連載
posted:2022.4.20 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
北海道に遅い春が訪れる頃、冬期の間にお休みをしていた、
旧美流渡(みると)中学校の活用プロジェクトを再開した。
美流渡中学校は3年前に閉校し、昨年から私が代表を務める地域PR団体
〈みる・とーぶ〉が、校舎の試験活用の窓口となっている。
昨年秋にはふたつの展覧会を開催した。
ひとつは地域のつくり手の作品を集めた『みる・とーぶ展』。
もうひとつは、2020年に美流渡地区へ移住した画家・
MAYA MAXXさんの展覧会『みんなとMAYA MAXX展』。
展覧会は好評で、札幌などからも人が訪れ、15日間で1000人の来場者を記録した。
目立った観光地もないこの場所に多くの人が訪れ、
展覧会に参加したつくり手のみんなも大きな手応えを感じたようだった。
「来年は、年3回展覧会をやろうよ」
会期終了後に参加メンバーが集まる機会があり、その席でMAYAさんはそう呼びかけ、
2022年は、4月、7月、9月に開催をすることにした。
第1回の開催はゴールデンウィークにかかる4月23日~5月8日。
しかし、春の開催には不安もあった。
なるべく早く校舎で準備を始めたいが、美流渡地区は大変な豪雪地帯。
3月末になっても入り口付近には雪がたっぷり。
これをなんとかしなければ校舎には入れないため、
ヤキモキしながら、私は毎日校舎を見つめていた。
そんなある日、入り口付近に道が現れていた。
驚いたことに、ホイールローダーが駐車場の雪を脇に寄せてくれたのだ。
除雪をしてくれたのは、校舎の向かいに建つ安国寺(あんこくじ)の住職だった。
次の日も、また次の日も除雪をしてくれて、車が十数台、停められるようになった。
住職のおかげで、校舎に入ることができるようになり、
4月2日には校舎内の清掃とグラウンドの雪割りを行うことができた。
SNSなどで参加者を呼びかけ、集まったのは25名(!)。
展覧会初日に行うイベントで、ポニーの馬車がグラウンドを走る予定になっていたため、早く雪をとかしたいと、グラウンドのそこかしこに穴を開けていった。
土が出てくると、そこが太陽の熱で温められて、雪どけが早く進むからだ。
その4日後、今度は1階の職員室で『みる・とーぶ展』を行うために、
机や棚の入れ替え作業を行った。
事務机や棚をすべて動かし、学校の美術室などに残されていた
味わいのある木の机や棚を運び入れた。
閉校してからエレベーターが稼働していないため、
階段の登り降りは予想以上の大変さだった。
この日も22名もの人が集まってくれて、みんなで汗を流した。
机がすっかり入れ替わった職員室を見て、本当にうれしさでいっぱいになった。
わずか数名で始めた校舎活用プロジェクト。
こんなに大がかりな机や棚の移動は、昨年だったらできなかったに違いない。
人の輪が日に日に広がっていくことを実感し、
活用が始まる前に感じていた不安は、いつしか消えていた。
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23日から始まるイベントの参加メンバーも、倍以上となった。
昨年は10組だったのが、今年は25組。
特にうれしかったのは、昨年参加できなかった地域の仲間が
「今年こそは参加したい」と言ってくれたこと。
また「飲食ブースがあったらいいですよね」と声をかけてくれた仲間もいて、
土日祝日は、ピザやパスタ、コーヒーなどの露店も出ることに。
さらには、子どもの遊び場もつくることになった。
みる・とーぶのメンバーは子育て世代が多い。
子どもが楽しめる場所があったら展覧会に参加しやすいという声があり、
長年、子どもの遊び場づくりを手がけてきた友人に声をかけ
『ミルト冒険遊び場』が誕生することに。
さらにはワークショップも目白押し。
万字地区でハーブブレンドショップを営む〈麻の実堂〉が、
校舎の花壇や元畑だった場所で参加者と一緒にハーブを育て、
お茶を飲む、月1回のワークショップを開くことに。
美唄市の農家の渡辺正美さんは、ソバを育て、
それを製粉するというワークショップを行う。
このほか、アフリカ太鼓や日本舞踊の教室もあって、
年間を通じて校舎が賑わうことになる。
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展覧会やワークショップがこんなにも多彩なのは、この地域に20年以上前に
陶芸家や木工作家、ガラス作家などが多く移住してきた時代があり、
さらにこの4、5年で、飲食店を営んだり、
創作活動を行う人々が集まっていることが理由のひとつ。
そのひとりひとりが、岩見沢市街や近隣の市でクリエイティブな取り組みを行う人と
つながって、いま小さな地域を超えた活動へと展開しているように思う。
何より、たった1年で活動が急速に広がっているのはMAYAさんの存在が大きい。
昨年は校舎の1階に打ち付けられた雪除けの板に絵を描き、
校舎で多数の作品を発表。
今年も窓板のペインティングは継続され、年3回の展覧会では、
つねに新作を発表すると決めている。
こうしたダイナミックな制作・発表のみならず、
掃除や雪割りを誰よりも率先してやっていて、先頭に立って道を切り開いてくれている。
そのアクティブさについていこうと、みんなも必死に動くという状況が生まれているのだ。
「現代では、あらゆることがお金に換算されますが、
それよりも大切なことは心を寄せること。
中学校の活動に『心を寄せる』ということは、
『時間と労力と気遣いを寄せる』ということ。
このことによって心の充実感がダイレクトに伝わってくると思います。
『こんなことをやって何になるの?』という人もいるかもしれないけれど、
何になるかわからないことを積極的にやっている大人がいるということを、
ときには子どもたちに見せることも大事だと私は思っています」
昨年、校舎の窓板にMAYAさんが書いた「We MIRUTO」という言葉を見て思う。
これは、みんなの「心を寄せ合う」という意味なのではないかと。
全員が手弁当で集まって、自分ができることを惜しみなくやり切って。
たくさんの「私」がここに集まって「私たち」になっていくことで、
みんながキラキラと輝いているように私には感じられる。
そんな美流渡での活動のお披露目は4月23日から。
ぜひ、展覧会に足を運んでもらえたらと思っています!
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