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5組のアーティストが
北海道・白老の地と出合った。
『ルーツ&アーツしらおい2023』

ローカルアートレポート
vol.097

posted:2023.12.4   from:北海道白老町  genre:アート・デザイン・建築

PR 白老文化観光推進実行委員会

〈 この連載・企画は… 〉  各地で開催される展覧会やアートイベントから、
地域と結びついた作品や作家にスポットを当て、その活動をレポート。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。
https://www.instagram.com/michikokurushima/
https://www.facebook.com/michikuru

田湯加那子さんの描き続ける姿が人々の心を揺さぶった

北海道南西部に位置する白老町は、森林や川、湖など美しい自然環境と、
この土地で育まれた人々の歴史が交差して、独自の風土が生まれているまち。
このまちを舞台に開催された芸術祭『ルーツ&アーツしらおい2023』は、
今年が3年目となる。
町内の「社台」「市街地」「虎杖浜」という3つのエリアに作品が展示され、
10月9日の閉幕までの約40日間の会期中に9946名が来場した。
回を重ねるごとに来場者が増えており、昨年と比べると入場者数は倍増したという。

会場のひとつとなった旧社台小学校での田湯加那子さんの展示。閉校後、校舎に再びにぎわいが戻った。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

会場のひとつとなった旧社台小学校での田湯加那子さんの展示。閉校後、校舎に再びにぎわいが戻った。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

この芸術祭が掲げたのは「地域×多様な第三者」。
「地域」という言葉には、ここで暮らす住民、文化や歴史、地勢や自然など、
まちのあらゆるものが含まれている。
こうしたものと第三者であるアーティストが出合って生まれた創作を通じて、
あらためて地域の魅力を見つめ直したい、そんな想いを込めた。

今年、参加したアーティストは、田湯加那子さん、青木陵子さん+伊藤存さん、
野生の学舎の新井祥也さん、ナタリー・ツゥーさん、梅田哲也さんの5組。
コロカルニュース」で、すでに作品については紹介したが、今回は舞台裏を支えた
企画統括ディレクターの木野哲也さんとプロジェクトマネージャーの坂口千秋さんの
コメントとともに芸術祭を振り返る。

プレスツアーで作品を紹介する木野哲也さん。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

プレスツアーで作品を紹介する木野哲也さん。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

「地元で創作活動をしている田湯さんと一緒に
展覧会をつくることができて感動しました。
田湯さんは、この土地にいて、毎日描き続けている。
そこに光があたったことは、この芸術祭を象徴するものだと思いました」(木野さん)

今年の活動で印象深かったことのひとつを、木野さんはそう振り返った。
田湯さんは、1990年代後半から本格的に絵を描き始め、
各地のアールブリュット展に参加している。
色鉛筆を握りしめ渾身の力を込めて描き出される表現は、国内外で注目を集めるが、
地元での発表の機会は、これまでなかなか訪れず18年ぶりとなった。
知的障がいと広汎性発達障がいを持ち、人とのコミュニケーションが
うまく取れないというが、今回はそうした面をあえて際立たせず、
ひとりのアーティストの軌跡を紹介した。

田湯さんが小学4年生のときに東京ディズニーランドに行き、帰宅後すぐに描いた作品。これがきっかけとなり、日々絵を描くようになったという。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

田湯さんが小学4年生のときに東京ディズニーランドに行き、帰宅後すぐに描いた作品。これがきっかけとなり、日々絵を描くようになったという。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

田湯さんは、展示会場でも絵を描き続けていた。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

田湯さんは、展示会場でも絵を描き続けていた。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

「芸術祭に参加したアーティストにとっても、
田湯さんとの出会いは大きかったのではないかと思います。
生活のなかでずっとつくり続けること、その姿勢をあらためて見つめる
機会が生まれたように感じました」(坂口さん)

坂口さんも、地元作家とほかの地域からやってきたアーティストが
深く交流できる場が生まれることが、芸術祭の醍醐味のひとつと語る。

花のシリーズ。実際に家に飾られていた花もあれば、想像で描いた花もある。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

花のシリーズ。実際に家に飾られていた花もあれば、想像で描いた花もある。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

音楽番組を見て描かれたシリーズ。歌手の姿だけでなくステージセットも目に焼きつけて描いている。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

音楽番組を見て描かれたシリーズ。歌手の姿だけでなくステージセットも目に焼きつけて描いている。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

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ゴルフ開発計画から着想を得た作品とは?

