「デザイン」を「ほどく!」 盛岡のクリエイティブ事務所 〈homesickdesign〉による 展覧会が開幕中

「デザイン」の仕事を、「ほどく!」

クリエイティブ事務所〈homesickdesign(ホームシックデザイン)〉による
『ほどく! homesickdesign展』が、岩手県・盛岡市の〈Cyg art gallery〉で開催中です。

2006年、代表の清水真介さんがhomesickdesignの屋号で活動をスタートし、
2017年に合同会社化。盛岡市を拠点にショップカードやパッケージデザイン、
施設のブランディングなど、数々の仕事を手がけてきました。

「ほどく!」と題された今回の展覧会では、成果物のみならず、
お目見えするまでの「つくられていく過程」が公開されているのが見どころ。
数あるクライアントワークのなかから10の事例を取り上げ、
発表・発売に至るまでのスケジュール、プレゼン資料やラフ案などが紹介されています。

実際にまち中で掲示されたポスターや販売された商品とともに、各事例の課題、成果物に至った解決のためのポイントなどが整理されて展示されています。

実際にまち中で掲示されたポスターや販売された商品とともに、各事例の課題、成果物に至った解決のためのポイントなどが整理されて展示されています。

実際のクライアントへの提案資料の一部も展示。

実際のクライアントへの提案資料の一部も展示。

展覧会は、デザインの仕事に携わる人や、デザインを学んでいる人はもちろん、
デザインのことはよくわからないという人にも楽しんでもらいたいと考えられた構成。

今、homesickdesignが考える、「デザイン」「アートディレクション」
「クリエイティブディレクション」「ブランディング」など、
現場で使われている言葉の意味を説明するコーナーも設けられています。

岩手県陸前高田市で栽培されている〈三陸ジンジャー〉を広めようと、盛岡市の生姜町で開催された〈盛岡しょうが市〉の事例。認知度が低いイベントであることや、低予算という課題から、ポスターとフライヤーの機能を兼用する広報ツールが誕生しました。

岩手県陸前高田市で栽培されている〈三陸ジンジャー〉を広めようと、盛岡市の生姜町で開催された〈盛岡しょうが市〉の事例。認知度が低いイベントであることや、低予算という課題から、ポスターとフライヤーの機能を兼用する広報ツールが誕生しました。

課題やデザインのポイントを公開することで、なぜこの成果物が生まれたのか、
ふだん何気なく目にしているものに理由や意図があることに気がつかされる展示。

「ビジネスを考えるときのヒントにもなると思うんです」
と話すのは代表の清水さん。

「視覚的に伝えたり、整理するというデザインの視点は、
どんなことにも必要なことだと思っています。
つくられていく過程をみんなと共有して、社会をよくしていきたい。
そんな思いもあって、今回の企画に踏み切りました。
公開することで、私たちももっと成長していきたいと思っています」

森林経営・果樹生産・酪農・不動産賃貸などを行う〈三田農林株式会社〉へ提案したロゴラフ案の一例。メインで使用される場所によって、提案する形状も変わるというロゴ。どのような理由で案が考えられ、最終的にどんなロゴになったのか、製作の過程が垣間見えます。

森林経営・果樹生産・酪農・不動産賃貸などを行う〈三田農林株式会社〉へ提案したロゴラフ案の一例。メインで使用される場所によって、提案する形状も変わるというロゴ。どのような理由で案が考えられ、最終的にどんなロゴになったのか、製作の過程が垣間見えます。

「枠にとらわれないデザイン」というクライアントの要望や、事業に共通する「木」のイメージから考えられた〈三田農林株式会社〉のリンゴジュースのパッケージ案の一部。採用されなかったいくつものアイデアが公開されています。

「枠にとらわれないデザイン」というクライアントの要望や、事業に共通する「木」のイメージから考えられた〈三田農林株式会社〉のリンゴジュースのパッケージ案の一部。採用されなかったいくつものアイデアが公開されています。

日南市〈PAAK HOTEL 犀〉後編
設計事務所が営む古民家宿で、
地域ならではの体験を

PAAK DESIGN vol.9

宮崎県日南市で建築デザイン、宿泊や物販など、幅広い手法で地域に関わる、
〈PAAK DESIGN株式会社〉鬼束準三さんの連載です。
 
築100年の日本中どこにでもあるような、しかし徐々になくなりつつある古民家を
リノベーションし、宿として自社で運営を行うまでのお話です。
前編のハード部分の設計・改修に続き、後編では、
オペレーションの構築から、地域の宿としての満足度向上を狙った
ソフトコンテンツのデザインについてご紹介します。

まちに開いた場所にしたい

2017年4月、パークデザインを立ち上げ、飫肥城下町に事務所を構えて
間もない頃にこの物件と出合いました。
当時はまだ古民家の活用方法や改修方法など何も習得できていなかったのですが、
せっかく歴史ある飫肥城下町に事務所を構えたのだから、
自分でも何かまちの風景を残すプロジェクトにしてみたいなと思い、
勢いあまって6月には購入してしまいました。
 
敷地面積が181.81平米(55坪)、床面積が109.74平米(33坪)と
飫肥エリアにある古民家のなかでも現代の住宅規模に近い小ぶりな建物で、
自分でもなにかできそうだと感じたのも取得した理由のひとつです。
最初は住宅とするアイデアが浮かんだのですが、
あくまで住宅はプライベートなものなので、いろいろな人に使ってもらえる
「まちに開いた」拠点の方がいいのではないかと考えました。

既存の床の間の様子。表面上の痛みは少なかったが、床については大規模に補強し直した。

既存の床の間の様子。表面上の痛みは少なかったが、床については大規模に補強し直した。

どんな事業をやるか妄想する

私は建築デザインという職業柄、空間もさることながら、
そのなかで起きることに想像をめぐらせるのが得意であり、
いろんなパターンをシュミレーションしました。
 
例えば、住宅として改装して賃貸にする場合。
外装の自己負担分(一部は文化庁の補助金を活用)と内装費を合わせると
概算で1500万円かかることを踏まえ、賃料を算出すると7~8万円になりそうでした。
33坪から27坪に減築する予定もあり、住宅として貸す場合は
地域の相場からすると少し小さい割に高くなります。
 
オフィスとするなら賃料は適正ですが、古民家ということもあって
使えるスペースが少なく使い勝手もあまり良くなさそう。
カフェやバーなどの飲食店も考えましたが、駐車場を多く確保できない敷地で、
エリア的にも閑静な住宅街だったためあまりイメージができませんでした。
 
そこで浮かんだのが、1棟貸しの宿です。
駐車場がたくさん確保できなくても、繁華街から離れてポツンとあっても、
賃料同等以上の収益が確保できる可能性があり、僕らの強みである
「空間デザイン」で勝負できる。こうして「宿泊事業」にたどり着きました。

子どもが心から楽しいと思える
場所をつくりたい。
美流渡に生まれた「ぼうけん遊び場」

撮影:佐々木育弥

ゴールデンウイーク中、子どもを見ながらイベント運営できる?

4月23日から5月8日まで開催した『みる・とーぶ展』。
舞台となったのは3年前に閉校した、北海道・旧美流渡(みると)中学校。
普段は人影のないこの場所に、16日間で1950名もの人が訪れた。
来場者のなかで目立ったのは親子連れ。
会場で一日中過ごす人や、何度も遊びに来る人も多かった。

地域のつくり手の作品を発表した『みる・とーぶ展』。

地域のつくり手の作品を発表した『みる・とーぶ展』。

『みる・とーぶ展』は地域の作家の作品発表が中心となったイベントだが、
校舎の体育館と図書室で開催した「ミルトぼうけん遊び場」も人気のスポットとなった。
体育館には滑り台や跳び箱などを設置し、ボール遊びもできるようにし、
図書室にはビーズやボタン、工作できる道具などを置き、
ものづくりを楽しめる場にしつらえた。

体育館につくった「ミルトぼうけん遊び場」。

体育館につくった「ミルトぼうけん遊び場」。

この遊び場ができた経緯は、『みる・とーぶ展』に参加したメンバーの声だった。
 
「ゴールデンウィーク中は子どもが家にいるので、
つきっきりで売り場に立つのは難しいかもしれない」
 
子どもが3人いる、わが家も同じ状況。
イベントの主催団体の代表を務める私は、16日間出ずっぱりとなる。
さて、どうしたものかと考えていたところ、あるときパッとひらめいたことがあった。
 
校舎に子どもの遊び場をつくったらどうだろう?
 
