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連載

久留米絣を世界へ!
〈藍染絣工房〉と〈IKI LUCA〉が
切り開く、絣の新しい可能性

工芸と考える未来
supported by MUFG
vol.002

posted:2024.9.24   from:福岡県八女郡広川町・久留米市  genre:ものづくり / アート・デザイン・建築

PR 三菱UFJフィナンシャル・グループ

〈 この連載・企画は… 〉  日本の伝統的な工芸の文化や技術の継承に寄り添い、
これからのものづくりについて考えるとともに、その姿から変化の時代に必要なイノベーションを学ぶ「MUFG工芸プロジェクト」。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の社員がそんな革新に挑戦する工芸の作家や工房を訪ね、
未来に生きるための新たな学びや気づきを共有していきます。

writer profile

Ikuko Hyodo

兵藤育子

ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

credit

撮影:白木世志一

愛媛県の伊予絣(かすり)、広島県の備後絣とともに、
日本三大絣のひとつとされる福岡県の久留米絣。

その伝統を受け継ぐ〈藍染絣工房〉を、
久留米絣を用いたブランド〈IKI LUCA(イキルカ)〉の小倉知子さんとともに、
三菱UFJモルガン・スタンレー証券福岡支店の田中鈴音さん、矢原寛人さん、
三菱UFJフィナンシャル・グループ経営企画部の糸川佳孝さんが訪問。
久留米絣を世界へ、そして現代のライフスタイルへつなぐ方法を模索します。

手づくりと量産、共存してこそ成り立つ産地

福岡県南部の久留米市を中心とする筑後地方で
伝統的につくられてきた藍染めの綿織物、久留米絣。
糸の段階で染め分けて柄を織りなす先染めの織物です。

広川町にある〈藍染絣工房〉を訪れると、
織り上がった藍色の反物が青空の下にはためいていました。
1891年創業のこの工房は現在、4代目の山村健(たけし)さんと
5代目の山村研介さんが親子で営んでいます。

「私にとってこの工房は、藍染めの冒険が始まった場所なんです。
偶然ですが、研介さんと私は同い年。
隣町同士、筑後川の水で育ったので、妙に親近感が湧くんですよね(笑)」
と元気よく話すのは、久留米絣を100%使用したファッションブランド
〈IKI LUCA〉の代表を務める、久留米市荒木町出身の小倉知子さん。
金融業界から転身した、異色の経歴の持ち主です。

〈IKI LUCA〉の小倉知子さん。この日着ているのも同ブランドの服。

〈IKI LUCA〉の小倉知子さん。この日着ているのも同ブランドの服。

制作現場を見せてもらう前に、まずは久留米絣の歴史や特徴を
研介さんと小倉さんが説明してくれました。

「久留米絣は、1800年頃に井上伝という
当時12~13歳の少女が考案したと伝えられています。
着古した着物のかすれた部分に注目して、生地をほどいてみると、
藍染めの糸がところどころ白くなっていたんです。
そこから逆算して、糸に最初から白い部分をつくって織り上げたら、
模様ができるのではないかと考えたのです」(研介さん)

最初に作成する図案。黒く塗りつぶされているところに括りを入れる。出来上がりは、この部分が白くなる。

最初に作成する図案。黒く塗りつぶされているところに括りを入れる。出来上がりは、この部分が白くなる。

筑後地方には、九州最大の河川であり、日本三大暴れ川のひとつで
「筑紫次郎」の異名を持つ筑後川が流れ、
肥沃な大地では綿花や藍の栽培が盛んに行われていました。
そんな綿織物の産地で、久留米絣を発案した井上伝は、
やがて1000人もの弟子を抱えるほどに。
西南戦争の際は、官軍兵士が土産として久留米絣を持ち帰り、全国に広まっていきます。

同じ柄だが、左は新品で、右は40年着ている生地。「藍染めには青い成分以外に、アクと呼ばれる不純物が入っていて、繰り返し洗ううちにそれが抜けることで色が冴えてくるんです」(研介さん)

