飾って、使って、食べて、楽しめる。 「2023年買ってよかったもの」


今月のテーマ 「2023年買ってよかったもの」

お手軽で便利なものから、一生付き合えるものまで
毎年さまざまな新商品・新製品が販売されます。

今回は、2023年に買ってよかったものを
全国にお住まいのみなさんに教えてもらいました。

土地に根づく人や店の人気商品をぜひ手に入れてみてください。

【東京都・武蔵野市】
旅先でのプレゼントや癒しにぴったりな一輪挿しカード

一輪挿しカード

今回のテーマは「2023年に買ってよかったもの」。
いつも食べ物ばかり紹介しているので、たまには違うものを紹介したいと思います。
武蔵野市・吉祥寺の仲道通りは、さまざまな雑貨店が点在しているのですが、
そのひとつに紙雑貨を専門に販売している〈ペーパーメッセージ〉というお店があります。

「一輪挿しのカード」(132円)は、ペンペン草、デイジー、アカツメクサ、たんぽぽなど野に咲く花をモチーフにしたものをラインナップ。

「一輪挿しのカード」(132円)は、ペンペン草、デイジー、アカツメクサ、たんぽぽなど野に咲く花をモチーフにしたものをラインナップ。

店内にはゆるくてかわいいイラストのポストカードや
メッセージカードなどがズラリと並んでいる人気のお店です。
なかでも「一輪挿しのカード」と「花瓶のカード」の
アイデアがとっても気に入ったため購入しました。

「花瓶のカード」(165円)には切り込みが入っていて、一輪挿しのカード」を互い違いに刺すとしっかり留まるしくみになっています。

「花瓶のカード」(165円)には切り込みが入っていて、一輪挿しのカード」を互い違いに刺すとしっかり留まるしくみになっています。

実はわたし、花モチーフのデザインやイラストが大好きなのですが、
実際に花を育てるのが苦手。
観葉植物やエアープランツすら枯らしてしまうので、
部屋のなかで飾っておけるのは生花ではなく、
みかんやりんご、バナナなどの果実類くらいしかありません。
そんな寂しい部屋をパッと明るくしてくれたのが、このカードなんです。

花瓶のカードを組み合わせて使うのもよいのですが、ガラスや陶器でできた一輪挿し用の花器に「一輪挿しのカード」を生けるのも◎。

花瓶のカードを組み合わせて使うのもよいのですが、ガラスや陶器でできた一輪挿し用の花器に「一輪挿しのカード」を生けるのも◎。

手帳に入れてどこにでも持ち歩くことができるので、
旅先や取材先でお世話になった人にメッセージを書いて贈ることもできます。

やわらかくほんわかした気持ちになれます。

やわらかくほんわかした気持ちになれます。

お気に入りの香水を吹きかければ、ふんわりと辺りがいい香りになります。
デスクや宿泊先の窓辺などにちょこっと置くだけで癒されるので、
とってもお気に入りのアイテムです。

information

map

ペーパーメッセージ

住所:東京都武蔵野市吉祥寺本町4-1-3

TEL:0422-27-1854

営業時間:11:00~19:00

定休日:不定休

Web:ペーパーメッセージ

photo & text

Momo*Kinari きなり・もも

ライター・エディター。東京在住。Webや雑誌、旅行ガイドブックで撮影・執筆。 国内外でグルメや観光スポットを取材。たまに料理やモノづくり、イラストの仕事もしています。 Twitter:@Momo_kinari

土足厳禁! 新宿三丁目の名物マスターが行き着いた 福岡の理想郷〈Barデラシネ〉

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
福岡県福岡市。

さり気なくも、どっぷりと深い選曲と旨い酒。
リスニングバーの究極のカタチ

カルロス(以下カル): 〈Barデラシネ〉の店主の深田祐規さんって、
新宿三丁目界隈ではかなりの名物マスターだったんだよね。

コロンボ(以下コロ): そう、当時はガジロウさんって呼ばれていて、
老舗レコードバーを切り盛りしたのち、自身の店〈Bar Pain〉をやったりと、
新宿三丁目を根城にする業界人では知らない人はいなかったんだ。

カル: 新宿三丁目というと、昔からレコードバーのメッカだけど、なぜだ?

コロ: 今も昔も、表から裏方まで業界人の溜まり場。
とくに当時はソニーレコードをはじめレコード会社が近くにあったり、
フジテレビが河田町、日本テレビが番町と
業界関連の会社からのアクセスがよかったのも関係あるかな。

カル: 出版社も多いしね。そのガジロウさんがなぜ福岡に?

店主のガジロウさんこと深田祐規さん。ガジロウの由来は『探偵物語』松田優作に憧れてアフロヘアにしたものの、むしろ佐藤蛾次郎に近いとういことから命名されたと。

店主のガジロウさんこと深田祐規さん。ガジロウの由来は『探偵物語』松田優作に憧れてアフロヘアにしたものの、むしろ佐藤蛾次郎に近いとういことから命名されたと。

コロ: 新宿三丁目のお店は順調だったんだけど、
お母さんが大病したとかで実家の宇和島に戻り、その後は各地を転々として、
酒場の仕事の30周年を機に引退。
その後は釣りばっかりの人生だったようだよ。
でも酒場の魅力というか、弟子たちが楽しそうにお店をやっているのを見て、
またやろうと復帰、福岡に来て、この店が2軒目。

カル: それでデラシネ(根無し草)。ガジロウさんらしい、いい屋号。

コロ: ちなみに福岡の1軒目はブルース・スプリングスティーンと
好きな釣りからとって〈リバー〉。

カル: 新宿三丁目っぽく、大声を出しちゃいけないとか、
規律が厳しい感じなの?(笑)

コロ: いやいや、さすがに。
20代の頃は「いまかかっている曲を黙って聴け!」って感じだったけど、
心地良さ優先。ボクらが行ったときは山弦が静かにかかっていたな。

〈三俣山荘図書室〉伊藤圭さん 大町を再び登山のまちに。 北アルプスの“秘境”の復興に挑む

山と人とまちをつなぐサロン

長野県大町市。『北アルプス国際芸術祭』の舞台でもあるこのまちも、
普段はさすがに開催時期ほどのにぎわいはない。
しかし、かつて戦前~1960年代まで、
このまちは登山文化の発信地のひとつとして、全国から客足が絶えなかったという。

〈三俣山荘図書室〉。店の使用電力は屋上に設置したソーラーパネルで賄う。完全オフグリッドだ。(写真提供:三俣山荘図書室)

〈三俣山荘図書室〉。店の使用電力は屋上に設置したソーラーパネルで賄う。完全オフグリッドだ。(写真提供:三俣山荘図書室)

同じく〈三俣山荘図書室〉店内。バーカウンター脇に登山ギアとウェアのポップアップ。

同じく〈三俣山荘図書室〉店内。バーカウンター脇に登山ギアとウェアのポップアップ。

「山と人とまちをつなぎたい」
北アルプス・黒部源流の稜線にある〈三俣山荘〉と〈水晶小屋〉のオーナー、
伊藤圭さんは、往年の登山文化の復興を目指して、
2022年、大町のシャッター街となった商店街の一角に、
〈三俣山荘図書室〉をオープンした。

空き店舗になっていた元呉服店の3階部分を、
1年かけてDIYでリノベーション。
当時を伝える登山道具や山の写真がディスプレイされた階段と通路を抜けると、
アウトドアのウェアやギア、登山やエコロジーなどをテーマにした
約400冊の本がずらりと並ぶカフェに到着する。
大きく開いた窓から飛び込んでくるのは、北アルプスの山々だ。

店のテラスに出ると北アルプスが望める。取材時は11月、早くも雪に彩られて美しい。

店のテラスに出ると北アルプスが望める。取材時は11月、早くも雪に彩られて美しい。

「いろいろなカルチャーを持った人たちが山と出会う、
ハブになるようなサロンにしたいんです。
そうすることで登山も新しいカルチャーに生まれ変わる。
そうでもしないと、登山に興味のある人の数は増えないと、僕は思うんです」

伊藤さんがそう考え、三俣山荘図書室をオープンさせるに至った背景には、
登山文化や山小屋、まちという地域が抱える、さまざまな課題があった。

にぎわいを失った登山のまち

伊藤さんは、東京出身。
四谷育ちの都会っ子でサブカルチャー好きと、山とは縁遠い生活を送っていたが、
先代で日本の登山文化の黎明期を担った父・正一さんのあとを継ぎ、
山小屋のオーナーになった。

戦後の時代、正一さんは荒れ果てた山小屋の権利を買い取り、
土地の猟師たちと小屋を再建。
その経緯を綴った正一さんの著書『黒部の山賊』(ヤマケイ文庫)は
現在も山岳文学の名著と謳われるほどで、まさにまちの登山文化の発展に貢献した人物だ。

