連載
posted:2021.5.27 from:東京都青梅市 genre:暮らしと移住 / アート・デザイン・建築
sponsored by BESS
〈 この連載・企画は… 〉
ライフスタイルの基本は、やはり「家」。
ログハウスなど木の家を得意とする住宅ブランド〈BESS〉とともに、
わが家に好きなものをつめこんで、
最大限に暮らしをおもしろがっている人たちをご紹介します。
writer profile
Tomohiro Okusa
大草朋宏
おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。
photographer
Kazuharu Igarashi
五十嵐一晴
新規就農はローカルでなく東京でもできる。
その実例を見せたいと「東京の農業」にこだわっている
〈繁昌(はんじょう)農園〉の繁昌知洋さん。
農業のイメージアップのため、これまでとはひと味違うやり方で、
農業の可能性を広げようと努めている若手農家だ。
〈BESS〉の家を拠点に、東京都青梅市に16か所の農地を持つ繁昌さん。
学生時代から自然に関わる仕事を求めていて、
農業に惹かれていったのは当然のなりゆきだった。
そして体験農園や農業スクール、2年間の農家研修などを経て、
2016年、自身の名を冠する農園を独立開業することになった。
「独立するときは、まさか東京でできるとは思っていなかったので、
千葉や長野などで土地を探していました。
そんななか、偶然、東京都の立川市で農業をやっている人に出会ったんです。
その人と話して、“東京でも農業ができるんだ”と思いました」
東京での農業に大いに可能性を感じた繁昌さんは、
さっそく農地を探し始め、現在の青梅の農地を見つけた。
繁昌さんのスタイルは少量多品種生産。
現在では約140種類のオーガニック野菜を育てている。
「始めた当初は、売り先も定まらないまま、とにかくつくる日々。
売れたらいいけど、見込み生産みたいなものでした。
でも最近は、ニーズに合わせた受注生産に近いです」
東京産であることを打ち出すことで、都内のお客さんからの注文が増えている。
さっそく東京で農業をしているメリットを生かすことができたようだ。
「特に都心部のお客様は舌が肥えているというか、
普通のスーパーなどで売っていないような野菜を望む人が多いんです。
西洋野菜のカーボロネロとかコールラビとか。
お客様のニーズにそれぞれ応えていったら、自然と品種が増えていきましたね」
新規就農者の場合、最初から大規模農地を用意することが難しく、
特に東京や都市圏では飛び地の農地で活動している人も多い。
大量につくれないという特性を逆に生かせば、少量多品種という可能性が見えてくる。
もうひとつ、繁昌さんが「新規就農者がやるべき」と掲げるのが伝統野菜だ。
「各地の伝統野菜の復活も、新規就農者だからこそやりやすいことだと思います。
僕の場合は、江戸東京野菜。
亀戸大根、金町こかぶ、のらぼう菜、八丈オクラなどを栽培しています。
一般流通している野菜は、食べやすいように品種改良されているものが多いですが、
野菜はもう少しえぐみのあるもの。
伝統野菜にはそうした野菜本来の味が残されているので、
その味も忘れないようにしていきたいです」
伝統野菜が忘れられつつある理由には生産効率や流通、味などがあるだろう。
ほかにも農業にはフードロス、後継者不足など、社会課題がたくさんある。
その課題解決には、少なからず新しい目線を持った取り組みが必要になる。
それを解決していくには、新規就農者のほうがやりやすいのだろう。
繁昌さんは、それらの課題を明確に見据えながら農家としての道を歩んでいる。
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農業の仕事には畑での農作業に加えて、野菜の土を洗ったり、袋や箱への梱包もある。
以前はそうした作業を、家の駐車場で行っていたという。
しかしそれにもスペースや周辺環境としても限界があり、
作業場を兼ねられる家を探し始めた。
そのなかで出合ったのが、BESSの〈ワンダーデバイス〉だった。
ワンダーデバイスはガルバリウムの外壁と、
大きな開口部が内と外をシームレスにつないでくれるつくりが特徴だ。
「BESSの存在を知ってからは、ほかを見ることなく決めてしまいました。
農業とプライベートをかけ合わせた家にしたいと思っていたので、
最適な家に巡り合ったと思います」
複数の農地を「飛び地」で管理している繁昌さん。
つまり家の目の前に畑があるような環境ではないので、
栽培・収穫以外の作業をすべて行えるこの家の役割は大きい。
収穫した野菜の箱詰めや発送は庭にあるガレージで行い、
デスクワークや打ち合わせは自宅1階の土間スペースで。
広い土間には農作業後の長靴でも気にせず入れるし、
来訪者がきたときにもすんなりと迎えられる。
テーブルを置き、研修生がランチを食べたり、会議をしたり、
オンライン配信をするワークスペースになっている。
「一度来ると、みんなここで会議したいと言うんですよね」
たしかに土間奥の「ハシゴde本棚」には、
男の子趣味全開のプラモデル〈ゾイド〉がたくさん陳列されてあり、
間違いなく最初に気になってしまう。
一方、反対側に目を向ければ、複数の水槽が鎮座。
酸素を送るコポコポとした音がなんともリラックスさせてくれる。
窓側は繁昌さんの趣味のひとつガーデニングの寄せ植えなどの植物が並び、
頭上を見上げれば、タイで釣り上げたという巨大魚・ピラルクのデジタル魚拓。
