連載
posted:2021.2.9 from:山口県下関市 genre:旅行 / アート・デザイン・建築
PR 山口県
〈 この連載・企画は… 〉
山口県で思い出すものといえば、錦帯橋、松下村塾、ふぐ、秋吉台など。自然や文化遺産、
おいしい食まで、さまざまな魅力が揃っています。そんな山口県には、移住して、新しい働き方を実践している人たちがいます。
「UJIターン」し、仕事と働き方に新しい価値を見いだしている人たちは、みんなワイワイと楽しそう。
仕事がかたちづくる、山口県での生き方と暮らしをうかがいます。
writer profile
Yuriko Tateno
立野由利子
たての・ゆりこ●福岡の制作会社に勤める傍ら、フリーランスのライターとして活動中。取材記事からパンフレットまで幅広く執筆。アイドル、ZARD、給水塔を愛する95年生まれのみずがめ座。
photographer profile
Yousuke Yamamoto
山本陽介
やまもと・ようすけ●山本写真機店店主。まちの写真屋としての撮影業務に加え、プロアマ問わず全国からフィルムスキャニングの依頼を受けるラボマンとして活躍中。
http://yamamotocamera.jp/
冬らしく曇った空から、ちらちらと雪が降ってくる。
畑や山の緑も、ホームのコンクリートもどこかくすんだように見えるなか、
橙色の汽車がスーッとホームに入ってきた。
ここは山口県下関市にある阿川駅。京都と下関を結ぶJR山陰本線の無人駅だ。
見渡す限り畑と山と民家しかないこの場所に、昨年の夏、目新しい建物ができた。
見た目は、四角くて透明な箱。
「小さなまちのkiosk」をコンセプトにつくられたその建物は、
まちの名前そのままに〈Agawa〉と名づけられた。
地元の特産品を使ったドリンクやフードを提供している。
新しい阿川駅舎とAgawaをプロデュースしたのが、塩満直弘さん。
山口県の萩市に生まれ育ち、アメリカ、カナダ、東京、鎌倉と
さまざまな土地での生活を経て、萩へ帰ってきた。
故郷の魅力を自分なりに表現したいと起業し、
〈萩 ゲストハウス ruco〉を運営してきた塩満さんが
Agawaを通じて体現していきたいこととはなんだろうか。
〈Agawa〉は、2020年夏にオープンした。
まちの風土をダイレクトに感じてもらえるように
カフェと物販、レンタサイクルを提供している。
塩満さんは、店舗ととなりの阿川駅舎が対になるようにAgawaのイメージを考え、
JR西日本の建築部門担当者と、
彼の友人である〈takt project〉代表の吉泉聡さんがそれを具現化していった。
「駅舎とカフェのデザインを考えるときに意識していたのは、
駅全体を広場、公園のように再定義すること。
建物をガラス張りにしたのは、
周囲の風景に違和感なく溶け込ませて景観の一部と見立てることで、
“乗降客に限らず誰もが自由に佇める”という駅本来の特徴を、
空間全体で感じてもらいたかったからです」
Agawa(左)と阿川駅の駅舎(右)。中が透けて見える構造は、地元の人から驚かれることもあった。「境界線をぼやかす」デザインにしたかったという。
Agawaで提供されている猪ソーセージ(800円・税込)とゆずきちソーダ(500円・税込)。猪肉、ゆずきち、ともに長門市俵山産。ゆずきちは山口県の山陰地方が原産。収穫時期により味や香りの変化も楽しめる。
コロナ禍でのオープンとなったが、
若年層に限らず、さまざまな世代、地域から、多くの人が訪れ賑わっている。
地元の人が乗り降りするのはもちろん、
子どもたちが広場に敷きつめられたシロツメクサの上を走り回ったり、
家族で四つ葉のクローバーを探したり、
観光でやってきた友人同士で写真撮影をしたり。
訪れた人がそれぞれ、思い思いに時間を過ごす場所となっている。
「駅だからこそ訪れる人の雑多さ、多様性がある。
僕自身がそんな場所を求めていたし、公共性の高い場所に関わりたかった」
そう話す理由には、塩満さん自身のこれまでの経験があった。
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18歳のとき、外の世界を知るために萩を出た。
20歳からアメリカやカナダでワーキングホリデーに参加し、語学学校へ通った。
現地のサッカーチームの監督に直に頼んでチームに入れてもらうなど、
行動的なのは当時から変わらない。23歳で帰国し、東京でスポーツメーカーに勤務、
鎌倉でデザイナーズ旅館の運営などを経験した。
一見、一貫性がないようにも思えるこれらのキャリアだが、
塩満さんにとって、これらの経験すべてが萩に帰って活きるだろうと思っての行動だった。
「萩に帰りたいという思いはずっとありました。
萩は、自然豊かで歴史を感じられる場所も多く、小さい頃はまち全体が遊び場だった。
今の自分があるのは萩があってこそ。いつかは戻ろう、そう心に決めていたんです。
ただ、企業で働くというイメージはなく、自分なりに、萩のまちで表現したかった。
『今は行動するとき』と決めて、
何をかたちにするのか模索していたのがこの時期です」
阿川駅から車で下関方面に進んだ先に広がる景色。深い青色の海原に夕陽が光り輝いていた。
塩満さんは、海外や日本の各地で人と出会う拠点となった
「ゲストハウス」をつくることを目標に、27歳で萩に戻る。
そして、2013年10月に念願のゲストハウス〈ruco〉をオープンした。
人が交わる場所をつくりたい。その思いには理由があった。
「萩は大好きな場所ですが、価値観のグラデーションの幅が少し狭く
将来の選択肢も限られているように感じてきました。
萩で過ごした少年時代、周囲との価値観のズレのようなものを少なからず体感して、
その違和感を抱えたままやり過ごしていました。