〈三俣山荘図書室〉店内ディスプレイより、伊藤さんの父であり開拓者、正一さんの年譜。

〈三俣山荘図書室〉店内ディスプレイより、伊藤さんの父であり開拓者、正一さんの年譜。

事実、かつて大町は“登山のまち”だった。
都市の文化人たちがこぞって山を目指し、
北アルプスの象徴である槍ヶ岳から烏帽子岳までの黒部源流域に伸びる
〈裏銀座ルート〉を登るために、登山客でにぎわった。
彼らは、地元旧家の出である百瀬慎太郎の旅館〈對山館〉(1892頃~1943年)に集い、
さながらサロンのように交流していたという。伊藤さんはこう解説する。

「1950年代には、登山客が駅前でぎゅうぎゅうになって雑魚寝したとか、
登山口行きのバスが満席だったとか、そういう話が残っています。
その後もいわゆる「登山ブーム」でにぎわいましたが、
1979年に大町の登山文化は一旦途絶えてしまうんです」

〈三俣山荘図書室〉入口までの階段にディスプレイされた往年の登山道具。

〈三俣山荘図書室〉入口までの階段にディスプレイされた往年の登山道具。

原因には、まちにある北アルプスへの入山口に高瀬ダムが完成し登山道が途切れたこと、
上高地や新穂高のようなほかの入山口が充実し登山客が流れたこと、
そしてまち自体の過疎化などが挙げられるという。
その結果、「裏銀座ルートはすべて寂れてしまい、
ここ40年間は下降線の一途をたどっている」と伊藤さんは語る。
追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスによる登山客の激減=山小屋の減収だ。
「収益が例年の25%くらいに落ち込んで、このままじゃつぶれる、
なにかやらなきゃって、考え始めたんです」

〈三俣山荘図書室〉店内。父・正一さんの著書や登山ファンにはお馴染みの本も。

〈三俣山荘図書室〉店内。父・正一さんの著書や登山ファンにはお馴染みの本も。

道産子のような強さを持った アカエゾマツを携えて 「WOODコレクション2024」 に参加します!

病原体や虫などへの防御物質を持つアカエゾマツ

北海道の東側、
弟子屈町にも本格的な冬がやってきた。
毎朝の気温は、マイナス10度以下。
そんな厳しい寒さのなかでも、
アカエゾマツは空に向かって真っ直ぐ、凛と立っている。

12月になって、川湯ビジターセンターの裏に広がる「アカエゾマツの森」にはやっと雪が積もり始めた。

12月になって、川湯ビジターセンターの裏に広がる「アカエゾマツの森」にはやっと雪が積もり始めた。

弟子屈町に蒸留所を構え、
「森林、樹木、草花の機能成分を有効活用し、
動物や人の健康福祉に貢献する」ことを
目的に掲げてアカエゾマツを研究している団体
一般社団法人Pine Grace(パイングレース)〉。
代表理事である酪農学園大学名誉教授の横田博先生は、
アカエゾマツの魅力を次のように語る。

「北海道の厳しい寒さや過酷な環境でも育つアカエゾマツには、
独自の強みがあるんです。
成長が遅いので、ほかの木にも適した好環境では負けてしまう。
ところが、谷地など水分を多く含む環境では
カビや害虫などが多く繁殖し、
普通の樹木は枯れるリスクが高いのですが、
アカエゾマツはそれらに対抗できる防御物質を持っているので
成長していくことができるんです」

横田先生をはじめとするPine Graceのメンバーは
こんな頑張り屋さんのアカエゾマツに恋焦がれて、
アカエゾマツが持つ防御物質の有効な活用方法を
日々探り続けている。

Pine Graceが活用するのは、アカエゾマツの枝葉。このなかに独自の防御物質が閉じ込められている。

Pine Graceが活用するのは、アカエゾマツの枝葉。このなかに独自の防御物質が閉じ込められている。

川湯ビジターセンターでは毎週末、
館内でアカエゾマツの蒸留をしている。

「うわぁ、森の香りですね」
「山から帰ってきたじいちゃんの匂いだ」などなど、
来館者のさまざまな感想はあるけれど、
それでもほとんどの人が好感を持ってくれる、
アカエゾマツの香り。

上品でやさしい(人によっては「甘い」という感想もある)香りを
「北海道の森」を象徴するものとして、
より多くの人に感じてもらいたいと、
ショップをオープンしてから1年間、
蒸留の実演を続けてきた。

館内の実演で使用しているのは、アロマ水蒸気蒸留器。1回につき、約120グラムの枝葉に350ミリリットルの水を合わせ、30〜60分ほどかけて抽出する。

館内の実演で使用しているのは、アロマ水蒸気蒸留器。1回につき、約120グラムの枝葉に350ミリリットルの水を合わせ、30〜60分ほどかけて抽出する。

「何に使うのですか?」「どんな効果があるの?」
香りの感想のあとに、来館者からはそんな質問が続く。

福生〈Cafe ToRamona〉 フォークを聴きながら のどかにコーヒーブレイク

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
東京都あきる野市。

ブリティッシュ・トラッドの深い沼にはまったオーナーの
フォーク・ミュージック遍歴とは

コロンボ(以下コロ): ニーナ・シモンが描かれたポートレートに迎えられて
中を覗くと、ずらり5000枚近くのレコード。
まるでレコードコレクターのお宅に招かれたみたいなカフェなんだよ。

カルロス(以下カル): 福生にあるんでしょう。
福生といえばなんたって、横田基地と大瀧詠一さんの〈福生45スタジオ〉。
アメリカン・カルチャーたっぷりなエリア。

コロ: といっても、ここ〈Cafe ToRamona〉のロケーションは、
いわゆる横田基地のある国道16号線沿いの
アメリカン気分のストリートとはちょっと違って、のどかな住宅街にあるんだ。

カル: マスターの浦野茂さんも福生が地元で、
大瀧さんと電車で一緒になったことがあるんだってね。

コロ: 立川駅で見かけて、失礼かと思ったものの、勇気を出して声をかけたら、
立川駅から青梅線の拝島駅までお話できたんだってさ。
1974年の出来事。

カル: 〈ToRamona〉の屋号は
ボブ・ディランの「To Ramona」のローマ字読みなんでしょう。
この曲、ディランの4枚目となる
『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』に入った美メロ。
内省的なアルバムで、当時のディラン・ファンには肩透かし気味だったけど、
今聴くと素朴で端正ないいアルバムだよね。その影響からの命名なの?

コロ: ボクも最初はそう思ったんだけど、
お話を聞くと『深夜食堂』で使用されていることでもお馴染みの
弾き語りのスーマーが、
「トラモナ」という曲名で「To Ramona」を日本語カバーしたことが
きっかけなんだって。
浦野さんも『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』は当時それほど、
ピンと来なかったらしい(笑)。

カル: あらためて聴いたら、相当よかったんだろうね。
このお店の売りはなんたって、フォーク・ミュージックの奥行きだよね。

コロ: まさに! フォークの底力に圧倒されました。
ボクの知識がどんだけ浅はかだったかを思い知ったね。深い、深い。

カル: ボブ・ディラン、ポール・サイモン、ジョニ・ミッチェル、
ジェイムス・テイラー、ザ・バンド、
そんでもってCSN&Yをはじめとするローレル・キャニオンのコミュニティと、
ボクらの知識はその程度だものね。

コロ: 1954年生まれの浦野さんも当初は、
そんなシンガー・ソング・ライターたちに傾倒していたそうだよ。

約5000枚のレコードコレクション。浦野さんは『レコード・コレクターズ』誌の「レコード・コレクター紳士録」への出演経験もある。

約5000枚のレコードコレクション。浦野さんは『レコード・コレクターズ』誌の「レコード・コレクター紳士録」への出演経験もある。

〈久原本家〉創業の地・久山町で 農業を通じて未来を耕す、 〈里山サポリ〉の循環の輪

個性的な企業、個性的な個人が共存する久山町

福岡県の中央に位置する久山町。
福岡市の近郊にも関わらず、手つかずの自然が残る土地として知られている。
そんな久山町の名前が全国へと広がるきっかけになったのが、
1893年に創業した〈久原本家〉の存在だ。

久原本家が手がける和食の店〈御料理 茅乃舎〉の鍋の味わいを家庭でも再現できる
「だし」を販売したところ大ヒットする。
そのヒットを受けて、茅乃舎のだしは全国的な知名度を獲得。
久山町という名前も全国へと知れ渡っていった。

久原本家グループの本社。周囲には田畑が広がる。

久原本家グループの本社。周囲には田畑が広がる。

〈御料理 茅乃舎〉から生まれた〈茅乃舎〉ブランドでは、
現在、だしだけでなく、醤油や味噌、麹といった幅広い調味料を展開。
さらに、こうした商品を企画・販売するだけでなく、関わりの深い食材にスポットをあて、
産地とつくり手を自社のウェブサイトを通して紹介している。

そのひとりが久山町でイタリア野菜を育てている城戸勇也さんだ。
海外での経験を含め、長らく飲食業に従事していたが、
前職のイタリアンでの勤務のなかで農業への転身を決意。
その後、ひとりで、しかも独学で、
ゼロから〈里山サポリ〉という屋号を打ち出し、農業を始めた。
しかも城戸さんは当初からイタリア野菜に特化。
その野菜づくりをベースに、さまざまなアクションを起こしているのだ。
そんな城戸さんの活動もまた、福岡県下はもちろん、今では全国へと認知を広げつつある。
久山という地に個性的な企業、そして個性的な人物が共存するのは、
果たして偶然なのだろうか。
普段よりも早起きして、久山町へと車を走らせた。

〈キッキリッキー〉のそばを流れる猪野川。水の透明度に見惚れてしまう。

〈キッキリッキー〉のそばを流れる猪野川。水の透明度に見惚れてしまう。

訪れたのは予約制をとる朝食専門店〈キッキリッキー〉だ。
入口のドアを開けると「いらっしゃいませ!」と元気な挨拶に迎え入れられた。
声の主はキッキリッキーを手がける里山サポリ代表・城戸勇也さんその人。
野菜づくりを軸としながらも、
こうして朝からキッキリッキーで料理人として自ら腕を振るい、
午後からは畑に出るという日々だ。

厨房に立つ城戸さん(写真中央)。

厨房に立つ城戸さん(写真中央)。

アートディレクター・ 佐藤亜沙美の旅コラム 「北へ“人と本”に会いに行く」

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第37回は、アートディレクター・デザイナーの佐藤亜沙美さん。
子どもを産む前と産んだ後では、
旅に求めるものが変わってきたという。
そんな出産後に再訪することになった八戸市。
子どもと一緒に訪れたことで、感じたこととは?

