連載
posted:2024.12.4 from:群馬県前橋市 genre:アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
従来の官と民の境界が曖昧となり、新しい「公」のあり方に注目が集まっています。
コモンズ、官民連携、PPP、PFI、ゆるやかな公共など、
それらを仮に「準公共(セミパブリック)」と名づけ、先行事例を紹介。
そこで働く人・暮らす人のスタイルや事業モデルなど、新しい価値観を探っていきます。
photographer profile
Hajime Kato
加藤 甫
写真家・Studio oowa主宰。記録・ドキュメント・アーカイブの考え方をベースに、アーティストやクリエイターとの協働プロジェクトや企業・福祉施設などの中長期プロジェクトに伴走する撮影を数多く担当している。2022年横浜にStudio oowaをオープン。自身のアートプロジェクトとして知的障がいのある子どもたちとアーティストとの協働プロジェクトの企画や居場所づくりなど、場のひらきかたを模索している。
この連載は、日本デザイン振興会でグッドデザイン賞などの事業や
地域デザイン支援などを手がける矢島進二が、
全国各地で蠢き始めた「準公共」といえるプロジェクトの現場を訪ね、
その当事者へのインタビューを通して、準公共がどのようにデザインされたかを探り、
まだ曖昧模糊とした準公共の輪郭を徐々に描く企画。
今回は、2024年度グッドデザイン・ベスト100を受賞した、
群馬県前橋市の〈馬場川通りアーバンデザインプロジェクト〉を訪ねた。
前橋は、〈白井屋ホテル〉を藤本壮介さん、
〈まえばしガレリア〉を平田晃久さん、
〈しののめ信用金庫〉を宮崎晃吉さん、
ほかにも永山祐子さん、長坂常さん、高濱史子さんら著名建築家が市内中心部で
次々に意欲的なプロジェクトを行うことで、現在最も耳目を集めているまちだ。
その要因は、「前橋アーバンデザイン」というまちづくりの明確な指針があり、
そしてそれを実現する個々の建築と、それらをつなぎ、
まちのアイデンティティにもなる質の高い公共空間によるもの。
そうした視点で有効に機能しているのが、馬場川通りの再整備だ。
このプロジェクトは、単なる景観整備にとどまらず、
官と民が前例のないスキームで連携し、市民の力を結集させた
新しい都市再生の取り組みといえよう。
同プロジェクトの中心人物である
〈前橋デザインコミッション〉企画局長兼事務局長の日下田伸さんと、
〈ランドスケープ・プラス〉代表取締役の平賀達也さんに話を聞いた。
多くの地方都市同様、中心市街地の衰退に悩まされてきた前橋が、
どのような仕組みとプロセスで社会実装に成功したかを、
馬場川通りアーバンデザインプロジェクトを通して検証し、
「準公共」の最新の役割を探る。
矢島進二(以下、矢島): 「馬場川(ばばっかわ)通り」とは、
前橋中央通り商店街と〈アーツ前橋〉を結ぶ
幅員12メートル、距離約200メートルの通りの名称ですが、
最初に〈馬場川通りアーバンデザインプロジェクト〉の特徴を教えてください。
日下田伸(以下、日下田): このプロジェクトは、2024年春にできた
前橋中心市街地の再生事業で、遊歩道公園、準用河川、道路、公衆トイレなどからなる
公共工事なのですが、地元の有志による資金で行い、
地域の団体による活動で管理運営を担っているのが最大の特徴です。
そして、かつての生活基盤であった水路のつながりを生かし、
グリーンインフラやウォーカブルな社会に資する環境基盤に再編し、
前橋の新たな拠点をデザインしたものです。
矢島: このプロジェクトが始まった背景について教えてください。
日下田: 前橋の中心部は県庁所在地のわりに、寂しいと言われていました。
昭和50年代の終わり頃は、メインストリートの週末の通行量が約2万人だったのが、
バブルの頃は車社会化が進んで1.5万人に、
2005年頃には2000人を切るまで落ち込みました。
いわゆるシャッター商店街をテーマにする報道があると、よくここの商店街が登場します。
ただ、テナント需要がないのではなくて、
実際は貸すのが面倒だから空いているところが多いですね。
日本の賃貸借契約は借り手に強くできているので、固定資産が下がっているいま、
人に貸すより物置にしていたほうがいいと思っているオーナーが多いのです。
そういう空気を変える活動も私たちはやっています。
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平賀達也(以下、平賀): これまでの経緯を時系列に沿って説明します。