同じ柄だが、左は新品で、右は40年着ている生地。「藍染めには青い成分以外に、アクと呼ばれる不純物が入っていて、繰り返し洗ううちにそれが抜けることで色が冴えてくるんです」(研介さん)

「基本的には普段着の生地に用いられていたのですが、
当時の着物はほとんどが無地や縞、格子。
久留米絣ように柄の入った着物は革新的だったようです」(研介さん)

〈藍染絣工房〉4代目の山村健さん(左)と5代目の研介さん(右)。

〈藍染絣工房〉4代目の山村健さん(左)と5代目の研介さん(右)。

おしゃれな日常着として一世を風靡した久留米絣。
その歴史に驚きつつ、MUFGの糸川さんが質問をします。

「つくるのに手間も時間もかかったと思うのですが、
普段着のわりに高価格にはならなかったのでしょうか?」

「最盛期の戦前は、年間200万反も生産していたそうですが、
色や柄のバリエーションは少なく、効率重視で簡単につくっていました。
戦後は洋装化に伴い生産量が減り、デザインは逆に複雑化していきます」(研介さん)

白い部分が多いほど括りが多くなるので、そのぶん手間がかかる。細かなグラデーションも表現。

白い部分が多いほど括りが多くなるので、そのぶん手間がかかる。細かなグラデーションも表現。

生産量は現在も年々減っていて、10年ほど前は30軒あった織元が
20軒ほどになっているといいます。

「現代の久留米絣は、うちのような藍染め・手織りの織元と、
化学染料・機械織りのところの、2パターンに大きく分けられます」(研介さん)

IKI LUCAの生地は藍染絣工房ではなく、八女市の〈下川織物〉で織られたものですが、
そのようにさまざまな織元がいるのもこの産地の魅力。

「私が履いているこの赤いスカートは、IKI LUCAの最初のアイテムで、
化学染料で赤に染めた糸を機械織りした生地でつくっています。
無地の絣ですが、IKI LUCAでは、敢えてシンプルな
無地や縞の生地を使用した服を展開することで、
いままでアプローチできなかった層にも久留米絣が広がっていけばいいな、
という思いと狙いがあります。

なので、そういった生地をつくる工房に行くと、色とりどりの反物が置いてあって、
こことはまた異なる雰囲気ですよ」(小倉さん)

すると、MUFGの田中さんからも質問が。

「山村さんの工房のように昔ながらの伝統的なつくり方をしている方たちは、
化学染料・機械織りの久留米絣に対して、
どういう思いを持っていらっしゃるのでしょう?」

「価格的に手に取りやすいものと、昔ながらのもの、
両方あることが産地の強みだと思っています。
自分たちのような工房だけなら、おそらく産地として存続できていなかったと思うので、
このふたつがあって現在の久留米絣ということができるでしょう」(研介さん)

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いよいよ工房へ…!

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新しい技術ではできない表現

いよいよ制作工程を実際に見せてもらうことに。

「工程は大きく分けると、『括り』『染め』『織り』の3つですが、
細かく分けると30ほどになります」(研介さん)

「括り」は絣の特徴的な工程であり、模様の完成度を左右する大事な工程です。
図案をもとに、藍染めしない部分の糸を別の糸で括ることで、染料が入るのを防ぎます。

括った糸は「染め」の工程へ。藍染めの染料になるのは、
タデアイの葉を発酵させた「すくも」という土状の物質。
近隣では生産されなくなったため、現在は徳島県産のすくもを100%使っています。