子どもが生まれて変わった旅への意識

出産以前と以後で一番変わったのは旅の目的かもしれない。
歳とともに衰えていくものと思っていた好奇心はどんどん強くなるばかりで
産前には見たことがない場所、食べたことがないもの、
触れたことのない文化に足が向かった。

あるときは地図にも載っていないようなイタリアの山奥に、
あるときは沖縄の離島に、タイの屋台に、台南の朝のお粥文化に。
それは外に外に向かっていた。
移動距離の長さや現地で体験する予期せぬできごとの多様さによって
旅の満足感は高まった。

子どもが産まれたことで行ける場所も行ける距離もぐっと小さくなった。
子どもは縦横無尽に動き回るため、常に気を張って見ていなければならないし、
旅の直前に体調を崩す可能性も頭に置いておかなければならず、
計画をするだけでも精神的に負荷がかかる。

かつてのわたしはそれらの不自由をさぞ負担に思うだろうと思っていた。
わたしが人生の中心に据えていたのは常に「自由であること」だったからだ。
自分のわがままをいかに貫いていくかに生きるエネルギーのすべてを割いていた。

産後、体調が落ち着くとすぐに内なる好奇心が発動した。
旅での移動を、車で1時間、2時間とどんどん時間と距離をのばしていった。
そして先日、ハードルの高い新幹線移動を乗り越え、
ようやく自分がこれまで行った最北地点である八戸を再訪した。

富山の洋菓子工房〈ZAXFOX〉が KIGIと福田里香さんとつくる クッキー缶〈チージィーポッシュ〉の おいしさの秘密

魚津からひと缶の幸せを届ける〈チージィーポッシュ〉

どこか懐かしく、愛らしいデザインのクッキー缶。
蓋を開けた瞬間にチーズの香りがふわりと漂い、
きれいに整列したクッキーがぴっちりと埋め尽くす。
この見た目も中身も、心ときめくクッキー缶〈Cheesy Poche(チージィーポッシュ)〉は、
2021年秋に誕生して以来、オンラインやイベントで販売すれば、
すぐさま完売してしまうほど、たちまち人気となった。

クッキー缶〈Cheesy Poche(チージィーポッシュ)〉

そんなかわいさと、おいしさを兼ね備えた話題のクッキー缶が、
実は富山県東部に位置する自然豊かな海沿いのまち・魚津で
つくられていることは意外と知られていない。
人と人、人とお菓子、お菓子と生産者といった、
さまざまなかたちの結びつきを大切にする
富山の洋菓子専門工房〈ZAXFOX〉のオーナー・芦崎貴さんが、
クリエイティブユニット〈KIGI〉と出会い、
お菓子研究家の福田里香さんをレシピ監修に迎えて、約1年半かけて、完成したという。

(写真左から)〈チージィーポッシュ〉のクリエイティブディレクションとロゴタイプを担当するKIGI・植原亮輔さんと、アートディレクションとイラストレーションを担当する渡邉良重さん、レシピ監修を手がける福田里香さん。

(写真左から)〈チージィーポッシュ〉のクリエイティブディレクションとロゴタイプを担当するKIGI・植原亮輔さんと、アートディレクションとイラストレーションを担当する渡邉良重さん、レシピ監修を手がける福田里香さん。

今年の秋で丸2周年を迎えた〈チージィーポッシュ〉は、
どのようにして生まれたのか。
クッキー缶の誕生からこれまでの歩みを知る、KIGIの植原さんと渡邉さん、
福田さんに誕生秘話やその思いを聞いた。

思いとクリエイションの力で踏み出した、小さな一歩

「ZAXFOXの芦崎さんからお菓子のリニューアルを相談したいという
電話をもらったのが最初のきっかけです。
良重さんと一緒に魚津を訪問し、工場をいくつか見せてもらったのですが、
工場設備もしっかりしていて、真摯なお菓子づくりをしているなって。
そこで、芦崎さんの熱い思いをお聞きし、おもしろいことできそうだなと思ったんです。
もともとは別のお菓子のリニューアルの相談でしたが、
新しいお菓子も一緒につくれたらいいなと。
実はもうそのときには福田さんにお声がけできないだろうかと、
頭のなかで浮かんでいたんです」(植原亮輔さん)

KIGIの植原さんと渡邉さん

「福田さんには、以前『OFS.TOKYO(オーエフエスドットトーキョー)』で、
ワークショップをやってもらったり、かき氷をつくってもらったことがあるのですが、
福田さんの生み出すお菓子はどれもおしゃれで、本当においしくて。
ずっとご一緒したいと思っていたんです」(渡邉良重さん)

KIGIの植原さん、渡邉さんがパッケージデザインを手がけることになり、
おふたりの声がけによって、福田さんも製作チームに加わることに。

福田さんも製作チームに加わることに。

「最初はまさか『KIGIさんと組めるなんて!』と、びっくり。
なかなかない機会だなと思って、『ぜひ!』とお受けしました。
ZAXFOXさんのお菓子を送ってもらって自分なりに分析したり、
芦崎さんの思いを聞いたりしているうちに、
これまでにないものを届けたいという気持ちが大きくなっていきましたね」(福田里香さん)

ミュージックセレクターが お店の表情を夜な夜な変える 仙台〈Bar Gimme Shelter〉

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
宮城県仙台市。

〈Bar Gimme Shelter〉と〈Ribbon in the sky〉、
対を成すふたつのバー

カルロス(以下カル): レコードバーの選曲というと、
主人の嗜好がほぼほぼなんだけど、
ここ〈Bar Gimme Shelter(バー・ギミーシェルター)〉は
ミュージックセレクターが日替わりで、
じっくりお酒が飲めるDJバーって感じなんでしょう。

コロンボ(以下コロ): そうそう、
18人近くいるミュージック・セレクターが回すシステムなんだ。

カル: もちろんスタッフも回すんでしょう。

コロ: お店が温まった20:30〜23:30の時間帯を
ミュージックセレクターが受け持つんだよ。
セレクターには仙台を中心に活動するスカバンド〈ザ・ゴーストシンジケート〉の
セキ・ケンジロウさんがいたり、オーナーの大宮慎司さんがいたりと多士済々。

カル: 週末にやるにはそれなりの鍛錬が必要なのかな?

コロ: 平日にコツコツやって、感じをつかんで、
1~2年経ったら晴れて週末なんだってさ。

システムは〈ALTEC〉に〈McIntosh〉のゴールデンユニット。

システムは〈ALTEC〉に〈McIntosh〉のゴールデンユニット。

カル: オーナーの大宮さんも人気セレクターなんだってね。

コロ: セレクトのツボが老舗レコードバーではあまり聴かない感じで、
それが妙に新鮮なんだよ。

カル: ラウンジ系? それともスカし系?

コロ: 土曜日のプレイリストはこんな感じだったよ。
スタイル・カウンシルの「The Whole Point of No Return」から始まって、「Rollercoaster」Everything But The Girl →
「Rodeo Clowns」G.Love & Special Sauce →
「Echo」Tristan Prettyman →
「It’s Alright, It’s OK」Primal Screamという流れ。

カル: ギターのイントロが心地いい曲しばりかな(笑)。
こんな曲もあったよなー、って感じの趣味のいいセレクトだよね。

コロ: トーンは揃っているものの、年代もまちまち。
キラーチューンでもないけど、まったく耳なじみがない曲でもない。
やれそうでやれない、なかなかの塩梅なんだ。

カル: なるほど、オーナーの選曲が人気なわけだ。
スタカンといえば、ポール・ウェラー、来年、来日公演があって仙台にも行くね。

コロ: 「The Whole Point of No Return」はお店のブログにも、
「大宮さんが生きているうちにライブで聴きたい大好きな曲」って書いてあったけど、
そのオマージュだったのかもよ。

カル: やってくれるといいね。

コロ: 大宮さん、人気なんだけど、お客さんが盛り上がっていても、
時間がくるとやめちゃうのがたまにキズみたいだよ。
「こんなの社長だけですよ」ってスタッフに咎められるんだってさ(笑)。

カル: 淡白? それとも寸止めなのかな。

コロ: 僕らが行ったとき、
大宮さんは〈Ribbon in the sky(リボン・イン・ザ・スカイ)〉という
仙台にあるもう1軒の系列店で回していて、
そのときはシャーデーの「The Sweetest Taboo」とか、
ミスティ・オールドランドの「Got Me a Feeling」をかけていた。
これまた久しぶりに聴いて、かっこよかったなー。

カル: Ribbon in the skyはGimme Shelterとは
対を成すキャラクターのバーなんでしょう。

コロ: Gimme Shelterは仙台の歓楽街の国分町にある
オーセンティックなロックバー。
地下ガレージみたいなので屋号もローリング・ストーンズから拝借。

カル: Ribbon in the skyはスティービー・ワンダーの名バラードからってこと?