そして次の瞬間、ある友人の顔が浮かんだ。
岩見沢市の農家で、プレーパークの活動を行っていた林睦子(はやし むつこ)さんだ。
プレーパークはまたの名を「冒険遊び場」といって、
子どもが主体となって遊ぶ場をつくる活動のこと。
日本では1970年代に東京・経堂で取り組みがスタートし、
現在では全国にこの取り組みが広がっている。
 
睦子さんは2015 年に「岩見沢プレーパーク研究会」を発足。
市内の公園や森林を借りて3年ほど定期的に活動を続けた経験がある。

林睦子さん。2011年に私は東京から岩見沢市へ移住し、ほどなくして睦子さんと知り合った。(撮影:佐々木育弥)

林睦子さん。2011年に私は東京から岩見沢市へ移住し、ほどなくして睦子さんと知り合った。(撮影:佐々木育弥)

さっそく、睦子さんに
「メンバーの子どもたちが遊べる場づくりに協力してもらえませんか?」
と声をかけたところ快諾!(やったー!!)
 
メンバーの子だけではなく、展覧会に来場した子どもたちも遊べる場所を
一緒につくってもらえることとなった。

1枚の古写真を手がかりに
明治初期の建物を復元。
函館市〈港の庵〉

富樫雅行建築設計事務所 vol.2

北海道函館市で設計事務所を営みながら、施工や不動産賃貸、店舗経営など、
幅広い手法で地域に関わる、〈富樫雅行建築設計事務所〉富樫雅行さんの連載です。
 
今回のテーマは、解体の危機にあった明治の米穀海産物委託問屋〈旧松橋商店〉。
1枚の古写真を手がかりに市民有志の手でリノベーションして復元し、
この場所を基点にスペインのバスク地方に伝わる美食倶楽部
「ソシエダ」が函館に誕生したお話をお届けします。

魅力を秘めた古い建物を救いたい

前回の〈常盤坂の家〉のリノベを2年半もかけてコツコツやっていると、
いろいろな人が訪ねてきてくれました。
そのなかのひとりが西部地区で生まれ育ち、お土産屋さんを営みながら、
函館の外国人居留地を研究する清水憲朔(しみず けんさく)さん。
「常盤坂を下ってすぐのご近所に、もうすぐ壊されてしまいそうな建物があり、
一度見てほしい」と相談を受け、2013年の夏、見に行くことになりました。

新島襄の石碑と緑の島を結ぶ新島橋。木立の上から見えているのは、2018年に函館出身のGLAYが5万人を動員した野外ライブのセット。

新島襄の石碑と緑の島を結ぶ新島橋。木立の上から見えているのは、2018年に函館出身のGLAYが5万人を動員した野外ライブのセット。

その建物は、函館港に突き出た「緑の島」への入口前にありました。
「緑の島」の橋の横には同志社の創立者である新島襄(にいじま じょう)が
ここからアメリカに密出国した記念碑があります。
周りはヨットハーバーになっていて、地元の釣り人がいたり、
花火大会があったり、屋外イベントなどにも親しまれるエリアです。

最近まで倉庫と事務所として使われていたそうで、どこにでもあるような外観の建物。
研究熱心な清水さんも元は何の建物だったかわからなかったようで、
「ひとまず解体は待ってほしい」と東京にいる所有者から借り受け、
私のところに建物の調査依頼がきたという流れでした。
 
中に入ると、幅約9メートルの空間を支える大きな梁に圧倒されました。
彫刻が施された階段を上がると、立派な床の間のある広間があります。
1階の奥には蔵前戸があり、ここが店蔵だったことがわかりました。

1階の奥に抜けると大きく重厚な観音扉の蔵前戸がある。この横だけ1枚積みのレンガが現れていた。

1階の奥に抜けると大きく重厚な観音扉の蔵前戸がある。この横だけ1枚積みのレンガが現れていた。

玄関を見返すと、ドリス式の鋳鉄の柱が大きな梁を支えていました。
この店蔵を抜けると通り土間が続き、木造2階建ての家屋と、
さらに奥には土蔵が残っていました。
私もこの建物が何だったのか、ますます知りたくなりました。

住まいに合わせて形を変えられる! 国産家具〈もくわく®〉が登場

岐阜・奈良・兵庫・福岡産の木材を使用

〈すまいの雑貨店 sumao〉が
国産の木材を使用した家具〈もくわく®〉の販売をスタートしました。

〈すまいの雑貨店 sumao〉が国産の木材を使用した家具〈もくわく®〉の販売をスタート。

〈もくわく®〉の魅力は、形を自由にカスタマイズできること。
ひとつひとつはシンプルな木の枠ですが、
ジョイントパーツを使って〈もくわく®〉同士を連結させると
住まいに合った収納の形をつくることができます。

さらに天板や金具を合わせると、立派なデスクに大変身!
フックやキャスターなどの付属品を購入すれば、
さらにインテリアのアイディアは広がっていきます。

「もくわく®」を組み合わせて作ったデスク

〈もくわく®〉を組み合わせてつくったデスク

サイズは高さと奥行きが異なるものが全部で4種類。

左上:もくわく®大 12100円~、右上:もくわく®slim 大 10700円~、左下:もくわく® 小 11000円~、右下:もくわく®slim 小 10000円~

左上:もくわく®大 12100円~、右上:もくわく®slim 大 10700円~、左下:もくわく® 小 11000円~、右下:もくわく®slim 小 10000円~

計算しつくされたサイズ感で、
なかには書籍や食器類、ワインボトルなどがきれいに収まります。
単体で本棚やベンチにして使うのもひとつの手です。

計算しつくされたサイズ感で、書籍や食器類、ワインボトルなどがきれいに収まる。

〈もくわく®〉には厳選された国内の木材が使われており、
現在のラインナップは岐阜県産の長良杉、福岡県産の八女杉、
兵庫県産の六甲ひのき、奈良県産の吉野杉の4種類です。

左上:岐阜県産の長良杉、右上:福岡県産の八女杉、左下:兵庫県産の六甲ひのき、右下:奈良県産の吉野杉

左上:岐阜県産の長良杉、右上:福岡県産の八女杉、左下:兵庫県産の六甲ひのき、右下:奈良県産の吉野杉

産地によって色や木目の風合いが異なり、それぞれに味わいがあります。
自分の住まいに合わせて、お気に入りを見つけるのも楽しいですね。

〈もくわく®〉の産地もこれから増える予定だそうで、
今後のラインナップにも期待が高まります。

MAYA MAXXの新たな挑戦。
年に3回、美流渡の廃校舎で新作発表!

いつどんなときでも絵筆を取って

4月23日から旧美流渡(みると)中学校で『みんなとMAYA MAXX展』と
地域のつくり手の作品を集めた『みる・とーぶ展』が開催となった。
主催するのは私が代表を務める〈みる・とーぶプロジェクト〉。
地域の仲間と一緒につくりあげていった展覧会だ。
 
前回の連載では『みる・とーぶ展』ができるまでをレポートした。
今回は、2020年夏に東京から美流渡地区へ移住した、
画家・MAYA MAXXさんによる『みんなとMAYA MAXX展』について書いてみたい。

『Deer in the Forest 1~3』2021年 北海道に移住して、たびたび目にすることになった鹿が描かれた。

『Deer in the Forest 1~3』2021年 北海道に移住して、たびたび目にすることになった鹿が描かれた。

メインとなる会場は校舎3階の3教室。
閉校前、ここは山あいの小規模な学校で1学年1クラス編成。
それぞれの学年が教室として使っていた場所に絵を展示した。
 
階段を登るとすぐに見える1室目には、昨年1月に札幌で発表された
鹿の連作『Deer in the Forest』が展示された。
奥深い森の中に佇む鹿たちは、
首から上だけが画面に浮遊するかのように描かれている。
いずれもじっとこちらを向いているが、その焦点は定まっておらず、
ただならぬ気配がある。

『Deer in the Forest 4~6』 2021年

『Deer in the Forest 4~6』 2021年

この作品が描かれたのは昨年の11月。
MAYAさんは、美流渡にある商店のシャッターに絵を描こうとして
足場台から落下し、右肩を骨折した
そのため肩から肘にかけては固定されていて、かろうじて右手首が動く状態だった。
 
「調子のいいときだけじゃなくて、すごく悲しいときや
体調が悪いときにも絵を描いています。
そのときにしか描けない絵があるから、どんなときでも描くんです」

骨折していた時期のMAYAさん。ジャケットの下はバストバンドでしっかりと手が固定されている。

骨折していた時期のMAYAさん。ジャケットの下はバストバンドでしっかりと手が固定されている。

不自由ななかでMAYAさんは絵筆を取った。
以前に描き、発表することなくアトリエに置いてあった
240×120センチメートルの風景を描いたパネル作品の上に鹿を描くことにした。
腕を振り上げることは難しいため、パネルを床に敷いて、
自分の体を移動させることによって少しずつ形を描いていったという。

『Deer in the Forest 4』の部分

『Deer in the Forest 4』の部分

「自分が怪我をしたり、熱があったり、
とても疲れていたりという状態にあるときには、
その“たいへんである”というフィルターを外すと、
案外動くことができるんですね」
 
MAYAさんによると、骨折という状態が引き金になって、
あらゆることがうまくいっていないように感じることがあるが、
実は手が動かないという部分的な問題があるだけ。
訓練をすることによって、“たいへんである”という気持ちを
脇に置いておけるようになるのだという。

初日のギャラリートーク。山あいの過疎地が活気に包まれた。

初日のギャラリートーク。山あいの過疎地が活気に包まれた。

瀬戸内・百島にできた 巨大な五右衛門風呂や現代アートのある 「安らげない宿」!?

