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新型コロナで減った仕事、増えた仕事。
過疎地で続ける在宅ワークに
起こった変化とは?

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.111

posted:2020.4.22  from:北海道岩見沢市  genre:暮らしと移住

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

ストップした美術展カタログ制作の仕事

新型コロナウイルスの感染拡大によって、わたしの仕事にも影響が出始めている。
いまメインとなっているのは、アート関連の本の制作で、
約8割が東京の出版社やイベント事業を行う会社からの依頼によるものだ。

わたしの仕事のスタイルは、月1回のペースで東京へ出向いて打ち合わせを行い、
北海道に持ち帰って編集作業を行うというもの。
こうした仕事のなかで、もっとも影響を受けているのは美術展のカタログ制作だ。

先月、今月と2冊手がけたものがあったが、美術展が延期となってしまったため、
刷り上がったカタログも1冊はウェブで図録のみ先行発売となり、
もう1冊は日の目を見ない状態が続いている。
今後の美術展開催も不透明になっており、収入の3分の1は減る可能性もある。

一方で、継続している仕事もある。
ひとつは連載関係。このコロカルの連載のほか、
毎月2本担当している原稿があって、それらは淡々と続いている。
また、刊行が1年以上先になる分厚いアート本も抱えているのだが、
こちらも止まらずに継続している(大変だけどありがたい!)。

4月から連載を始めたJR北海道の車内誌。特急列車などで配布されている。

4月から連載を始めたJR北海道の車内誌。特急列車などで配布されている。

さらに、現在の社会状況に思わず体が反応し、
仕事と言えるのかどうかはわからないが、新しい活動も広がりを見せている。
その活動とは、この連載でも書いた画家・MAYA MAXXさんとの
〈Luce〉プロジェクトだ。

このプロジェクトでは、わたしの住む美流渡(みると)地区にアトリエをつくり、
そこを拠点にさまざまな企画を展開していこうというもの。
来月にはアトリエの改修もほぼ見通しがたち、MAYAさんも来道予定だったのだが、
それもいまのところ難しそうな状況になってしまった。
直接会って、美流渡で何かをするという計画は立てにくいのだが、
それでもなおMAYAさんとさまざまな活動が生まれていっている。

現在、MAYAさんは東京の自宅で過ごし、ほとんど外出せずに絵を描き続けており、
毎日、制作の経過の写真をわたしに送ってくれている。
電話もちょくちょくしていて、新しい作品について話しているとき、
お互いにフッとアイデアが浮かんでくることがある。

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ウェブ絵本を発信中!

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会いたい、でも会えないという想いを絵本に込めて

そのひとつが、ウェブ絵本『会いたいね』というもの。

あるときMAYAさんが青いオランウータンの絵を描き、
そのなんともいえない悲しさや切なさを感じる表情から、
何か絵本のようなものができそうな予感がした。
MAYAさんにそう伝えると
「同じようなことを昨日思っていたんだよね」
という返事があった(以心伝心??)。

そこで、MAYAさんが言葉を考えてくれることになり
「会いたいね 会いたいね 会えないね 会えないね」
というフレーズが生まれていった。
この言葉をもとに、わたしは青いオランウータンの絵のさまざまな部分を
トリミングしてレイアウトし、ウェブで見られる絵本に仕立ててみた。

MAYAさんが描いた青いオランウータンの一部。

MAYAさんが描いた青いオランウータンの一部。

そして、SNSで公開後1週間ほどして、この絵本に朗読をつけてみたいと思い、
MAYAさん本人をはじめ、ニューヨークやパリ在住の友人らに声をかけて、
さまざまな言語の朗読バージョンをつくっていった。
親子で読んでもらったり、夫婦で読んでもらったり。
それぞれの言葉の響きや互いの関係性によって、絵本のイメージが大きく広がることは、
つくったわたしたちにとっても思いがけない発見となった。

SNSでこうした朗読バージョンの絵本を、数日おきにアップする活動は、
私の仕事の大きなウェイトを占めるようになっている。

MAYAさん本人が朗読した『会いたいね』。

ニューヨーク在住の友人による英語とフランス語の朗読バージョン。

北海道に住むウッケイドウさんによるイタリア語朗読バージョン。

また、自分自身の活動として、新型コロナウイルスというものが
いったいどういう存在であるのかを調べて、なんとかわかりやすく
本にできないだろうかというアイデアも検討している。

いま手がかりとしているのは、新型コロナと名前がついているが、
広くは「ウイルス」の仲間なので、これが何かを調べることだ。
調べていく経過をウェブにアップしながら、最終的には本になる道を探っている。

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コロナで何が変わった…?

Page 3

仕事の内容が徐々に変化。コロナでさらに加速して

北海道に移住して9年が経った。
ずっと在宅ワークを続けているので、今回のコロナの感染拡大でも、
毎日の暮らしや仕事の仕方にほとんど変化はないのだが、
ここで書いたように取り組んでいる内容は、だんだんと変わってきている。

東京からの受注仕事の割合が減って、自分たちの力で企画し
発信する活動に徐々にシフトしていっているので、
全体的に見るといい方向なのではないかと感じている。

春めいてきた美流渡。

春めいてきた美流渡。

また、過疎地で在宅ワークを続けるわたしとしては、
都会の多くの人も同じように在宅ワークとなったことで、
精神的な距離が縮まったようにも思う。

先日、美術本の制作で大きな会議があったのだが、
予定では地方在住のスタッフだけがオンラインで参加することになっていた。
心のどこかで、上京して会議の場に同席しないことに後ろめたさがあったのだが、
東京都に緊急事態宣言が出されたことを受けて、
全員がオンラインで会議をすることになったのだ。

これまでは東京にいる編集者のほうが、打ち合わせにすぐに参加できるので、
仕事がやりやすいと考える仕事相手もいたが、こういう状態になると
居住地はあまり関係がなくなり、とてもフラットになったなと感じられた。

何よりMAYAさんとの仕事は、メールや電話でのやりとりだけなのだが、
毎日互いの仕事の進捗を共有し合っているので、まるでご近所さんのような感覚があり、
物理的な距離と人と人の近さはまた違うことに気づいた。

こんな体験から、わたしは新しい可能性について考え始めている。
ときどき自分ひとりでは、編集の仕事が追いつかなくなることがあって
仕事をセーブしているのだが、現在のような在宅ワークが進むのであれば、
わたしと一緒に仕事をしてくれるスタッフのような人材を、
全国から募集することもできるんじゃないかと期待を寄せている。

わたしの仕事は専門的で、市内で探そうとしても
編集と美術の両方に興味をもっている人にはなかなか会えないのが現状だが、
範囲を広げればきっとやりたい人が見つかるに違いない。

ついに雪が解けたが、朝晩の冷え込みが厳しい日もある。

ついに雪が解けたが、朝晩の冷え込みが厳しい日もある。

今回は、新型コロナで変化した、明るさのある部分について書いてみた。
ただ、毎日のように目と耳を覆いたくなるようなニュースが
あちこちから入ってくるため、
原稿もこれまでのように軽やかなトーンで書くことができず、
正直に言うと苦しい状態が続いている
(ついに首が痛くなって手も上がらなくなってしまった)。

それでもいまの状況に反応して、その気持ちをMAYAさんと絵本にしたり、
コロカルで未来の可能性について書いたりして忙しくしていることが、
心のバランスを保つ方法なのではないかと思っている。

そしてときどき外に出て(過疎地なので、ほとんど誰にも会わない……)、
ようやく春めいてきた北海道の日差しを浴びて過ごしている。

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