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人の生と死にやさしく寄り添う。
今治タオルとMAYA MAXXの
絵本プロジェクト『タオルの帽子』

うちへおいでよ!
みんなでつくるエコビレッジ
vol.157

posted:2022.3.23  from:愛媛県今治市  genre:ものづくり / アート・デザイン・建築

〈 この連載・企画は… 〉  北海道にエコビレッジをつくりたい。そこにずっと住んでもいいし、ときどき遊びに来てもいい。
野菜を育ててみんなで食べ、あんまりお金を使わずに暮らす。そんな「新しい家族のカタチ」を探ります。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。
http://michikuru.com/

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

タオルにまつわる物語を公募し、絵本にするプロジェクト

私が住む美流渡(みると)地区に2020年に移住したMAYA MAXXさんが、
新しい絵本をつくった。
MAYAさんは画家の活動と並行して、これまでさまざまな絵本を刊行してきた。
その多くは、福音館書店の幼児向けのシリーズだったが、
今回の絵本は、それらとは異なる佇まいを持っている。

タイトルは『タオルの帽子』。
制作されたきっかけは、MAYAさんの故郷・今治でのプロジェクト。
今治はタオルの産地としてよく知られた地域。
高い品質を誇り、ブランドとして定着しているが、一方で後継者不足という課題もある。

そんななかで、『タオルびと』制作プロジェクト委員会が発足。
タオル工業の現場の声をインタビューする取り組みが行われ、
今年10年の節目を迎えた。これを記念して、
タオル工業のものづくりに関心を持つきっかけになってほしいとの思いから、
タオルにまつわる物語を公募し、そのうちの1点をもとに
MAYAさんが絵本をつくるという企画が生まれた。

MAYAさんは、動物をモチーフとしたシンプルなフレーズの絵本を多く描いてきた。

MAYAさんは、動物をモチーフとしたシンプルなフレーズの絵本を多く描いてきた。

昨年7月、『タオルびと』絵本プロジェクトと題して公募が行われ、
全国から100件以上の物語が寄せられた。
その中でMAYA MAXX賞に輝いたのが、伊藤幸恵さんによる『タオル帽子』だった。

この物語は、伊藤さんの体験とこれまでの活動を綴ったもの。
2006年に突然がんの告知を受け、闘病中に抗がん剤治療によって髪の毛が抜けた。
そのときに姉が送ってくれたタオルの帽子が、その後の活動を決定づけた。

3年後にがんが再発。治療の道を求めて講演会やセミナーへ通うなかで、
あるとき医療従事者たちが
「抗がん剤の副作用による脱毛にはタオル帽子が一番良い」
と口々に語っていたのを聞き、自身の記憶が蘇ってきたという。

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

毛髪が一本もない。眉もなく、まつ毛のない。
私にとって、その事実は、丸裸にされている様な、とても惨めで、恥ずかしく、
悔しくて、心がざわつき落ち着かない状態だったのだと思います。
タオル帽子を被った瞬間、全身がふわぁーとくるまれた様な優しさに、
安堵感が広がったのでした。

(『タオル帽子』より)

ここから、がん患者さんにタオル帽子を贈る活動が始まった。
タオルのメーカーに提供をお願いしたり、つくり手を募集したり。
約10年の活動で、協力者は100名以上、
これまで800枚以上を患者さんに届けることができたそう。

無我夢中で毎日が暮れることは、私にとってありがたく
不安からの脱出法でもありました。病を忘れ、熟睡できる。
それで十分でした。

(『タオル帽子』より)

授賞式にて。MAYAさんと伊藤幸恵さん(右)。

授賞式にて。MAYAさんと伊藤幸恵さん(右)。

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絵本の核となった言葉

Page 2

新たな表現の絵本に挑戦。描き直しを繰り返して

MAYAさんは公募作の中から、この作品を選んだ理由をこう語っている。

この作品を選んだ理由は、タオルが誕生や成長や喜びに
安心や心地よさを添えると同時に、涙や悲しみや病や死も
安心や心地よさで包んでくれることに気づかせてくれたからです。
人は生まれると同時にタオルにくるまれ、死の時もタオルに守られて最期を迎える。
人が生きる時間のいろいろな場面でタオルは人を癒し慰める。
タオルは私が思っていたよりずっと『物』を超えた『物』だと気づきました。
そして改めて日本一のタオルを作る今治が故郷だということを誇りに思いました。