迫力のアートやお風呂で刺激的な旅に

瀬戸内海中部に浮かぶ芸予諸島のひとつである百島に、
現代アートを楽しめる宿〈乙 1731-GOEMON HOUSE〉が5月7日にオープンします。

同館は、百島で長年空き家となっていた日本家屋を3年かけて改修し、
安土桃山時代の盗賊・石川五右衛門が釜茹の刑に処された説話のある
「五右衛門風呂」を中心に、現代アートと家屋が一体化した宿です。

気になるアートですが、母屋1階の柿渋で染められた暖簾の先には、
現代美術家の榎忠、原口典之、柳幸典という
3名の強烈な作品が展示されています。

現代アートが楽しめる宿〈乙 1731--GOEMON HOUSE〉の大広間にある榎忠の作品群『LSDF020』。

大広間にある榎忠の作品群『LSDF020』。
実際に戦地で使用された約3トンの薬莢、
鉄のスクラップを再利用して制作された大砲のオブジェ『Liberty C2H2』、
旧ソ連製のAK-47と米国製のAR-15を模した鋳物のマシンガン群です。
目に迫るような迫力で、記憶にしっかりと残りそうです。

柳幸典の2018年に誕生した『籠の鳥』で使用された日本刀は、百島の空き家から発見されたもの。

柳幸典の2018年に誕生した『籠の鳥』。
本作で使用された日本刀は、百島の空き家から発見されたもの。
太平洋戦争に出兵した島民が沈没する軍艦から
この刀一本のみを身につけて生還したというエピソードが語られています。

原口典之の2017年の新作『布袋とロープの関係』。

その近くにあるのは、原口典之の2017年の新作『布袋とロープの関係』。
大型船の2トンあまりの係留ロープが大きな布袋に詰め込まれ、
その重量のみで自立している、これまたインパクト大の作品です。

石川五右衛門の釜茹での刑を描いた、三代目 歌川豊国(歌川国貞)の浮世絵『木下曽我恵砂路』。

それから、五右衛門風呂の説話である石川五右衛門の釜茹での刑を描いた、
三代目 歌川豊国(歌川国貞)の浮世絵『木下曽我恵砂路』も飾られています。
五右衛門風呂に入る前に、ぜひともチェックを。

宿泊客しか見れない夜の展示もあるそうで、
特別な空間で観るアートはまたひと味違うことでしょう。

能登〈湯宿 さか本〉を 撮影した写真集、 新しい出版レーベル〈すなば〉から発売

宿に惚れ込んだ3人が、私的な目線で向き合う

能登の〈湯宿さか本〉を1冊に収めた写真集。
“宿の写真集”と聞いて、想像するものとは少し違うものかもしれません。
そこに写っているのは、使い古されたスポンジ、使い込まれたカゴ、
よく磨かれた黒漆の廊下、そして湯の水面に映るさまざまな情景。

宿の部屋や施設をわかりやすく紹介するような写真は載っていません。
『その時間の差し出し方』という作品名の通り、ページをめくっていくと、
作家たちが宿で感じた時間の流れを追体験できるかのよう。

写真集内のカット。

写真集内のカット。

この写真集は宿とその主人に惚れ込んだ3人が、
私的な目線で向き合ったルポルタージュともいえます。
3人とは写真家の中島光行さん、グラフィックデザイナーの鈴木孝尚さん、
ブックディレクター・編集者の幅允孝さん。
それぞれの頭文字をとって〈すなば〉という出版レーベルを立ち上げ、
その第1弾として自費出版で発売されます。

写真集内のカット。

写真集内のカット。

〈湯宿さか本〉は、1日3組限定の小さな宿。
部屋にはテレビも電話もトイレもなく、冷房もありません。
洗面所は吹きさらしで、冬は薪ストーブと囲炉裏のみ。携帯電話もほとんど通じない。
「好き嫌いを問う宿」といいます。
主人である坂本新一郎さんの美意識が隅々まで行き届いているのです。

幅さんは「独自に流れる時間をたゆたう」と書いています。
さらに、さか本で過ごすと「普段の回転数を脳と体が忘れる」とも。
3人が過ごしたゆったりと、そして力強い時間の流れを写真集から感じられます。

写真集内のカット。

写真集内のカット。

鰤大根でも1冊

驚くことに、この写真集は2冊組みです。
もう1冊は圧巻の『鰤大根的宇宙』。
〈湯宿さか本〉で11月中旬から大晦日の間のみ提供される、鰤大根。

当初は2冊に分ける予定ではなかったようですが、
撮影を進めるうちに、鰤大根だけで1冊をつくることに。
それだけのパワーを持ったさか本の鰤大根は、大根が主役といいます。
大根の上に鰤が乗せられた表紙の写真には、
確かに宇宙空間に鰤が浮いているかのようです。

『鰤大根的宇宙』の表紙。

『鰤大根的宇宙』の表紙。

日光に、古着屋とスケートパーク!
ゆるりとマイペースで、
好きなものに囲まれて暮らす

好きなことを思いきり楽しむためのウォーク・イン・クローゼットと本棚

日光市で古着屋とスケートパーク、そして音楽ガレージ(貸しスタジオ)が
ひとつになった〈Van Dyke(ヴァン・ダイク)〉を営む永井康之さん。
日光市で生まれ、埼玉で美容師として働いたあと、地元にUターンした。
ふたり目の子どもが産まれたこともあり、
家を建てたいと探し始めたときにBESSに出合い、2019年に家を建てた。

永井さん家族。

永井さん家族。

「僕が絶対に木の家じゃないとイヤだ、というところからスタートしています」
という康之さん。

彼や妻の里奈さんのファッションや雰囲気から考えると、
BESSであれば遊びごころが前面に出た「ワンダーデバイス」シリーズが似合いそうだ。
しかし「DIYなどをマメにできる人に向いている家ですよね。
でも僕はあまりそういうのは得意ではなくて。
アウトドアを趣味にしているわけでもありませんし」と語る。
そこで一目惚れしたのが和の雰囲気が漂う「程々の家」だった。

2階から土間を見る。

2階から土間を見る。

「本当なら古民家に住みたいくらいなんです。
古いものが好きで、味が出てくるものが好き」と本音を語る里奈さん。

「もちろん今は子育てが重要ですが、いろいろ迷うなかで、
結局自分たちが住みたい家にしようという結論に至りました。
子供が独立したあと、老後でもふたりで違和感なく落ち着いて暮らせる家を考えたら、
程々の家でした」(里奈さん)

ウォーク・イン・クローゼットには、大量の洋服が。

ウォーク・イン・クローゼットには、大量の洋服が。

永井夫妻の価値観が最もよく見てとれるのがウォーク・イン・クローゼットと本棚だ。
古着屋をやるくらい洋服好きだった永井夫妻。
当然、家は大量の洋服で溢れていたという。
自分たちらしい暮らしを思いきり楽しむために、
このふたつは絶対叶えたいと思っていた。

「なるべく洋服をハンガーでかけられるように考えました。
自分たちが持っているアウターはこれくらいで、
畳んでしまうニット類はこのくらいで、って計算しましたね。
あと重要なのは私の身長で届くかどうか」(里奈さん)