コロ: そのとおり。ここはビルの6階にあるので、
夜景も望めるロケーションで、すこぶる艶っぽい。
Gimme Shelterはロック、
Ribbon in the skyはブラックミュージックってことでもないんだけど、
ちょっとは意識しているそうだよ。

カル: 空間構成もそれなりにこだわりがあるんでしょう。

コロ: Gimme Shelterは文字通り、
シェルターに20名は座れる長いカウンターに、
ソファを置いたり、アンディ・ウォーホルのリトグラフがあったりと、
ガレージのアトリエを思わせる妖しい感じ。
一方、Ribbon in the skyはギャラリー風というか、
マイアミのデザインホテルのイメージなんだって。

カル: スピーカーもGimme Shelterは〈ALTEC〉で、
Ribbon in the skyは〈JBL〉というのも、なんともイカしたすみ分けだよね。
どちらもマッキン(マッキントッシュ)のブルーパネルが効いているけど。

コロ: 実はRibbon in the skyのスピーカー、
本当は〈TANNOY〉の「GRF」なんだけど、現在修理中なんだそうだ。

カル: 修理中とはいえ、ちゃんとすみ分けてる、さすが!

コロ: 同じエリアにキャラクターが違った店があるっていうのは、いいもんだよ。
連れや気分によって変えられる。

カル: それにしても、このお店はレコードバーには珍しく、
閉鎖的なところがないみたい。4人くらいで来ても肩身が狭くなさそうだね。

コロ: 静かに飲んでいればノープレッシャーなはずだよ。

カル: 仙台で3軒目っていうのはあるのかな?

コロ: 3軒目は沖縄あたりで考えているんだってさ。

カル: 店名は「Loveland, Island」かな?

コロ: もうちょっと練らない?

ウォーホルのリトグラフなどポップアートとヴィンテージで構成された妖しげな空間。

ウォーホルのリトグラフなどポップアートとヴィンテージで構成された妖しげな空間。

information

map

Bar Gimme Shelter 

住所:宮城県仙台市青葉区一番町4-4-1 村上ビルB1

tel:022-797-5234

営業時間:18:00〜2:00

定休日:日曜

Web:Bar Gimme Shelter

 

SOUND SYSTEM

Speaker:ALTEC 828C

Turn Table:DENON DP-500M

Power Amplifer:McIntosh MC2105

Pre Amplifer:McIntosh C28

Mixer:ALLEN & HEATH Xone:43

旅人

コロンボ

音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。

旅人

カルロス

現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。

一関市の老舗〈京屋染物店〉が “地域の価値の創造”に挑む 複合ショップ〈縁日〉

染め物屋の枠を超えて

岩手県一関市の里山に、
築およそ200年の古民家を改装した複合ショップ〈縁日〉がオープンした。

店内には衣・食・住の暮らしの道具を販売するショップスペースとカフェがあり、
敷地内にはワークショップができるスペースやギャラリーも有している。

縁日の母屋の外観。

縁日の母屋の外観。

縁日のショップスペース。

縁日のショップスペース。

企画や運営を担うのは大正7(1918)年に創業した〈京屋染物店〉。
城下町だった一関で着物の友禅染めから商を始め、
現在は半纏や手ぬぐいなど、おもに郷土芸能や祭の衣装を手がけている。
代表は4代目の蜂谷悠介さん。100年以上続く老舗だが、若い担い手が多く、
柔軟な発想で新しい取り組みに次々と挑戦している。

手の力で染料を布に押し込む手捺染(てなっせん)で半纏の生地を染める様子。

手の力で染料を布に押し込む手捺染(てなっせん)で半纏の生地を染める様子。

染め終えた布は張り上げて乾燥させる。デザインから染め、縫製までを一貫して行っているのも同社の強みだ。

染め終えた布は張り上げて乾燥させる。デザインから染め、縫製までを一貫して行っているのも同社の強みだ。

2018年には自社ブランド〈en・nichi〉を立ち上げ、
東北地方の伝統的な野良着「猿袴(さっぱかま)」から着想した〈SAPPAKAMA〉、
山仕事に用いられていた「山シャツ」から着想した〈YAMA SHIRT〉など、
東北ならではのエッセンスを盛り込んだ商品を開発してきた。
ほとんどの製品が永久修繕に対応。
東北に根づく刺し子の手法を生かしたお直しも受けつけている。

SAPPAKAMAは2019年度「グッドデザイン賞」を受賞。

SAPPAKAMAは2019年度「グッドデザイン賞」を受賞。

縁日では、こうした自社製品に加え、同社がセレクトした品も数多く並ぶ。
北日本のつくり手を中心に、心地良い循環が生まれている商品など、
製品づくりにおける思想に共感したことがセレクトの基準だ。

ものを買う場所としてだけではなく、食や祭り、ワークショップなどを通じて、
体験する機会も提供している同店。
こうした場をつくったのは、染め物屋という枠に留まらず、
土地ならではの伝統や手仕事の技術を後世に伝えていきたいという想いがあるからだ。

店頭にはさまざまな製品が並ぶ。写真は五穀豊穣を祈願してつくられてきた民芸品 ”馬っこ” をリデザインした〈ノ馬 - nouma -〉(1430円〜)と、奥州市の休耕田で育てたお米から蒸留したエタノールを使用した〈遠野が香るアロマスプレー〉(2400円〜)。

店頭にはさまざまな製品が並ぶ。写真は五穀豊穣を祈願してつくられてきた民芸品 ”馬っこ” をリデザインした〈ノ馬 - nouma -〉(1430円〜)と、奥州市の休耕田で育てたお米から蒸留したエタノールを使用した〈遠野が香るアロマスプレー〉(2400円〜)。

〈THE FASCINATED〉と 『GOOD ERROR MAGAZINE』 横江亮介さんが静岡から発信する 唯一無二のサボテンとWEBマガジン

“突然変異”のサボテンを携え、全国をめぐる

全国各地でサボテンの巡回展を行うプロジェクト〈THE FASCINATED〉を主宰する
横江亮介さんに、その取り組みに求めるものを尋ねるとこう返ってきた。

「サボテンを『人と出会うためのツール』にしているんだよ」

静岡市街から車で20分ほど。青々とした山々に囲まれ、
すぐ近くには清流として名高い安倍川が流れている自然豊かな地域にある畑の一角に
小さなビニールハウスが設けられている。
そこで横江さんはサボテンを育てていた。
もともとは横江さんの奥さんの父親が借りていた畑を、
サボテンを育てる場所として使わせてもらっているとのことだ。

「ロケーションも最高だからね、ここは」

サボテンを育てるハウス

ビニールハウスの中には、不思議な形をしたサボテンがたくさん並んでいる。
あらゆる方向に曲がりくねったものや扇が波打つように広がった形のもの、
小さなサボテンの集合体のようなものもある。
これらの形はサボテンの成長の途中で突然変異が生じたことで成るもの。
横江さんによると、サボテンの突然変異には大きく分けて2種類あるらしい。

「綴化(てっか)とモンストローサ。
綴化というのは、普通サボテンのてっぺんにひとつある成長点が側面にできてしまって
帯状に成長していくこと。
モンストローサはあらゆるところに成長点ができることで、予想ができない。
意外と原形をとどめながら成長していくのもあるし、
本当にグチャグチャになってしまうものもある。
今あるもので自分的に形やバランスも良くて、かっこいいと思うのがこれかな」

横江さんがお気に入りのサボテンとして挙げてくれた「菊水モンストローサ」。

横江さんがお気に入りのサボテンとして挙げてくれた「菊水モンストローサ」。

横江さんにとって「良いサボテン」とは何なのか尋ねると、
イケてるサボテンのいくつかの基準を教えてくれた。

「このサボテンにはまだらに色が入っているでしょ、これを『斑入り』と呼ぶ。
サボテンの名前に『〜錦』と書いてあったら、
それはこんなふうに色が入っているということ。
きれいな色がまだらに入っているほど価値が上がる。
これくらい、迷彩っぽく色が入るといいんだよね。
あとはトゲが太いほどいい。基本はその2点が注目するポイントだけど、
トゲの密集度とか“肌”の感じとか、人によって大切にしているところはそれぞれだね」