まず「デザイン草創期」と私は言っているのですが、
2013年に前橋出身のメガネブランド〈JINS〉のCEO田中仁さんが
前橋の発展のために〈田中仁財団〉を設立しました。
2014年に財団の支援のもとに官民共創で「前橋ビジョン」の検討が始まり、
2015年にはドイツのコンサルタント会社にビジョン策定を委託し、
それをもとに2016年に「前橋ビジョン:めぶく。」を発表しました。
ドイツのコンサルを入れたのがとてもユニークで、
前橋の可能性を客観的に分析できたのです。
その後、2017年にこのビジョンを実現していくために、
推進母体となる〈太陽の会〉が民間ベースで発足しました。
日下田: 企業がビジョンを掲げることはよくありますが、
行政ではそうはないはずです。前橋市は、企業経営型の
ビジョナリーな都市計画をしようという思想を持っているのです。
矢島: ビジョンができたあと、具体的にどのような組織や仕組みが
つくられたのでしょうか?
日下田: まず、2019年に中心市街地158ヘクタールのまちづくりの指針となる
「前橋アーバンデザイン」をアメリカのポートランドの会社と共に策定しました。
そしてこれを推進する組織として、2019年11月に、
一般社団法人前橋デザインコミッション(MDC)が発足したのです。
現在私は、MDCの事務局長を務めています。
ほかの地域ですと、社団ではなく公社や第三セクターが多く、
事務局長は市役所の元部長などが多いのですが、
前橋はそうしたことをビジネスライクに考えるところも独特です。
平賀: そして、2020年に前橋アーバンデザインのモデル事業として、
馬場川通りアーバンデザインプロジェクトが選定され、
市がMDCを「都市再生推進法人」に指定しました。
これにより、民間団体が寄付金で公共工事を推進できるスキームが整ったことになります。
矢島: 前例のないスキームはそうした経緯で始まったのですね。
日下田: 仮にMDCがなくても誰かがやっていたのでしょうけれど、
私はMDCがやるべきと提案して実現させました。
太陽の会からの3億円の寄付金に、国交省の補助金や
ソーシャルインパクトボンド(*)などを活用し、
総予算約4.3億円規模のプロジェクトにしました。
日下田: その予算に、10年間の維持管理費用も含んでいるのも特徴です。
このプロジェクトは、竣工させて終わりでなく、
10年間維持していくことを最初から計画していました。
矢島: その計画は行政主導ではできないことなのでしょう。
平賀さんはどの段階からプロジェクトに加わったのですか?
平賀: 私たちが参画したのは2021年からで、
それ以降を「デザイン発展期」と呼んでいます。
与えられたミッションは市民への普及啓発で、アーバンデザインとはいったい何かを、
具体的な空間にデザインして提示することでした。
ただし、それだけだとおもしろくありませんから、お金を出してくれた人が、
出したことに誇りを持てるようなこともデザインしたかったのです。
そこで利根川という前橋ならではの自然資本を使い、
まちを冷やすという構想を組み込んでデザインしました。
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矢島: それはどんな構想だったのですか?
平賀: 馬場川の水は、利根川からダイレクトに取水しているので、
外気温が35度とかでも、19度ぐらいの冷たさです。
「前橋で35度」というニュースをよく聞きますが、それは気象台の平均気温で、
木陰のある水辺だと体感温度は10度ぐらい低いのです。
前橋が暑いのは、東京の排熱が海風によって関東平野の縁に押し込まれるからで、
ならば、利根川の冷えた水で熱を奪って東京に返してしまえ! という考えです。
それができたら、お金を出してくれた地元の有志が喜んでくれるはずだと。
自分たちはいいことをやっているなぁと。
市の中心部を流れる広瀬川は、前橋城があった頃は、
生糸製糸工場の動力に使われていましたが、戦後の区画整理事業で、
多くが蓋をされてしまいました。
でももともと城下町ならではの先人がつくった基盤なので、
この川に向かって人が座れたり、くつろいだり、
時間を過ごせるような場所をつくろうというのが、一番大事なコンセプトです。
地元有志の貴重なお金で行われる公共工事なので、
そこに社会的な意義と正義がないといけません。
そういう社会の課題、いや世界の課題を、前橋ならではの発想で解決するところに、
企業家の心意気をくすぐるデザインのエッセンスがあると思っています。
矢島: そうした着想はどうやって得たのですか?