藍染めの染料、すくも。徳島のすくも生産者を絶やさないことも、久留米絣にとって切実な問題だ。

藍染めの染料、すくも。徳島のすくも生産者を絶やさないことも、久留米絣にとって切実な問題だ。

「ほかの染料と違って、すくもはそのままの状態では水に溶けないので、
甕(かめ)の中でもう一度発酵させて水に溶ける状態に還元させます。
木灰をお湯と混ぜて採れた灰汁に、赤貝を燃やした貝灰とすくもを入れ、
さらに小麦ふすま(小麦粒の表皮部分。米でいうところの糠)を入れて
バクテリアの餌にします。
こうやって染められる液の状態にすることを“藍を建てる”というのですが、
夏場は1週間、冬場だと2週間ほどかかります」(研介さん)

つくりたてで最も元気がある藍液。“藍の華”と呼ぶ泡が立っているのが、そのしるし。

つくりたてで最も元気がある藍液。“藍の華”と呼ぶ泡が立っているのが、そのしるし。

12個ある甕の中に入った藍液は、すべて濃度が違っていて、
薄いほうから濃いほうへと染めていきます。

「液に長く浸せば濃い色になるわけではなく、
いきなり濃い色に染めると短時間で仕上がるものの、色落ちが激しくなります。
一度染めたら引き算することができないので、
何度も細かく色を重ねていく必要があるのです」(研介さん)

藍液に浸した糸をぎゅっと絞ってほどいた瞬間、さっと色が変わる。これを何度も繰り返し染めていく。

藍液に浸した糸をぎゅっと絞ってほどいた瞬間、さっと色が変わる。これを何度も繰り返し染めていく。

藍液と同じ茶色に染まった糸が、空気に触れて酸化すると鮮やかな藍色に。
その変わり様に思わず歓声が上がります。
さらに糸の芯まで酸素を送り込むため、糸の束を床に叩きつけるのですが、
これは糸を括る久留米絣ならではの工程だそう。

「こうやってしっかり叩くことで、長い使用に耐えうる染めになるんです。
手間はかかるけれども、新しい技術だけでは
自分たちのつくりたいものにはならないんです」(研介さん)

藍染絣工房も、かつては化学染料を使っていたものの、
健さんが昔ながらの天然藍染めを復活させた経緯があります。
その理由を、健さんはこう語ります。

「当時藍染めは分業で、藍染め専門の工房で黒に近い色、一色で染めていました。
短時間で染めるので、色落ちも激しかった。
そんななか、松枝玉記さんという人間国宝の方がつくる淡い藍色に憧れて、
私もこういう色を出したいと思ったんです。

父も祖父も染めはやったことがなかったので、松枝さんに頼み込んで、
基本的な藍の建て方だけ教えてもらいました。
知識も経験もなかったぶん、試行錯誤して自由にできたけれども、
労力はかなりかかりました。いまも染めの工程に、一番時間がかかります」

括りの部分を確認する矢原さん。固く結ばれているため、なかなかほどけない。

括りの部分を確認する矢原さん。固く結ばれているため、なかなかほどけない。

「織り」を担当するのは、健さん。戦前から使われている年季の入った機で、
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)で柄を合わせながら織り進めていきます。

「1反(約12メートル)織るのに、ベテランで3日くらい。
私は4、5日かかりますね」(健さん)

隣の工房から聞こえてくる機械織りの音と比べると、のんびりと心地よいテンポですが、
手織りのほうが丈夫に仕上がると研介さんは説明します。

「スピードを出すと糸にテンションがかかるので、生地も硬い風合いになります。
手織りはそれほどテンションがかからず、空気も一緒に織り込むような感覚で、
型くずれしにくく、柔らかな風合いになるんです。久留米絣らしい精緻な柄も、
手織りで細かく合わせながら織っていくから可能なのです」(研介さん)

戦前から使われている織機。ペダルを交互に踏むことで、緯糸のシャトルを左右に行き来させる。

戦前から使われている織機。ペダルを交互に踏むことで、緯糸のシャトルを左右に行き来させる。

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“旅する絣”というコンセプトはどう生まれた?

