この連載は、日本デザイン振興会でグッドデザイン賞などの事業や
地域デザイン支援などを手がける矢島進二が、
全国各地で蠢き始めた「準公共」といえるプロジェクトの現場を訪ね、
その当事者へのインタビューを通して、準公共がどのようにデザインされたかを探り、
まだ曖昧模糊とした準公共の輪郭を徐々に描く企画。
第4回は、2023年度グッドデザイン・ベスト100を受賞した、
豊島区のベッドタウン東長崎の駅前にあるコーヒー店
〈MIA MIA(マイアマイア)〉を訪ね、
オーナーのアリソン理恵さんとヴォーンさんのおふたりに話を聞いた。
デザインといっても、スタイリッシュで斬新なインテリアのカフェでもなく、
流行りのコワーキングスペースでもなく、いわゆるサードプレイスでもない、
不思議な佇まいの小さなまちのコーヒー店だ。
オープンしてちょうど4年となるが、懐かしくて居心地が良く、
世界中から集まる多くのお客さんでいつもにぎわう、
まちのコモニング拠点に育っている。
行政による公民館ではないが、なぜかパブリック性と界隈性を感じるMIA MIAから、
「準公共」の新たなスタイルと役割を探る。

矢島進二(以下、矢島): おふたりはどこで出会ったのですか?
アリソン理恵(以下、理恵): ヴォーンとは学生時代に半年インターンした
オーストラリアのメルボルンで出会いました。
ヴォーン: ライブハウスで会ってひと目惚れしたのです。
理恵: 帰国するときに、ヴォーンを連れて来ました。
行きはひとり、帰りはふたりで(笑)。
ヴォーンは日本に来て、英語の講師やモデル、音楽プロモーターなど、
いまでもいろいろ好きなことをやっています。
特にコーヒーが大好きで、コーヒーに関するブログを続けていました。
完全に趣味なのに、締め切りを決め、フォトグラファーに撮影してもらうとか、
ロゴを毎月デザインするとか、日英2か国の記事を書き続けていたのです。
そうしたら、コーヒーを紹介するメディアの立ち上げや、雑誌のコーディネーター、
インタビュー、さらにカフェのアドバイスなど、趣味が徐々に仕事になってきました。
私は帰国後、設計事務所で働き、2015年に友人と共同で
建築設計事務所〈teco〉を設立しました。
福祉施設関連の設計を数多く手がけさせていただいたのですが、
子育てしながらだったこともあり、2019年に過労で倒れてしまいました。
それでまず休むことにして、家族でメルボルンに帰りました。
その際に、これからどう生きていくのかをふたりで話し合い、
メルボルンにあるようなコーヒー屋を一緒に東京で始めたらどうかな?
ということになったのです。
メルボルンの市民は、1日に何度もコーヒー屋に行き、
コーヒー屋が情報とネットワークのハブになっています。
ガイドブックやネットで検索するより、
コーヒー屋で聞くのが一番いい情報が得られることを知り、
「こういう場所が日本にあるといいよね」と話して、物件を探し始めました。

一級建築士事務所〈ara〉のアリソン理恵さんと、モデル活動や音楽プロモーターなど多彩な活動をしているヴォーンさん。現在ふたりは全国のファミリーマートで展開されている「コンビニエンスウェア」のモデルでもある。
矢島: どのようにしてこの物件と出合ったのですか?
理恵: 偶然、魅力的な賃貸物件だけを集めた不動産紹介サイト
『DIYP』で見つけました。写真をみてカワイイと思い、
すぐに東長崎に来てまちなかを歩いたら、すごくいいなと。
都心でありながら人の営みが見えて、こんな便利な商店街が残っているのに驚きました。
ヴォーン: 東長崎はまったく知らないまちでしたが、ひと目惚れしました。
なんかチャーミングで一瞬で気に入りました。
矢島: 大家さんはどんな方で、借りるにあたって条件はあったのですか。
理恵: 私たちと同世代で、ずっとこのエリアに住み続けている方です。
自分の子どもが産まれ、昔と比べて元気がなくなったので、
親としてこのまちを盛り上げたいと思っていらして、
「地域を盛り上げてくれる人」と「面談して決める」が条件だったのです!
私たちも大家さんに会って決めたいと思っていたので、
もうこれは運命だな、完璧だ、とふたりで声を上げました。

矢島: ヴォーンさんは、日本で1000店以上のコーヒー店を巡ったそうですが、
見本となるお店はあったのですか?
ヴォーン: 日本には参考になる店が少ないですね。
少ないというか、ないのです。
理恵: その理由は、おそらく日本では「ターゲット」や
「マーケティング」という考え方が浸透しすぎているからだと思います。
そうするとデザインも障壁になります。
「◯◯風」にデザインしてしまうと、それ以外の人が入りにくくなりますし、
マーケティングが先鋭化するあまり、排除される方も出てしまうのです。
メニューにしても、コーヒーに詳しくないと
オーダーもしづらかったりする店がありますよね……。
かと思えば、コミュニティが強すぎて、敷居が高く、入りにくいお店も多いです。
矢島: 昔の「喫茶店」の時代はどうだったのでしょうか。
ヴォーン: 昔の喫茶店は、すごくいいところがあったのですが、
いまは個人の店はすごく少なくなって、みんなチェーン店に変わってしまいました。
コンビニや自動販売機のようなコーヒー屋が多くなり、
カルチャーを生むような店はありません。オーストラリアやヨーロッパは、
個人経営で個性のある店が多数あって、それがまちのインフラになっています。
理恵: チェーン店と個人店の両方あったら、
個人店にお金払いたい、というのがオーストラリア人の気質です。
顔の見える人にお金を払うと、自分たちの周辺に回ってくるのが見えやすいけれど、
チェーン店で払ったお金は、どこに行くかわかりませんよね。
メルボルンでは、そうしたことに敏感な人が多いのです。

〈MIA MIA〉とは、オーストラリアの先住民の言葉で、家族や友人、通りがかった人などが集うシェルターとして建てられた小屋という意味。