連載
posted:2020.4.7 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
新型コロナウイルス感染拡大を受け、
北海道では2月末から休校が続き、そのまま春休みへと突入した。
わが家は子どもが3人。みんなずっと家とその周辺で遊ぶ状態が続いている。
これまではリビングで仕事をしていたので、
もし子どもが家にいたら仕事は絶対にできなかったと思うが、
幸いなことに、最近、近所に仕事場を借りることができ、
日中は夫が子どもたちを見てくれているおかげでなんとか仕事が続けられている。
ときどき子どもたちは散歩ついでに私の仕事場にやってくる。
3人一度に乱入(!)してくると、机や棚に置いてあったものは
すべてグチャグチャになり、数秒ごとに話しかけられ仕事はストップ。
締め切りが迫っている日は、こちらもイライラしてしまうのだが、
そんな空気を察知すると、子どもたちはサッとある場所へと出かけていく。
そのある場所とは、私の借りた仕事場のお隣にある
陶芸家こむろしずかさんのアトリエだ。
こむろさんは、昨年夏に南幌町から私たちが暮らす美流渡(みると)地区に
移住したばかりだが、昔からの知り合いのように仲良くさせてもらっている。
とくに、子どもたちは彼女のことを「しずちゃん」と呼んで慕っていて、
部屋に上がり込んで、お菓子を食べたり、テレビや動画を見たりしながら、
好き勝手に過ごしている。何時間経っても帰ってこないときは、
さすがに制作のジャマになるんじゃないかと心配して私が迎えに行くと……。
「私が子どもの面倒見てるから、仕事してていいよー」とサラリと言ってくれる。
これは、心底ありがたい!!!!
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、
ご近所のみなさんとのつき合い方にも変化が起こっているのでなおさらだ。
普段よく行き来をしていた、同じ年代の子がいる家庭を訪ねることは
ほとんどなくなった。
いまわが子に「○○ちゃんの家に遊びに行きたい~!」と言われても判断に迷う。
感染リスクのある行動をとって「もし、何かあったら……」と考えると、
こちらから進んで遊んでほしいとお願いするのは気が引けてしまう。
こむろさんの場合は、休校が決まった日に
「毎日、大変でしょ。子どもと遊ぼうか?」とすぐにメッセージをくれた。
自分からヘルプを言い出しにくい状況のなかで、
この言葉にどれほど救われたかわからない。
しかも、私の仕事のハードさをよくわかってくれて、
なるべく作業時間がとれるようにと気遣ってくれたこともうれしかった。
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こむろさんとの出会いは2年前。
美流渡から車で30分のところにある長沼のカフェで、
オーナーにたまたま紹介してもらったことが始まりだ。
そのとき「移住先を探していて美流渡も訪ねてみたい」という話を聞き、
後日、付近を案内したことがある。
当初はこの地が豪雪地帯であることから、移住は難しいかなと思っていたという。
しかし、地元の人々が温かく移住の応援をしてくれことで気持ちに変化が起こっていた。
「実を言うと、同級生がここの出身で、以前に遊びに来たことがあって、
いつかはこんなところに住んでみたいとも思っていた」
その後、何度か美流渡を訪ねるなかで住まいが見つかり、
出会いから1年半ほどして移住することになった。
こむろさんは、2017年から『雫の森』という絵本をつくり、
その絵柄をイメージした作品を制作。
小さな頃からお話を考えるのが好きで、
一時は小説家になりたいと思っていたこともあったという。
ほかにも透明感のある青い釉薬で描かれた『群青の森』や、
白い釉薬のやわらなか色合いを生かした『雪の森』といったシリーズもあって、
いずれも北国ならではの独特の感性が感じられるものだ。
美流渡に移住して間もなく、私が仲間と行っている地域のPR活動
〈みる・とーぶ〉の展示会に、作品を出してもらうようになり、評判はとてもよかった。
知り合いにも、こむろさんの作品のファンだという人もいたし、
すでに陶芸家として人気者(?)のようなイメージがあるのだが、
意外にも陶芸だけで暮らしを立てようと決意したのは、つい最近のことだという。
北海道の大学を卒業し、ワーキングホリデーを利用してオーストラリアに滞在。
その後、インドやアジア諸国、日本を旅したことでものづくりに興味を持ち、
やがてイギリス人陶芸家のもとで数年間手伝いをしたことから、
本格的に制作を始めることとなった。
これまでは飲食店で働きつつの活動だったが、陶芸に専念するために、
制作スペースが確保できる美流渡への移住に踏み切ったという。
こむろさんの暮らしはストイックなものに見える。
住まいのほとんどを制作場所にしていて、
寝室として使っている六畳間だけがプライベートな空間。
まだ、家電なども十分揃っていないなかで、黙々と制作に取り組んでいる。
ときどき、「陶芸で食べていけるのか不安になる」と気弱になったり、
ようやく制作環境が整ったと思ったら、急に体調を崩したこともあったのだが、
日々揺れながら制作に励む彼女が移住してくれて(変な言い方かもしれないけれど)、
とてもうれしく思っている。
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私は美術大学で絵画を学んだこともあり、
現在でも編集者という仕事を通じてアーティストと接することも多い。
アートや表現については、それをやっている人だからこそ実感できる感覚がある。
例えば、制作は基本的にはひとりで行う孤独な作業。
淡々とした作業のなかに、昨日とは違う小さな変化があったり発見があったり。
そのひとつひとつを積み重ね、自分の心の状態と常に照らし合わせながら
何かをつくっていくというのは、かなり精神がすり減ることもある。
ここは都市ではなく、人口400人ほどの過疎地で、
こういう言葉にならない感覚を共有し、語り合える友人がいるというのは
貴重なことだと思う。
こむろさんは料理が得意で、ときどきお昼ごはんに誘ってくれる。
家に子どもがいるときには、新型コロナに対する
不安な気持ちを語るのは控えていることもあって、
このときは本心やいま考えていることをストレートに話せるので、
それでようやく心のバランスが保てているようにも思う。
そして、新型コロナの感染が拡大するなかで、それでもなお直接会うという人は、
うまく言えないけれどリスクを互いに分け合う、
家族のような存在といえるのかもしれない。
しかも、いまのように日々刻々と事態が変化していく危機的状況で、
血のつながった家族だけで家の中にいると、
どうしても煮詰まって、小さな争いが起こってしまう。
子どもだって、ずっと親と一緒にいたら、息が詰まることもあるだろう。
夫婦、親子という近過ぎる関係だからこそ、素直な気持ちを表せないこともある。
そんななかで、私たち家族をちょっと外からの目で見てくれて、
しかも家族のように近しい人がいることで、家庭内のバランスも
整ってくるのではないか(しずちゃん本当にありがとね!!)。
家族の枠組みって何だろう?
新型コロナでこれまでの暮らしを変えざるをえない状況のなかで、
私は自分の足下を見つめ直している。
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