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posted:2023.9.20 from:北海道白老町 genre:アート・デザイン・建築
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writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
https://www.facebook.com/michikuru
北海道の南西部に位置する白老町は、太平洋に面し、
面積の約75%が森にかこまれた、豊かな自然環境を有するまち。
白老といえば、民族共生象徴空間「ウポポイ」が2020年に生まれ、
アイヌ文化の発信拠点として広く知られています。
こうした先住民の文化に寄り添いながら、さまざまな地域のアーティストとともに、
多層的な表現を探っていこうとする試みが、いま行われています。
今年で3回目となる「ROOTS & ARTS SHIRAOI(ルーツ&アーツしらおい)」は、
町内外のアーティストたちが集結し、まちの各所で作品を展開するほか、
企画展やパフォーマンスイベント、ガイドツアーなども行われる芸術祭です。
テーマは「地域×多様な第三者」。
白老という土地に息づく文化や人々の営み、この地域特有の地勢や自然と
アーティストが出会ったとき、そこから何が生まれるのか。
その創作や表現に触れることで、地域の新たな魅力の発見につながるのではないか。
そんな問いかけが込められているといいます。
昨年、この芸術祭にあたり、地元に根ざす〈スーパーくまがい〉の壁面に画家・吉田卓矢が『白老の夢』を描いた。現在、常設展示となっている。
芸術祭の舞台となるのは「社台」「市街地」「虎杖浜」という3つのエリア。
社台エリアでは3組のアーティストが作品を展開。
2016年に閉校となった旧社台小学校の1階では、
1990年代後半から本格的に絵を描き始め、各地のアールブリュット展に参加する
田湯加那子さんの絵画展が開催されています。
白老在住ですが、地元で展覧会を開催するのは18年ぶり。
旧社台小学校での展示。「田湯加那子の軌跡」をテーマに約200点が出品された。
花をモチーフにしたシリーズは芸術祭のメインビジュアルとしても使われた。
ほぼ毎日、色鉛筆を握り、紙に向かい、強い筆致で歌う人物、花、野菜など
目にするさまざまなものを描き出しています。
机には、スケッチブックや小さくなった色鉛筆も展示。
また制作中の映像もあり、内なる声を色やかたちに表そうとする
田湯さんの息遣いが肌で感じられる空間となっていました。
休みなく制作を続けているという。絵のタッチはどんどん変化していく。
小さくなった色鉛筆とスケッチブック。
筆圧によって紙が擦れて破れている箇所もあった。
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校舎の2階では、昨年もこの芸術祭に参加した、
京都在住で2000年よりアニメーションを中心とした共同制作を始めている
青木陵子さんと伊藤存さんによるインスタレーションが設置されました。
青木陵子+伊藤存。昨年は『となりの入り口』と『あの世の入り口』というふたつの「入り口」となる作品を制作した。(撮影:和田真典)
作品が生まれる背景には、白老にある〈喫茶休養林〉の店主との出会いがあります。
店主は30年前から自然保護運動を続け、そうしたなかで
ゴルフ場開発計画に反対する活動も行っていました。
伊藤さんはこの話を聞き「白老の見え方が変わった」といいます。
単に自然が豊かなのではなく、誰かの行動によって
それが保たれていたことを知ることに。
今回の滞在では、まず開発計画があった場所を訪ね歩きました。
そこで植物たちが風に揺れているのを見たとき
「まるで自分たちの居場所を主張しているように見えた」そう。
そこから、ダンスをするように動く植物にドローイングの軌跡を重ねた映像が生まれました。
青木陵子+伊藤存『草の根のリズム』。映像インスタレーション。
草が動く映像にドローイングが描かれる映像が重なる。
社台の海岸では、洞爺湖を拠点に「野生の学舎」という、
自然のなかでのフィールドワークを通じて、
人々の創造の根源を見つめる活動を続ける新井祥也さんが制作を行いました。
「野生の学舎」の新井祥也さん。昨年の芸術祭では、町民とともに無数の土面を制作した。(撮影:akitahideki)
新井さんは白老の虎杖浜から苫小牧にかけての海岸線をくまなく歩き、
海の向こうから漂着した巨きな流木を探し、社台の海岸に運びこみました。
目の前に海のみえる野外の展示場所で滞在制作をして、雨や風の強い日、