色の入り方、トゲの太さもいいと横江さんが語るサボテン「綾波錦」。

色の入り方、トゲの太さもいいと横江さんが語るサボテン「綾波錦」。

横江さんのビニールハウスではこうした“奇形”に育った
さまざまなサボテンを管理しているほか、自分たちでもサボテンを育てている。
種から育てる実生もあれば、接木で増やすものもある。
しかし、突然変異は人為的にコントロールできるものではないため、
根気強く一個一個の可能性を確認していく。

そうして、立派に育て上げたサボテンを全国のショップやギャラリーに持ち込み、
展示を行う。その活動を〈THE FASCINATED〉と名づけた。
でも、冒頭の言葉通り、
それはサボテンを売り歩くためのものではない。
“人と出会うため”のものなのだ。

ツレヅレハナコさんと 長野県栄村・小滝の稲刈り祭りへ。 300年後の未来を目指す集落で 希少なお米〈コタキホワイト〉を味わう

2度目の小滝集落。そこは銀世界ではなく、
黄金の稲穂が揺れる豊かな土地

「ハナコさん、とてもおいしいお米があるので食べてみて!」

1年ほど前、そう知人から手渡されたのが長野県栄村・小滝集落でつくられた
コシヒカリ〈コタキホワイト〉でした。

日本有数の米どころである新潟県中魚沼郡と隣接する長野県の栄村。
なかでも小滝は、わずか13世帯36人の小さな集落。
作付けできる量にも限りがあるため、
かつてはほとんど地元からは出ない「幻の米」だったそう。
さっそく炊いてみると、米は小粒ながらしっかりと甘みがあり、
もちもちとした食感で確かに美味。
あまりに気に入り、当時食べていた別の米を差し置いて繰り返し炊いたら、
あっという間に食べ終わってしまいました。

この米が育つ場所を見てみたい……。
そう思っていたところに、「真冬の小滝でかまくら宴会をする」と聞けば
飛んでいくのが道理。2023年2月、初めての小滝集落を訪れました。

(写真提供:小滝集落のみなさん)

(写真提供:小滝集落のみなさん)

東京からは車で3時間ほど。
着いてみれば想像以上の雪で、年間5か月以上、例年は3メートルを超えて
降り積もる深雪地帯なのだそう。
この気候も米づくりに大きく関係しているのだろうなあ。
そう思いつつも、周囲は見渡す限りの銀世界。
田んぼの気配は一切わからないままテクテク歩くと、
目の前に現れたのが巨大なかまくら!

集落のみなさんが、数日をかけてつくり上げられた、
大人でも20人以上が入れるというビッグサイズ。
立派なテーブルやベンチシートも雪をかためて設置され、本当の宴会場さながらです。
中を覗くと小滝の人々がもう集まっていて、
一升瓶を手に私たちを温かく迎えてくれました。

かまくら内外にやさしい明かりが灯り、ふるまわれたのは豚しゃぶ鍋や鴨鍋。
根菜などの野菜がたっぷり入り、大人も子どももみんなで囲めば芯から暖まります。
集落のみなさんが用意してくれた長野の日本酒や地元産のどぶろくとお酒もふるまわれ、
〈コタキホワイト〉の米粉を使ったみみだんごなども出していただき、
小滝に伝わる郷土料理の話でも盛り上がりました。
みなさんの笑顔がまぶしいこと。
みんな、この地の暮らしとお米に誇りをもっているのだな。そう思いました。

そして月日は流れ、再び訪れたのが2023年9月の稲刈り。
雪が消えた秋の小滝は、まるで別の場所のよう。澄んだ空気と緑もゆる山々に囲まれ、
目の前には黄金に輝く田んぼの稲穂が広がります。
ああ、銀世界も素敵だったけれど、これほどに美しい集落だったのか。

小滝集落 2023年9月

到着した夕方からは、みんなでバーベキュー。畜産も盛んな近隣エリアで育った豚肉と、
朝採れの新鮮野菜を鉄板で次々に焼き上げます。
肉はもちろん、この野菜がジューシーで最高! 
参加していた子どもたちも、モリモリとたいらげます。

みんなでバーベキュー

そして大人は、やっぱりグラス、盃片手のおしゃべり。
集落のみなさん、そして参加者同士でにぎやかなひととき。
ついつい私もおかわりを繰り返しながら、楽しい夜は更けていきました。

演劇モデル・長井短の旅コラム 「作家・舞城王太郎を追いかけて 選んだ旅先とは?」

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第36回は、舞台、テレビ、映画と幅広く活躍する
「演劇モデル」長井短さん。

いわゆる「聖地巡礼」とはちょっと違う、
長井さんなりの好きな作家を追いかける旅です。

 

作家・舞城王太郎の生まれた県へ

何年か前、福井に旅行したときのことである。
「ここに行きたい!」とかってなくて、
舞城王太郎が生まれた県に行ってみたいって理由だった。

彼の小説に頻出する地域のどこがどこのことなのかわからないし、
特段調べるつもりもなく、着いたはいいけど予定はない。
Googleマップで県を見回った結果、
ただ「まいじょう」と「いまじょう」のつくりが同じだったから、
私は夫と福井県の南越前町にある今庄駅に向かってみることにする。

そこに暮らす人々はみんな、びっくりするほど親切で、
ただ全員「何故ここに来たんだろう」と不思議そうな顔をして私たちを見つめた。
私だって不思議だった。
ここには「舞城王太郎記念館」なんてない。見たいものもない。
語呂が似てるからって理由だけど、ここまで一体いくらかかったんだろう。

そのまちには猫がいた。どこまでが公道で、どこからが私道なのかわからない、
石と苔とコンクリートが混ざった路地に佇むトラ猫。
そいつはとても人懐っこい猫で、
でも同時に、この猫に馴れ馴れしく関わったら最後、
背後から親分の化け猫でも出てきそうな神妙さも持ち合わせていた。

近寄ってくるから私も立ち止まる。そこに座り込むから私もしゃがみ込む。
だけどここで、この猫と過ごしているところをまちの人間に見られたら
叱られてしまうんじゃないかと私は終始不安な気持ちで、
いつものように猫との幸せな時間を過ごせない。
これはテストで、
私がこのまちにとって危険な存在でないかどうかを猫が測りにきているようだった。

〈ReBuilding Center JAPAN〉
東野華南子の旅コラム
「旅とは本を読む時間である」

さまざまなクリエイターによる旅のリレーコラム連載。
第36回は、長野県諏訪市で古材や古道具を扱う
〈ReBuilding Center JAPAN〉の東野華南子さん。

東野さんにとって、旅とは本を読む時間。
そうなったきっかけから
実際に旅の途中で読んだ本や、そのエピソードを綴ってもらった。

ハンカチでもティッシュでもなく「本持った?」と確認される家

旅といえば、本を読むこと。
そう思うようになったのには、幼い頃からの家族旅行にある。
父と母と姉と私の4人家族。
温泉に行く、といえば各自、本を準備する。
着いたら各々本を読んで過ごし、お風呂にはいってごはんを食べたらまた本を読む。

こう書くとなんだかえらく知的な家族のようだけれど、
そもそも本が好きになったのにはいくつか理由がある。

ひとつは海外駐在が長かったこと。海外駐在が長いと本が好きになる。
繋がりづらいかもしれないけれど、
中国やイギリスに住んでいたときに年に何度かあった日本への一時帰国、
なんせ飛行機が長い。
中国なら3時間程度だけど、イギリスとなると12時間。
その長い時間、自分が持ってきた本を読み終わって、
映画やゲームにも飽きてしまったら、そのあと読むものといえば家族の本しかない。
最年少だった私には推理小説やノンフィクションの本など
すこし難しいものも多かったけれど、
それを読んでは眠くなって眠ってまた読んで……
を繰り返しているうちに読み切っている。

街角で読書

そんなことを繰り返しているうちに
我が家では「出かける=本を持つ」になったのだと思う。
「ハンカチ持った?」でもなく「ティッシュ持った?」でもなく
「本持った?」と玄関先で確認されるのが、我が家の習わしだった。
そんなわけで日本に帰ってきてからも、
休みの日に喫茶店にモーニングを食べにいっては、本を各々読む。
読み終わってしまって本の交換をねだると「2冊目持ってきてないの?」と言われる。
そんな家だった。

新婚旅行のアメリカにて、『The Songlines』(竹沢うるま)。

新婚旅行のアメリカにて、『The Songlines』(竹沢うるま)。

〈カネス製茶〉が立ち上げた
ボトリングティーブランド
〈IBUKI bottled tea〉で、
見据える日本茶の未来

地元を離れ、家業、そして日本茶の価値に気づいていく

〈カネス製茶〉は、創業から60年以上の歴史を誇る静岡県の老舗の茶商。
昨年11月に会社として初となる
ボトリングティーブランド〈IBUKI bottled tea〉がローンチした。

ボトリングティーとは、特別な製法で茶葉のポテンシャルを最大限に引き出し
ボトルに詰めたリキッドタイプの高級茶のこと。
1本1万円から何十万円もするものまで、価格帯の幅は広いが、
いずれにしても通常のお茶の常識とはかけ離れた味と価格が特徴だ。

