連載
posted:2020.5.6 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
全国に緊急事態宣言が出されてから、コロカルの執筆でも困ったことが起きている。
この連載では、自身の暮らしのことを書くほかに、
北海道でおもしろい活動をしている人々に取材をしてきたのだが、
直接、人に会うことが難しくなっていく状況のなかで、
どうやって記事をつくっていけばいいのだろうか?
話を聞くだけならオンラインでもできるけれど、
相手の表情や会話のリズムなど微妙なニュアンスがなかなかつかみにくい。
ともに時間を過ごすなかで、ときおりハッと何かに気づく瞬間があって、
それが執筆の原動力となるのだが、オンラインにすると、
どうも気持ちの起伏が少なくなってしまうのだ。
しかも、ウェブの記事では写真も大切。
言葉の間に写真を組み込んでいくことで、記事に独特の“ムード”がつくり出されていく。
ということで、直接会わない取材というのは、かなり困難な状況と言えるのだが、
あるとき、わたしはこういうときだからこそ可能になる
おもしろい取材方法があるのではないかと考えるようになっていった。
例えば手紙のやりとりを重ねてみたらどうだろう?
同じ市内に住む友人である坂本奈緒さんと、
たわいもないメッセージをSNSでやりとりしていたときに、
ふとそう思ったところから、今回の記事づくりは始まった。
イラストレーターである奈緒さんとであれば、
写真に頼らない記事ができるかもしれない。
さっそくわたしは彼女にお手紙を書いたのだった。
だいぶ長い前置きのあとに、奈緒さんにいまもっとも聞いてみたい質問を投げかけた。
奈緒さんには小学5年生になる息子さんがいて、
学校がお休みになっているなかで暮らしはどう変わったのか。
また、イベントなどが自粛となっているが、
イラストのお仕事も減っているのかなどについて質問した。
質問をしつつ、いまの自分の想いも書きつつ。
取材であれば、長々とした質問は絶対しないことにしているので
(自分は多くを語らない!)、いつもと勝手が違っているが、
少し絵も入れたりしつつ書き上げた。
そして……、奈緒さんに渡してみると(時間があまりなかったので、
今回はスキャンしてメール)、わずか1日でお返事が返ってきた。
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では、ここから、わたしの質問を間に入れて、
奈緒さんの言葉と絵を紹介していこうと思う。
文面を見て、わたしはうれしさがこみ上げた。
自分があれこれ想像しながら書いた手紙に、
こうやってイラスト入りで応えてくれるなんて(猫と鳥のやりとりがかわいい!)。
いままで仕事でイラストレーターに絵を依頼したことはあるが、
こうやって自分宛の手紙をもらうのは、特別なことのように感じられた。
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質問3で、わたしが話題に出した、北海道胆振東部地震のときに
奈緒さんが描いた絵についても、ここで紹介しておきたい。
奈緒さんは、仕事以外にも日記のように日々絵を描いている。
それは日常の風景だったり、好きな猫だったりするのだが、
この地震のときに描いたイラストレーションはひときわ印象的だった。
また、奈緒さんの活動で、もうひとつわたしが注目しているのが
オリジナルのグッズの制作。いまはもう売り切れになってしまっているが、
〈どうぶつマスキングテープ〉の、動物たちのリアルだけどかわいい感じに
とても心惹かれた(とくにエゾリス!)。
また、iPhoneケースもオリジナルでつくっていたりする。
グッズの形式によってイラストのタッチを変えていて、
デザインとしてもすごくすてきに仕上がっているところは、
いつも見習いたいと思っている部分
(わたしは、自分の出版活動のネットショップすら立ち上げられていない)。
さらに……。
このお手紙のやりとりをしていたタイミングで、
奈緒さんがLINEで『テレワークねこ』というマンガの公開を始めてくれたのだ!
地震のときのイラストに強く共感したように、このマンガも、
北海道でテレワークをする仲間として、続きがいまとっても気になっている。
普段の暮らしで感じたことを、さわやかな風のように
フワッと表現できる奈緒さんはすばらしい。
同じ市内に住んでいるなんて奇跡のよう(!)と、いつも私は感じている。
実は1年ほど前から、地元という同じ空気感のなかで
絵本を一緒につくれたら楽しいんじゃないかという
野望を持っている(わたしの小さな出版社で出したい!)。
これが、なかなか果たせないでいるのだが、あるとき一緒にごはんを食べたときに、
「來嶋さんが絵本をつくってみたいと言ってくれたことがきっかけになって、
小さな絵本ができたんですよ」と、オリジナル絵本を見せてくれたことがあった。
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奈緒さんのお手紙を受けて、さらにわたしはお返事を書いた。
本当だったら取材のまとめとなるような質問をと思ったのだが、
奈緒さんといつかやってみたいと思っている絵本のことを、ついつい書いてしまった。
いま、さまざまな未来の計画が立てにくい状況のなかで、
奈緒さんとの手紙のやりとりが新鮮で(!)、
またポジティブな未来を描くことで、なんとか前向きでいたいという
気持ちの表れだったのかもしれない。
再び手紙を受け取って、じんわり心が温かくなる想いがした。
とくにいまは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、
先行きが不透明で心が暗くなりがちだが、奈緒さんのお手紙にあったように、
絵を描くこととは、「誰かを幸せにする、わたしも幸せになれる」という言葉は、
まさにそのとおりだと思った(わたしは奈緒さんの活動を見てポジティブになれる!)。
そして、緊急事態宣言により、いろんなことが変わってしまったけれども、
想いのある者同士で本をつくってみるという活動は、
いつでもどんなときでも進められるんじゃないかという希望が持てた。
直接会えないという“制約”からスタートした往復書簡だが、
今回やってみて、さまざまな可能性が感じられたし、
会話とは違うコミュニケーションの深まりがあることもわかった。
一緒に記事づくりの方法を探ってくれた奈緒さんありがとう!
そして、照れながらも似顔絵(↓)も送ってくれて本当にうれしかったです!!
profile
Nao Sakamoto
坂本奈緒
さかもと・なお●北海道出身のイラストレーター。雑誌や広告の仕事とともに『いつものペンでかんたん、おしゃれ! 大人かわいいイラスト』(講談社)のようなイラストの描き方の書籍も多数。
2020年5月10日(21時)まで、Perch公式オンラインショップにてオンラインイベント「ネコとワタシと。vol.3」に参加。
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