5組のアーティストが
北海道・白老の地と出合った。
『ルーツ&アーツしらおい2023』

地域×多様な第三者によって生まれたものが、人と土地とに還元されていく

継続することによって、住民が主体的に動き出すプロジェクトも現れた。
2021年からスタートした「歩いて巡る屋外写真展」は、
虎杖浜と社台という小さな漁村の約50〜60年前の人々の姿を捉えた写真を
大きく引き伸ばし、家々の外壁に設置するという取り組みで、
これまではウイマ文化芸術プロジェクトが母体となってきた。
今年、この写真の保存会が住民の間で立ち上がり、
まちのみんなでこのプロジェクトを進めていこうとする機運が高まっているという。

「古い写真で新しい景色をつくる。自分たちが守りたい、
暮らしの営みが観光資源として残っていくのは、とてもすばらしいことだと思います。
保全にかかる経費や人手の確保を行い、保存に向けて体制を
地元でかたちづくってくださっていることにも心から感謝しています」(木野さん)

「歩いて巡る屋外写真展」。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

「歩いて巡る屋外写真展」。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

保存活動の様子。地元の高校生の参加もあった。

保存活動の様子。地元の高校生の参加もあった。

「地域×多様な第三者」というテーマと、タイトルである「ルーツアンドアーツ」
という視点は、現代アートという枠組みだけでなく、
もっと大きな文化という視点につながっていく。
ファイナルイベント『しらおい文化交流』は、芸術祭事務局自体が多様な第三者として、
また地域という両方の立場で関わり、企画された。
さまざまな屋台が並ぶなか、サークル活動をする人々や高校生などが
かわるがわるステージに出演。地元の文化交流の場として貴重な機会となったという。

ファイナルイベント『しらおい文化交流』。

ファイナルイベント『しらおい文化交流』。

「とくに『どさんこ音頭(別所透作詞、重田恒雄作曲)』を掘り起こして
それをみんなで踊ることができたことが印象に残りました」(木野さん)

この音頭は50年ほど前につくられ、白老で愛されていたが、やがて忘れ去られてしまったもの。
この音頭を復活させたいと住民が独自に調査し、音源と踊りの映像とを探し出したそうだ。
こうした自分たちのルーツを見直すことで、かつてのまちの賑わいを思い出し、
住民たちの間に参加した一体感が生まれていったという。

イベントの様子。

イベントの様子。

「人口減少によってどのまちでも商店街が寂しくなっていますが、
こうやってイベントを開催してみて、人が集まることで
商店街が元気になる期待ができると再確認できました」(木野さん)

地域と多様な第三者との協働によって、普段は気にもとめていなかった
人や土地の記憶を呼び覚ますことで、この場に新しい景色が生まれ、
それがまた人や土地へと還元されていく。
この芸術祭が掲げるテーマは、非常に広く、
10人いれば10通りの答えに行きつくようなものかもしれない。

「キュレーターが具体的なテーマを掲げることで独自性を出すのではなく、
この芸術祭に関わる人たちが、みんなでつくっていくところが魅力だと思います」(坂口さん)

ポロトミンタㇻに設置された『みんなの心つなげる巨大パッチワーク ~アロアロ~』。アイヌ刺しゅうなどをみんなで行うことで心をひとつにしようと制作された。

ポロトミンタㇻに設置された『みんなの心つなげる巨大パッチワーク ~アロアロ~』。アイヌ刺しゅうなどをみんなで行うことで心をひとつにしようと制作された。

長い歴史のなかで培われた白老という地域すべてにスポットを当て、
それらに真正面から向き合うことを何より大切にする芸術祭。
これからも多様なチャレンジを繰り返すことで、
その輪郭が次第にクリアになっていくのだと思う。
芸術祭が地域とともに育まれていくプロセスを、来年も、その先もずっと見守っていきたい。

writer profile

來嶋路子 Michiko Kurushima
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
https://www.facebook.com/michikuru

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