
お金が乏しくなってもっ水と食料と燃料が手に入り続ける仕組み、
いわば安心安全のネットワークをあらかじめ用意しておこうという実践だ。

(『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』より)

あくまで「里山資本主義」は
「マネー資本主義」を補完する役割としています。

そもそも現実問題として、土も虫も触りたくもない、
新しいiPhoneが発売されるとついつい買ってしまうという人が
多くいる現代で、みんなが里山資本主義を目指すわけがありません。
でも、そんな現代でも土や虫をいじっていたい、
モノを大切にする暮らしに喜びを感じるという人も少なからずいるわけです。

いわばマネー資本主義不適合者とでもいいましょうか。

そんな人が里山資本主義を舞台に活動して、
その活動がマネー資本主義を補完する役割として機能し、
お互いの良さが生きる社会ができればすばらしいことです。

もやもやしていた思いが取れてきました。

もう一度問おう。われわれが活きていくのに必要なのは、お金だろうか。
それとも水と食料と燃料だろうか。
間違えてはいけない。生きるのに必要なのは水と食料と燃料だ。
お金はそれを手に入れるための手段の一つに過ぎない。
手段のひとつ? 生粋の都会人だと気付かないかもしれない。

だが必要な水と食料と燃料を、かなりのところまで
お金を払わずに手に入れている生活者は、日本各地の里山に無数に存在する。
山の雑木を薪にし、井戸から水を汲み、
棚田で米を、庭先で野菜を育てる暮らし。
最近は鹿も猪も増える一方で、狩っても食べきれない。
先祖が里山に営々と築いてきた隠れた資産には、
まだまだ人を養う力が残っている。

(『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』より)

大根

僕は生まれも育ちも東京新宿区。移住する前、いまから2年前までは
恵比寿の不動産・リノベーションの会社に籍を置き、
年間何億という売り上げのある部署の管理職をしていました。
「生粋の都会人」だったのかもしれません。
お金がなければ生きるために必要な水と食料と燃料を
手に入れることはできませんでした。

そんな僕が移住して1年半。いまでももちろんお金は必要です。
でも、生きるために必要な水と食料を手に入れるお金以外の手段を、
少なからず持ち始めました。
燃料に関しても自給できる薪が身の回りにはあふれているので、
もっとそれらを生かした暮らしをしたいと思っています。

個人的には、お金に頼りすぎていた暮らしから脱したいという思いもあり
移住を決めたという経緯があるので、それは望んでいたことです。

でも、それがいまの経済優先の社会、
マネー資本主義においてどんな意味を持つことなのか?
持つべきなのか?

そんなことも考え続けたい、そう思っています。

伊豆下田の里山

仕事先の〈高橋養蜂〉の農園はまさに伊豆下田の里山です。農園を整備する際には木の伐採もするので薪になりそうな木がゴロゴロしていまます。持っていっていいですよとは言われていますが、家は薪ストーブでないので有効利用できていません。賃貸なのので設置も難しい……。さあ、どうするか? ひとつずつ里山暮らしを前進させていきたいです。