連載
posted:2021.1.23 from:三重県四日市市 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
sponsored by BESS
〈 この連載・企画は… 〉
ライフスタイルの基本は、やはり「家」。
ログハウスなど木の家を得意とする住宅ブランド〈BESS〉とともに、
わが家に好きなものをつめこんで、
最大限に暮らしをおもしろがっている人たちをご紹介します。
writer profile
Masahiro Sugiyama
杉山正博
すぎやま まさひろ●編集者・ライター。金沢の出版社、東京にある雑誌『自休自足』の編集部を経て、2009年独立。2016年秋から、地元・愛知にUターン。著書に『ふだんの金沢に出会う旅へ』、『レトロカーと。』(ともに主婦の友社)などがある。名古屋は、何かと魅力がないと言われがちですが、海も山も意外と近く、素敵な人も多い。名古屋を含め東海地区の魅力を、発信していけたらと模索中!https://12sugiyama.hatenablog.com/
photographer
撮影:石阪大輔(HATOS)
JR四日市駅から、鈴鹿山脈のほうへ向かって車で15分ほど。
大通りから1本入った静かな住宅街に、
伊藤芳樹さん、恭子さん、碧泉(あおい)くん、愛犬のかんぱちが暮らす住まいはある。
〈BESS〉の〈WONDER DEVICE〉は暮らしを楽しむための“装置”というコンセプト。
なかでも伊藤家が暮らす「PHANTOM(ファントム)」は
一面がガルバリウムの外壁に囲まれ、
外からは様子がうかがい知れない怪しげなムードが特徴的だ。
家の前には、切りそろえられた薪が太さや樹種ごとに整然と積まれ、
その上では、先日入手したばかりだというグリーンのカナディアンカヌーが存在感を放つ。
枕木を敷いたアプローチには、端材でつくったポストや流木の手すりが取り付けられ、
この数メートルを歩いただけでも、
伊藤さん一家が、この家での日々を楽しむ様子が伝わってくる。
「ここはぼくが積んだんだよ!」と、
薪棚の一角を指差す碧泉くんに続いて玄関へ向かうと、
芳樹さん、恭子さんが出迎えてくれた。
一歩中に足を踏み入れると外観のクールな印象とはうって変わって、
木の温かみあふれるやさしい空間が広がっている。
「ダイニングテーブルと椅子以外は、ほとんど自分でつくりました」
そう芳樹さんが話すとおり、リビングのテレビボードから琉球畳の小上がり、飾り棚、
2階ワークスペースのカウンターや、子ども部屋の秘密基地のようなロフトまで、
7年間にわたりコツコツとつくってきた家具や雑貨が、空間を彩っている。
それだけではない。
5年ほど前から親子で毎月のようにキャンプに出かけている芳樹さんは、
テントやタープ、ローチェアなど、キャンプギアまでも自作して楽しんでいる。
「先日、ついに家庭用の溶接機も導入し、鉄の丸棒で『焚き火ラック』をつくったんです」
何かほしいものがあるとき、まずは自分でつくれないか、
調べることが習慣になっているという芳樹さん。
「彼は好きになるとのめり込むタイプで、以前、釣りにはまったときも、
竹を削って釣り竿を手づくりして、『売ってほしい』と頼まれるほど上達していました」
と恭子さんは話す。
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家具やキャンプギアなどの大きなものから、カバンやスマホケースなどの小物まで、
なんでも手づくりしてしまう芳樹さんだが、
実は子どもの頃はプラモデルもつくったことがなく、図工も苦手だった。
そんな芳樹さんが、手づくりの楽しさに目覚めたのは、大人になってから。
「仕事で知り合った建設会社の親方がかわいがってくれて、
工具の使い方などを教わるうちに、ものづくりに興味が湧いてきたんです」と振り返る。
最初に挑戦した本格的なDIYが、なんと恭子さんのお店というから驚きだ。
恭子さんは25年にわたり、
オーダーメイドでブーケや空間ディスプレイを手がける
フラワーショップ〈花舎 エンジェルブーケ〉を営んでいる。
碧泉くんが誕生したこともあり、家を建てようと思っていたこの土地の近くへ移転を検討。
そのとき候補に挙がったのが、隣に建つ芳樹さんの実家のガレージだった。
「1階の一部を使ったビルトインタイプの駐車場だったのですが、
土間と柱しかなかったところに、荒材の壁板を貼ってアンティークのドアをつけたら、
まるで山小屋のような空間ができ上がって、『いけるやん!』と思って」(芳樹さん)
「結納金代わりに格安で建ててもらったんです」と恭子さんは笑う。
こうして火がついたDIY熱を、いっそうヒートアップさせたのが、
2013年3月に完成したこの家だ。
木に囲まれたBESSの家は手を加えやすく、
「自然と何かをつくりたくなってしまう」と芳樹さんは笑う。
「私は、ハウスメーカーの家にも住んだことがあるのですが、
一般的な家は建てたら完成で、後から手は加えにくい。
けれど、BESSの家は建ててからがスタートで、
