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育てた花でブーケをつくりたい。
北海道へ移住した花屋さん

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.019

posted:2016.5.12   from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

美流渡を訪ねて2か月で移住を決断した理由

4月16日、岩見沢の山間部、美流渡(みると)地区に小さな花屋さんがオープンした。
人口が1000人を割り込み店舗の閉鎖も目立つこの地区に、
新しいお店ができたのは何年ぶりのことになるのだろう。
いま、わたしはこの地区の空き家を利用してゲストハウスをつくろうと考えているので、
近くに花屋さんができたことは、とてもうれしいできごとだった。
しかもこのお店を開いたのは、横浜から移住してきた大和田誠さん、由紀子さん夫妻だ。
わたしも美流渡への移住を計画していることもあって、
大和田さんがなぜここで花屋を開いたのか、その経緯を聞いてみたいと思っていた。

開店して2日目にお店を訪ねてみると、大和田さん夫妻は満面の笑顔で迎えてくれた。
お店の名前は〈Kangaroo Factory〉。
もともとオーストラリアの花が好きだったことからつけた名前だ。
ここはショップ兼工房となっており、
全国からフラワーアレンジメントの注文を受け発送も行っている。
ちょうどわたしの夫の誕生日が近かったことから、ブーケをひとつ頼むと、
真っ赤なダリアを中心に、さまざまな種類のグリーンをあしらってくれた。

「本当はもっと地元の花やハーブなどを増やしていきたいと思っているんですよ」
と誠さんは言う。由紀子さんも、
「地元の花を使って、この地の景色が感じられるようなアレンジにしたい」
と語っていた。

大和田誠さん(左)と由紀子さん(右)。ふたりは22年前に横浜で花屋を始め、その後、一軒家を借りてフラワーアレンジメントを制作するアトリエ〈Kangaroo Factory〉を設立した。

店内の様子。木製ドラムを白くペイントするなど手づくりで改装を行った。

店内のいたるところに美流渡の野山でとれた木の実や蔓などが飾られていた。

もともとKangaroo Factoryという名前は、大和田さん夫妻が
横浜で10年間、店舗を構えず注文によるフラワーアレンジメントを
制作していたアトリエにつけられていた名前だった。
個性的なアレンジが話題となりファンも定着していたが、
2014年に新天地となる北海道へ移住した。

きっかけとなったのは、美流渡で十数年のあいだパン屋〈ミルトコッペ〉を営み、
リンパ・ドレナージュ・セラピスト(リンパの流れをよくして血行を促進するセラピスト)
としても活躍する中川文江さん(連載14回)のすすめによるものだ。
中川さんは北海道だけでなく関東にもサロンを開いており、
由紀子さんがこのサロンに通ったことから交友が始まったという。

中川さんの誘いを受けてから、大和田さん夫妻の動きは早かった。
まず、2014年夏に花の生産が盛んで北海道とも気候が近い、
オランダへ視察旅行に出かけ、花との関わりを見つめ直す機会を得た。
その後、秋になって実際に美流渡を訪れ、この地にひと目惚れしたという。
地元の人々から温かな歓迎を受け、また満点の星空に心奪われ、
移住を即決意したそうだ。
そしてふたりは、たった2か月で横浜のアトリエを引き払い、
北海道へとやってきたのだった。

「ずっと横浜のアトリエで制作を続けていたとしても、
きっと充実した暮らしはできていたはずです。
けれど、ぼくたちは花を自分たちで育ててそれを売る、
そんな花屋になりたいと思っていたんですね」と誠さんは語る。
オランダを旅行中に、自分たちの理想としていた自家栽培をする花屋さんと出会い、
「やってみたらいい」と勇気づけられたことも大きかった。
また、誠さんは当時47歳。
50歳になる前に新しいことを始めたいという気持ちもあり、
「さまざまなタイミングが重なって」、
移住するならいましかないという思いに駆られたという。

美流渡の春は遅い。4月中旬だが、窓の外にはまだ大きな雪の山が残っている。

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美流渡でとれた木や実を使ってクリスマスリースも!

