この連載は、日本デザイン振興会でグッドデザイン賞などの事業や
地域デザイン支援などを手がける矢島進二が、
全国各地で蠢き始めた「準公共」といえるプロジェクトの現場を訪ね、
その当事者へのインタビューを通して、準公共がどのようにデザインされたかを探り、
まだ曖昧模糊とした準公共の輪郭を徐々に描く企画。
第8回は、2024年度グッドデザイン賞を受賞した、
東京都渋谷区にある〈笹塚十号のいえ〉を訪ねた。
ここは、渋谷区の笹塚十号通り商店街にある元八百屋を活用し、
複数の民間団体が協働して運営する地域福祉拠点だ。
「屋根のある公園」をコンセプトに、
地域に暮らす人が自由に休憩ができる場を提供するほか、
地域団体の連携促進を目的に、福祉作業所の商品販売、フードパントリー、
生涯学習企画、学生ボランティアなどの活動拠点としても活用されている。
同プロジェクトの中心人物である戸所信貴さん
(一般社団法人〈TEN-SHIPアソシエーション〉代表理事)と、
左京泰明さん(一般社団法人TEN-SHIPアソシエーション理事兼、
一般社団法人〈マネージング・ノンプロフィット〉代表理事)のふたりから話を聞いた。
複数の非営利組織が維持管理費を分担し、都心に常設の活動拠点をつくった事業モデルと、
サービスの提供と享受、有料と無料の境界を取り払うことで、
目的がなくても立ち寄れる日常の居場所創出を通して、「準公共」の最新の意義を探る。

〈笹塚十号のいえ〉は京王線笹塚駅北口下車、徒歩約5分。笹塚十号通り商店街の真ん中にある元八百屋を活用。
矢島進二(以下、矢島): 最初に、戸所さんが
〈笹塚十号のいえ〉をつくるまでの話を聞かせてください。
戸所信貴さん(以下、戸所): 東京で店舗関連の建築設計・施工の会社に
勤めていましたが、群馬に住む父と母と祖母が要介護状態になったことがきっかけで、
福祉関連の活動を30歳のときに始めました。
老人ホームのケアワーカーをやり、その後、笹塚の地域包括支援センターに移り、
そこで多くの疑問に直面しました。公的サービスでは、必要だと思っても
余計なことはしてはいけないルールがたくさんあるのです。
サービス業として顧客への対応という面からみても不思議なことが多かったです。
例えば、家の中で動けなくなった方のサポートでは、玄関やベランダの掃除、
窓拭き、エアコンの掃除、衣替え、電球交換などはやってはいけない。
買い物も最寄りのスーパーに限定されるなど、
「してはいけないこと」が「していいこと」より多いのです。
地域包括支援センターに12年勤務し、最後はセンター長を務めましたが、
センター長として「これはしてはいけない」とスタッフに言う立場は、
心苦しいものがありました。
行政的には、公平性の問題や税金の使用という観点から、
最低限度のことに絞られてしまう。
地域的には、かつての「向こう三軒両隣」のような助け合いのつながりが希薄になり、
そこに大きな“隙間”が生まれてしまっています。
その隙間を埋めるために、一般社団法人〈TEN-SHIPアソシエーション〉を
立ち上げました。確実なニーズがあることはわかっていましたが、
具体的な方法を模索しているときに左京さんと出会いました。

一般社団法人〈TEN-SHIPアソシエーション〉代表理事の戸所信貴さん。「家族の要介護3人の暮らしを目の当たりにし、超高齢社会では介護者だけでは対応できない課題が多数あることを知り、思い切って退職」。笹塚十号のいえの2軒隣で「まちのお手伝いマネージャー」という活動もしている。
矢島: 次に左京さんのプロフィールと戸所さんとの出会いを教えてください。
左京泰明さん(以下、左京): 2006年に特定非営利活動法人〈シブヤ大学〉を
立ち上げました。地域のNPOの方々から運営や企業との連携についての
相談を持ちかけられたことをきっかけに、NPOの経営支援に興味を持ち、
行政や企業とNPOの協働の仕組みづくりを行うために、
一般社団法人〈マネージング・ノンプロフィット〉を2017年に設立しました。
渋谷区の事業では、例えば「渋谷おとなりサンデー」という、渋谷で暮らし、働き、
学ぶ人々をつなぐ地域の交流事業を企画・実施しました。そこで戸所さんと出会い、
個人としてリスクをとってまで個人でお年寄りのサポートを始める理由を知り、
救うべき人を知る戸所さんの知見を、いかに継続的に発展できるかたちにするか、
という役割で参画することになりました。
戸所さんとは最初に社団設立の趣意書を一緒に作成しました。
メディアを通して語られる社会問題は表層的になりがちです。
戸所さんは日常の仕事を通じて、本当に困っている方々と数多く出会っています。
しかし行政の立場では、対応できないことが多すぎることがわかりました。
当初私は、行政サービスでカバーできていない“隙間”を埋めることが
必要だと考えていましたが、実は逆でした。行政が対応できているニーズはごく一部で、
ほとんどのニーズが満たされていないことを戸所さんから教わりました。

一般社団法人〈TEN-SHIPアソシエーション〉理事兼、一般社団法人〈マネージング・ノンプロフィット〉代表理事の左京泰明さん。2006年にNPO法人〈シブヤ大学〉を立ち上げ、14年間学長を務めたが、若い人たちに譲り、現在はNPOの経営支援や地域づくり活動を行っている。