この連載は、日本デザイン振興会でグッドデザイン賞などの事業や
地域デザイン支援などを手がける矢島進二が、
全国各地で蠢き始めた「準公共」といえるプロジェクトの現場を訪ね、
その当事者へのインタビューを通して、準公共がどのようにデザインされたかを探り、
まだ曖昧模糊とした準公共の輪郭を徐々に描く企画。
第2回は、大阪府大東市にある市営住宅の建て替えを、
民間主導の公民連携型で進めた国内初のプロジェクト〈morineki〉。
2022年度グッドデザインを受賞したこのプロジェクトを手がけた
大東公民連携まちづくり事業株式会社(現〈株式会社コーミン〉)の入江智子さんと、
グランドデザイン設定から建築デザインまでを担った
〈株式会社ブルースタジオ〉の大島芳彦さんのふたりに話を聞いた。
morinekiのある大東市は、大阪市の東に位置する人口約12万人のまち。
JR学研都市線四条畷駅から徒歩5分、生駒山系の自然と清流に守られたエリアに
2021年3月にできた、まさに「準公共」と呼べるプロジェクトだ。
古いまちを、デザインによってどのように市民のための新しい居場所に変えたかを探る。
矢島進二(以下、矢島): 〈morineki〉は、
多々ある公民連携プロジェクトのなかでも、
独自で新規性のあるスキームによって実現したと思いますが、
なぜ実現できたかをお聞きします。まず最初にプロジェクトの概要を教えてください。
入江智子(以下、入江): morinekiをひと言でいうと、大阪府大東市による
「市営住宅の建て替えを民間主導の公民連携型で進めた国内初のプロジェクト」です。
市と民間が連携してPPP*手法を用いて、
古い市営住宅があった約1ヘクタールの市有地を、
民間賃貸住宅、オフィス、商業施設や芝生の都市公園などにつくりかえ、
賑わいの場を創出し、地域全体のリノベーションの起点となるプロジェクトです。
市民にとって、ちょっと自慢ができる風景をデザインすることで、
市にも土地の賃貸料収入や固定資産税などが新たに入り、
地価も上がり、人口減少の歯止めにもなっています。
*PPPとはパブリック・プライベート・パートナーシップの略で、行政(Public)が行う行政サービスを、行政と民間(Private)が連携(Partnership)し、民間の持つノウハウを活用することで、行政サービスの向上、行政の業務効率化などを図るスキーム。PPPの中に、PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)、指定管理者制度、さらに包括的民間委託などのアウトソーシングなども含まれる。

PPPエージェントである大東公民連携まちづくり事業株式会社(現〈株式会社コーミン〉)が市のビジョンに基づき、テナントリーシングを行い、特定目的会社である東心株式会社が大東市とコーミンからの出資及び、金融機関からの融資で事業を実施。建物は東心株式会社が所有し、大東市はその民間賃貸住宅を市営住宅として借り上げるほか、公園・河川・周辺道路の整備を行う。(画像提供:コーミン)

〈コーミン〉代表取締役の入江智子さん。
矢島: 入江さんは市役所職員でしたが、
このプロジェクトを実現させるために退職され、
まちづくりのための会社に移籍したと聞きます。
当時はどんな部署にいて、なぜこのプロジェクトはスタートしたのですか?
入江: 私は兵庫県宝塚市の出身で、京都工芸繊維大学を卒業後、
大東市役所に入庁し、建築技師として市営住宅や学校などの営繕を担当していました。
市営住宅の建て替え担当者は、交付金を使い
ごく普通のマンション形式にするのが通常の業務だったのですが、
「本当にこのやり方でいいのか?」といった課題意識をずっと抱いていて、
何か違う手法を探していました。
市営住宅の建て替えは、国交省による交付金制度できっちり固まっています。
morinekiのような面倒な手続きをしなくても、
粛々と建て替えができるシステムが用意されているのです。
ですがそれでは「どこにでもある市営住宅」しかできません。
そうしたなか、市長がまちづくり専門家の木下斉さんの講演会に行き、
岩手県紫波町での、国の補助金に頼らない公民連携の成功例
〈オガールプロジェクト〉を知ったのです。
折しも第2次安倍政権によって「まち・ひと・しごと創生本部」が内閣に設置され、
地方も自ら人の流れをつくり、稼ぐことが求められていました。
大東市は、創生総合戦略に
1.市民や民間を主役に据える、
2.大阪市にはなく大東市にあるものを磨く、
というふたつの政策的な視点を掲げ、その実行部隊として、
市役所に「地方創生局」を新設しました。
その局長が、木下さんらが始動した「公民連携プロフェッショナルスクール」
(現・都市経営プロフェッショナルスクール)の1期生として
参加したのが大きな起点です。

〈morineki〉は、約3000平米の公園と、74戸の住宅のほか、レストラン、アウトドアショップ、ベーカリー、アパレル、雑貨などの店舗が軒を連ね、2階はテナント〈ノースオブジェクト〉の本社事務所になっている。

morinekiの名は、「森」と、河内弁で“近く”を表す「ねき(根際)」をあわせた造語。〈UMA/design farm〉原田祐馬さんデザインのロゴマークは、mの字形と3本の新芽を表す。