川根地区にあるカネス製茶の契約農家の茶園。このあたり一帯は鎌倉時代から続く茶園だという。

川根地区にあるカネス製茶の契約農家の茶園。このあたり一帯は鎌倉時代から続く茶園だという。

カネス製茶は静岡県の中部に位置する島田市の金谷と呼ばれるエリアに会社を構える。
大井川流域のこのエリアは銘茶の産地としても名高く、
下流域には全国の茶園面積の約12%を占める日本一の茶産地「牧之原茶園」がある。
お茶どころ静岡のなかでも特に古い歴史を持ち、
お茶づくりにおいて質・量ともに日本をリードしてきた地域なのだ。

カネス製茶の外観。直売所も備えている。

カネス製茶の外観。直売所も備えている。

〈IBUKI bottled tea〉は、
「IBUKI」「KOUSHUN」「NIROKU」といった3つのコレクションで構成されている。
自社の研究茶園で20年以上かけて研究開発した
希少な茶葉「金谷いぶき」を原料に使用した「IBUKI」は、
口に含んだ瞬間に強烈に広がる豊かな甘みと濃厚な旨みが特徴。

地元の島田市・伊久美地区の契約農家で栽培された
茶葉「香駿」が原料の「KOUSHUN」は、
さっぱりとした飲み心地と華やかな香りが堪能できる
バランスのいい飲み口のボトリングティーだ。

「NIROKU」はなんと和紅茶。
和紅茶栽培のパイオニア的存在である村松二六さんがつくった
品種「いずみ」を原料にしており、そのリスペクトをこめた名前に。
甘い蜜のような香りと自然な心地よい甘みが特徴だ。

「大前提として、これらは単体で楽しんでもらいたいものですが、
僕は新しい楽しみ方としてカクテルを提案したいです。
例えば、IBUKIやKOUSHUNなどの旨みを感じるタイプの煎茶は
ジンと合わせて飲むことをオススメします。
意外な組み合わせだと思われるでしょうけど、
マティーニのようなおいしいカクテルになります。
NIROKUは個人的にはスコッチ系統のジャパニーズウイスキーを2、3滴足して飲むと、
ウイスキーの芳醇な香りと紅茶の甘い香りが絶妙にマッチして最高です。
ペアリングするなら、チーズやアンチョビなどがいいと思いますね」

〈IBUKI bottled tea〉のラインナップ。左から「IBUKI」「KOUSHUN」「NIROKU」。

〈IBUKI bottled tea〉のラインナップ。左から「IBUKI」「KOUSHUN」「NIROKU」。

大阪〈Bird〉
ハウスバンドもいる
ドーナツのおいしいレコードカフェ

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
大阪市鶴見区。

〈TRUCK FURNITURE〉がプロデュースするカフェはレコードがぴったり

カルロス(以下カル): このカフェ、ハウスバンドがいるんだってね。

コロンボ(以下コロ): そうなんだよ。
〈The Bird〉っていうグループ名で、お店に西陽がほどよく差し込む夕暮れ時になると、
スタッフたちがバンドに早変わりするんだ。

カル: バンド名はThe BANDから?

コロ: The BANDと店名の〈Bird〉から由来するんだって。
そういえば、この夏、The BANDのロビー・ロバートソンも星になっちゃった。
とても悲しい。

カル: マーティン・スコセッシ監督の追悼コメントが泣けたなー、
「愛する人ともう十分に過ごせたと思うことはありません」だってさ。

コロ: スコセッシ監督作品とロビー・ロバートソンの関係は深すぎるからね。
『ラスト・ワルツ』はもちろんだけど『レイジング・ブル』、
最近では『アイリッシュマン』とかなりの音楽担当しているものね。
彼には欠かせない才能だったはず。

カル: そのハウスバンド、編成はどんな感じ。

コロ: 3人編成でギター2本に、ウォッシュボードという楽器。
ヴォーカルは全員参加。
The BANDの「The Weight」なんかもやるらしいよ。
3人まわしヴォーカルがなかなかハマるんだってさ。

山岳写真家・水越武の写真展
『アイヌモシリ
オオカミが見た北海道』

弟子屈町に住む写真家・水越武さんの写真展が開催中

私が弟子屈町に移住してうれしかったことは、
写真家・水越武さんが暮らしているということ。

『槍・穂高』(山と溪谷社/1975年)、
『雷鳥 日本アルプスに生きる』(平凡社/1991年)、
『HIMALAYA』(講談社/1993年)など、
数々の作品を世に送り出してきた、山岳写真の第一人者。

山の姿を写し出した、荘厳で崇高な作品の数々。
「美しい」だけではない自然の偉大さが、
静かに深く伝わってくる写真に惹かれる。

ポスターやフライヤーに使用させていただいたのは、満月の下で草を掘り出しているエゾシカの写真。

ポスターやフライヤーに使用させていただいたのは、満月の下で草を掘り出しているエゾシカの写真。

私などには想像もできないような深い思いで、
自然を観察し続けている水越さんが、
住処として選んだのが、弟子屈町だということ。

だから、川湯ビジターセンターでショップを始めるときも、
真っ先に、水越さんの書籍を販売したいと思った。
そして、屈斜路湖畔の森に囲まれたお宅に相談に行ったのだった。

あれから1年。写真展が開催できることになった。

阿寒摩周国立公園の自然情報を紹介する、川湯ビジターセンター。
総面積約450平方メートルの2階建ての館内をフルに活用して、
47点の写真を展示するという試みだ。

2023年9月1日から始まった写真展。入り口に掲げたのは、日本一の透明度を誇る摩周湖の空撮写真。ここならではの地形から生まれる美しさ。

2023年9月1日から始まった写真展。入り口に掲げたのは、日本一の透明度を誇る摩周湖の空撮写真。ここならではの地形から生まれる美しさ。

水越さんは、1938年愛知県生まれ。
山岳写真家の田淵行男氏に師事し、以後、
日本アルプスをはじめ、屋久島、
ヒマラヤ、北米・シベリア、中南米・ボルネオなど、
世界の大自然と向き合いながら撮影を続けている。

館内の奥には、紅葉の季節の針広混交林、林床に広がるエンレイソウの群落、雪に覆われた針葉樹の森など、森林の写真を7点並べている。

館内の奥には、紅葉の季節の針広混交林、林床に広がるエンレイソウの群落、雪に覆われた針葉樹の森など、森林の写真を7点並べている。

約30年前に北海道・弟子屈町に居を構え、
その後に刊行された『カムイの森』(北海道新聞社/1996年)では、
オオカミが徘徊していた頃の北海道の自然に思いを馳せ、
「北海道の原生林」をテーマに、
季節とともにさまざまな姿を見せる「北の森」を捉えている。

アカエゾマツの森に囲まれた、
ここ川湯ビジターセンターにも、
ときどきふらりと現れては、
森の活用法についてアドバイスをくれたりする。

そして昨年11月には、
『アイヌモシリ オオカミが見た北海道』(北海道新聞社/2022年)を刊行した。

大きな窓から、アカエゾマツの森を眺めることができる川湯ビジターセンター。階段の踊り場には、虹の光を受けて輝く知床の海や、深い霧に包まれた針葉樹の森の、大型写真を。

大きな窓から、アカエゾマツの森を眺めることができる川湯ビジターセンター。階段の踊り場には、虹の光を受けて輝く知床の海や、深い霧に包まれた針葉樹の森の、大型写真を。

黒姫高原〈アトリエ9〉宮本武 
写真家から転身し、
森の中にヒーリングサロンを開設

森の中のヒーリングサロン

雑誌『TRANSIT』『Number』、
AIGLE社と森林保護団体〈more trees〉のチャリティプロジェクトなどで、
やわらかな表情のポートレイトや
光が印象的にあふれる風景写真を収めてきた写真家、宮本武さん。
その彼が、18年にわたる海外生活を経て日本に帰国し、
2023年夏から長野県上水内郡信濃町の黒姫高原の森の中で、
ヒーリングサロンを開設した。

黒姫の森に佇む宮本さんのサロン〈アトリエ9〉。

黒姫の森に佇む宮本さんのサロン〈アトリエ9〉。

写真、黒姫、ヒーリング。
これらの結びつきは唐突のように見えて、宮本さんにとっては、ある種の必然だった。

ポートレイトというプロセス

転機のひとつは、2021年に刊行した宮本さんの初写真集『spectrum』(torch press)だ。
10年間、アイスランドに通いながら、
森や雪原、植物や鉱物と、男性のヌードをパラレルに撮影した、
生命のささやかな息吹のようなものを収めた作品だ。

中央が宮本さんの写真集『spectrum』(torch press)。

中央が宮本さんの写真集『spectrum』(torch press)。

実は宮本さんは、この撮影中、
写真を撮ることによって「自分のイヤな部分を癒したかった」のだという。
背景にはマイノリティとしての自身のセクシュアリティと、
そのために心に抱えてきた、つらいトラウマがあった。

「僕はそれまで、自分自身のセクシュアリティを被らせて、
『自分の繊細さ』を肯定できなかったんです。
だけど繊細さは、男女限らず誰しも必ず心のなかにあるもの。
『spectrum』では被写体の本質に近づくことで、それを世に伝えたかったんです」