平賀: 私たちはプロジェクトを始める際に、
そのまちの市歌や学区の校歌を調べることにしています。
これらの歌には、地域の誇りが必ず表現されているからで、
この近くの学校の校歌には「水、緑、土」が盛り込まれていたのです。
外から何かを持ってくるのでなく、その場所の歴史を掘り起こすと、
目指すべき未来の風景が見えてくるのです。
建築と違って、ランドスケープのデザインは
昔からずっとその場所にあったようなものにしていくことが大事なのです。
訪れた人が自らの意志で「この場所が好きだ」と感じてもらうことが
シビックプライドにつながるからです。
このプロジェクトの優位性は、最初に「アーバンデザイン」という
明確なビジョンがある点です。
行政がデザインの力を信じてやっていこうという錦の御旗をまず立てた。
そのデザインの力を信じて、意識の高い人たちが集まってきたのです。
これはグッドデザイン賞の理念そのものですよね。
矢島: はい、そうです。
前橋は本当に先進性をもっているまちですね、すばらしい。
そして川辺の柵を撤去したというのは大胆な決断だったと思いますが、
どのようにして実現したのですか?
平賀: 初めてここに来たときに感じたのは、前橋の良さである
「人と水の近さ」が、車社会で完全に消えてしまっていることでした。
訪問した直後に描いたスケッチがこれです。
柵を取っ払うなど、馬場川のビジョンをデザインしました。
平賀: 公共空間のデザインは、安全性がとても大事ですが、
効率性や利便性を優先させすぎて、快適性を置き去りにしてきました。
ですので、すべての柵を取っ払ってしまいましょうという提案を行い、
あえてちょっと遠くにボールを投げてみたのです。
試作をつくり、実際に市民に試してもらったところ、
多くの人から、柵をなくしてベンチができることに賛同の声をいただきました。
ですが、川は「河川管理課」の管轄で、
遊歩道は「公園管理課」、道路は「道路管理課」と、
12メートルという狭い幅員の中に3つの管理者が存在するため、
事故が起きたら誰が責任を取るのかについて紛糾し、
プロジェクトそのものが頓挫しかかりました。
そのときに、アーバンデザインを所管し、まちづくりを支援する
「市街地整備課」の纐纈(こうけつ)正樹課長補佐(当時)が、
「200メートルの道路であれば、うちで管理する」と言ってくれたことで、
プロジェクトを再び進めることができた。
私も市街地整備課のみなさんの想いを受け止めて、
安全性と快適性が両立した柵をデザインしたのです。
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矢島: 市民はどのようにプロジェクトに関わったのですか?
日下田: 地域に根が生えている人と、ちょっとおもしろがって
ゆるくつながりたい人の2タイプいますが、複数回の社会実験で接点をつくり、
前者に後者を認めてもらうプロセスを形成しました。
それをもとに完成後の管理運営を見据えて〈馬場川通りを良くする会〉を立ち上げました。
平賀: 「良くする会」は登録ベースだと150人ぐらいの市民が、
ゆるい感じで関与してくれています。
整備が完成したあとの「デザイン活動期」における主要メンバーであり、
「ゆるやかにつながる」を活動のキーワードにしています。
一生懸命みんなでやろうぜ、ではなく、ゆったりとした空気感のなかで、
サードプレイス的に、自分はここが好きだからやってみようかな、
ぐらいの関係性を大事にしています。そうしたほうが継続できると思っています。
矢島: MDCは「都市再生推進法人」の認定を受けていますが、
どんなメリットがあるのですか?
