連載
posted:2022.2.25 from:宮崎県日南市 genre:活性化と創生 / アート・デザイン・建築
〈 この連載・企画は… 〉
地方都市には数多く、使われなくなった家や店があって、
そうした建物をカスタマイズして、なにかを始める人々がいます。
日本各地から、物件を手がけたその人自身が綴る、リノベーションの可能性。
profile
Junzo Onitsuka
鬼束準三
おにつか・じゅんぞう●PAAK DESIGN株式会社代表取締役。1983年宮崎県日南市生まれ。大学進学とともに東京に移住し、大学院、設計事務所を経て、独立したのち、Uターンで故郷に帰る。商店街活性化のための取り組みをしていた〈油津応援団〉を経て、2017年、日南市の飫肥城下町にある建築デザイン事務所〈PAAK DESIGN〉を設立。地域資源を生かした循環型の仕組みをつくることを常日頃考えている。自転車いじりとコーラづくりが趣味。
https://paak-design.co.jp/
credit
写真提供:ワタナベカズヒコ 酒生哲雄 パークデザイン株式会社
編集:中島彩
宮崎県日南市で建築デザイン、宿泊や物販など、幅広い手法で地域に関わる、
〈PAAK DESIGN株式会社〉鬼束準三さんの連載です。
今回は、産業廃棄物として処理されてきた古材を引き取りストックする、
古物事業〈PAAK STOCK〉の取り組みと、
そこから派生したオンラインショップ〈PAAK Supply〉がテーマです。
東京にいた頃、当初は新築の仕事が多かったのですが、
次第に空間ストックを生かした案件が増えていました。
そして地元にUターンすると、地方都市のほうが
空き家、空き店舗が加速度的に増えていて、
リノベーション案件に対面することが多くなりました。
解体され、廃棄されていく空間や多くのモノたち。
まだまだ使えるし、見方によっては価値があるのに……と思いながら、
使い道がないことやストックする場所がないという理由で、
産業廃棄物として処理するしかありませんでした。
いよいよ、これはなんとかしなければ、と思ったことがありました。
以前にご紹介した〈武家屋敷伊東邸〉の復元工事に携わったときです。
旧藩主であった伊東家の分家が代々住み継いだ築120年超えの建物。
主要部分の劣化がひどく、解体して新しい材料で復元する計画だったので、
いつもどおり既存の材料は処分される予定でした。
ところが、現場に何度も通うなかで、
まだ使えそうな材料もどんどん捨てられていくのを目の当たりにし、
そのままではいられませんでした。
100年以上前の当時の大工さんが技術を尽くして切り出し、
住み継ぐなかで丁寧にメンテナンスされてきた材料や家具。
現代の先端技術をもってしても、この100年の歴史や情緒を
身にまとうものをつくることはできません。
これはどうしても捨てることができない! と、
自分が運べる分だけでも引き取ることにしたのが最初のアクションでした。
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その後も携わるリノベーション案件が増えるにつれ、
引き取る古材や古家具も増えていきました。
はじめは実家の倉庫や車庫に置いていたのですが、次第に祖父の家まで侵食し、
畑にシートをかけて置いたりして、なんとか保管するという状態。
うれしいことに、自社のリノベーション案件で古材を活用する提案をすると
クライアントからの受けは良いのですが、
いざ使うときは、車を移動させて倉庫の奥から運び出し、
スタッフと一緒に泥まみれになって洗い、また車を戻すという、
かなり効率が悪い状況でした。
いよいよ設計業務と古材洗いと古材引き取りのバランスを崩しかけたとき、
ある情報が入ってきました。
事務所のある飫肥(おび)エリアに何年も空き物件化していたパチンコ屋があり、
その大家さんが借り手を探しているとのこと。
飛びつくようにその空きパチンコ屋を借り、散り散りになっていた古材や古家具を、
事務所の近くに集めることに成功しました。
その広さは80坪。実家の車庫で溢れかえっていた古材をすべて収めても、
まだまだ入る余地があります。この場所に、飫肥城下町エリア内に眠る
遊休古材を集めたら、モノとお金が緩やかに動き、
地域内にポジティブな循環が生まれるんじゃないかと考えました。
既存の古材の引っ越しは無事に完了。
さらに、チラシでの告知や知り合いの業者さんたちの協力もあり、
地域内だけでなく県外からも少しずつ古材や古家具が集まってくるようになりました。
しかし、ストックしておくだけでは家賃や電気代がかかるばかりで、
循環は生まれないので、何か収益を生むような取り組みを考えることにしました。
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設計事務所である〈PAAK DESIGN〉が始めた古材のストック。
デザイン会社のノウハウを生かすかたちで新たな事業ができないかと考えました。
まず、リノベーションの案件で積極的に使っていくこと。
私たちが設計する際は、場所と建物の文脈を読み、
そしてクライアントの要望に合わせてストーリーを組んでいきます。
古材を使うことでオリジナルの空間に仕上げ、
古材と空間の掛け合わせを表現することができると考えました。
次に、ストックを活用したオリジナルのプロダクトを生み出すこと。
PAAK DESIGNでは、地域の遊休資源を活用したものづくりも行っています。
例えば、県産杉を使った食器や家具、
飫肥城下町の石垣に使われている石材を使った料理用のプレートなどです。
そのノウハウを古材にも応用して、古材の持つ歴史やストーリーを生かした
