久留米絣を世界へ! 〈藍染絣工房〉と〈IKI LUCA〉が 切り開く、絣の新しい可能性
新しい技術ではできない表現
いよいよ制作工程を実際に見せてもらうことに。
「工程は大きく分けると、『括り』『染め』『織り』の3つですが、
細かく分けると30ほどになります」(研介さん)
「括り」は絣の特徴的な工程であり、模様の完成度を左右する大事な工程です。
図案をもとに、藍染めしない部分の糸を別の糸で括ることで、染料が入るのを防ぎます。
括った糸は「染め」の工程へ。藍染めの染料になるのは、
タデアイの葉を発酵させた「すくも」という土状の物質。
近隣では生産されなくなったため、現在は徳島県産のすくもを100%使っています。

藍染めの染料、すくも。徳島のすくも生産者を絶やさないことも、久留米絣にとって切実な問題だ。
「ほかの染料と違って、すくもはそのままの状態では水に溶けないので、
甕(かめ)の中でもう一度発酵させて水に溶ける状態に還元させます。
木灰をお湯と混ぜて採れた灰汁に、赤貝を燃やした貝灰とすくもを入れ、
さらに小麦ふすま(小麦粒の表皮部分。米でいうところの糠)を入れて
バクテリアの餌にします。
こうやって染められる液の状態にすることを“藍を建てる”というのですが、
夏場は1週間、冬場だと2週間ほどかかります」(研介さん)

つくりたてで最も元気がある藍液。“藍の華”と呼ぶ泡が立っているのが、そのしるし。
12個ある甕の中に入った藍液は、すべて濃度が違っていて、
薄いほうから濃いほうへと染めていきます。
「液に長く浸せば濃い色になるわけではなく、
いきなり濃い色に染めると短時間で仕上がるものの、色落ちが激しくなります。
一度染めたら引き算することができないので、
何度も細かく色を重ねていく必要があるのです」(研介さん)

藍液に浸した糸をぎゅっと絞ってほどいた瞬間、さっと色が変わる。これを何度も繰り返し染めていく。
藍液と同じ茶色に染まった糸が、空気に触れて酸化すると鮮やかな藍色に。
その変わり様に思わず歓声が上がります。
さらに糸の芯まで酸素を送り込むため、糸の束を床に叩きつけるのですが、
これは糸を括る久留米絣ならではの工程だそう。

「こうやってしっかり叩くことで、長い使用に耐えうる染めになるんです。
手間はかかるけれども、新しい技術だけでは
自分たちのつくりたいものにはならないんです」(研介さん)

藍染絣工房も、かつては化学染料を使っていたものの、
健さんが昔ながらの天然藍染めを復活させた経緯があります。
その理由を、健さんはこう語ります。
「当時藍染めは分業で、藍染め専門の工房で黒に近い色、一色で染めていました。
短時間で染めるので、色落ちも激しかった。
そんななか、松枝玉記さんという人間国宝の方がつくる淡い藍色に憧れて、
私もこういう色を出したいと思ったんです。
父も祖父も染めはやったことがなかったので、松枝さんに頼み込んで、
基本的な藍の建て方だけ教えてもらいました。
知識も経験もなかったぶん、試行錯誤して自由にできたけれども、
労力はかなりかかりました。いまも染めの工程に、一番時間がかかります」

括りの部分を確認する矢原さん。固く結ばれているため、なかなかほどけない。
「織り」を担当するのは、健さん。戦前から使われている年季の入った機で、
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)で柄を合わせながら織り進めていきます。

「1反(約12メートル)織るのに、ベテランで3日くらい。
私は4、5日かかりますね」(健さん)
隣の工房から聞こえてくる機械織りの音と比べると、のんびりと心地よいテンポですが、
手織りのほうが丈夫に仕上がると研介さんは説明します。
「スピードを出すと糸にテンションがかかるので、生地も硬い風合いになります。
手織りはそれほどテンションがかからず、空気も一緒に織り込むような感覚で、
型くずれしにくく、柔らかな風合いになるんです。久留米絣らしい精緻な柄も、
手織りで細かく合わせながら織っていくから可能なのです」(研介さん)

戦前から使われている織機。ペダルを交互に踏むことで、緯糸のシャトルを左右に行き来させる。