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奪い合うのではなく、新しいパイを創出する

実を言うと小倉さんもかつては、地元の多くの同世代と同じように、
久留米絣は「地味で、ダサくて、おばあちゃんが着るもの」
というイメージを抱いていたといいます。

「高校から長崎に行って、早くに地元を離れました。
まだ見ぬ世界への好奇心が強く、外へ外へと目が向いていました」(小倉さん)

バックパックで海外を旅するようになり、大学卒業後は銀行に就職。
サンフランシスコやシンガポールでの勤務も経験し、地元がますます遠くなる一方で、
久留米は自分にとっての原風景がある大切な地元だという思いも強くなっていきます。

「故郷が好きな気持ちと反比例するように、
たまに帰るとまちがどんどん寂れていくんです」(小倉さん)

そんななか、いまの時代におしゃれに着られる
オーダーメイドの久留米絣の服を提案したり、
久留米絣を通して地元を盛り上げようとする方との出会いもあり、
久留米絣の魅力にあらためて気づいた小倉さん。
その後、地元近くのショップ〈うなぎの寝床〉でたまたま出合った
久留米絣のスカートを購入したそう。

「気がついたら当時住んでいたシンガポールや、旅先で大活躍していました。
旅先でも気軽にガシャガシャ洗えるし、ひと晩ですぐに乾く。
天然素材の綿なので飛行機の中でも静電気が起きづらく、
冷房が効きすぎているところではちょっと温かかったりして、
使い勝手がとてもよかったんです」(小倉さん)

決定打は、南米のパタゴニアを旅行していたとき。
いつものように久留米絣のスカートを履いてホテルに滞在していたところ、
顔なじみになっていたニューヨークからの旅行者に声をかけられます。

「『このスカートすてきね、どこで買えるの?』と言われたとき、
『これだ!』と“旅する絣”というコンセプトが浮かんだのです。
久留米と世界の架け橋になるようなことをずっとやりたいと思っていたけど、
すでにあるパイを奪い合うのではなく、新しいパイを創出したくて。

その当時、海外から久留米絣を購入できる経路が見当たらなかったので、
久留米と大好きな旅を掛け合わせた“旅する絣”というコンセプトで
久留米から世界へ! と発信すれば、自分の強みを生かして、
いままでにないようなことができると思いました」(小倉さん)

旅先のどんなシチュエーションでも着られるワンピースが欲しい、という思いから生まれた〈DRSS - JAPAN BLUE(藍染め縞)〉44000円。

旅先のどんなシチュエーションでも着られるワンピースが欲しい、という思いから生まれた〈DRSS -- JAPAN BLUE(藍染め縞)〉44000円。

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久留米絣の“GALAXY”とは?

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久留米絣の“GALAXY”をいかに広げるか

IKI LUCAを立ち上げたのは、2021年5月。
以来、久留米絣をより多くの人に知ってもらうために、
さまざまな“種まき”をしてきました。

「私は久留米絣関係世界を“GALAXY(ギャラクシー)”と呼んでいて、
ひとつの銀河のように捉えているんです。
ど真ん中に職人さんがいて、周辺には職人さんがつくったものを
何かしらのかたちに変えて、発信している私たちのような人がいる。
さらにその周りに久留米絣のファンや、使っていないけど応援してくれる人もいます。
関わり度合いの濃淡はさまざまですが、このGALAXYを少しずつ広げていきたいんです。

IKI LUCAは旅がコンセプトですし、工房を持っている職人さんは
この土地をなかなか離れられないぶん、
私が各地でイベントやポップアップストアなどを通して発信していく。
そして久留米という土地や久留米絣、藍染めの物語に興味を持った人が
その物語が紡がれている久留米や徳島の地に足を運んでくれたら、
新たな化学反応が起こって、経済効果だけでなく、まち全体にも活気が生まれて、
いまよりもっとワクワクできる未来につながっていくと思っています」(小倉さん)

