連載
posted:2021.10.6 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
2年前に閉校した岩見沢市の美流渡(みると)中学校で、いよいよ展覧会が始まる。
ひとつは、校舎全体をキャンバスのようにして絵を描き、
教室に作品を展示した『みんなとMAYA MAXX展』。
そして、もうひとつは、理科室を使って行われる『みる・とーぶ展』だ。
今回は、この『みる・とーぶ展』について書いてみたい。
〈みる・とーぶ〉とは、岩見沢市の山間一帯をPRするプロジェクトで、
2016年から活動が始まっている。
私が代表を務めていて、地域の人々の似顔絵を集めた
「みる・とーぶマップ」の制作とともに、札幌や東京、関西などで、
地域の作家のみなさんと一緒に毎年展覧会を開催してきた。
いままでの『みる・とーぶ展』は、地域の外に発信しようと考えて、
こちらから出かけていたのだが、今回初めて地元での開催となる。
5年間、展覧会を開催してきて、メンバーはますます多様になった。
初回からずっと参加をしているのは、
上美流渡地区で花のアトリエを営む〈カンガルーファクトリー〉と
木工作品を発表する〈遊木童〉。
そして私が行っている出版活動〈森の出版社ミチクル〉も本の販売を続けている。
翌年には、美流渡にたった1軒のカフェ〈コーローカフェ〉でコーヒーを淹れる
新田洵司さんが立ち上げたブランド〈Out Works Zootj〉が加わり、
3年目には、この地域に移住してきたアフリカ太鼓の奏者であり、
マクラメ編みのアクセサリーも手がける〈らんだ屋〉や
陶芸家のこむろしずかさんが参加。
そして今回、万字地区に新しくオープンしたハーブティーのお店〈麻の実堂〉と、
美流渡にある古本屋〈つきに文庫〉が登場することとなった。
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メンバーは総勢8組で全員が移住者。
岩見沢市の山間のエリアの人口はわずかに600人ほど。
その地区にあって、移住した人の大半が、
こうやってクリエイティブな活動をしているということにあらためて驚く。
1985年、上美流渡に陶芸家の塚本竜玄(1933〜2013)さんが
窯を開いたことがきっかけとなり、その後この地に工芸家が多数移住してきた。
その波はいったん途絶えたが、ここ数年、再び流れが起きていて、
移住者が新たな移住者を呼び込み、
個性的な面々が地域に彩りを添えるようになっている。
この展覧会に並ぶのは、陶芸やアクセサリー、フラワーアレンジメント、
雑貨、ハーブティー、本とそれぞれまったく違っている。
いわゆる地方の物産展とは異なる多様性は、
この地域の人々の考えや生き方を象徴するもののようにも思う。
けれど同じ眼差しが感じられるのは、
自身の暮らしと密接に結びついて生まれてきたものであること。
例えば、麻の実堂やカンガルーファクトリーは、
自分のところで育てた植物を素材にしているし、
Out Works Zootjでは、薪割りや農作業といった
日々の仕事をテーマにしたTシャツをデザイン、
こむろしずかさんの陶芸に描かれた植物や動物は、
眼前に広がる風景から導き出されたものだ。
そして何より、大量生産・大量消費という社会の在り方に疑問を感じ、
自分たちの手の届く範囲を大切にしていきたいと考えているところも
共通点なんじゃないかと思う。
当初、この展覧会は、9月19日からの開催を予定していたが、
緊急事態宣言の発出により会期を変更せざるを得なくなった。
新たな会期を早急に決めなければならくなったとき、みんなの反応はすごく柔軟だった。
せっかくなので1週間だった会期も2週間にしてはという意見も飛び出し、
「いいね!」「それやろう!!」とノリよく、サッと決まってしまった。
私の本業の仕事では、緊急事態宣言によって
取材の日程を変更しなければならないことが多々あり、
その調整がとても大変だったのだが、
何でもサクサク決まっていくメンバーとのやりとりは本当に心地よかった。
コロナ禍にあって、ローカルなメンバーでフレキシブルに対応できる
イベントをつくっていくことに、私は大きな可能性を感じた。
10月3日から展覧会が始まった。
会場で、ぜひみなさんに知っていただきたいのは、
メンバーがどのようにしてこの地に移住し、どんな想いで作品をつくったり、
商品を販売しているのかだ。
札幌で働き、週末美流渡で暮らし、
月に2回古本屋を開く、つきに文庫の寺林里紗さんは、
「近所の子どもが家に訪ねてくるようになり、絵本がある遊び場をつくりたい」
と考えて、古本屋さんを始めたという。
また、カンガルーファクトリーの大和田誠さん、由紀子さんは、
自分の庭で育てた花でアレンジメントをつくる夢を持っていたが、
展覧会に初めて参加した5年前はそれが叶わなかった。
当時、庭はまだ荒地のような状態。
そこに少しずつ手を入れて、いまでは多種多様なハーブや花が咲き、
それらをふんだんに使った作品を生み出すようになっている。
こうした小さな物語が詰まっているのが、『みる・とーぶ展』。
8組の物語を味わいながら、じっくりと会場を見てもらえたらと願っている。
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