そして深い霧のなかでも木を彫り、さまざまなものとの対話の時間を重ねるなかで
人の原初の記憶や営みに想いを巡らせたといいます。
来年は彫った流木を柱としてこの場所にたてたいと考えているそう。
柱を介して天と地が結ばれ、自然と人間の関わり、あの世とこの世、
過去と現在、未来が交信するためのきっかけの場になればと願っています。
海へと続く茫々とした草地のひろがり。かつてはここには道があり人の往来があったそうだ。
海へと向かう道を歩いた先に作品はある。木肌は螺旋状に彫られている。
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はるかに海が見渡せる虎杖浜エリアでは、オスロと東京を拠点に活動を行う
アーティストであり研究者でもあるナタリー・ツゥーさんの
インスタレーションが制作されました。
ツゥーさんは、以前も白老を訪ねたことがあり、風景の記憶の探究をテーマに、
フィールドワーク、サウンド、パフォーマンスなど多彩なプロジェクトを続けています。
インスタレーション『音のない水たちのささやき』。ガラスの中に水を入れるナタリー・ツゥーさん。音色が変化する。
今回、モチーフとしたのは、かつてと流れが変わってしまったアヨロ川。
その流れのサウンドに、自身で制作したガラスのオブジェや石を組み合わせて
振動を増幅させた音を重ねていきました。
金属音のような不思議なサウンドは、グラスに小魚、
塩などを盛ることによってさらに変化。
「普段は聞こえないもの見えないものについて作品を通じて感じてもらいたい」
と語っていました。
ガラスに息を吹き込むと地鳴りのような音が空間全体に響く。
市街地エリアでは、インスタレーションやライブパフォーマンスなどの
活動を続けるアーティスト、梅田哲也さんが制作を行いました。
作品『回回声』で行われた梅田哲也による音響のライブミックスの様子。
会場となったのは、今後オープン予定の白老のクラフトビール工場の一角。
昨年、梅田さんはこの芸術祭で『回声』というインスタレーションを制作しました。
そのとき使われたガラス球や漁の網、ロープなどを用い、
それを発展させた作品『回回声』を展開。
ガラス球とガラス球がチューブでつながれ、下部から上部へと水が上ったり、
しずくが徐々に球に溜まっていったりとつねに変化が起こります。
ここにあるものは廃業したガソリンスタンドにあったものや
漁師から譲り受けたものなど、使われなくなったもの。
いったん役目を終えたものが組み上げられることによって、
新たな機能を持つものとして蘇生し、静かに動き音を発する様子は印象深かったです。
ガラス球に水が循環し、その波紋が影を揺らす。
雫が垂れると静かな音が響き渡る。
ここまで紹介した5組のアーティストの作品展示とともに企画展も多数あります。
社台や虎杖浜では「歩いて巡る屋外写真展」を実施。
昭和時代の漁村集落の人々の営みを撮り続けてきた山崎壽昭さんと中出満さんの
記録写真を引きのばし、建物の壁面などに設置されています。
現在の風景のなかに当時の人々の営みがオーバラップし、
郷愁と新鮮な感覚とを同時に感じさせるプロジェクトとなっています。
「歩いて巡る屋外写真展」。まちのあちこちの壁面に写真が掲示されている。
このほか「Living & Handwork Iburi 〜 胆振 生活と手仕事展 〜」と題し、
白老のある胆振地方の作家による手仕事の展示や、
「白老ゆかりの作家たち」として、白老美術協会に関わるメンバーを中心にした絵画展。
さらには「みんなの心をつなげる巨大パッチワーク〜アロアロ〜」という
プロジェクトもあり、地域の人々のアート活動に光を当てる試みを行っています。
「Living & Handwork Iburi 〜 胆振 生活と手仕事展 〜」より。(写真提供:良籠)
期間中は、白老おもてなしガイドセンターの企画として「ポロトの森散策」「鮭の遡上ツアー」
「白老町名産 原木しいたけを地元農家さんと収穫体験と歩いて巡る屋外写真展見学」
「アイヌ文様刺繍体験を通じて土地の豊かな文化に触れる旅」の文化観光ツアーも(要予約)。
芸術祭でアートに触れ、さらには自然や文化体験もできる企画が盛りだくさんなので、
白老の魅力をさまざまな角度から楽しめる旅ができそうです。
information
ROOTS & ARTS SHIRAOI
ルーツ&アーツしらおい2023
会期:2023年9月1日(金)〜10月9日(月・祝)
定休日:月〜水曜日※祝日を除く
会場:北海道白老町内各所
時間:10時〜16時
料金:観覧無料(体験コンテンツなど一部有料)
Web:ルーツ&アーツしらおい2023
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