以下3点とも、宮本さんの写真集『spectrum』(torch pressより)。(写真提供:宮本武)

宮本さんの写真集『spectrum』(torch press)より。(写真提供:宮本武)

宮本さんの写真集『spectrum』(torch press)より。(写真提供:宮本武)

宮本さんの写真集『spectrum』(torch press)より。(写真提供:宮本武)

ただ、「ポートレイトとは撮影者の鏡である」とよく言われるように、
被写体の本質に近づくには、
撮影者も「本質的な存在として、そこにいる」必要があったと、宮本さんは言う。
つまりこのとき、宮本さんにとって撮影行為とは、
自分自身の「イヤな部分」を内省するプロセスだったのだ。

宮本さんの写真集『spectrum』(torch press)より。(写真提供:宮本武)

宮本さんの写真集『spectrum』(torch press)より。(写真提供:宮本武)

「制作中、一度ダミーをつくったときに、
『心の明るい部分しか写っていない』って批判されたことがあったんです。
それで『暗い部分』を撮り直して、ミックスして、いまのかたちになりました。
つまり、自分がポートレイトを撮ることで、自分自身を癒す必要があったんです」

宮本さんのサロン〈アトリエ9〉より窓外の森を望む。

宮本さんのサロン〈アトリエ9〉より窓外の森を望む。

大阪〈yacipoci〉
音楽とビールの泡に
とことんこだわる

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
大阪市中央区。

夏の終わりにふさわしいイカした立ち飲みレコードバー

コロンボ(以下コロ): このイカした立ち飲みレコードバーは
オーナー以外、そうやすやすとレコードをかけられないんだよ。

カルロス(以下カル): なんで? 機材の扱いがデリケートなの?

コロ: レコードラックにレコードが反対向きに入っているから、背表紙が見えないんだ。

カル: つまり、かけたいレコードが選べない?

コロ: そうなんだ、ジャケットを見ないことには
目的のレコードに到達しないわけなんだ。

カル: なんでまたそんなややこっしいシステムなんだ?

コロ: 背が奥だと、レコードが出しやすいし、しまいやすい。
それと店主の秋谷直弘さんは心斎橋のレコードバーの名店〈BAR JAZZ〉が
メンターなんだって。あのお店もそうしているらしい。

カル: なるほど。当然、収納ルールもアルファベット順とかじゃないわけだよね。

コロ: もちろん! 秋谷さんが選びやすい順。

カル: そこがネックだよね。どのお店もどこに、
どんなレコードがあるかわからないから、うっかりプレイできない。

コロ: レコードだけじゃないんだ、うっかりプレイできないのは。
ビールサーバーが「スイングカラン」というレトロなサーバーで、
いまでは老舗ビアホールぐらいでしか見かけない、
ヴィンテージ級の難儀なサーバーなんだよ。

カル: 一度注ぎでおいしいビールが注げるという
ビールファンにはたまらない魔法のサーバーのあれ? 
熟練の技術が必要なんでしょ? 
レコードに針を置いたり、
スイングカランのZ軸のサーバーで泡を操作したり、大変そうだね。

コロ: ビールはガス圧、レコードは針圧なんだって。

カル: このお店の前は自転車屋さんだったんでしょう。
よっぽどアナログが好きなんだね。

コロ: 音楽よりビールの泡の話で盛り上がっちゃったよ(笑)。
クリーミーな泡はほんとに素晴らしかったな。

経年変化が美しい家。
ともに成長し
「家に似合うふたり」になりたい

現地を訪れてクチコミで土地探し

住所としては神奈川県相模原市緑区。
ただし中心地から車で30分以上走った台地に、
H夫婦が建てた〈BESS〉の「G-LOG」はある。
秋田出身のご主人・一樹(@camp_ee)さんは、就職で相模原へ。
佐賀出身でシンガーのSOTOni(@_sotoniyatoni_)さんと結婚して3年。
当初は橋本駅近くのマンションに住んでいた。

「2年くらいマンション暮らしでしたが、いつかは家を建てたいねという話はしていて、
よくBESSのLOGWAY(ログウェイ・展示場)に行っていました。
あるとき、久しぶりに行ってみたら、買いたい欲がすごく高まってしまって、即決。
翌週には契約していました」と笑う一樹さん。

日が入り、明るいリビング。物が少ない。

日が入り、明るいリビング。物が少ない。

一樹さんはキャンプが好きで、コテージや山小屋に泊まったときの感触がよかったこと。
キャンプでの焚き火が好きなので、薪ストーブを絶対に入れて家で火を見たかったこと。
それがBESSの家購入に踏み切らせた理由だという。

デザインや見た目のアウトドア感だけでなく、BESSの“哲学”にも共感している。
きっかけは『BESSってなんだ?』という冊子だ。

「ひとつひとつ気になる言葉ばかりなんです。
あまりに好きなので、BESSの家を検討しているという後輩に
『読んだほうがいい』とプレゼントして、自分用にもう1冊もらいました。
これは2冊目。トイレに置いてあります」

見た目やデザインだけではなく、思いにも共感した。

見た目やデザインだけではなく、思いにも共感した。

表紙には「ドレスアップよりドレスダウン」「時間の設計」など、
気になったフレーズが書き込まれ、中面にもメモがたくさん。
熟読していることがわかる。
なんと自宅の柱にも「野暮は揉まれていきとなる」と書いてしまったほど。

「不要になったら上から色を塗ったり、薄く削りとることもできる。それができるのもBESSの家の良さ」と一樹さん。

「不要になったら上から色を塗ったり、薄く削りとることもできる。それができるのもBESSの家の良さ」と一樹さん。

こうして家の購入は決めたが、もちろん土地も必要。
職場から離れすぎない範囲で「広い庭もほしいし、薪ストーブもあるので」と、
なるべく自然に近い場所にこだわった。しかし、なかなかいい場所が見つからない。

「もっと奥へ行こう、もっと奥、もっと奥……、といううちに
どんどん町から離れてここまで来ました。
田舎だけど、雰囲気がすごく良かった」

DIYでつくった薪棚。中央が最新作。後ろには抜けのある景観が広がっている。

DIYでつくった薪棚。中央が最新作。後ろには抜けのある景観が広がっている。

ふたりの家が建っている立地は開けていて、
家や畑が点在するが森に囲まれていて秘境のようなところ。

「自分たちでも土地を探そうと思って巡っていたんです。
偶然、この近くにある商店に入ったときに、
常連さんらしきおじいちゃんに
『土地探しているんですが、いいところありますかね?』と聞いてみたら、
すぐに地元の知り合いの不動産屋さんを紹介してくれて。
この土地は2か所めに紹介されて即決しました。
やはり地元の不動産屋さんはその土地に詳しいし、
そもそもネットなどに情報を出していないみたいです」

その日のうちにすべてのことが進み、テンポが良すぎてふたりとも心配になったほど。
この場所を見つけたのは偶然ではあるが、
それを引き寄せた行動力がもたらしたものでもあるだろう。

2階から外を眺める。

2階から外を眺める。

Jリーグ
クリエイティブダイレクター・
清永浩文
都会とローカル、両方の視点で
60クラブのバランスをとる

アパレル業界からJリーグへ

2022年の6月、清永浩文さん自らが立ち上げたアパレルブランド〈SOPH.〉を
退任するというニュースは、ファッション界に驚きを与えた。
そしてその翌月、清永さんが〈Jリーグ〉のクリエイティブダイレクターに
就任するというニュースもまた意外性のあるものだった。

ほかのアパレルブランドならばいざ知らず、Jリーグではどんな仕事をしていくのか? 
Tシャツやプロダクトをつくり、ファッション性を高くしていくのかと思えば、
どうやらそうではないらしい。

Jリーグの野々村芳和チェアマンからは
「清永さん、Jリーグをかっこよくしてください」というひと言だけだったという。
その“ラフ”なスルーパスを清永さんはどのように受け取ったのか。

結論からいえば「自分が適任者だと思った」と言う。

大分が地元である清永さんは、1998年にSOPH.を立ち上げる。
99年には〈FCレアルブリストル〉というサッカーアパレルラインを立ち上げ、
大分トリニータへのスポンサーも開始。

「サッカー好きというサポーター目線。そしてスポンサー目線。
一時期、取締役や株主もやっていたのでチームの運営目線。
このように多方面の目線を持っている人はほかにいないのではないかと思います。
そんな僕のような人物が関われば、
今後のJリーグにとって有益なのではないかと思いました」

たしかにJリーグを、
もっといえばサッカー界をさまざまな角度から見ることができる人物だろう。

会議室、その名も「OLD TRAFFORD」にて。

会議室、その名も「OLD TRAFFORD」にて。

急激な変化は求めない

就任して約1年、Jリーグでは開幕30周年記念という大きなイベントがあり、
まずはそれらに携わることになった。
Jリーグ30周年コンセプトワード「よっしゃ いこ!」は、
かつてのSOPH.で展開されていたコピーを知る者にとっては清永さんらしいと思える。
「まいったな2020」や「最後の戦術。」などのコピーを
SOPH.として世に出してきたからだ。