本棚スペースには、仕事や子どもたちの勉強用にデスクも設置。

本棚スペースには、仕事や子どもたちの勉強用にデスクも設置。

また本屋さんが好きで、天井まである本棚に憧れていたともいう。

「図書館でも、本棚と本棚の間の床に座って読むのが好きだったんです。
これも文庫本サイズを計算した棚にしたり、奥行きが2列になるように設計を考えました。
これまでは本を買いたくても、しまうところがなかったので自粛していたんですよ。
これで思いっきり買うことができます。
子どもたちにも同じように本を好きになってほしい」(里奈さん)

〈瀬戸内国際芸術祭2022〉開催中。
男木島で立ち寄りたい、
〈ダモンテ商会〉と〈象と太陽社〉。

〈瀬戸内国際芸術祭2022〉、春会期がスタート

3年に一度開催されるアートイベント〈瀬戸内国際芸術祭2022〉。
春・夏・秋の3会期に分けて開催されますが、
4月14日より春会期が始まっています。
舞台となる瀬戸内の島々と高松港、
宇野港ではさまざまな作品が公開されていて、
訪れる人々で賑わっています。
 
今回の芸術祭、新型コロナウイルスの影響でどうなるのか、
島で暮らす私たちも直前までわからないことばかりでしたが、
今はざっと以下のような状況です。

・予定通り、春会期(2022年4月14日~5月18日)が開催されています。

・スタートから4日間の来場者数は、前回開催時の2~4割ほどで穏やかに始まった感じです。

・海外の作家さんの作品など、まだ制作中のものもいくつかあります(公開スケジュールは芸術祭の公式Webサイトで確認できます)。

・屋内の作品など有料作品を鑑賞する場合、検温・体調確認済の専用リストバンドを掲示する必要があります。リストバンドは検温スポットでしか受け取れないので、事前に検温スポットの場所を確認しておくのをおすすめします。

来る人も、迎える人もいろいろ心配なことがあるかもしれませんが、
感染対策&鑑賞マナーを守って、芸術祭の作品、そのまわりの風景、
島での時間を積極的に楽しんでいただけたらいいなと私は思っています。
春会期は、とても気持ちのいい季節ですよ~。

日南市〈PAAK HOTEL 犀〉前編
築100年の素朴な古民家を宿泊施設に

PAAK DESIGN vol.8

宮崎県日南市で建築デザイン、宿泊や物販など、幅広い手法で地域に関わる、
〈PAAK DESIGN株式会社〉鬼束準三さんの連載です。
 
築100年の日本中どこにでもあるような、
しかし徐々になくなりつつある古民家をリノベーションし、
宿として自社運営するお話です。
 
このプロジェクトでは、ハード部分として古民家の改修をするとともに、
自社で運営するにあたってソフト部分の設計・構築も行いました。
前編では、ハード部分の設計から
古民家のリノベーションが完成するまでをお届けします。

物件との出合い

この古民家との出合いは、意図せず訪れました。
2017年、新卒入社したスタッフが他県から日南市に移住するにあたって、
住まいを探していたときでした。
最初はウェブで賃貸アパートを探していたのですが、
「せっかく田舎にきたんだから一軒家を借りて過ごすのもいいな」と、
日南市が運営する空き家バンクを見ていたところ、
売買物件であるこの古民家を見つけたところから始まります。
 
スタッフが「この物件、なにか活用できたりしますか?」と見せてきたとき、
敷地や建物規模も大きすぎず、
「建物の状態によっては、なにか活用できるのでは……」と思いました。
すぐ市に連絡して所有者にアポをとってもらい、物件を見に行ってみることに。

道路側から見た既存の外観。敷地面積:181.81㎡(55坪)/床面積:109.74㎡(33坪)

道路側から見た既存の外観。敷地面積:181.81㎡(55坪)/床面積:109.74㎡(33坪)

実際に見てみると、外壁はもともと木張りだったものが老朽化し、
上から木目調のトタンが張られ、屋根は昭和後期にのせ替えられたであろう
質の良くないコンクリート瓦が葺かれていました。
風呂、台所、トイレなどの水回りも、昭和後期に
母屋にとってつけたかのように増築され、ベニアなどで質素に仕上げられた様子。

既存の内観。

既存の内観。

しかし、約20年近く空き家で放置されていたにもかかわらず、
雨漏りしていなかったこともあり、室内は空き家独特の湿った感じも少なく、
カラッとした空気感がありました。
私には、長い間誰にも見つけてもらえなかった宝物のような、
眠れる獅子が起こされるのを今か今かと待っているような、そんな感覚を覚えました。

既存内部(床の間)。床の間と縁側は状態が良く損傷も少なかった。床はところどころ床下地が老朽化して、今にも床が落ちそうな状態だった。

既存内部(床の間)。床の間と縁側は状態が良く損傷も少なかった。床はところどころ床下地が老朽化して、今にも床が落ちそうな状態だった。

当時の所有者からは「飫肥城下町にある古い建物であり、
自身や先祖の思い出が詰まっているので、建物の持ち味をなるべく生かしてほしい」
との要望がありました。
日本中どこにでもある、だけどどんどん失われていく古き良き文化が詰まった建物と
このまちの風景を自分の手で残してみたいと思い、
2017年6月中旬、ちょうどパークデザインを創業した時期に
この築100年の古民家を購入することにしました。

地域のみんなが心を寄せて廃校が蘇る。
春に始まる『みる・とーぶ展』

今年は校舎で展覧会を3回開催! 準備が始まって

北海道に遅い春が訪れる頃、冬期の間にお休みをしていた、
旧美流渡(みると)中学校の活用プロジェクトを再開した。
美流渡中学校は3年前に閉校し、昨年から私が代表を務める地域PR団体
〈みる・とーぶ〉が、校舎の試験活用の窓口となっている。

昨年秋にはふたつの展覧会を開催した。
ひとつは地域のつくり手の作品を集めた『みる・とーぶ展』
もうひとつは、2020年に美流渡地区へ移住した画家・
MAYA MAXXさんの展覧会『みんなとMAYA MAXX展』

展覧会は好評で、札幌などからも人が訪れ、15日間で1000人の来場者を記録した。
 
目立った観光地もないこの場所に多くの人が訪れ、
展覧会に参加したつくり手のみんなも大きな手応えを感じたようだった。
 
「来年は、年3回展覧会をやろうよ」
 
会期終了後に参加メンバーが集まる機会があり、その席でMAYAさんはそう呼びかけ、
2022年は、4月、7月、9月に開催をすることにした。

昨年12月、MAYAさんと校舎に入った。この時点ですでに膝上の積雪。

昨年12月、MAYAさんと校舎に入った。この時点ですでに膝上の積雪。

第1回の開催はゴールデンウィークにかかる4月23日~5月8日。
しかし、春の開催には不安もあった。
なるべく早く校舎で準備を始めたいが、美流渡地区は大変な豪雪地帯。
3月末になっても入り口付近には雪がたっぷり。
これをなんとかしなければ校舎には入れないため、
ヤキモキしながら、私は毎日校舎を見つめていた。

中学校の隣にある旧美流渡小学校。昨年MAYAさんは1階の窓板に絵を描いた。屋根にはたくさんの雪が積もっている。

中学校の隣にある旧美流渡小学校。昨年MAYAさんは1階の窓板に絵を描いた。屋根にはたくさんの雪が積もっている。

そんなある日、入り口付近に道が現れていた。
驚いたことに、ホイールローダーが駐車場の雪を脇に寄せてくれたのだ。
除雪をしてくれたのは、校舎の向かいに建つ安国寺(あんこくじ)の住職だった。
次の日も、また次の日も除雪をしてくれて、車が十数台、停められるようになった。

校内入り口付近の雪がなくなり、道ができていた!

校内入り口付近の雪がなくなり、道ができていた!