ユニセックスで、さらりと羽織れる軽さが心地よい〈HAORI - JAPAN BLUE(藍染め無地)〉77000円。

ユニセックスで、さらりと羽織れる軽さが心地よい〈HAORI -- JAPAN BLUE(藍染め無地)〉77000円。

すると、糸川さんもこう話します。

「我々のような金融機関にも、つなぐという機能があります。
たとえば日本と海外、売り手と買い手、事業承継として
先代から次代へつなぐお手伝いをすることもありますし、
そのチカラになりたいと思っています。
なかには当人は気づいていないようなつながりもあるので、
私たちが間に入ることでそれらを表面化させて、
発展のお手伝いができればいいですよね」(糸川さん)

その言葉に小倉さんも大いに共感。
徳島の藍農家やすくも生産者をはじめとする、各地の伝統工芸に関わる人たちは皆、
似たような課題を抱えていて、思い描いている未来の姿も近しいことを、
日々感じていたのでした。そして、こんなエピソードを話してくれました。

「昨年、リサーチを兼ねて展示会のある時期にパリへ行ったんです。
そのとき、『日本人は個々で動く』と何人かに指摘されました。
ひとりだと費用も労力もかかるから、もっとチーム戦で動けばいいのにって。

たしかに衣食住のあり方という意味でも、
久留米絣単体でどうにかしようとするのではなく、
トータルコーディネートのような感覚で親和性のあるものをつなげていくと、
チームを組みやすくなると思うんです。
日本各地の同じような思いを持つ仲間とつながって、
チームジャパンを緩やかに結成するのが目標ですね」(小倉さん)

この日、小倉さんも履いていた〈GETA - 旅する下駄〉22000円~。久留米絣と大分の日田下駄の出合い。

この日、小倉さんも履いていた〈GETA -- 旅する下駄〉22000円~。久留米絣と大分の日田下駄の出合い。

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久留米絣でよく眠れる…?

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つくり手が楽しんでいる姿を見せていきたい

一方、研介さんは、日々ものづくりに集中しているからこそ、
つくり手以外の視点からは気づきが多い、と話します。

「コロナ以降、工房を訪れる海外のお客さんがかなり増えています。
日本を何度も旅行していて、よりローカルなものに触れたくて
九州を回っている方が多いんです。
うちの工房は広告を出しているわけではないし、
SNSで発信しているわけでもないけれど、自分たちで調べて直接やって来るんですよね。

そういった人たちは久留米絣に対する先入観もないし、フラットに見てくれるから、
『手触りがいいから◯◯に使えそう』などと、いろいろなアイデアが出てくる。
発想自体がおもしろいし、その先にいろいろな可能性を感じます」(研介さん)

「現代アートの市場は、いまや価格が高騰して手が出ないけれども、
伝統工芸は価格のわりにすばらしい技術が凝縮されている。
海外の方は日本の工芸に注目しているという話を聞きます」(糸川さん)

これに対して、MUFGの矢原さんから質問がありました。

「海外の方は、完成した商品にだけ関心があるのでなく、
制作工程にも興味があるから、工房まで足を運ぶのでしょうか?」

「制作工程を見て買いたい、というのもあるのでしょうけど、
実際に商品を扱っているところが限られているんです。
特にヨーロッパは、こういった工房がほぼなくなってしまったらしく、
『先進国で、こんな手仕事がまだ残っているなんて!』と、みなさん驚かれます。
最近は海外のメゾンも、わざわざここを訪ねてきます。
国内だと、建築や内装関係など異業種からの問い合わせも多く、
建具に藍染めの木を使用したいなどというオーダーもあります」(研介さん)

つくり手もさまざまな可能性を探っているといいます。
たとえば藍染絣工房が久留米大学と進めているのが、
久留米絣の安眠効果に関する実証実験。
藍染めには防虫や抗菌などの効能があり、タンスに端切れを入れる習慣があるそう。
「久留米絣の寝具を使うとよく眠れる」というのもこうした言い伝えのひとつで、
科学的な裏づけができれば医療分野などでの活用も期待できます。