日下田: 認定を受けると融資制度が適用されますが、
一番のメリットは「都市利便増進協定制度」によって、
公共空間の民間整備が可能になることです。
従来ですと、市の条例を策定したり変更をしないと実現しないのですが、
この協定制度は国の都市再生特別措置法に位置づけられているので、
法律に準じる効力を持つのです。
平賀: 都市再生推進法人は、行政が免罪符的に
商店街と大手デベロッパーを仲良くさせるためのものが多いのですが、
MDCのように実質的に機能を持って動いている組織は本当に珍しいです。
日下田: 行政が、基本指針となるアーバンデザインという
最初のフレームワークを策定してくれ、
さらに都市再生推進法人のMDCが資金を集める権利を持たせてくれ、
自由に動かせる状況を生み出してくれたことに大きな意味があると思っています。
これは前橋市の功績といえると思います。
矢島: プロジェクトが完成してからの反応はいかがでしたか?
日下田: 完成したデザインに説得力があるので、
批判はほとんどありませんでした。それはデザインの力であり、
合意形成のプロセスにみんなを巻き込んだからです。
また、車道と歩道をフラットにしたことも心配していたのですが、
改良前と比べて、車の速度が自然と遅くなりました。
フラットにすると、わざわざアクセルを踏む人はいないからです。
車を排除する考え方もありますが、うまく共存できる状況がつくれたと考えています。
デザインが人と車の関係をここまで変えるというのは、私の想定を超えていました。
矢島: このプロジェクトによる経済効果はどうでしょうか?
日下田: 馬場川通りは路線価の評価対象地ではないのですが、
すぐ近くの国道50号沿いの土地は、32年ぶりに上昇しました。
大きな投資があったところ以外の路線価は、
全国で30年以上、どこも上がっていないのにもかかわらず。
明らかに前橋では変化が起きています。この通りだけでも、
今年4店舗がオープンしましたし、確実に新しい店舗や事業所が増えています。
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矢島: 前橋の地域特性がこのプロジェクトに
どのように影響していると思いますか?
日下田: 前橋は寛容な人が多いと思います。
議論の場に人がちゃんと集まる場所です。
平賀: 昔の前橋は、関東と北陸をつなぐ重要な場所であり、
ここを起点に布教を行うために、すべてのキリスト教宗派の教会が集まる場所なのです。
だから、私のような東京から来た部外者も
すぐに受け入れてくれる文化が残っているのです。
そして前橋は、行政が先頭に立って旗を振るというよりも、
行政は商売をしている人たちをうしろから応援するというような土地柄です。
市民がお金を出してまちを良くしていく文化が、この前橋には確実にあるのです。
なににせよ、文化度が高いです。
矢島: このプロジェクトを通じて感じた課題や
今後の展望についてお聞かせください。
平賀: 個人的には、グッドデザイン賞のような存在が、
こうした案件を評価してくれることで、
あとに続く人たちが出てくることに一番社会的な意義があると思います。
都市公園法が改正され、PFI制度の活用によって
民間が純粋なパブリックスペースに入ってこられるようになったのですが、
PFI自体、あまりうまくいっていないのが現状です。
それはどうしても経済原理主義に基づいて動いてしまうからです。
本来、パブリックスペースは、ジェントリフィケーション(都市の富裕化現象)が
起きるような場所ではなく、老いも若きも、誰にとっても
自分の場所だと思える場所にならないといけないはずです。
ところが、公共空間を使った官民連携のスキーム自体が
いまはマネタイズのひとつになってしまっています。
我々の業界でも、それに対する議論はすごく大きくなっています。
ですので、ここ馬場川の事例をいかに正確に伝えられるかは、
私と日下田さんにとって、とても大事なミッションだと思っています。
矢島: 最後に、準公共、セミパブリックという概念について
どのようにお考えですか?
