石川県を拠点に、住宅・オフィス・店舗のリノベーション、不動産事業などを展開する、
〈SWAY DESIGN〉永井菜緒さんの連載です。
今回は金沢市本多町にある築約50年の3階建てRCマンションの改修事例をご紹介。
改修前の稼働率は12戸中6戸で、建物の残存価値はなく、
ほぼ土地値に近い価格で販売されていました。
そんな収益性の低い物件はなかなか買い手がつかず、
家賃を下げても入居者は集まりません。
しかし、いまでは満室稼働の人気物件に。その経緯を振り返ります。
〈SWAY DESIGN〉を立ち上げて3年を過ぎた頃、
東京・石川の2拠点生活をしていた時期がありました。
石川で仕事を続けることに迷いが生まれ、
独立前に東京でお世話になっていた会社を手伝いながら、石川と行き来する日々。
そんななか、東京で担当していた案件で施工をしていた
建設会社の会長さんと出会います。
それがその数年後に本物件のオーナーとなるYさんです。
当時Yさんには、東京の現場の合間に、事業を継続していくことの難しさや
技術面での悩みなどを聞いていただき、ときには叱られながら、
自分に足りない知識と意識を叩き込まれる日々でした。
東京からUターンして個人事業主になったものの、少しだけ弱気になり
「石川の事務所を引き払って、また東京で正社員として勤め先を探そうかな」
と考えていた時期でしたが、このYさんとの出会いが
SWAY DESIGNにとっての大きな転機を生むことになりました。
東京の仕事が竣工し、石川へ一時帰省していたとき、
Yさんから久しぶりに連絡をいただきました。
「知人から金沢のマンション売買の相談を受けて金沢に行くから、
一緒に物件を見てほしい」とのこと。
金沢駅近くの高層分譲マンションでしたが、劣化が激しく、その物件の話は中止に。
でもせっかく金沢に来たのだからと、地域を案内しながら話していると、
首都圏と地方都市の物件価格の違いや
不動産市場がどうあるべきかの議論で盛り上がります。
そして「再生できる可能性があるのに、
前例がないために動き出さない建物の利活用事例をつくろう」と、
新たな物件探しにのりだしたのでした。
複数の内見を経て見つけたのが、〈本多町コーポ〉です。

売却時の状態。塗装が剥がれ、手すりには錆が浮き、舗装はガタガタで草が生えている。
金沢市本多町にある昭和47年築のRC3階建て、全12室の賃貸マンション。
諸事情で不動産会社が買い取り、投資物件として一棟売りされていました。
古いうえに長い間修繕されておらず、雨漏りがあり、水道からは錆水が出る始末。
一部の居室は空室のまま賃貸にすら出ておらず、それ以外は倉庫としての賃貸。
実際に人が住んでいるのは、3室のみでした。

当時の室内の状態。和室2室の2DK。
投資物件として売却されていましたが、劣化が激しく、
改修費を概算するのも難しい建物。
駐車場が不足しているエリアなので、解体して月極駐車場にする選択肢もありましたが、
土地の形状的に効率よい配置計画ができません。
解体費用を考えると、超長期的な回収計画になります。
購入してもそのまま使えず、解体しても収益が出にくく、
誰も手が出せず放置されている物件。ほかの物件と比較検討した結果、
前例のない空き物件の活用事例をつくるため
「難易度が高いからこそ、ここに決めよう!」と、
自ら苦労を買うような道のりを歩み始めたのでした。
オーナーはYさんであり、私は建築士という役割分担。
Yさんは所有権の移転手続きを無事に終え、
私は契約前に調べていた物件の状況をより綿密に調査。
建設会社の代表でもあるYさんは自ら現場監督を担い、
ふたりで協力して調査、計画から工事へと進むことになりました。