連載
posted:2021.4.21 from:北海道岩見沢市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/
5年前から始めた地域をPRする活動〈みる・とーぶ〉。
展覧会やワークショップ開催など、さまざまな活動を行っているが、
重要な柱のひとつがマップづくり。
表面には美流渡(みると)とその周辺地域(東部丘陵地域と呼ばれている)の
全体マップがあり、中面には地域の人々の似顔絵が散りばめられている。
毎年、更新を続けていて今年で4回目。先月、改訂版がようやく刷り上がった。
中面の似顔絵には何人登場しているのかとあらためて数えてみたら、総勢118名(!)。
毎年、移住者などを加えていっており、充実した仕上がりになっている。
今回、一番大きくリニューアルしたのは、表面の地域紹介コーナーだ。
紹介しているエリアは上志文、朝日、美流渡、毛陽、万字など、
道道38号線沿いの20キロほどの区間で、
これまではそれぞれの地域の特性を文章で紹介する程度だった。
旅行者がふらりと来て立ち寄れるスポットがあまりなかったため、
簡単な紹介にとどめていたのだが、
今回「ひとやすみしたい場所があります!」というコーナーを設け、
旅ガイド的な役割も持たせようと考えた。
紹介したのは、飲食店が6軒、宿泊施設が4軒、体験施設が4軒。
著名な観光地に比べたら、本当にわずかしかないともいえるが、
4年前と比べると紹介スポットは倍に(!)。
訪ねる場所が本当に増えているなあと、
今回紹介コーナーをつくってみてしみじみと思った。
新たな拠点をつくったのは移住者たち。
自分で自分の仕事をつくり出そうという意識を持つ移住者は多く、
飲食店やゲストハウスなどが次々と生まれているのだ。
また、これまでは、駅から車で約30分かかり、
近くに大きなスーパーもコンビニもない不便な地域に何かをつくっても、
経営は成り立たないと考える人が多かったが、
20年以上前にできた森のパン屋〈ミルトコッペ〉には、
休日ともなれば行列ができているし、
スープ&スパイスカレーの店〈ばぐぅす屋〉にはリピーターが多く、
わざわざ訪ねてみたくなる場所となっているのではないかと思う。
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マップという特性からすると、今後はスマホなどに対応していくことも
考えていかなければならないが、紙に印刷することの重要性も同時に感じる。
SNSで情報を発信すれば多くの人に伝わると考えがちだが、
地域の主に年配の方々には、あまり情報が届いていないのも事実。
みる・とーぶマップは、近くの郵便局や商店などに配布をお願いしていて、
4年間でだいぶ地域にも浸透してきているのではないかと思う。
似顔絵の掲載をお願いすると「マップに載ってうれしい」と
言ってくれる人も出てきているし、マップ配布の際には
「新しいものができたんですね」と、みなさんが喜んでくれる。
おそらく、ウェブだけだと地域での認知度は低く、
こんなふうにコミュニケーションが広がっていくことはなかったのではないかと思う。
もうひとつ、みる・とーぶマップの刷り上がりと時期を同じくして、
地域の人々のインタビューをまとめた本
『いなかのほんね』(中西出版)が刊行されたことも、
紙媒体によるコミュニケーションの広がりが感じられる出来事となった。
『いなかのほんね』のできるまでは以前の連載で紹介したように、
北海道教育大学岩見沢校に通う学生らと共同で取材を行い、私が編集を手がけた本だ。
地域に移住してきたアーティストや工芸家のほか、
まちづくりに長年関わってきた地元の人たち10組を取材した。
先月刊行して、思いのほかご近所の人々が喜んでくれたことに私は驚いた。
10組の人生をインタビュー形式で収録しており、
「近所づき合いはしていたけれど、どんなことをやってきたのかは知らなかった、
本を通じて相手に対する理解が深まった」、そんな感想をくれた人が何人もいた。
これまでも地域の人々のインタビューは、コロカルで紹介してきたつもりだったけれど、
地元で読んでくれていたのはSNSでつながっている人だけだったことに気づかされた。
そしてこの本を、地元の商店さんがわざわざ入荷してくれたりと、
わが事のように大切に思ってくれていて、とてもうれしく思った。
この本で取材したアーティストのひとり、MAYA MAXXさんが、
こんなふうに言ってくれたことがある。
「道外の友人に、みる・とーぶマップと『いなかのほんね』を一緒に送ると、
地域のことがすごくよく伝わるね」
確かにMAYAさんの言うとおり、地域全体を俯瞰するマップと、
地域の人々をひとりひとり丁寧に掘り下げていくインタビュー集があることで、
この地域のムードが立体的にわかるのかもしれないと思った。
そして、つくっているときは特に意識はしていなかったけれど、
マップでは似顔絵というかたちで“人”にスポットを当てており、
また本でも10組の“人”を中心に紹介しており、
この地域の魅力はなんといっても人のおもしろさにあることが、
どちらにも貫かれているところが良かったんじゃないかと思えてきた。
そして、さらに思ったことは、決してこの地域が特別なわけではないということだ。
都会でも田舎でも、全国どこにでもユニークなチャレンジをしている人たちがいて、
その人生を深く掘り下げていくことで、必ずや相手の心を揺さぶるような、
思考や感性が現れてくるのではないかと私は考えている。
本で取り上げたのは、人口わずかに600人ほどのエリア。
その10組の言葉の中には、コロナ禍であってもしなやかに生きるヒントがあり、
彼ら彼女らが追い求めている暮らしは、閉塞感の漂う社会にあっても
何かしらの希望が感じられるものだった。
こうした人々の小さな物語を見逃さずに拾い上げていけば、
地域のすばらしさをあらためて発見できる機会は、あらゆるところに生まれるはず。
私はそこに、いま可能性を感じている。
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