〈盛岡バスセンター〉 閉鎖されたバス発着拠点を 地域のハブとして再生

『The New York Times』が「行くべきまち」に選出

矢島: 盛岡市内は、歴史的建造物などの観光資源が集積し、国土交通省が推進する
「ウォーカブル(居心地が良く歩きたくなる)」なまちでもある気がします。
そうしたこともあって、2023年に『The New York Times』で、
ロンドンに続く2番目に「行くべきまち」として盛岡市が選ばれたのがきっかけで、
海外からの旅行者が急増しましたね。

小笠原: はい、盛岡が「歩いて回れる宝石的スポット」と高く評価されて、
とてもうれしく思います。『The New York Times』効果により
インバウンドのお客様、特に欧米からの観光客が増えています。

岡崎: ホテルマザリウムは、現在『じゃらん』が行っている
「泊まって良かった宿」口コミランキングで、
東北のホテルで1位になっています(2024年8月現在)。
今年になって週末は100%の予約が入っています。
岩手県は台湾からのインバウンドが多いのですが、ほとんどは国内の観光客です。

「マザリウム」という名前には、日常と非日常、旅行者と生活者、
過去と未来、さまざまなものが混ざり合うという意味で、
部屋の内装もワークヴィジョンズがデザインしました。
また、障害者アートのライセンス管理や商品化を手がける、
盛岡発の〈ヘラルボニー〉がアートプロデュースをした部屋が8室あります。

盛岡に本社を構え、障害を特性として捉え異彩を放つアーティストを軸に事業を展開する〈ヘラルボニー〉が手がけた部屋。

盛岡に本社を構え、障害を特性として捉え異彩を放つアーティストを軸に事業を展開する〈ヘラルボニー〉が手がけた部屋。

ヘラルボニーがプロデュースした部屋の宿泊料のうち500円が、作家にフィーとして支払われる。

ヘラルボニーがプロデュースした部屋の宿泊料のうち500円が、作家にフィーとして支払われる。

市民が参加し、つくる場所

パブリックスペースも兼ねた〈Cafe Bar West38〉では、ジャズのライブ演奏も毎週末開催されている。

パブリックスペースも兼ねた〈Cafe Bar West38〉では、ジャズのライブ演奏も毎週末開催されている。

矢島: 市民の参加性はどうとっていますか?

小笠原: ここの壁面に並んでいるのは、盛岡の外山森林公園の白樺を伐採し、
市民とワークショップをして、磨いてアートピースにしたものです。

市民の参加性を示す約50平方メートルの白樺のアートウォール。ワークショップで制作し、参加者の名前がプレートに刻まれている。

市民の参加性を示す約50平方メートルの白樺のアートウォール。ワークショップで制作し、参加者の名前がプレートに刻まれている。

岡崎: これは西村さんのアイデアです。
北海道の岩見沢駅舎(2009年グッドデザイン大賞受賞)で
レンガに寄付した市民の名を刻んだのと同じ方法です。
白樺の裏側には、名前と50年後の盛岡へのメッセージを書いてもらいました。
この建物が役割を終えて解体されたときに初めて見えるものです。

カフェの向かいには、ジャズピアニスト秋吉敏子と親交もある、盛岡のジャズスポット〈開運橋のジョニー〉の店主がつくった〈穐吉敏子JAZZミュージアム〉もある。

カフェの向かいには、ジャズピアニスト秋吉敏子と親交もある、盛岡のジャズスポット〈開運橋のジョニー〉の店主がつくった〈穐吉敏子JAZZミュージアム〉もある。

小笠原: 先日は小学生と親がひと組になって、地元の木材を材料に
ベンチを20台つくりました。1階のロータリーや屋上広場に置いてありますが、
そうした参加性のあるイベントを継続しています。
夏には屋上広場でビアガーデンをやります。

屋上広場は施設貸出もしている。

屋上広場は施設貸出もしている。

矢島: 子育て支援センターやスパもありますね。

小笠原: はい、子育て支援センターは保育園に入る前の子どもを対象に、
親子が自由に遊ぶことができる市の施設です。
さまざまな事情で移転を繰り返していましたが、バスセンター整備のタイミングで、
テナントとして入居していただくことになりました。
ここはアクセスもいいので、多いときは20人くらいの親子が来ています。

スパは、ホテルの宿泊者も使いますが、地域住民の利用がとても多いです。
新しくてきれいでサウナがすごく充実しているので、リピーターが増えてきています。
こうして日常的に利用してくれると、施設の賑わいにもつながりますので、
うれしいですね。

無料で予約なしで利用できる「子育て支援センター あそびの広場」。

無料で予約なしで利用できる「子育て支援センター あそびの広場」。(写真提供:盛岡ローカルハブ)

矢島: テナントはどのように選んでいるのですか?

岡崎: コンセプトがローカルハブですので、地元の事業者に限定しています。
でもそうなると運営は大変です。
ナショナルチェーンであれば、システマチックに運営してくれますが、
ローカルの事業者は慣れていないことも多いので、
内装工事もセンター側が行うものだと思っている方がいたり……。
長いおつき合いになるので、情熱ある人に入ってもらわないと大変ですね。

東棟のマルシェには、地元では知らない人はいない大人気の〈福田パン〉をはじめ、魚屋、ハンバーガーショップなどが入っている。

東棟のマルシェには、地元では知らない人はいない大人気の〈福田パン〉をはじめ、魚屋、ハンバーガーショップなどが入っている。

矢島: 最後の質問ですが、「準公共」という言葉を聞いた印象は?

小笠原: 私は初めて聞きました。公民連携と似たような言葉なのでしょうが、
どういうイメージをしたらいいのか、あまりよくわかりません。

岡崎: 定義がわからないです。公共は官も見ますし、
民も担っていると認識していますので。
パブリックマインドは、みんなが持っているものですから。
自分の家の周りのゴミは拾いますよね。これはパブリックマインドです。
ガバメントではなく。

準公共と聞いて感じたのは、「官のおごり」です。
公共を担っているのは官だけと思っている認識があるからだと思います。

保全された旧バスセンターで使用されていたサインの前で。

保全された旧バスセンターで使用されていたサインの前で。

writer profile

矢島進二 Shinji Yajima
公益財団法人日本デザイン振興会常務理事。1962年東京生まれ。1991年に現職の財団に転職。グッドデザイン賞をはじめ、東京ミッドタウン・デザインハブ、地域デザイン支援など多数のデザインプロモーション業務を担当。マガジンハウスこここで福祉とデザインを、月刊誌『事業構想』で地域デザインやビジネスデザインをテーマに連載。「経営とデザイン」「地域とデザイン」などのテーマで講演やセミナーを各地で行う。

日本デザイン振興会

photographer profile

志鎌康平 Kohei Shikama
1982年山形市生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て山形へ帰郷。2016年志鎌康平写真事務所〈六〉設立。人物、食、土地、芸能まで、日本中、世界中を駆け回りながら撮影を行う。最近は中国やラオス、ベトナムなどの少数民族を訪ね写真を撮り歩く。過去3回の山形ビエンナーレでは公式フォトグラファーを務める。移動写真館「カメラ小屋」も日本全国開催予定。 東北芸術工科大学非常勤講師。
http://www.shikamakohei.com/

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