ちなみに取材時のテーブルの上にはサソリ(!?)がいた。
とにかく、ちょっと突っ込んでみたくなる遊び心に溢れている。
「子どもが好きそうなことが、いまだに好きで(笑)。
ただ、そういうことが、この家には似合いますよね」
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典型的な農家のようにはしたくないという繁昌さん。その目的は農家のイメージアップだ。
それが家のインテリアや暮らしなどにも表れている。
そんなBESSでの暮らしは、思いがけぬ効果も生んだ。
「3Kのようなものから脱却して、かっこいい、おしゃれな農業をしたいと思っています。
農家でもこういう家に住んでもいいと。
この家を建てて住み始めてから、仕事内容もかなり変化しましたね。
すごくいい効果をもたらしていると思います」
農業の発展事業として、おしゃれな直売所やアプリ開発の計画が舞い込んできたりと、
ユニークな取り組みの相談をされることが増えた。
メディアからの取材も増えているという。
「何でも、はいはいと受けてしまうので」と笑う繁昌さん。
しかしそれは、「“繁昌くんなら何かやってくれそう”、という雰囲気を感じて
来てくれるのだと思います」と奥さんの美智(みさと)さんが言うように、
常に新しい何かを生み出しているからこそだろう。
現在、都内で唯一の温泉郷ともいわれる岩蔵温泉エリアで、
繁昌農園はじめ4農家が集まり〈岩蔵野菜〉のブランディングに乗り出している。
ほかの3農家は、地域に昔からある農家、ハーブに強い農家、
キャンプ場経営から転職された新規就農者とバラエティに富む。
「岩蔵温泉エリアの農業と、
温泉や文化をかけ合わせて盛り上げていきたいと思って始めました。
実は岩蔵野菜という定義はありません。
青梅は土がいいから、どんな野菜でもつくれてしまうので、
逆にコレという“名産”が生まれなくて。
だからあえて多様性を生かした岩蔵野菜としています」
岩蔵エリアでCSA(Community Supported Agriculture)の取り組みも始めた。
CSAは地域支援型農業といわれるもの。
農家に代金を前払いし、農家はそのお金を元に野菜を栽培できる。
これならば最低限の注文数が確保できているので、
ロスは少なくでき、農家に安定をもたらす。
このCSA会員の野菜受け取り場所を岩蔵温泉の旅館にしているほか、
マルシェを開催したり、岩蔵野菜のピザやパスタをつくるイベントも開催。
こうした地域を巻き込む活動と発信を通して、岩蔵エリアを訪れる人も増えているようだ。
東京都だからといって、地域性がないわけではない。
自分が住むエリアを盛り上げたいという気持ちはほかのローカルと同じで、
繁昌さんはそれをあえて東京で行うことで、その意義を効率的に伝えようとしているのだ。
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繁昌さんの柔軟な発想はどこから生まれてくるのか。
いつも気づきを与えてくれるのは〈ブロッコリーブラザーズ〉だ。
青梅周辺に住む異業種の8人が、繁昌さんと野菜を育てるサークルである。
農場長の繁昌さんを筆頭に、メンバーは銀行員、飲食店経営者、デザイナーなど。
みんなでひとつのブロッコリーを育てたところから始まった。
「この地域をおもしろくしたいと思って集まった仲間です。
屋内の会議室では思いつかないようなアイデアが、
農作業中にバンバン生まれてくるんですよ。“畑の会議室”みたいな感じ。
しかもみんなフットワークが軽いからすぐにアイデアを実現ベースに乗せてしまいます」
物流に対するアイデアやアプリ開発など、進行中のものがいくつもあるという。
「農家だけだとできないことも多いけど、
さまざまな業界が入ることで、できることが増える。それがおもしろい」
実際に何かひとつ実現すると、
「できる」という実感をともなって次々とアイデアが浮かんでくる。
それが「繁昌さんなら何かやってくれそう」という周囲の期待につながるのだろう。
赤い外壁のBESSの家に住み、スポーツカーに乗る。
繁昌さんは典型的な農家像からはかけ離れているのかもしれない。
しかしその行動は、
新規就農者が日本で農業を行うことの意味と未来をしっかり見据えているからだ。
「根本的には、自然のすばらしさや野菜を食べる喜びを、もっと感じてほしい。
それを一番伝えられるのは、マルシェに出て、自分が店頭に立ってお客さんと話すこと。
ただしそれだけでは効率はよくないし、僕が畑にいる時間がなくなってしまいます。
そこで農業講師や食育、ワークショップなどを積極的に行っています。
そこで共感してもらって、農家を志してもらいたい」
こう考えるのは、自身が農業を始めるときに「第一歩」を踏み出す手段が少なかったから。
農業を始めたい、農家になりたいと思っても、何から始めたらいいかわからない。
「国内の野菜生産量は低下し、地方に行けば畑が余って荒廃している。
農業も後継者不足です。
僕みたいに若い新規就農者が増えれば、
農業界だけでなく日本全体がいい未来に進むのではないかと思っています」
繁昌さんは、これまでの農業の常識や既成概念にとらわれることなく、
地域を盛り上げていく。
そうした自由な発想は、仕事だけでなく、暮らしにも反映されていた。
「楽しんでいる人にはかなわない」。
繁昌さんを見ていると、改めてそう感じさせられる。
information
HANJO FARM
繁昌農園
Web:繁昌農園
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