若手職人の育成から生まれた ヒット商品〈あかいりんご〉。 南部鉄器〈タヤマスタジオ〉の挑戦

30年かかっていた技術習得を3年に短縮

田山さんがまず変えたいと思ったのは、職人を育成するシステムでした。
高度経済成長の恩恵により、さまざまなものが安く手に入るようになり、
伝統工芸の分野においても効率を求められる時代が到来。
なかには専門性ではなく、効率を重視して分業化が進んだ工芸もあり、
その結果、ひとりの職人が最初から最後まで手がける流れが失われてしまったことは、
大きな課題にもなっているそう。

南部鉄器の場合は、一貫してつくることができるような育成を変わらずしてきたものの、
その領域に達するまでにかなりの時間がかかることが難点だと指摘します。

「私の父はいま73歳で、15歳からこの世界にいるのですが、
漆などを塗る最終段階の着色という工程に携われるようになったのは、
45歳のときだったそうです。なので全工程を通してできるようになるまで、
30年以上かかる育成の仕方だったんですよね。

経営面から見るとそれは、投資がずっと続くことも意味しています。
父はサラリーマン職人でしたし、
終身雇用が当たり前とされた時代だから成立した制作環境ともいえるので、
私は全工程を早めに経験する仕組みづくりに取り組むことにしました」

そして田山さん自身が、その実験第1号に。
真っさらの状態から父・和康さんの下で修業して、
どのくらいで“商品”をひとりでつくることのできる職人になれるのか、
その間、経営的に成立するのか、自ら経験しながら検証していきます。

「その過程で、父は60年近い職人人生のなかで、
誰がつくってもある程度高い品質のものができあがるように、
工程や技術を頭の中で体系立てて捉えていることがわかりました。

そしてそういった人から教えてもらえれば、
筋道立てて正しく覚えられることも実体験としてわかりました。
美術的な要素が入ったものは別ですが、商品レベルであれば
3年修業すればつくることができるという結論に至って、
2017年から職人雇用を始めました」

そんな田山さんの話を興味津々に聞いていたMUFGの久保さん。

「継承からの育成というのは、伝統工芸に限らず、
どの企業でもいま必要性を感じていることだと思います。
とはいえ、疑問に感じたことを変えていける環境は、なかなかないものですよね。
多くの人が手を出せないところに田山さんは挑戦されていると思いますし、
お父様の存在も大きいのでしょうが、トライアンドエラーができる環境を
つくられていることがすばらしいですよね」

右から田山さん、三菱UFJ銀行仙台支店の真野和樹さん、久保誠一郎さん、三菱UFJフィナンシャル・グループ経営企画部の松井恵梨さん。

右から田山さん、三菱UFJ銀行仙台支店の真野和樹さん、久保誠一郎さん、三菱UFJフィナンシャル・グループ経営企画部の松井恵梨さん。

writer profile

兵藤育子 Ikuko Hyodo
ひょうどう・いくこ●山形県酒田市出身、ライター。海外の旅から戻ってくるたびに、日本のよさを実感する今日このごろ。ならばそのよさをもっと突き詰めてみたいと思ったのが、国内に興味を持つようになったきっかけ。年に数回帰郷し、温泉と日本酒にとっぷり浸かって英気を養っています。

photographer profile

志鎌康平 Kohei Shikama
1982年山形市生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て山形へ帰郷。2016年志鎌康平写真事務所〈六〉設立。人物、食、土地、芸能まで、日本中、世界中を駆け回りながら撮影を行う。最近は中国やラオス、ベトナムなどの少数民族を訪ね写真を撮り歩く。過去3回の山形ビエンナーレでは公式フォトグラファーを務める。移動写真館「カメラ小屋」も日本全国開催予定。 東北芸術工科大学非常勤講師。
http://www.shikamakohei.com/

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