ボランティアで安国寺の住職とその息子さんが学校の駐車場の除雪にあたってくれた。(撮影:佐々木育弥)

ボランティアで安国寺の住職とその息子さんが学校の駐車場の除雪にあたってくれた。(撮影:佐々木育弥)

住職のおかげで、校舎に入ることができるようになり、
4月2日には校舎内の清掃とグラウンドの雪割りを行うことができた。
SNSなどで参加者を呼びかけ、集まったのは25名(!)。
展覧会初日に行うイベントで、ポニーの馬車がグラウンドを走る予定になっていたため、早く雪をとかしたいと、グラウンドのそこかしこに穴を開けていった。
土が出てくると、そこが太陽の熱で温められて、雪どけが早く進むからだ。

グラウンドの雪を割っていく。

グラウンドの雪を割っていく。

展覧会初日の4月23日(雨天なら翌日)、厚真町で馬を使った林業を行っている西埜将世さんが、ポニーの馬車を走らせてくれることになった。

展覧会初日の4月23日(雨天なら翌日)、厚真町で馬を使った林業を行っている西埜将世さんが、ポニーの馬車を走らせてくれることになった。

その4日後、今度は1階の職員室で『みる・とーぶ展』を行うために、
机や棚の入れ替え作業を行った。
事務机や棚をすべて動かし、学校の美術室などに残されていた
味わいのある木の机や棚を運び入れた。
閉校してからエレベーターが稼働していないため、
階段の登り降りは予想以上の大変さだった。
この日も22名もの人が集まってくれて、みんなで汗を流した。

事務机の移動。昨年、みる・とーぶ展は3階の教室で開催したが、今年は場所を広くとるため1階の職員室で開催することにした。

事務机の移動。昨年、みる・とーぶ展は3階の教室で開催したが、今年は場所を広くとるため1階の職員室で開催することにした。

机がすっかり入れ替わった職員室を見て、本当にうれしさでいっぱいになった。
わずか数名で始めた校舎活用プロジェクト。
こんなに大がかりな机や棚の移動は、昨年だったらできなかったに違いない。
人の輪が日に日に広がっていくことを実感し、
活用が始まる前に感じていた不安は、いつしか消えていた。

机の移動が完了。おつかれさまでした!

机の移動が完了。おつかれさまでした!

現代美術作家・河野愛さんの展覧会 『< I > opportunity 』が 白浜で開催

南紀白浜の歴史と文化にスポットライトを当てた現代アート作品の展覧会

現代美術作家・河野愛(かわのあい)さんの展覧会
『< I > opportunity 』がJR白浜駅前にある真珠ビルで開催されます。
期間は、2022年4月15日(金)~17日(日)と、4月22日(金)~24日(日)の6日間。

河野愛さん(撮影:堀井ヒロツグ)

河野愛さん(撮影:堀井ヒロツグ)。

河野さんは、布や骨董、写真などを利用して、場所や人の記憶、
時間、価値の変化に関する作品を発表している現代美術作家です。
広告代理店でアートディレクター・デザイナーとして勤務した後、
現在は京都芸術大学美術工芸学科専任講師としても活躍しています。

白浜には、河野さんの祖父が老舗旅館〈ホテル古賀の井〉の創業者だったこともあり、
幼い頃から古賀浦の入り江で夏を過ごすなど縁があったといいます。

堀井ヒロツグさん

堀井ヒロツグさん。

そんな彼女にとって身近な場所である白浜で今回発表する新作は、
写真家の堀井ヒロツグさんと共作した映像作品『< I > opportunity 』。

堀井さんは京都芸術大学美術工芸学科に非常勤講師として勤務する傍ら、
アート写真雑誌『IMA』が主催する写真コンテスト〈IMA next〉で
ショートリスト(J・ポール・ゲティ美術館キュレーター:アマンダ・マドックス選)
を受賞するなど、
活躍の幅を広げている気鋭のアーティストです。

函館市〈常盤坂の家〉
痕跡をたどるリノベーション。
和洋折衷の古民家を建築家の自宅へ

富樫雅行建築設計事務所 vol.1

北海道の函館市で設計事務所を営む富樫雅行です。
事務所を立ち上げ、施工や不動産賃貸、店舗など小さく広く挑戦して10年。
この連載では、函館市西部地区を中心とする活動についてお届けしていきます。
 
まずは独立するにあたって、最初に基礎を築いた自邸、
〈常盤坂の家〉についてご紹介します。

ここにしかない景観

私は愛媛生まれの千葉育ちで、大学から北海道の旭川に渡りました。
学生時代にはインターンで東京の事務所に通ったのですが、
多忙すぎる仕事と都市生活に「ここでは暮らせない」と、北海道に残る決意をしました。
 
北海道では誰が何をやっているか顔が見える規模で
人口20~30万くらいの都市に絞ろうと、古いまち並みの残る函館で就職。
ところが紆余曲折あり一度函館を離れ、その後また戻って
建築家・小澤武氏の元で修業し、32歳で独立することができました。
(独立までの長い道のりについてご興味のある方は、
ウェブメディア『IN&OUT』のインタビューをご覧ください)

いわゆる“THE 観光地”の金森赤レンガ倉庫群前の七財橋から函館山方向を見る。右が函館港。

いわゆる“THE 観光地”の金森赤レンガ倉庫群前の七財橋から函館山方向を見る。右が函館港。

独立するなら、函館のなかでも旧市街地の西部地区に居を構えようと決めていました。
函館も西部地区を離れて郊外に行けば、日本のほかのまちと変わらない風景が続きます。
ところが西部地区は函館山の麓に広がるエリアで、津軽海峡と函館港の海に囲まれ、
その向こうには駒ヶ岳が望めます。
 
まちには路面電車やロープウェーが走り、
開港都市として西洋文化の香るレトロな建物群もあり、
多様な要素によってつくりあげられた、“ここにしかない景観”が広がるまちなのです。

西部地区の課題:人口減とまち並みの変化

長い坂道が続く常盤坂の上から函館港を見下ろす。“THE 観光地”から少し外れた素朴な日常の暮らしの風景がまちの魅力に厚みを増す。左の古民家はのちにリノベした〈ごはんおやつシプル〉。

長い坂道が続く常盤坂の上から函館港を見下ろす。“THE 観光地”から少し外れた素朴な日常の暮らしの風景がまちの魅力に厚みを増す。左の古民家はのちにリノベした〈ごはんおやつシプル〉。

僕にとっては魅力溢れるまちですが、
地元の人にとっては雪国で坂道というダブルパンチで、
郊外への移転は増加傾向にあります。
所狭しと建てられた建物の越境問題や隣家に屋根の雪が落ちる問題もあり、
多くの建物は上手く継承されずに解体されていくのが現状です。
 
そもそも函館はペリーが来航し、横浜・長崎とともに
日本で最初に開港したまちとして有名です。
それ以前には北前船の寄港地として栄え、明治以降は北洋漁業の基地として栄え、
当時は函館が東京以北最大の都市であり、その中心が西部地区でした。
 
いまも多くの貴重な建物が残っていますが、
それらは観光地化された見世物としてではなく日常の暮らしと共存していて、
そんな素朴な雰囲気が気に入っています。
 
とはいえ、高度成長期後に建てられたのはマンションと建て売りの住宅ばかりで、
函館の個性を生かした建物は少なくなってきています。
古き良き時代の建物が残っていても、空き家が目立ち活用されるのはわずかで、
誰も見向きもしない。
 
「なぜ誰もやらないんだ」という思いから、
「それならば、独立をきっかけに自分がやろう。
西部地区で建築をやるからこそ意味がある」
と、そんな思いも西部地区に根を張るきっかけとなりました。

〈青森県立美術館〉で春の展覧会 『Aomori Spring Sprout -青森 春に芽吹く光-』を開催

〈青森県立美術館〉で4月11日~24日の会期中、
〈Aomori Spring Sprout展 -青森 春に芽吹く光-〉が開催されます。

青森県の春の到来を予感させる時期に開催するこちらの展覧会は、
“Spring Sprout=春の芽吹き”がテーマです。
青森での展示は6年ぶりとなるチームラボや、
十和田市に拠点を持つアーティスト・山本修路の作品が集まります。

チームラボは初公開の作品を含む6点を公開

舞台となる青森県立美術館は、三内丸山遺跡に隣接する美術館。
この土地で縄文時代から脈々と継がれてきた歴史や文化、人々の営みを
時間軸と空間軸が交差した作品やパフォーマンスで、青森を多角的に表現します。

青森での展示が6年ぶりとなるチームラボは、初公開の作品を含む6点を展示。

不可逆の世界 / The World of Irreversible ChangeteamLab, 2022, Interactive Digital Work, 6 channels, Endless 撮影:小山田邦哉

不可逆の世界 / The World of Irreversible ChangeteamLab, 2022, Interactive Digital Work, 6 channels, Endless 撮影:小山田邦哉

現実世界と呼応するように、時間や天候、
季節が移り変わっていく『不可逆の世界』。

左)Matter is Void teamLab, 2022, Digital Work, Endless右)憑依する炎 / Universe of Fire Particles teamLab, 2021, Digital Work, Single channel, Continuous Loop

左)Matter is Void teamLab, 2022, Digital Work, Endless右)憑依する炎 / Universe of Fire Particles teamLab, 2021, Digital Work, Single channel, Continuous Loop

初公開の『Matter is Void』は、
つねに形を変え続けるNFTアート。

『憑依する炎』は、専用のアプリをインストールし、
作品にかざすとスマホのなかに炎がともり、
ほかの人のスマホに近づけると、トーチのように炎をつないでいくことができます。

