連載
posted:2021.3.8 from:神奈川県小田原市 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
sponsored by BESS
〈 この連載・企画は… 〉
ライフスタイルの基本は、やはり「家」。
ログハウスなど木の家を得意とする住宅ブランド〈BESS〉とともに、
わが家に好きなものをつめこんで、
最大限に暮らしをおもしろがっている人たちをご紹介します。
writer profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer profile
Ryosuke Kikuchi
菊池良助
きくち・りょうすけ●栃木県出身。写真ひとつぼ展入選後、雑誌『STUDIO VOICE』編集部との縁で、INFASパブリケーションズ社内カメラマンを経てフリーランス。雑誌広告を中心に、ジャンル問わず広範囲で撮影中。鎌倉には20代極貧期に友人の家に転がり込んだのが始まり。フリーランス初期には都内に住んだものの鎌倉シックに陥って出戻り。都内との往来生活も通算10年目に。鎌倉の表現者のコレクティブ「全然禅」のメンバー。
http://d.hatena.ne.jp/rufuto2007/
家の裏には田んぼが広がっていて、遠くには丹沢山系を望むことができる。
夜になると、その手前に2両だけのJR御殿場線がぼんやりとした光を放ちながら走る。
この家に住む松本茂高さん・弘美さん夫妻からそんな話を聞くだけで、
この場所の魅力が伝わってくる。
1年半ほど前、神奈川県小田原市に
〈BESS〉の「倭様(やまとよう) 程々の家」というモデルを建てたのは、
土地からの影響が大きかったという。
「初めてLOGWAY(BESSの展示場)に行って、1週間後には決めていたかな。
ほかのモデルも検討したんですけど、
この土地、そして自分たちの年齢やライフスタイルを考えると
『倭様 程々の家』という選択になりました」と言う茂高さん。
奥様の弘美さんも「初めて見にきたときは夏の暑い日の夕方で、
山のほうからすごく気持ちいい風が吹いていたんですよね」と、
この場所に決めた理由を教えてくれた。
かつて小田原市のまちなかに住んでいたときは、
「家の中にしか居場所がないからどこかに行きたくなって」月1回くらいは
旅行していたという。
しかし今は室内から土間、庭や広縁(ひろえん・奥行きのある縁側のこと)といった
内と外がゆるやかにつながる敷地全体が居場所となり、
「暮らし面積が広がって」あまり遠出をする必要がなくなったそうだ。
「特に最初の1年間はとにかく庭づくりが楽しくて、一日中、庭で過ごしていました。
誰よりも日に焼けていましたよ。
家を建てて完成ではなく、5年、10年かけて充実させていくつもりです」
立派な木ではなく、まだ細い木が多いのはそのためだ。
これから木が生長し、根を張って葉が生い茂る。
夏は木陰をつくり、冬は葉が落ちて日が差す。そんな木々の生長を楽しむ。
家を建てる前は森の中の別荘がほしいと思っていたというが、
家を建てることが決まると「自分の庭に雑木林をつくろう」と発想を転換。
「広縁の前を中心に植えています。木は1本ではなかなか育たない。
本来はいろいろな雑木を植えて初めて、正常に育つもの。
根がネットワークになって情報伝達しているんですよね。
これから伸びてきたら剪定など大変ですけど、それはこれからの自分の楽しみです」
木が順調に育っていけば、夏はサンシェードの代わりになる。
ちなみに通常のサンシェードはそれ自体がかなり高温になってしまうという。
「真夏の日差しが強いときにサンシェードの裏側の温度を計ると、
40〜50度になっていることもあります。しかし葉っぱの裏側を計ると28度くらい。
葉には蒸散作用があるので、天然のミストシャワーみたいなものです。
これで夏も快適に過ごせるとイメージしています」
本当の完成は数年後になる。
しかしそもそも、その年月が自然とともにある暮らしの本質なのかもしれない。
Page 2
BESSの家は手間のかかる暮らしを楽しむユーザーが多いが、それは茂高さんも同様。
庭の造園の経験もなかったが、自分の手でやってみる。
茂高さんはとにかく「まずやってみる」性格だという。
やってみて失敗したら、それはそれでいい。
「何事においても、基本的に勉強しません。
技術を習得してからやるということが昔からできない」と笑う。
その最たるものが「アラスカ行」だ。
なんと、初めての飛行機、初めての海外、初めてのキャンプがアラスカだというのだ。
ちょっと笑い話では済まされないような驚きの経験を語ってくれた。
「26年前、写真家の星野道夫さんに憧れて、バックパックひとつでアラスカに行きました。
テントの張り方もわからないレベルで。熊も出たりして、すぐ帰りたいと思いましたよ。
そのときはとても大変だったんですけど、
気がつけば翌年も2週間ほどユーコン川下りに行っていました。
もちろんカヤックの漕ぎ方もわからないからうまくまっすぐ進むことができず、
ずっとジグザグに進んでしまって。800キロの川下りだったので、
血だらけの手でその倍くらい無駄に漕いでいたんじゃないかな(笑)」
普通ではない体験をさらりと話す茂高さん。
ちなみに星野道夫さんは、テントでクマに襲われて死亡した。
同じ運命を辿っていてもおかしくない。
しかし、やってみないとわからないという好奇心が恐怖を上回る。
その翌年はさらにレベルアップして北極圏に行ったという。
「組み立て式のカヤックをアンカレッジ(アラスカの拠点となるまち)で買いました。
一応、まちで先に組み立ててみたんですけど、パーツがひとつ余ってね。
でもまあ、だいたいできたからいいやって(笑)。
チャーターしたセスナに乗って、ある地点で降ろしてもらって、
“3週間後、次の地点に迎えにくるから”と、その地点に向かう旅。
でも実は途中の地図が1枚足りないことに、そのときは気がついていなくて。
よく辿り着いたなと。アラスカのキャンプと北極圏はレベルが違いましたね」
笑顔で話してくれるが、内容はなかなか凄まじい。
ともあれ、これ以降、毎年アラスカを訪れ、どんどん土地の魅力を掘り下げていく。
毎年変わらず、ほかに浮気することなく、アラスカを訪れる。その魅力はなんだろう?