Jリーグ30周年のコンセプトメッセージ。

Jリーグ30周年のコンセプトメッセージ。

Jリーグ30周年のロゴ。

Jリーグ30周年のロゴ。

またJリーグはオフィスを移転したばかりであり、その監修も担当をした。

「僕が出したアイデアは『オフィスに入るときの高揚感を大事にしてほしい』というもの。
選手がピッチに入っていくシーンをイメージして、
出社する社員やゲストが高揚したらいいなと」

ガラス扉のエントランスの向こうには、大画面が広がっている。
パスをかざして自動ドアが開くと、
スタジアムでサポーターが熱狂する姿が映し出された。
たしかに気分は高揚する。

さらにオフィスが移転するタイミングで、
名刺や封筒などのデザインも清永さんのディレクションで変更することになった。

メインカットでは「アルビレックス新潟」の背景だったが、チームは毎回変わり、これは「川崎フロンターレ」バージョン。

メインカットでは「アルビレックス新潟」の背景だったが、チームは毎回変わり、これは「川崎フロンターレ」バージョン。

ただし、ひとりでディレクションし決定したわけではなく、
チームで行ったことだと清永さんは強調する。
なんだかサッカーっぽい。

「30周年も、新オフィスも、”僕がやった”わけではありません。
僕が来てすべてをガラリと変えるわけではなく、長く見て、
なんとなくJリーグのイメージがいい方向に高まればいいと思っています」

ファッションの世界でいうと、
スターデザイナーがメゾンブランドなどに就任すると、
ガラッと方向性が変わることが確かにある。
しかし今回はそんなことを目指してはいない。

「確かに僕が今までSOPH.でやってきたことは、ゼロからイチを生み出すこと。
自分のトップダウンで始めたことです。
でもそれとはまったく違って、僕ひとりで完結することではありません」

Jリーグ30周年記念アンセムとして
RADWIMPS「大団円 feat.ZORN」が発表された。
これも清永さんが積極的に絡んでいるのではないか、と勘繰ってしまう。

「そのように、僕が関わり始めたことで
『最近、Jリーグおもしろいですね』と言ってもらえたり、
すこしでも興味を持ってもらえればいい。
それだけでも僕がここに来た価値はあるかなと」

Jリーグが開幕して30年経った。当初の若者も30年、歳を重ねている。
となると、次なる世代にまた30年、100年と
長くJリーグを応援してもらわなくてはならない。
だから清永さんが「気がつかない程度に、ゆっくり良くなっていきたい」という戦略に
納得できる。

屈斜路湖畔の無人直売所
〈ミナソコマーケット〉
ウッドデッキに人が集まる。

小屋のウッドデッキに惹かれるワケは?

屈斜路湖畔の〈SOMOKUYA〉。
道民ならきっと誰もが知っている、すてきなカヌーガイド&雑貨屋。

営んでいるのは、土田祐也・春恵夫妻である。

2年前、私が弟子屈町に移住してから初めて
〈SOMOKUYA〉を訪ねたとき(移住前に何度も来ていた)、
店先にある、建設中の小屋のウッドデッキでおしゃべりをして、
この小屋は、祐也さんがコツコツ手づくりしていると聞いて、
「さすが北海道!」とうれしくなったことを、よーく覚えている。

北海道の人はDIY精神に溢れている。
「なかったら(買うのではなく)つくればいい」という考え方が大好きだ。

廃材を集めてつくられた、なんとも愛着がわく小屋。
「ここで、東京のあんな店やあんな人のPOP-UPストアをしたら楽しいだろうなぁ」と、
次々とイメージが湧いたことも覚えている(まだ実現できていないけど……いつか必ず!)。

そしてこの小屋が昨年から、なんだかいい働きをしている。

入り口に掲げられているのは、
〈ミナソコマーケット〉と書かれた看板。
並んでいるのは、ピチピチの野菜、コーヒー、焼き菓子、刺し子の小物、etc.

それぞれの商品の横にはBOXが置かれていて、代金を入れるようになっている。
そう、ここは無人直売所なのだ。

小屋に取り付けられた看板も、もちろん手づくり。

小屋に取り付けられた看板も、もちろん手づくり。

稲毛〈CANDY〉
静かな住宅街に佇む、
老舗ジャズ・スポット

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
千葉県千葉市稲毛区。

驚きのサウンド・スケープを誇る音響と語りかけるような選曲

コロンボ(以下コロ): 駅近とはいえ、静かな住宅街にお店があって、
音漏れとかは大丈夫かなと、恐る恐る入ったら、
キース・ジャレットのピアノ、
「Answer Me My Love」(『MUNICH 2016』)で出迎えてくれた。

カルロス(以下カル): 外から見る限り、瀟洒な佇まいなんだけどね。
相当、防音しているのかな。

コロ: それが玄関のドアを開けてびっくり、
その中は分厚いコンクリートと大きなガラスのブロックの“確かな壁”で囲われてて、
見かけに違わず堅牢なつくりでびっくり。

カル: “不確かな壁”(村上春樹の新作)じゃないんだ(笑)。
外に音は一切漏れないわけなんだね。
ところで、ご主人はキース・ジャレットがお好きなの?

コロ: ご主人の林美葉子さんにとって、
キース・ジャレットは青春の1ページなんだってさ。
初来日の1974年以来、ライブには欠かさず行っているらしい。

カル: 1974年から! それは青春というよりも人生そのものだ。

コロ: だね。それと、お店の準備をするときは清楚な音楽がいいんだって。

カル: たしかに。開店前にフリージャズっていうのも、テンションが高過ぎる。

コロ: でも、最近のヘビーローテーションは、
先日亡くなったペーター・ブロッツマンだって。

カル: 怖いくらいのド・フリージャズだ。
ブロッツマンといえば、クリントン元アメリカ大統領が好きなサックス奏者だね。

コロ: 出た豆知識。
フリージャズって、年配の人より、若い子のほうが、よく反応するんだってさ。

カル: ヒップホップ世代の方が逆に耳馴染みがいいんだろうね。わかる気がする。

コロ: かけてくれたレコードはお客さんにもらったんだけど、
家で聴いていると暗くなるんで(笑)、お店で聴いているらしい。

カル: 音楽ってそうだよね。ひとりで聴いているときと、
誰かと聴いているときだと感じ方が違う。

コロ: そこがリスニング・バーのいいところ、やめられない理由のひとつでもある。

イラストレーター・松尾たいこ
東京・軽井沢・福井、3拠点の循環で
得たもの、不要になったもの

福井で見つけた、海の目の前のリノベ古民家

海まで歩いて50歩。
水着を着たまま家を飛び出して、そのまま家に帰ってこられる。
海の目の前にある築100年を超える古民家のリノベーション住宅。
ここを生活拠点のひとつにしているのは、イラストレーターの松尾たいこさんだ。
「拠点のひとつ」というのは、ここが3つめだからである。

東日本大震災、そしてコロナ禍の影響で、2拠点生活を始める人が増えた。
東京からわりと近い長野、山梨、静岡あたりに移住、
もしくは拠点を構えることが人気だ。
ただ、もうひとつ拠点を増やし、
松尾さんのように3拠点生活をする人はまだそう多くはないだろう。

東京で長く暮らしていた松尾さんは、
まず2011年の東日本大震災後に、軽井沢との2拠点生活を始める。
避難の意味やすべての機能が東京へ集中していることへのリスク分散のためだ。

「当時は、軽井沢ということもあり、
2拠点というより別荘を借りた、くらいに見られていたと思います」

実際には、どちらでも仕事をできるようにして、生活の一部として機能させていた。
どちらも日常だ。

愛犬も一緒に拠点間を移動する。

愛犬も一緒に拠点間を移動する。

そして2015年、新拠点として選んだのは福井県だった。

「その頃、絵を描くことに自分のなかで少し行き詰まりを感じていて、
水墨画や日本画をやってみました。
そのひとつで陶芸にも挑戦してみたら、
自分の手でそのまま形をつくることにおもしろさを感じたんです」

こうして陶芸に興味を持ち、周囲にそんな話をしていたところ、
偶然、福井県に窯を持っている友だちがいて、そこへ通うようになった。
そのうちにもっと本格的にやってみたいと思うようになり、
〈越前陶芸村〉のなかに作業場がついた部屋を借りた。
すると、夫でジャーナリストの佐々木俊尚さんも福井に興味を持ち始め、
それならと、ふたりで拠点をつくることになる。

協力してくれたのは
NPO法人〈ふるさと福井サポートセンター〉理事長の北山大志郎さんだ。
美浜町にあり、築100年を超えるがリノベーション済みの古民家を紹介してくれた。

そもそも福井への接点もあった。
2006年頃から夫の佐々木さんが福井の企業などを取材したことがあり、
知り合いもいた。
それをきっかけにカニを食べに行ったり、鯖江にメガネをつくりに行ったり、
年1回程度は訪れるような土地だった。多少なりとも土地勘はあったという。

離れの納屋をリノベーションした仕事部屋。

離れの納屋をリノベーションした仕事部屋。