どんどんと自分たちらしく変えていけるんです」と恭子さんも言う。
とはいえ、キッチンに可動式の棚や作業台をつけたりするだけでなく、
2階の部屋の壁に穴をあけて室内窓を設けたりと、
芳樹さんのDIYはときとしてなかなか大胆だ。
高い買い物である「家」に対して、ためらいなくあちこちに手を加えていく芳樹さんだが、
恭子さんはこう話す。
「実は私は昔、大病をしたことがあるんです。支えてくれた夫への感謝はもちろん、
その経験で人生観が大きく変わりました。
怒らなくなったし、好きに生きる大切さを痛感した。
だから夫にも自由にしてもらっています(笑)」
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BESSの家に住み始めて2年ほどは、木工作業に熱中していた芳樹さんだが、
ある日、実家で母親が使っていた高性能なミシンを目にする。
「これを使えば、キャンプ用のタープをつくれるのでは」とひらめき、
3色のポリエステル生地を縫い合わせ、6×3.5メートルの大きなタープを自作したのが、
キャンプギアをつくり始めたきっかけだ。
続けて、市販のテントを参考に、冬用のテントを自作。
さらに、自ら図面を描いて大きな夏用のテントもつくり上げた。
このほかテーブルやローチェア、コンロ用の棚など、
必要な道具はほぼすべて手づくりしている。
そのDIYマインドの源について尋ねると、
「“人と同じ”がイヤなのかもしれません。自分でつくれば誰かとかぶることはないし、
サイズや色、使い勝手なども、思いどおりに仕上げられる。
だから、キャンプ場で『このテント、どこのですか?』と聞かれると、
無性にうれしいんですよね」と芳樹さんは笑う。
簡単に組み立てや分解ができ、持ち運びしやすいように、
試行錯誤を重ねてつくったキャンプギアを、
実際にキャンプ場で使うときはもちろんうれしいが、
それだけではなく、自宅のワークスペースで、
ああしようこうしようと構想を練っているときも、必要な材料や道具を調べているときも、
すべてが楽しくてたまらないのだ。
「もしかしたら、使う瞬間よりも、つくることのほうが好きなのかもしれません(笑)」
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「なんか削りたい!」という碧泉くんに、小刀を手渡す芳樹さん。
すると、碧泉くんは小刀の刃を左手の親指で上手に押し上げながら、
シュッシュッシュと木の棒を削っていく。
「私が木を削ってスプーンをつくっていると、
横で真似して一緒に削ったり、段ボールで自動販売機みたいなものをつくったり、
碧泉も常に何かつくっていますね」(芳樹さん)
これまで数々の家具を手づくりしてきた芳樹さんが、新たに製作したのが、
リビングに置かれた琉球畳の小上がりと、その横に取り付けた目隠しも兼ねた飾り棚だ。
「以前、ここにはテレビに向かって3人掛けのソファが置いてあったのですが、
どうしても背もたれで空間が仕切られている感じがあって。
ソファに座ると、ダイニングに背をむけた状態になるのも原因かなと思っていました。
それを、この畳の小上がりに変えてからは、好きなほうを向いて座れるので、
ここで過ごす3人の一体感が高まりました」(芳樹さん)
現在、畳の小上がりの使い勝手にはとても満足しているが、
また何年後かに伊藤家を訪れたら、
リビングには違う自作の家具が置かれているかもしれない。
そうやってライフステージの変化に合わせて家具を手づくりしていくことで、
暮らしを無限に楽しむことができそうだ。
畳の小上がりの下は、すべて収納になっていて、引き出しひとつ分を碧泉くんが使用。
そこを覗くと、段ボールや空き箱、ラップの芯など、
工作の材料がぎっしりとストックされていた。
「碧泉から、『セロハンテープ買ってきて!』って何度も頼まれます」と苦笑しながらも、
うれしそうな芳樹さんは、毎年碧泉くんの誕生日やクリスマスには、
子ども部屋のロフトベッドや学習デスク、本棚、筆箱など、
手づくりのものをプレゼントしている。
やはり息子は父の背中を見て育つのであろう。
芳樹さんのものづくりDNAは、しっかりと碧泉くんに受け継がれているようだ。
一方、「お父さん」のものづくりはさらに先に進む。
碧泉くんのために一枚板を削って新たにつくり上げたのが、カヌーのオールだ。
春までには、自分用のオールも手づくりして、
県内にある桜が舞うダム湖にカヌーを漕ぎ出したいと企んでいる。
その次は、駐車場のスペースを生かして小屋を建てたい。
キッチンカウンターにタイルも貼りたい。
この家の2階にあるワークスペースで、そんな計画を練っているときが、
「やっぱり何よりも楽しい!」と芳樹さんは微笑んでいた。
芳樹さんのものづくりの想像は、家から遊びへと、無限に広がっていく。
大きな遊び道具のような家を家族の基地にして、
伊藤家は誰にも遠慮なく毎日を楽しんでいる。
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