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出会った人や場所との関係から作品が生まれて

人と人との出会いが、作品の構想に大きく関わるケースもあった。
田湯さんと同じ、旧社台小学校で作品を発表した青木さんと伊藤さんは、2度目の参加。
昨年は、白老で40年続く〈喫茶休養林〉の隣のスペースで展示。
このとき店主の相吉正亮さんが行ってきた自然環境保護活動について知った。

約30年前、里山を覆い尽くすようなゴルフ場開発計画があったが、
地域住民が反対運動を行ったことで、開発が見直されるきっかけを与えた。
このことに着想を得たふたりは、開発されなかった土地をひとつひとつ訪ねて
映像を撮影し、ドローイングを組み合わせたアニメーションを制作した。

青木さんと伊藤さんが共同制作したアニメーション『草の根のリズム』。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

青木さんと伊藤さんが共同制作したアニメーション『草の根のリズム』。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

開発されなかった土地では草たちが自分の居場所を主張しているように見えたという。それらがつくり出すリズムに共感したふたりは「植物のオーケストラのステージ」をつくった。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

開発されなかった土地では草たちが自分の居場所を主張しているように見えたという。それらがつくり出すリズムに共感したふたりは「植物のオーケストラのステージ」をつくった。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

「継続参加アーティストたちは、白老に滞在していないときも、
この場所に想いを馳せてくれていました。
その長い時間の蓄積が作品に現れていたと思います」(木野さん)

同じく2年目の参加となった梅田さんは続編となる『回回声』を発表。
各所に設置されたガラス玉にチューブによって水が垂らされたり、
漁に使われた網などが光に照らされて揺らめいたり。
昨年展示された『回声』でも、ガラス玉や網、ロープなどが工場跡地につるされたが、
今回は、そこに水と光を介在させることによって、ひとつひとつの関係がより際立つ展示となった。
作品に使われた素材は、すべて空港から白老に向かう道のりで出会った人から譲り受けたもの。
ここでも人との出会いによって作品が生まれていた。

〈THE OLD GREY BREWERY〉というクラフトビールの直営店となる予定地で梅田さんが制作した『回回声』。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

〈THE OLD GREY BREWERY〉というクラフトビールの直営店となる予定地で梅田さんが制作した『回回声』。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

期間中の夜間、梅田さんによる音響のライブミックスが行われ、ゲストとしてツゥーさんも参加し音を重ねた。

期間中の夜間、梅田さんによる音響のライブミックスが行われ、ゲストとしてツゥーさんも参加し音を重ねた。

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場所との出合いも

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土地がきっかけで生まれた作品

作品を生み出す契機となった出会いは、人だけに限らない。
白老を最初に訪ねたとき、濃霧のなかで出合った
海に強い印象を受けたという野生の学舎の新井さん。
「海と人とが最初に向かい合ったとき、どんな感覚が沸き起こったのだろうか」と考え、
それを知る手がかりとして、海岸線で拾った流木にノミで彫跡をつけていった。
新井さんも今回が2度目の参加となり、その眼差しはすでに来年を見つめている。

「来年は、流木を塔のように立ててみたい。
すぐに完成させるのではなく四季を越えていくことで、
人間がコントロールできない大きな循環に目を向けたいと考えています」(新井さん)

制作する場所を探していたとき海に向かう細い道を見つけた。その道は地域の住民がつけたもので「かつて道だったので元通りにしたかった」と彼は語ったという。その話に新井さんは興味を抱いたことも、この場所を選んだ理由のひとつとなった。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

制作する場所を探していたとき海に向かう細い道を見つけた。その道は地域の住民がつけたもので「かつて道だったので元通りにしたかった」と彼は語ったという。その話に新井さんは興味を抱いたことも、この場所を選んだ理由のひとつとなった。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

海岸線で見つけた流木をノミで螺旋状に彫っていった。雨の日も風の日も、ここにテントを張って制作を続けた。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

海岸線で見つけた流木をノミで螺旋状に彫っていった。雨の日も風の日も、ここにテントを張って制作を続けた。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

今回、初参加となったナタリー・ツゥーさんは、オスロと東京を拠点に
幅広い分野で活躍するアーティストであり研究者でもある。
以前から独自に白老を訪ね、その土地に根づく記憶を調査していたという。
そして出合ったのは、虎杖浜にある観音寺。
ここはカフェやマルシェ、トークなども開催し、
お寺と人々がつながるための取り組みを普段から実施している場所で、
ツゥーさんと住職とが対話を重ねたことから、作品発表の場となったそうだ。

虎杖浜にある青峯山観音寺。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

虎杖浜にある青峯山観音寺。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

本堂の一角で展開された『音のない水たちのささやき』。かつての水流がかたちを変えてしまったアヨロ川に着目し、その川の音とガラスのオブジェや塩、小魚などを共振させて生まれた音とが響き合うインスタレーションをつくり出した。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