「ほかにも僕個人の取り組みとして、和歌山のニット業者と協力して、
藍染めの糸を織り機ではなく編み機で加工する試作も行っています。
着物ベースで考えず、Tシャツやスウェット生地などに展開できれば、
若い世代も取り入れやすくなると思います」(研介さん)

着物自体を着る機会が減り、一般の人には実用性が低く、
遠い存在になってしまっているのは大きな課題といえます。

そんななか、久留米絣への興味の入り口として機能しているのが、
隣町の八女市に残る町家を活用した〈Craft Inn 手 [té]〉。
手仕事をテーマに、地域の伝統工芸を設えに取り入れた宿で、
3室ある部屋のひとつ「藍の部屋」では、久留米絣のタペストリーや座布団、
さらには藍染めした木のテーブルなど、藍染絣工房の手仕事の数々を体感できます。

「久留米絣をインテリアなど着物以外で活用する際、
何かとネックになるのが反物の幅(約36センチ)。
着物の生地ならではの規格に戸惑う海外の人も多いので、
より幅広の生地をつくって使い道を広げるようなことも、
ゆくゆくはやっていきたいと考えています。

いまはこんなふうに、いろいろな方向で試行錯誤している段階ですが、
産地を持続可能にしていくためには、
若い世代が入ってきやすいような環境をつくらなければいけません。
そのためにはまず僕たちが仕事を楽しんで、
その姿を見せていかなければいけないと思っています」(研介さん)

見学を終えて、MUFGのみなさんはさまざまな感想を抱いたようです。

「小倉さんが、最初は地元の外に目が向いていたけれど、比較するものが増えたことで
地元の良さがわかったとおっしゃっていたのが印象的でした。
私は熊本出身ですが、同じ九州の久留米絣のことを知りませんでしたし、
いまも外の世界にばかり関心が向いていたなと思いました。
地元を振り返る機会を持つことで、仕事に生かせることがあるのかもしれない、
と気づけたのは大きいです」(矢原さん)

「サステナビリティは近年主流になっている考え方ですが、
循環させるという発想は新しいものだと思っていました。
けれども藍染めは、もともと近くにある材料ですべて賄い、
使い終わった液は畑の肥料にするという話を聞いて、
循環は本来の姿だったことを知り驚きました。

私は東京出身で、夏休みなどに帰る地元がないことを寂しく感じていたのですが、
いま初任地の福岡で暮らしていて、
自分にとっての第二の故郷のような感覚が芽生えています。
普段接するお客様からも地元愛を感じますし、
この地域ならではの工房で、みなさんの地元に対する思いを感じられて、
私自身もより一層愛着が湧きました」(田中さん)

〈IKI LUCA〉の「旅する羽織り」を試着! 左から、糸川佳孝さん、田中鈴音さん、矢原寛人さん。

〈IKI LUCA〉の「旅する羽織り」を試着! 左から、糸川佳孝さん、田中鈴音さん、矢原寛人さん。

「やはり、つなぐことの大切さを実感しました。
工芸の作家さん、職人さんが蓄積されてきた技術がすばらしい半面、
それを広めることを苦手とする方が多くいらっしゃると以前から感じていました。
そこを小倉さんや我々のような企業がつないでいくことで、
工芸界にも新たな動きが生まれるのではないかとあらためて思いました。

MUFG工芸プロジェクトを通してそういった支援を引き続きやっていきたいですし、
一方で伝統を守りながら、時代に合わせてさまざまな努力や工夫をされている姿も
ぜひ発信していきたいですね」(糸川さん)

地域で磨かれてきた伝統工芸を、外の世界へつなぎ、広げていくことの大切さ。
久留米絣にさまざまなかたちで関わる人が増えていけば、
明るい未来が待っているはずです。

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藍染絣工房

住所:福岡県八女郡広川町大字長延241

web:藍染絣工房 JAPAN BLUE 100

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IKI LUCA 

web:IKI LUCA

工芸と考える未来 supported by MUFG

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