(選評より)

その後、MAYAさんは伊藤さんから直接、公募作の背景にある思いを聞いたという。
対話が行われ、別れたあとに、もう一度伊藤さんが走り寄ってきて語った言葉が、
絵本の核となったそうだ。

「『タオル帽子を最初にかぶったとき、
子どもの頃お母さんがタオルで体を拭いてくれた
あの感じだったのよ』と伊藤さんは話してくれました」

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

北海道に初雪が降り始めた11月。
MAYAさんは絵本の制作に取りかかった。
初旬に足場台から転落して右肩を骨折。
手首と指先はかろうじて動かせたので、
「こんなときだから、机で描ける絵本を進めるよー」
と語り、骨折から10日後に、まず文章を書き上げた。

草稿を送ってもらって、目頭が熱くなった。
伊藤さんが体験を通じて感じたであろう心の揺れにMAYAさんが寄り添い、
そのエッセンスが絵本に凝縮されているように思った。
MAYAさんのこれまでの絵本と違う、新しい世界の扉が開かれたと感じられた。

しかし、絵はなかなか仕上がらなかった。
MAYAさんによると、これまでの絵本の絵は1週間くらいで描き上げていたが、
今回は、何度も描き直しをしたのだという。

骨折中でもMAYAさんは展覧会やイベントを実施。写真は道内の図書館を巡回した絵本『おらんちゃん』の原画展。

骨折中でもMAYAさんは展覧会やイベントを実施。写真は道内の図書館を巡回した絵本『おらんちゃん』の原画展。

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できあがった絵本は…?

Page 3

草稿ができてから2か月後、私がこの絵本の編集を担当することになり、
絵ができたから見てほしいとMAYAさんに呼ばれた。
アトリエに出かけていくと、普段よりも自信がなさそうな雰囲気で絵を渡してくれた。

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

『タオルの帽子』原案・伊藤幸恵 絵と文・MAYA MAXX

水彩色鉛筆を使い、色の淡い滲みを生かした絵だった。
MAYAさんはこれまでアクリル絵具を使い、
強い色調と大胆なタッチの絵を描いてきたが、そうしたものよりも弱々しく、
密やかな印象があって、物語にとてもあっていると思った。

けれど、そのうちの何点かは、
洗濯物を畳んだり、お母さんと娘がお風呂に入ったりと、
状況を説明しなければならないシーンで、
「人体の構造を考えることがまったくできない」と常々語っているMAYAさんは、
どう表していいのか考えあぐねているような感じだった。

このとき、ふたりで話しているうちに、
もっと表現をシンプルにしてはどうかということになった。
背景の部屋は描かずに人物だけが紙から浮かび上がってくるような表現にしようと、
6枚のシーンが描き直された。

修正された1枚。

修正された1枚。

こうしてできた絵と文を、昨年、東京から北海道東川町へ移住した
グラフィックデザイナーのセキユリヲさんにデザインをしてもらい、
静かで味わい深いページが生まれた。

授賞式の様子。

授賞式の様子。

「タオルの絵本を描くというのは、思ってもみないことでした。
でも、描いてみて、タオルの絵本を描くということは、
今治という地域を描くことなんだとわかり、そういう機会が持てて、
自分が故郷に貢献できたことがうれしかったです」(MAYAさん)

3月13日に今治で行われた授賞式で絵本は披露された。
以後、今治市立図書館のHPで、4月12日まで公開されている。
ウェブ上で公開するにあたってMAYAさんの朗読が添えられている。

『タオルの帽子』は2022年4月12日17時まで公開中。

『タオルの帽子』は2022年4月12日17時まで公開中。

MAYAさんの朗読を聞きながら絵を見ていると、伊藤さんの心の揺れが、
言葉だけでなく、その絵からも丁寧に表されていることがわかってくる。
そして、不安や恐怖を超えた先に見える希望が、
あふれ出る色彩と重なるシーンに息を呑む。

『タオルの帽子』は、タオルがテーマになっているが、それを超えて、
子どもの頃に味わったことのある安らかな気持ちや
子どもを産んで感じた驚きや喜びを、再び思い出させてくれる。

これは伊藤さんの物語であり、MAYAさんの物語であり、
もしかしたら自分自身の物語でもあるのかもしれない。
読むたびに、そんな不思議な感覚が湧き起こってくる。

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