「毎回、帰るときに“あれやりたかったな”と後悔しながら帰ります。
“もっと見たい、もっと行きたい”の繰り返しです。
例えば、今まではただ川を下っていたけど、今度は途中で見えた山に登ろうとか、
あの山の向こうにはどんな光景が広がっているんだろうとか。
慣れはするけど、飽きはしないですね」
Page 3
どうやら茂高さんはひとつのことを突き詰めるタイプだ。
日本百名山でも、「100の山を登るのもいいけど、ひとつの山を100回登ってもいい。
自分にはそっちが合っている」という。
「何をするにしても、自分でやってみないと信用できないんです。
知識はいくらでも入れられるけど、実体験をしないと知識として定着していかない。
そういう体験ができるのがアラスカだったんです」
この家の場所を決めたときも、下調べも準備もしてこなかった。
しかし現地にきて、「風が気持ちいいな、ここにしよう」と直感で決めた。
「あまり考えすぎると、やめてしまうんです」と言う。
身近において「自分でやってみないと理解できない」という最たるものは、
植物かもしれない。インターネットなどで検索すればすぐに情報は手に入るが、
その通りにやれば失敗するわけがないと思ってしまうのは、大いなる勘違いだ。
茂高さんにとっては、庭の雑木も、BESSの家も、アラスカも、
すべて実感して初めて納得するものなのだろう。
そして次第にアラスカで写真を撮り始める。何度も展覧会を開くほどの腕前だ。
「ひとりで旅に行っても、誰も見ていないので、
“こんなところに行ったんだぞ”と見せたいと思って。その手段のひとつです。
うまくオーロラの写真が撮れたこともありました。
そのときは氷河の上で、体感しないとわからない寒さでした。
持っていた温度計がマイナス30度までしか計れないもので、
それを振り切っていたからもう何度だったかわからない。
本当に何をしても寒くて死ぬかと思いました」
家の中には、見事な山脈や動物、オーロラなどの写真が飾られている。
木の家と大自然の写真がマッチしていて日本ではないような雰囲気。
外の日本的自然との対照がおもしろい。
Page 4
奥様の弘美さんは、もともと丹沢周辺の生き物を調査する仕事をしていただけあり、
自然環境への造詣も深い。
「家を建てるならBESS」と決めていたのも弘美さんだそうで、
「すごく外を見るようになったし、暇さえあれば外にいます」と
この暮らしを満喫しているようだ。
「景色を見たり、植物を見たり、雲を見たり、1日に何度もする行動です。
春は新緑が美しいし、秋は田んぼが黄金色に。
鳥もたくさん訪れてくれます。
白鷺にダイサギ、ジョウビタキ、コチョウゲンボウ、キジなど。
シジュウカラは庭の毛虫を食べてくれますよ」と教えてくれた。
「“モズのはやにえ(モズがエサを木の枝などに刺して保存しておく行為)”って
ご存知ですか? たまに木の枝にカエルとかバッタが突き刺さっているんですよ!」と
茂高さんもいう。
まちに住んでいて、“モズのはやにえ”を目撃したことがある人はそう多くないだろう。
「こんなに四季が感じられて、植物の種類も豊富。
特に地方に行けば、自然と人間の暮らしが調和している。
身近に自然を感じられることは贅沢ですよね」
アラスカの厳しい大自然をずっと見ていたからこそ、
日本の自然が実はとても豊かであることを実感できたという。
庭の木が育っていけば、もっと生態系ができてくる。
そうすれば、もっとさまざまな鳥や生き物がこの家を訪れるようになるだろう。
そして、ふたりが声を揃えるのが、雨の美しさ。
「雨の日は霧がかかって、朝は本当にきれい」と弘美さん。
「この家のいいところは雨の日でも広縁にいられること。
雨がすごくしっくりくる家です」と茂高さんも続ける。
実際、茂高さんのインスタグラムを覗くと、
雨が降った日の様子が投稿されている。
アラスカや北極圏の厳しい大自然を感じてきたからこそ、
茂高さんは、日本のやさしく移ろう四季、雨や風など、
いつでもどこでもある当たり前で些細な“自然”を、
きちんと享受する感性を養うことができたのかもしれない。
晴れの日には庭仕事に精を出し、雨の日には広縁で雨音に耳を傾ける。
豊かな季節を肌に感じるこの場所で、自然を受け容れながら、
松本夫妻は奥行きのある暮らしを楽しんでいる。
information
BESS
Feature 特集記事&おすすめ記事