外の世界を知った今は、当時の自分を”マイノリティな価値観”だったのだと、
受け入れることができました。
萩の外に出て初めて、”自然体の自分でいいんだ”と自信を持つことができました。
そう感じられたのは、これまで出会ってきた“人”の存在があってこそ。
僕が人や土地から学び得てきたように、今の子どもや若い人たちにも僕の存在を通して
『どんな土地であろうと、思いのままに自分を表現していいんだ』と思ってもらえたら」
萩について「明治維新などの歴史遺産に触れられるだけではなく、たくさんの魅力がある。rucoが、まちや人との接点となれたら」と語った。
rucoへの来訪がきっかけとなり、地元に戻ってきた人も、移住してくれた人もいる。
萩の魅力を理解し、愛着があるからこそ、
まちが抱えている課題からも目を背けない。
人の流れが滞り、価値観が固まりがちな土地に、風穴を開けたい。
自分の生き方と向き合っているからこそ、
塩満さんの言動に共鳴する人が現れるのだろう。
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萩で順調にrucoを経営していた塩満さんが、Agawaを立ち上げたきっかけは、
3年半ほど前に友人を訪ねて、阿川の隣駅「特牛(こっとい)」を訪れたこと。
そのとき山陰本線の汽車が駅に入ってくるのが見えたという。
その景色の美しさ、鮮やかさに心を奪われた。
「映画のワンシーンを見ているような光景でした。
山陰本線は、時間帯によっては1時間に1本もなく交通機関としては不便です。
その不便さゆえか、駅とその周辺には独自の地域性が感じられます。
駅という景観や特性を活かした空間をつくり、
地域性を感じてもらえるような仕組みができると、
この場にも新たな人の流動性を生み出せるのではないか……と思いめぐらせました」
周囲の緑の中に、パッと映える橙色の車体。現役で走る汽車自体がめずらしい現代では、懐かしくも新しい光景。
その1週間後、偶然にもJR西日本地域共生室の担当者の方との出会いに恵まれ、
思いの丈を語った。
共感してくださった担当者の方の協力あって、
「特牛」隣駅の「阿川」で思いを実現することに。
「阿川には、他地域からやって来た自分のようなよそ者も
受け入れてくれる土壌があるように感じています。
住民の方への説明会ではいろんな意見をいただきましたが、
前向きに捉えて一緒に楽しんでくださる姿勢の方も多く、
みなさんのご理解もあって実現することができたと、感謝しています」
資金の一部は、クラウドファンディングで募った。
目標金額の300万円を大きく上回り、周囲の期待と応援が金額以上の励みとなった。
自分の存在が大きく反映されるrucoから少し離れて、
Agawaを始めたかった理由。
塩満さんは「公共性の高い場所に関わっていきたいという願いがあった」と話す。
「rucoは万人を迎える場ではありますが、
訪れる側には少しハードルの高い側面もあると思うのです。
駅は、訪れる人を選ばない。人も用途も、雑多であり、多様です。
僕が伝えたいことを訴求できる範囲が、確実に広い。
場所のイメージとしてはrucoは狭く、深く。Agawaは浅く、広く。
ふたつは一見対極にありますが、同じ想いが柱となっています」
自分らしい居場所であるrucoを確立したからこそ、
新たな目標をかかげAgawaに向かっていけるのだ。
Agawaのカフェを取り仕切る料理家の西野優さん。東京で書籍の編集者やブックカフェの経営などしていたが、塩満さんの姿勢に共鳴し、オープンに合わせて山口に移住してきた。
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萩に帰って8年。
これまでにruco、Agawaと場所の立ち上げに関わった。
その過程で、コミュニケーションの難しさを感じたこともあったという。
どれだけ説明しても、自分に見えている未来の景色を理解してもらえないこともある。
「折れていても仕方ないですよね。
自分を信じて、見たい景色をつくっていく。そして、それを続けていく。
地域や人から求められる存在になれたら、それが結果なんだと思います」
地元の人が持ってきてくれた薪で焚き火。取材中にも訪れてきた地元の人は皆、塩満さん、西野さんと会話を交わして帰っていく。それだけ地域に馴染んでいる証拠だ。
これからもまだやりたいことはたくさんある、という塩満さん。
軸は変わらず「それぞれが存在意義を感じられる場所をつくること」。
「僕は何も考えず、阿川駅に佇むのが好きです。
心が軽くなり、落ち着いていく。
それは言葉では説明しにくい個人的な感覚ですが、
この場所に関われたらうれしいと思えたことが動機となり、今につながっている。
“地域のために”というよりも“自分が選んだ”という意識、
内にある想いを大切にしています。
外に求めるより先に、自分が動くこと。
主体性をもって関わるということ。
他者との比較ではなく、自身を受け入れて、
自分らしく生きていく人が増えたらいいなと思います」
Agawaオリジナルジャケットのバックショット。
取材の終わりには、「駅よりさらに多くの人とのきっかけをつくる場所として、
いつか空港で何かしたいですね」と笑顔で話してくれた。
rucoからAgawaへ、そしてさらなる場所へ。
塩満さんが「マイノリティ」と語ってくれた価値観は、
やがて多くの人の心を動かしていくものになるのかもしれない。
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Agawa
アガワ
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