企画・デザインを行い、プロダクトとして仕上げます。
古材のストック事業を考えるにあたって、複数の事業で成り立つ会社の全体像、
そしてPAAK DESIGNのビジョンをあらためて思い描いてみました。
リノベーションと地域ものづくりとストックという主に3つの事業があり、
そのどれもが地域の課題に対応していく内容です。
リノベーション(RENOVATION)は「空き家・空き店舗の解消」、
地域ものづくり(CRAFT)は「地域内の遊休資源の活用」、
古材ストック(STOCK)は「廃棄物の削減と歴史の継承」というように、
3つの要素が関係し合いながら、パークデザインの骨格をつくっていきます。
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そんな3つの要素をベースに、
古材ストックを生かした事業を展開できないかと模索するなか、
2020年3月には新型コロナウイルスの感染拡大によって
リノベーション案件にも影響が出始めました。
担当していた物件が軒並み、予算の大幅削減や、店舗開発の中止、
ペンディングという状況に陥っていきます。
社会全体が混乱するなかで、一番最初に打撃を受けたのは飲食業でした。
リノベーションで関わった店舗も例に漏れず、休業や自粛を余儀なくされる状態に。
創業以来初めて時間に余裕ができ、
少しでもこの状況を改善できないかといろいろ考えました。
これまで関わってくれた飲食を中心とした事業者と連携できる取り組みができないか。
そして自社としても受注だけに頼らない新しい事業ができないか、
と考えて生まれたのが、オンラインショップ〈PAAK Supply(パークサプライ)〉です。
地域の魅力を届けるセレクトショップとして、
地域のお店がつくる商品と自社の製品をセレクトして販売することにしました。
ゴールデンウィーク明けから急いで準備を開始し、
6月中旬にはオープンさせることができました。
PAAK Supplyも地域のリアルな課題に対応する仕組みとなっています。
地域の飲食業界のほとんどが小規模な個人経営の店なので、
「時間がない」「そもそもやり方がわからない」「個店では波及効果が薄い」など、
オンラインショップを持つことはハードルが高く、
さらに新型コロナの影響で営業できない時期が多くなり、
こだわりを持ってつくり上げた商品をお客さんに提供できない状況でした。
これらの状況をPAAK DESIGNが運営するオンラインショップを通してサポートし、
さらに、個店がつくる地域の魅力が詰まった商品と
自社の商品を併せて全国に発信できる仕組みとしました。
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それまで自社で開発した商品はいくつかあったものの、
オンラインショップに並べてみると、
ショップとして魅力を感じるには程遠い商品数しかありません。
まずはSNSを立ち上げて小まめに発信しつつ、
ウインドウショッピングが楽しめるくらいの商品の拡充を図ることにしました。
コロナ禍で充実した巣ごもり生活が過ごせるよう、
古材ストックを生かした生活雑貨や小物を中心につくろうと、
デザインしては試作、使用感の検証、商品化、と
トライアンドエラーを繰り返していきます。
そんななか、みかんやレモンをつくっている知り合いの農家さんから相談を受けました。
つくっているレモンの中で、市場に出せない規格外品をどうにかできないか?
というものです。
農産物の相談は初めてでしたが、あれこれ考えた結果、
日南のレモンの魅力を引き出す商品として、
最近流行り始めた「クラフトコーラ」を開発することに。
製造許可を得るための設備導入に費用がかさむので、レシピと商品企画は自社で行い、
製造はOEMで近くのシロップ製造所に委託することにしました。
地域課題解決を目的としたオリジナルのコーラ、〈パークコーラ〉の誕生です。
こうして、地域のお店がつくる食品のほか、
PAAK STOCKによる古材を使ったアクセサリー、クラフトコーラまで
商品のラインナップが増えてきました。
オープン以降、巣ごもり需要のため日用的な商品が人気で、
クラフトコーラの売れ行きも好調です。
PAAK Supplyを通じて日南の魅力が全国に散りばめられ、
少しずつ浸透していくような気がして、うれしく思っています。
現在、この大きなストックを少しグレードアップさせる計画を企てています。
場所を整えることで、ただ古材をストックする場から、
お客さんに直に古材の魅力を感じてもらえる場所として、
まちに開いていきたいと考えています。
まだまだ準備の段階ですが、2022年4月30日(土)にオープンする予定です。
社内の少ない人数で、この広い場所をどのように運営できるか。
議論を重ねた結果、月に1〜2回倉庫をまちに開き、
ワークショップやイベントを開催しながら
ストック活動について発信していこうと計画中です。
古材や古家具、古道具などを通して、
地域の歴史や魅力を感じてもらえる場所にしていきたいと思います。
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PAAK STOCK
パークストック
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PAAK Supply
パークサプライ
Web:オンラインショップ
*価格はすべて税込です(2022年2月時点での価格です)。
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