平賀: 私は単純に、プライベートとパブリックの間、
まさにこのプロジェクトがそうだと思います。
ふたつの境界をいかに曖昧にしていけるかが、これからのミッションだと思うのです。
感覚的ではなく、制度も含めてしっかりやらないといけないものですし、
その純然たる成功事例がここだと思います。
日下田: 準公共は、最近のまちづくり周辺の言葉で使われる
「インフォーマルパブリック」に近しいのかなと思っています。
いまは行政サービスをする人と、受益者である市民の二極しかなくなっていますが、
かつては「大旦那」と呼ばれる人たちがいて、
行政に代わってインフラや空間整備を行ってくれることがありました。
前橋の場合は、大旦那(財界)の寄付に基づいて、
われわれMDCが実行するかたちになっています。
そうした意味で、インフォーマルパブリックな空間整備には、
第三極となる寄付者やMDCのような官民連携の民側の組織が必要なのだと思っています。
都市利便増進協定を締結したのは全国で32件ありますが、
インフォーマルパブリックを実現できているのは、前橋モデルだけだと思います。
我々は、愚直に制度をフル活用して準公共、インフォーマルパブリックをつくる活動を
やっていくつもりですし、行政は財政負担問題の限界を超えるためにも
準公共を拡張するのが正解だと感じています。
矢島: 準公共空間の課題や可能性についてはどのようにお考えですか?
日下田: 都市利便増進協定など、国の制度はすごくよくできています。
しかし、運用力がないのが問題で、市民や民間側が
準公共みたいなところに意識がまだ向かっていないのが残念です。
準公共で大事なのは、市民側のインテリジェンスを上げていくことだと思います。
平賀: 日本は高度経済成長期に護送船団方式で世界に打って出たので、
法制度そのものが行政の庇護のもとで民間が許可をもらうような図式で
理解されていたわけです。
バブルがはじけて、少子高齢化が訪れたから、行政と民間が手を取り合って
地域を守っていける時代が、ようやく訪れたと思ったほうがいいと思います。
法律は国民ひとりひとりの幸せのためにできているからです。
前橋にいると、社会を動かす基盤であるその法制度に、ひとりひとりが踏み込んで、
“もの言う市民”になっていく機運が起き始めていることを感じます。
それをセミパブリックというのであれば、そう定義したほうがいいかもしれません。
行政から民間、そして民間から地元へと移行していくアーバンデザインのプロセスこそが、
もう一度市民の手にまちづくりの主導権を取り戻そうという動きなのだと思います。
矢島: 本日は貴重なお話をありがとうございました。馬場川通りプロジェクトが、
日本の地方都市再生のモデルケースとなることを期待しています。
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前橋が変化した起点のひとつは、
1987年に〈坂倉建築研究所〉が設計した百貨店の建物を、
2013年に美術館にコンバージョンした〈アーツ前橋〉かもしれない。
こちらも2014年度グッドデザイン・ベスト100を受賞しているし、
馬場川の開発の背景にある「前橋市アーバンデザイン」自体も、
2022年度にグッドデザイン賞を受賞している。
そのように前橋は、行政も民間も
デザインを意識した活動を長年続けているデザインシティだ。
そして、策定したまちのビジョンを実現するには行政主導ではおそらく無理で、
民間と「緩やかな関係」を持ち、ともに構築する必要があるが、
前橋はその重要性を最初から認識し、呼応したまちづくりを実践してきた。
その「緩やかな関係」をつくりだし、継続性のある成果を生み出すには、
パブリックとプライベートの間にある「準公共」という、
やや曖昧だが、両者の領域を重ね合わせる概念が必須だったはずだ。
前橋の特徴は、近年になってこの概念に気がつき実践してきたのではなく、
昔から当たり前のように、行政にも民間にも、
そして市民においても浸透していたように感じる。
それは前橋という立地と、寛容でパブリックマインドを持ち、
文化度の高い市民が多いのが要因なのだろう。
平賀さんの「ふたつの境界をいかに曖昧にしていけるかが、
これからのミッションだと思うのです。
感覚的ではなく、制度も含めてしっかりやらないといけないものですし、
その純然たる成功事例がここだと思います」という発言と、
日下田さんの「これがほかの地方都市の再生のヒントになれば」のひと言が、
特に心に響いた取材だった。
information
馬場川通りアーバンデザインプロジェクト
住所:群馬県前橋市千代田町2丁目、4丁目、本町2丁目
用途:遊歩道公園、準用河川、道路、公衆トイレ
事業主:前橋市、都市再生推進法人前橋デザインコミッション
設計:デザイン統括 ランドスケープ・プラス/土木設計 オリエンタルコンサルタンツ/トイレ棟デザイン ジャスパー・モリソン/トイレ棟建築設計 高濱史子建築設計事務所
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