小人が住まう宇宙の窓 / A Window to the Universe where Little People LiveteamLab, 2022, Interactive Digital Installation, Sound: teamLab

小人が住まう宇宙の窓 / A Window to the Universe where Little People LiveteamLab, 2022, Interactive Digital Installation, Sound: teamLab

光のペンやスタンプを使って鑑賞者が作品に参加できる
インタラクティブアート『小人が住まう宇宙の窓』。

生命は生命の力で生きている II / Life Survives by the Power of Life IIteamLab, 2020, Digital Work, 60 min (loop), Source Calligraphy: Sisyu

生命は生命の力で生きている II / Life Survives by the Power of Life IIteamLab, 2020, Digital Work, 60 min (loop), Source Calligraphy: Sisyu

『生命は生命の力で生きている II』は、
自然や文明の恵み、そして脅威は連続的でつながっていることを表現。

我々の中にある火花 / Solidified SparksteamLab, 2022,  Interactive Digital Installation, Sound: teamLab

我々の中にある火花 / Solidified SparksteamLab, 2022, Interactive Digital Installation, Sound: teamLab

小さな赤い光が群生する『我々の中にある火花』。

赤字だったバス路線が廃止……。
MAYA MAXXがペイントした
コミュニティバスが誕生!

人口減少によるバス路線の廃止。住民の足はどうなる?

美流渡(みると)地区は、岩見沢駅より車で30分ほどのところにある。
運転が苦手な私にとって、地域と駅を結ぶ路線バスは、
1~2時間に1本と本数は少ないながらも重要な交通手段となっていた。
 
この路線は、人口減少が進み利用客が少なく、
市からの補助によってなんとか運行してきたが、昨年夏に、
「2022年3月末で廃止される」というニュースが飛び込んできた。
日頃バスを利用している私にとって、たいへんショックな記事だった。
しかし、同時に「代替交通手段が検討されている」とも書かれていた。
 
この代替交通の内容について詳しく知ることができたのは、昨年末のこと。
市の担当者から、こんな連絡を受けたからだった。
 
「これまでのバス路線の廃止にともない、
新しくワゴンタイプの車両が運行されることになったので、
ラッピングのデザインをMAYA MAXXさんにしてもらえませんか?」

ワゴンタイプの新車両。

ワゴンタイプの新車両。

一昨年に美流渡地区に移住した画家のMAYAさんと、
さまざまな活動をともにしてきたことから、
私に連絡が入り、間をつなぐこととなった。
 
代替交通の内容としては、
これまで〈北海道中央バス〉が運行してきた「万字線」を廃止し、
代わって地元のタクシー会社である〈日の出交通〉が
コミュニティバスを運行するというもの。
 
大型バスから10人乗りのワゴンタイプの車両へと変更し、
地域住民のニーズに沿ったダイヤを設定。
これまでより運賃を低く抑える計画となっていた。
 
市の担当者によると、今回、MAYAさんにラッピングデザインを依頼したのは、
地域の人たちの声があったからという。
昨年、MAYAさんが旧美流渡中学校の窓に張られた板に描いた絵を見て、
バスにも愛らしい絵があったらいいのではと思ったそう。

3年前に閉校した旧美流渡中学校の板に絵を描くMAYAさん。

3年前に閉校した旧美流渡中学校の板に絵を描くMAYAさん。

この話を聞いてMAYAさんは、
「デザインをしたシートを貼るんじゃなくて、車体に直接絵を描きたい」と提案。
3月に約1週間かけてペイントを行う段取りとなった。

10年以上前に、MAYAさんは京都府立私立幼稚園連盟による「えほんのじどうしゃ」の車体に絵を描いたことがある。

10年以上前に、MAYAさんは京都府立私立幼稚園連盟による「えほんのじどうしゃ」の車体に絵を描いたことがある。

北海道に残る
かわいい三角屋根の家で
理想的な北国暮らしを始めたい

屋根に積もった雪が、自然に落ちるよう設計された三角屋根の家。
1960年代以降に北海道の建売住宅の定番となり、
同じ形の家が均等に建ち並ぶ風景がそこかしこで見られるようになった。
しかし近年、人口減少や住宅事情の変化などにより、徐々に空き家が目立つように。
そこで北海道三笠市が、この昭和レトロな建物内部を暮らしやすくリフォームした。
スタイリストによる室内のコーディネートで、
理想の北国暮らしを思い描いてもらえるモデルルームに変身。
かわいらしい三角屋根の下で、あなたならどう暮らす?

レトロな北海道の住宅を、現代風にアレンジ

「いまある空き家を、このまま廃れさせるのではなく、資源として活用したい。
移住希望者のみなさんに『古い家も改装すればレトロでかわいくて住みやすい』ということを
実感していただきたいと思い、この取り組みを始めました」

そう話すのは、三笠市の定住対策係の担当者。
きっかけは、手入れされる前の空き家を見た移住希望者の
「移住後の生活がイメージできない」という言葉だった。
「三笠市でこんな暮らしがしたい」と想像が膨らんで
ワクワクするようなモデルルームがあれば、
もう少し前向きに移住を検討してもらえるのではないか、と思ったという。

「そこで市が、三笠市での暮らし提案として、
空き家を1軒リフォームするプロジェクトを立ち上げました。
その候補として今回挙がってきたのが、
かつて北海道の建売住宅の定番だった三角屋根の家です」

三角屋根は雪が落ちやすい。

三角屋根は雪が落ちやすい。

屋根の上の雪を落とすために考えられた合理的な構造だが、
家主が自分の好みで屋根や外壁の色を塗るケースも多く、
カラフルな三角屋根の家が建ち並ぶエリアはまるでおもちゃ箱のよう。
本州からの来訪者は「北欧みたい」と思わずカメラを向ける。

三角屋根の家自体、古い構造のものが多いため、
今回のプロジェクトでは現代のライフスタイルに合わせて間取りから変更させた。

リフォーム前。(写真提供:三笠市)

リフォーム前。(写真提供:三笠市)

「昔の家は細かく区切られていて、小さい部屋がたくさんありますので、
1階は壁を取り払うなどしてリビング・ダイニング・キッチンを広々とつくりました。
子育て支援にも力を入れている三笠市として、
ご家族で移住される方を想定した間取りにしています」

リビング側からダイニングを。

リビング側からダイニングを。

より魅力的な生活を演出するために、スタイリストの吉田佳世さんにも協力してもらった。
「リフォームの仕方やインテリアの選び方など、
これから三笠市で中古物件を探して改装する際の参考にしてほしい」と担当者は話す。

人の生と死にやさしく寄り添う。
今治タオルとMAYA MAXXの
絵本プロジェクト『タオルの帽子』

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

タオルにまつわる物語を公募し、絵本にするプロジェクト

私が住む美流渡(みると)地区に2020年に移住したMAYA MAXXさんが、
新しい絵本をつくった。
MAYAさんは画家の活動と並行して、これまでさまざまな絵本を刊行してきた。
その多くは、福音館書店の幼児向けのシリーズだったが、
今回の絵本は、それらとは異なる佇まいを持っている。

タイトルは『タオルの帽子』。
制作されたきっかけは、MAYAさんの故郷・今治でのプロジェクト。
今治はタオルの産地としてよく知られた地域。
高い品質を誇り、ブランドとして定着しているが、一方で後継者不足という課題もある。

そんななかで、『タオルびと』制作プロジェクト委員会が発足。
タオル工業の現場の声をインタビューする取り組みが行われ、
今年10年の節目を迎えた。これを記念して、
タオル工業のものづくりに関心を持つきっかけになってほしいとの思いから、
タオルにまつわる物語を公募し、そのうちの1点をもとに
MAYAさんが絵本をつくるという企画が生まれた。

MAYAさんは、動物をモチーフとしたシンプルなフレーズの絵本を多く描いてきた。

MAYAさんは、動物をモチーフとしたシンプルなフレーズの絵本を多く描いてきた。

昨年7月、『タオルびと』絵本プロジェクトと題して公募が行われ、
全国から100件以上の物語が寄せられた。
その中でMAYA MAXX賞に輝いたのが、伊藤幸恵さんによる『タオル帽子』だった。

この物語は、伊藤さんの体験とこれまでの活動を綴ったもの。
2006年に突然がんの告知を受け、闘病中に抗がん剤治療によって髪の毛が抜けた。
そのときに姉が送ってくれたタオルの帽子が、その後の活動を決定づけた。

3年後にがんが再発。治療の道を求めて講演会やセミナーへ通うなかで、
あるとき医療従事者たちが
「抗がん剤の副作用による脱毛にはタオル帽子が一番良い」
と口々に語っていたのを聞き、自身の記憶が蘇ってきたという。

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

毛髪が一本もない。眉もなく、まつ毛のない。
私にとって、その事実は、丸裸にされている様な、とても惨めで、恥ずかしく、
悔しくて、心がざわつき落ち着かない状態だったのだと思います。
タオル帽子を被った瞬間、全身がふわぁーとくるまれた様な優しさに、
安堵感が広がったのでした。

(『タオル帽子』より)

ここから、がん患者さんにタオル帽子を贈る活動が始まった。
タオルのメーカーに提供をお願いしたり、つくり手を募集したり。
約10年の活動で、協力者は100名以上、
これまで800枚以上を患者さんに届けることができたそう。

無我夢中で毎日が暮れることは、私にとってありがたく
不安からの脱出法でもありました。病を忘れ、熟睡できる。
それで十分でした。

(『タオル帽子』より)

授賞式にて。MAYAさんと伊藤幸恵さん(右)。

授賞式にて。MAYAさんと伊藤幸恵さん(右)。

安藤忠雄建築に杉本博司ギャラリー。 この春、直島に ふたつのアート施設がオープン!