本堂の一角で展開された『音のない水たちのささやき』。かつての水流がかたちを変えてしまったアヨロ川に着目し、その川の音とガラスのオブジェや塩、小魚などを共振させて生まれた音とが響き合うインスタレーションをつくり出した。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

「今回芸術祭に参加したのは、地元在住や関わって2年目のアーティスト、
ツゥーさんのように以前から白老に訪れて調査をしていたアーティストなどです。
顔見知りとなっていたのでスタッフや地域の人々が
リラックスしたムードで受け入れられました。
昨年までは、現代アートは理解が難しいのではないかという、
受け入れ側に緊張感がありましたし、短期間で展覧会をつくらなければならない
という焦りもあったように思います」(坂口さん)

旧社台小学校で来場者を迎え入れるスタッフたち。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

旧社台小学校で来場者を迎え入れるスタッフたち。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

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古い写真で新しい景色をつくる

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地域×多様な第三者によって生まれたものが、人と土地とに還元されていく

継続することによって、住民が主体的に動き出すプロジェクトも現れた。
2021年からスタートした「歩いて巡る屋外写真展」は、
虎杖浜と社台という小さな漁村の約50〜60年前の人々の姿を捉えた写真を
大きく引き伸ばし、家々の外壁に設置するという取り組みで、
これまではウイマ文化芸術プロジェクトが母体となってきた。
今年、この写真の保存会が住民の間で立ち上がり、
まちのみんなでこのプロジェクトを進めていこうとする機運が高まっているという。

「古い写真で新しい景色をつくる。自分たちが守りたい、
暮らしの営みが観光資源として残っていくのは、とてもすばらしいことだと思います。
保全にかかる経費や人手の確保を行い、保存に向けて体制を
地元でかたちづくってくださっていることにも心から感謝しています」(木野さん)

「歩いて巡る屋外写真展」。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

「歩いて巡る屋外写真展」。(写真提供:Tsubasa Fujikura)

保存活動の様子。地元の高校生の参加もあった。

保存活動の様子。地元の高校生の参加もあった。

「地域×多様な第三者」というテーマと、タイトルである「ルーツアンドアーツ」
という視点は、現代アートという枠組みだけでなく、
もっと大きな文化という視点につながっていく。
ファイナルイベント『しらおい文化交流』は、芸術祭事務局自体が多様な第三者として、
また地域という両方の立場で関わり、企画された。
さまざまな屋台が並ぶなか、サークル活動をする人々や高校生などが
かわるがわるステージに出演。地元の文化交流の場として貴重な機会となったという。

ファイナルイベント『しらおい文化交流』。

ファイナルイベント『しらおい文化交流』。

「とくに『どさんこ音頭(別所透作詞、重田恒雄作曲)』を掘り起こして
それをみんなで踊ることができたことが印象に残りました」(木野さん)

この音頭は50年ほど前につくられ、白老で愛されていたが、やがて忘れ去られてしまったもの。
この音頭を復活させたいと住民が独自に調査し、音源と踊りの映像とを探し出したそうだ。
こうした自分たちのルーツを見直すことで、かつてのまちの賑わいを思い出し、
住民たちの間に参加した一体感が生まれていったという。

イベントの様子。

イベントの様子。

「人口減少によってどのまちでも商店街が寂しくなっていますが、
こうやってイベントを開催してみて、人が集まることで
商店街が元気になる期待ができると再確認できました」(木野さん)

地域と多様な第三者との協働によって、普段は気にもとめていなかった
人や土地の記憶を呼び覚ますことで、この場に新しい景色が生まれ、
それがまた人や土地へと還元されていく。
この芸術祭が掲げるテーマは、非常に広く、
10人いれば10通りの答えに行きつくようなものかもしれない。

「キュレーターが具体的なテーマを掲げることで独自性を出すのではなく、
この芸術祭に関わる人たちが、みんなでつくっていくところが魅力だと思います」(坂口さん)

ポロトミンタㇻに設置された『みんなの心つなげる巨大パッチワーク ~アロアロ~』。アイヌ刺しゅうなどをみんなで行うことで心をひとつにしようと制作された。

ポロトミンタㇻに設置された『みんなの心つなげる巨大パッチワーク ~アロアロ~』。アイヌ刺しゅうなどをみんなで行うことで心をひとつにしようと制作された。

長い歴史のなかで培われた白老という地域すべてにスポットを当て、
それらに真正面から向き合うことを何より大切にする芸術祭。
これからも多様なチャレンジを繰り返すことで、
その輪郭が次第にクリアになっていくのだと思う。
芸術祭が地域とともに育まれていくプロセスを、来年も、その先もずっと見守っていきたい。

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