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一歩ずつ着実に夢へ向かって歩みを進める

実際に移住してから、もうひとつ不思議なタイミングが重なった。
美流渡の住まいは手狭であったことから、
どこかにショップ兼工房を開きたいと考えていたころ、
〈ミルトコッペ〉の中川さん一家が、近隣の大きなログハウスへと移り住み、
その1階が借りられることになったのだ。

そして、大和田さんは、自身の住まいとログハウスの建つ敷地で花の栽培を始めている。
移住してからショップのオープンまでには1年半かかったが、
夢へ向かって着実に歩みを進めているのだった。
「時間がかかってもいいと思っています。都会とは違う静かなこの場所で、
ひたむきにゆっくりと進んでいきたい」(由紀子さん)。

大和田さんが育てたオレガノ、アキレア、ヘレニウムなど、つみたての花でつくった夏のアレンジメント。

ツツジ、ダスティミラー、ミントなど大和田さんが育てた秋の花々を中心にしてつくったアレンジメント。どちらも「美流渡の森の花の直送便」と名づけブログで販売した。

クリスマスにはリースも制作。美流渡でとれたモミ、野バラの実、トウヒの実に、オーストラリアの花を組み合わせた。

わたしが頼んだブーケができあがったとき、
「本当はもっとたくさんの花を入れたいと思っているんですよ。
もし、自分で花をつくれるようになったらサービスできるのにね」
と由紀子さんは微笑んだ。

都会でこのブーケを買ったら何千円もするだろうと思うほど、
たくさんの草花を入れてくれたのにもかかわらず、そんな話をする由紀子さん。
横浜にいた頃は、大量に花を仕入れたくさんのアレンジメントをつくってきたが、
こうした経営をまわすために数だけをこなすような仕事の仕方に
疑問を抱くこともあったそうだ。
自分で花を育て、アレンジをして、納得のいくかたちでみんなに届けたい。
そんな大和田さん夫妻の想いからは、日々誠実に
花や人と向き合いたいという信念のようなものが感じられた。

花に触れる由紀子さんの手はやさしさにあふれている。美流渡のログハウスでは、フラワーアレンジメントの講座も開き、花を飾る楽しさを伝える活動をしている。

つくってもらったブーケ。手前に見える葉っぱにはKangaroo Factoryのロゴがスタンプで押されている。

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「自家栽培をする花屋」に

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荒れ地を色とりどりの花が咲く場所へと変えたい

わたしがお店から出ると同時に、誠さんも外で畑の手入れを始めた。
花を育てようとしているのは、根がはびこって抜くのがやっかいな
外来種のセイタカアワダチソウが、夏になると群生する場所。
ここに生命力の強いハーブを植えて、
セイタカアワダチソウの繁殖を抑えようと大和田さんは考えている。
土が豊かに変わっていくには、おそらく年数はかかるだろうが、
ゆっくりと成長を見守りながら、赤、青、黄色など色ごとに区画を分けて、
さまざまな花を咲かせていきたいという。

花のことを語るときのふたりの顔はさわやかだ。
「花屋にはいろんなかたちがあることを伝えていきたい。
自家菜園を持つレストランがあるように、自家栽培をする花屋があってもいい。
そして、地域のみなさんとの関わりのなかで、
こうして花屋が開けたことが本当に幸せです」
移住に100パーセント後悔はないと言いきった大和田さん夫妻は、
これからきっとひとつずつ夢をかたちにしていくのだろう。

都会で暮らしていたときには不可能だと思っていたことが、
北海道でなら実現できるかもしれないという感覚は、わたしも強く共感できる。
都会にいると、たくさんのお金を稼がないと、自分が生きていけないのではないか、
そんな想いにとりつかれてしまうことがあるが、北海道に来たことによって
少しずつ心が解放されてきているように感じられる。
しかも、美流渡には使われていない土地や空き家が点在しており、
これらをなにかに利用できないかと考えているだけで、
アイデアは大きく膨らんでくるのだ。

空き地や空き家を過疎化というマイナス面として捉えるのではなく、
大和田さんのように夢が実現できる場所と捉えられたら、
地域の見え方はまったく変わってくるのかもしれない。
大和田さん夫妻の話を聞いて、美流渡という場所の
可能性の大きさをあらためて感じることができた。

セイタカアワダチソウの枯れ草が折り重なっている場所に、レンガで道をつくり、ハーブや花のタネをまいている。北海道は、夏が涼しく雨が少ないヨーロッパの気候と似ていることから、本州とはまた違った草花を育てることができる。

近隣の農家でもらったブドウの蔓でつくったカゴ。花を育てるだけなく、花器も自分たちでつくっていけたらと大和田さん夫妻の夢は膨らむ。

information

Kangaroo Factory 

住所:北海道岩見沢市栗沢町美流渡東町59 美流渡の森山荘1階

TEL:080-9268-9775

営業時間:10:00〜17:00

定休日:月曜日・火曜日(12月末〜4月中旬は閉店)

http://kangaroo-factory.cocolog-nifty.com/

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