Yayoi Kusama, Narcissus Garden, Stainless steel spheres, 1966/2022, Copyright of Yayoi KusamaPhoto: Masatomo MORIYAMA

多くのアートラバーから愛される場所、ベネッセアートサイト直島。
開館30周年を迎える今年3月、なんとふたつのアート施設がオープンします。

安藤建築と自然、アートの調和

Valley Gallery 撮影:矢野勝偉

Valley Gallery 撮影:矢野勝偉

Valley Gallery 撮影:矢野勝偉

Valley Gallery 撮影:矢野勝偉

ひとつは、直島で9つ目の安藤忠雄建築となる
〈Valley Gallery(ヴァレーギャラリー)〉。
李禹煥美術館向かいの山間に位置し、祠をイメージした半屋外の鉄骨建築が特徴です。

Yayoi Kusama, Narcissus Garden, Stainless steel spheres, 1966/2022, Copyright of Yayoi KusamaPhoto: Masatomo MORIYAMA

Yayoi Kusama, Narcissus Garden, Stainless steel spheres, 1966/2022, Copyright of Yayoi KusamaPhoto: Masatomo MORIYAMA

小沢剛《スラグブッダ88― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88 体の仏》2006 /2022年 撮影:森山雅智

小沢剛『スラグブッダ88― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88 体の仏』2006 /2022年 撮影:森山雅智

作品は、草間彌生の大規模な作品『ナルシスの庭』や、池の横にある小沢剛の
『スラグブッダ 88-豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた 88 体の仏』
も一部改変して展示。

ヴァレーギャラリーが立つ場所は、春先にヤマツツジに覆われる
斜面に囲まれた美しい場所だと安藤忠雄氏は話します。

「コンクリートの壁による二重構造を成す建物は、12ミリ厚の鉄板屋根で覆われる。
鉄板にはシフトや切込みといった幾何学的操作により開口が穿たれており、
建物内部に、雨や風、光といった自然の呼吸をそのままに取り入れる。
小さくとも結晶のような強度をもつ空間をつくろうと考えた」(安藤氏)

アーティスティックな安藤建築から、
自然・建築・アートの共鳴をより深く体感できることでしょう。

information

map

ヴァレーギャラリー Valley Gallery

住所:香川県香川郡直島町琴弾地

鑑賞料金:ベネッセハウス ミュージアムの入館料に含む

Web:ベネッセアートサイト直島

金沢のホテル〈香林居〉と
龍崎翔子が考えるこれからのホテル

歴史的な建物をアップデートした〈香林居〉

「いつか金沢でホテルを運営したいと思っていた」と言うのは、
“ライフスタイルホテル”ブームの先駆けともいえる
〈L&Gグローバルビジネス〉代表の龍崎翔子さん。
しかし石川県金沢市で、繁華街といえる香林坊エリアに
〈香林居(こうりんきょ)〉というホテルを新たにオープンさせた。

「金沢は、旅の目的地になるような名店がいくつもあり、
人生の節目の思い出づくりや、ハレの日に訪れるような旅先になっていると思います。
香林居は、大切な旅の舞台にふさわしく、
かつ“世俗から離れた”ようなニュアンスのホテルを目指しました」

〈L&Gグローバルビジネス〉代表の龍崎翔子さん。(写真提供:L&Gグローバルビジネス)

〈L&Gグローバルビジネス〉代表の龍崎翔子さん。(写真提供:L&Gグローバルビジネス)

そのようなホテルを目指したのも、L&Gが得意としている
「土地の空気感を織り込んだホテルづくり」という感性に引っかかった、
ある建物があったから。

香林居になったビルは、もともと〈眞美堂〉という九谷焼を中心に
世界の工芸品を扱うギャラリーだった。
ビルの老朽化から一度取り壊す方向になったが、建築的な価値を見いだした西松建設が、
建物を残すために奔走。
L&Gがサン・アド社をはじめとするクリエイティブチームと協働して企画・開発を行い、
ホテルとして建築を残すことになった。
それゆえ内観はフルリノベーションされているが、
外観のアーチを描く独特のファサードはかつてのまま残されている。

全面に施されている外観のアーチ。(写真提供:L&Gグローバルビジネス)

全面に施されている外観のアーチ。(写真提供:L&Gグローバルビジネス)

エントランスにもアーチを採用。(写真提供:L&Gグローバルビジネス)

エントランスにもアーチを採用。(写真提供:L&Gグローバルビジネス)

「物件を初めて見たときに、歴史や空間の年輪、堆積した時間の重みなどを感じました。
だから、長きにわたって愛されてきた景色の一部であるこの建物にふさわしい、
情緒的で上質な空間をつくりたいと思いました」

特徴的な外観のアーチを、内側から見られる部屋。

特徴的な外観のアーチを、内側から見られる部屋。

ホテルは地下1階から9階まであり、ルーフトップにはサウナと露天風呂を備える。
ホテルに入っていくと、まず1階に蒸溜所がある。
この場で毎日、石川県の霊峰・白山で採ったスギやクロモジを素材とした
芳香蒸溜水と精油を製造している。

ルーフトップにある露天風呂。

ルーフトップにある露天風呂。

香林坊という地の歴史をひも解くと、向田香林坊という安土桃山時代の僧に行き当たる。
彼は薬局を営んでいて、
あるときつくった目薬で前田利家の目の病気を治したという言い伝えがあった。
かつて、目薬は「蘭引き」と呼ばれる陶器の蒸溜機で精製されていたといわれており、
そこから「蒸溜」というキーワードを抽出して、蒸溜所を併設するに至った。

毎日稼働している蒸溜機。

毎日稼働している蒸溜機。

「植物の状態は、その季節や天候によっても違うし、個体差もある。
さらに蒸溜の際の温度や湿度などによっても仕上がりは異なってきます。
そうしたそのときその瞬間にしか出合えない刹那性の高いものを、
薬局のように“処方”しています」

最上階にあるサウナではセルフロウリュウが可能。
そこに備えてあるこの蒸溜水を焼けた石にかける。
するとスギの葉の、ほどよくスモーキーな香りが漂ってくる。

サウナでは、水をかけて蒸気を発生させるロウリュウを自分の手で行うことができる。その水はホテル内で蒸溜したものだ。

サウナでは、水をかけて蒸気を発生させるロウリュウを自分の手で行うことができる。その水はホテル内で蒸溜したものだ。

サウナ利用者にはフリーアイス!

サウナ利用者にはフリーアイス!

