アートって意外に身近にあるもの。
あなたのまちにも、きっともっと気軽にアートや
アーティストに出会える場所があるはず。
そんなまちのアートスペースやオルタナティヴスペースを訪ねます。
東京・吉祥寺の生活を守るアーケード街「サンロード」を抜けた住宅街にある
〈Art Center Ongoing〉。
1階のカフェではアーティストや美術関係者、鑑賞者などが語らい、
2階では現代アートの展覧会を開催している、小さくて熱いアートセンターだ。
10周年を迎え、記録集『Art Center Ongoing 2008-2018 現在進行形の10年間』が
1月末に発刊された。230本を超える展覧会、
それを支える日々の記録がずっしりと詰まっている。

記録集『Art Center Ongoing 2008-2018 現在進行形の10年間』。クラウドファンディングで250万円集めて実現した。
それぞれに型破りな、未成熟と可能性が渾然一体となった若手アーティストたちが、
これまでにない実験的な表現形態に挑戦できる、
美術館でもギャラリーでもない第3の場「オルタナティヴスペース」として
2008年10月にスタートした。
さらに近年では国内外からのアーティスト・イン・レジデンスも実施。
アーティストたちの人生にも、家族をもつなど、いろいろな変化があった。
ディレクターの小川希さんがアートセンターに着目したのは、
なんと高校生の頃。兄の小川格さんが絵画制作していたベルギーを拠点に、
お金を貯めて2か月間ヨーロッパをバックパックで回っていたときのことだ。
「地方の都市やまちに行くと、大小さまざまなアートセンターがあって。
そこにはギャラリーやカフェがあり、映像作品の上映や演劇、
週末には音楽ライブやシンポジウム、ワークショップなどが開かれていた。
老若男女が集まり、おじいちゃんとおばあちゃんがコーヒーを飲んでいる横で、
若者が芸術談義をしたりしていて、豊かだなあと」
一方、なぜ日本にはアートを中心にして市民が集う場がないのだろう。
ないなら自分でつくろう、と夢を抱いた。

Art Center Ongoingディレクター、小川希さん。
スペースを立ち上げる前の2002年から2006年には、
公募展『Ongoing』を場所を変えながら開催。
応募作家がひとり10票もらえて、ほかの作家たちの前でプレゼンテーションし、
おもしろいと思った作家に投票する。
キュレーターを立てずに、作家が作家を選ぶというかたちの展覧会だ。
「僕の大学生時代である90年代は貸しギャラリーの全盛期で、
10~20万円ほど賃料を払って展示は約1週間、見に来るのは主に友人や親族で、
たまに批評家に認められて『美術手帖』に載ると一喜一憂するみたいな状況で。
もっと社会とアーティストが恒常的につながれないかと考えていました」
その後、「お祭りのようなものではなく、アートの実験など
何かいろいろなことが恒常的に起こっている場所をつくりたい」と、
1階は店じまいした喫茶店で、2階はバーのママの住居だった建物と出会う。
改修工事は、のべ約100人の友人作家のうちから交替で、
ガスや水道などのインフラ以外、ほとんど自分たちの手で3か月かけて改装を行った。

1階のカフェ。カウンターには淺井裕介が描いた絵が残っている。

パスタやカレーなどフードもおいしい。黒板に書かれている以外にもさまざまなメニューがある。
吉祥寺を選んだのは、西側に多摩美術大学など美術大学が複数あり、
多くのアーティストは卒業後も同じ地域でスタジオを構えているからだ。
東側から観客が来られるギリギリの接点でもある。
「僕が中高生の頃は現在より人通りが少なく、ジャズの喫茶店や古着屋など
個人商店が多くて、ほかのまちと違う魅力を感じていました。
それが10年前頃から小さな店が閉まっていき、チェーン店などが進出して
まちが均一化してきちゃった」
そんな状況が進むなか、映画館〈バウスシアター〉では、
現代美術のフィールドで活躍する泉太郎、鈴木光ら10人のアーティストによる、
10分の映像作品の上映プログラム『10x10』を上映。
2014年、惜しまれながら閉館した際には、アーティスト淺井裕介が
壁画を描きつくした。

2階にギャラリー。取材時は、友人の死や恋人との別れを経て生きることに向かった田中義樹『ワイン』が展示されていた。