2階はエントランスとロビー、3~9階は客室。
中2階には、まだ日本では数少ないアイソレーションタンクを2台設置している。
地下には金沢の古民家を改装した人気台湾料理店〈四知堂(スーチータン)kanazawa〉の
ディレクションによるタイワニーズキュイジーヌがある。

全体的に落ち着いた雰囲気で、金沢らしい日本の伝統を感じさせながら、
モダンで上質な空間になっている。

富士山を望む絶好の立地!
暮らしの中心にあるのは、
キャンプから生まれた家族の時間

転勤族が選んだ定住の地

神奈川県小田原市、富士山を望む抜けのいい場所に、
〈BESS〉の「G-LOGイスカ」というモデルを
2021年8月に建てたばかりの笹平さん一家。
笹平忠睦さんは転勤が多い仕事で、
これまで京都、島根、鳥取、広島、北海道、山口、千葉……と、
数年に1度は引っ越しを繰り返していた。

長男がこれから中学校に上がるタイミングもあり、
それから引っ越したのではまた転校させてしまうことになる。
そこで家を建て、定住の地を構える決意をした。
とはいえ、全国各地に住んできた笹平さんにとって、どこにしようか迷うところだろう。
住む場所を決めた理由は、シンプルな考え方だった。

2階はリビングスペースとして使用。

2階はリビングスペースとして使用。

「これからも私の転勤はあるので、
全国からの交通の利便性が高い関東エリアを選びました。
関東に家があれば、たとえば北海道に転勤になろうとも、鹿児島に転勤になろうとも、
帰ってきやすい。北海道に家があっても、九州に転勤になったら帰るのが大変ですよね」

確かに関東であれば、日本のどこでもアクセスしやすいので、
単身赴任になっても、月1回など帰りやすい。
さらに子どもたちが大きくなって、家から旅立つ日が来たとしても、
関東に家があれば同じように帰省しやすいだろう。

庭でちょっとした家庭菜園もできる。

庭でちょっとした家庭菜園もできる。

さらに家族の理想とする暮らしを実現しつつ、
「関東でありながら自然が豊かで、庭でBBQができるような。
できれば富士山が見えて、海が近いエリア」となると、
確かに小田原は有力候補だ。

「近くには煙突が立っている家もあったし、そもそもBESSの家が数軒あった。
だから庭でBBQや焚火をしたり、薪ストーブも大丈夫じゃないかなって」

似たような価値観を持つ人が近くにいることがわかると安心できる。
周囲は住宅地ではあるが、笹平さんのお宅は角地に建っていて、目の前は田んぼだ。

「田植えの時期は、風の流れがわかるように苗が揺れたりして、
料理したり洗いものしたりしながら眺めると気持ちがいいです」と
奥さんの由季さんも言う。キッチンに開けられた窓からはそんな風景がよく見える。

キッチンの窓からは四季折々の田んぼの様子が見える。

キッチンの窓からは四季折々の田んぼの様子が見える。

『福島ソングスケイプ』
アーティスト・アサダワタルが
復興公営住宅の住民とつくる作品

歌と物語の「ドキュメント音楽」

東日本大震災からちょうど11年となる2022年3月11日、
「アサダワタルと下神白(しもかじろ)団地のみなさん」によるCDアルバム
『福島ソングスケイプ』がリリースされる。

「下神白団地」とは、東京電力福島第一原子力発電所事故により、
富岡町、大熊町、浪江町、双葉町から避難してきた人々が住む、
いわき市小名浜にある福島県営復興公営住宅だ。

左側が下神白団地。

左側が下神白団地。

ディレクターを務めるミュージシャンで文化活動家のアサダワタルさんは、
この団地で暮らす人々を「住民さん」と呼ぶ。
『福島ソングスケイプ』では、住民さんがまちや人生の思い出を語り、
当時の懐かしい曲を歌い、ミュージシャンたちで結成した、
伴走型ならぬ“伴奏型”支援バンドがバック演奏を行っている。

例えば、嫁いでから苦労を重ねてきたと話す女性は、
いまでは「歌ねかったら死んでるの」「ごはんより歌」というほど歌を愛し、
高齢とは思えないパンチの効いた歌声で『宗右衛門町ブルース』を歌い上げる。
所どころリズムがズレても不思議と辻褄が合う味わい深いボーカルだ。

クリスマス会での“歌声喫茶”では『宗右衛門町ブルース』をみんなで歌った。

クリスマス会での“歌声喫茶”では『宗右衛門町ブルース』をみんなで歌った。

『青い山脈』など、ほかの住民さんが歌う歌も、懐かしく聴く人はもちろん、
あるいは曲を知らなくても心に響くはず。

歌が生きる物語を引き出すこのアルバムを
「ドキュメント音楽」とアサダさんは名づけた。
ドキュメント音楽とは何なのか、どのように生まれたのかを聞いた。

熊谷〈みかんビル〉
女性の起業をサポートするシェアサロン

ハクワークス vol.6

埼玉県熊谷市にて、空き家を使った設計、事業の立ち上げや場の運営も行うなど、
“空き家建築士”として活動する、〈ハクワークス〉の白田和裕さんの連載です。

今回のテーマは、熊谷市中心市街地の目抜き通りにある築40年のビル。
外壁工事の依頼からビルの運営にまで発展し、
女性が集うシェアサロンとなった経緯を振り返っていきます。

熊谷のシャンゼリゼ通りにあるレトロビル

とある日、1本の連絡がきました。
「市役所通りにあるビルで、タイルの改修の見積もりが欲しいんですけど」

そこでお会いしたのがオーナーの荒井広美さん。
相続したビルのタイルが劣化し、剥落する可能性があるので改修したいとのこと。
熊谷の目抜き通りである市役所通り(僕は“シャンゼリゼ通り”と呼んでいる)にある、
築40年の3階建てのレトロビル。タイルの具合も見ながら、
ビル内も見学させてもらいました。ワクワク!

緑のタイルがクラシックな雰囲気のレトロビル。

緑のタイルがクラシックな雰囲気のレトロビル。

既存の部屋(和室)。

既存の部屋(和室)。

木目と柄のクロス。クセが強い。

木目と柄のクロス。クセが強い。

レトロなクロス、アンティークな家具に時代を感じさせる照明。
窓の向こうからは、市役所通りのケヤキの新緑が飛び込んできます。
このビルの魅力をビシビシと感じました。

先代は1階で薬局を経営し、2階は住居、
3階は倉庫と趣味のカラオケ教室だったそうです。
それが現在では1階にフレンチのお店が入居するのみで、
2~3階は当時のまま空き家となっていました。

窓を開けると街路樹の緑が広がる。

窓を開けると街路樹の緑が広がる。

困ったなー! 相続空き家問題

タイルの改修の見積もりは200万円となりました。
オーナーさんは別の場所に居住し、子育てをしています。
このビルを所有しているだけで固定資産税がかかり、
今回は改修費用も重なるしんどい事態。
またこの先どのタイミングで解体するのか、
どう引き継いでいくのかといった不安も出てくるはず。

僕自身、空き家建築士の名にかけて、この萌ゆるビルの行末に伴走したいと、
2~3階を借りて運営させてもらえないかと願い出ることにしました。

タイルはちゃんと改修しました。

タイルはちゃんと改修しました。

廃棄物を地域の資源へ。
古物事業〈PAAK STOCK〉と
オンラインショップ〈PAAK Supply〉

PAAK DESIGN vol.7

宮崎県日南市で建築デザイン、宿泊や物販など、幅広い手法で地域に関わる、
〈PAAK DESIGN株式会社〉鬼束準三さんの連載です。

今回は、産業廃棄物として処理されてきた古材を引き取りストックする、
古物事業〈PAAK STOCK〉の取り組みと、
そこから派生したオンラインショップ〈PAAK Supply〉がテーマです。

古材集めのきっかけ

東京にいた頃、当初は新築の仕事が多かったのですが、
次第に空間ストックを生かした案件が増えていました。
そして地元にUターンすると、地方都市のほうが
空き家、空き店舗が加速度的に増えていて、
リノベーション案件に対面することが多くなりました。

解体され、廃棄されていく空間や多くのモノたち。
まだまだ使えるし、見方によっては価値があるのに……と思いながら、
使い道がないことやストックする場所がないという理由で、
産業廃棄物として処理するしかありませんでした。

解体現場から出てきた古材。

解体現場から出てきた古材。

いよいよ、これはなんとかしなければ、と思ったことがありました。
以前にご紹介した〈武家屋敷伊東邸〉の復元工事に携わったときです。

旧藩主であった伊東家の分家が代々住み継いだ築120年超えの建物。
主要部分の劣化がひどく、解体して新しい材料で復元する計画だったので、
いつもどおり既存の材料は処分される予定でした。

ところが、現場に何度も通うなかで、
まだ使えそうな材料もどんどん捨てられていくのを目の当たりにし、
そのままではいられませんでした。

100年以上前の当時の大工さんが技術を尽くして切り出し、
住み継ぐなかで丁寧にメンテナンスされてきた材料や家具。
現代の先端技術をもってしても、この100年の歴史や情緒を
身にまとうものをつくることはできません。
これはどうしても捨てることができない! と、
自分が運べる分だけでも引き取ることにしたのが最初のアクションでした。

これから解体される古民家。寂しそうに残る古道具と古材。

これから解体される古民家。寂しそうに残る古道具と古材。