連載
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
大阪市中央区。
コロンボ(以下コロ): このイカした立ち飲みレコードバーは
オーナー以外、そうやすやすとレコードをかけられないんだよ。
カルロス(以下カル): なんで? 機材の扱いがデリケートなの?
コロ: レコードラックにレコードが反対向きに入っているから、背表紙が見えないんだ。
カル: つまり、かけたいレコードが選べない?
コロ: そうなんだ、ジャケットを見ないことには
目的のレコードに到達しないわけなんだ。
カル: なんでまたそんなややこっしいシステムなんだ?
コロ: 背が奥だと、レコードが出しやすいし、しまいやすい。
それと店主の秋谷直弘さんは心斎橋のレコードバーの名店〈BAR JAZZ〉が
メンターなんだって。あのお店もそうしているらしい。
カル: なるほど。当然、収納ルールもアルファベット順とかじゃないわけだよね。
コロ: もちろん! 秋谷さんが選びやすい順。
カル: そこがネックだよね。どのお店もどこに、
どんなレコードがあるかわからないから、うっかりプレイできない。
コロ: レコードだけじゃないんだ、うっかりプレイできないのは。
ビールサーバーが「スイングカラン」というレトロなサーバーで、
いまでは老舗ビアホールぐらいでしか見かけない、
ヴィンテージ級の難儀なサーバーなんだよ。
カル: 一度注ぎでおいしいビールが注げるという
ビールファンにはたまらない魔法のサーバーのあれ?
熟練の技術が必要なんでしょ?
レコードに針を置いたり、
スイングカランのZ軸のサーバーで泡を操作したり、大変そうだね。
コロ: ビールはガス圧、レコードは針圧なんだって。
カル: このお店の前は自転車屋さんだったんでしょう。
よっぽどアナログが好きなんだね。
コロ: 音楽よりビールの泡の話で盛り上がっちゃったよ(笑)。
クリーミーな泡はほんとに素晴らしかったな。
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カル: 泡にとことんこだわるくらいだから、曲と流れにもこだわるんでしょう?
コロ: ビール談義で白熱しているときは、
何気にアルファ・ミストとか、
今年亡くなったエマホイ(・ツェゲ=マリアム・ゴブルー)がかかっていたかな。
カル: エチオピアの女性ね。洒落たピアノの流れだね。センスいい。
コロ: お店が西向きなんで、青い時間帯はたそがれちゃうのか、
どうしてもジャズが多くなるらしいよ。
カル: ヴォーカル系は?
コロ: 日が暮れてからだってさ。フリージャズやアンビエント、
ビートゆっくりめが多くなりがちだそうだ。
カル: 野村訓市さんのラジオ『Travelling Without Moving』みたいだね。
コロ: よく聴くそうだよ。音源も拾ったりするって。
基本、ラジオから音源を拾うことが多いそうだ。
カル: 夏の終わりのまったりしたこの時期だとなにがかかるのかな?
コロ: レゾナンスミュージックによるコンピレーションアルバム『bar buenos aires』。
タイトルがいいね。冒頭のスキャットがおセンチな気分にさせてくれる。
渋いとこだとグレッチェン・パーラト&リオーネル・ルエケの『Lean In』あたり。
これはピーター・バラカンの番組から拾ったんだって。
カル: いいね、グレッチェン・パーラト&リオーネル・ルエケのヴォーカルとギターは
昔のタック&パティみたいな味わいがあって、夏の終わりにぴったりだ。
コロ: 大阪っぽいところだと、キティー・デイジー&ルイスかな。
カル: たしかに楽しくて、大阪っぽい。
コロ: とにかく選曲が巧みなんだよ。
洗練されているというだけでなく、お店の空間づくりの主役っていうかな。
ベタなところもなければ、奇を衒ったところもない。
カル: あまりにオーナーの独りよがりだと、
飲んでいてだんだん引いちゃうし、酔いも覚めちゃう。
コロ: そうなんだ、その辺のさじ加減がいいのかもね。
エッジが効きすぎちゃうと、とんがっちゃうけど、
そのエッジをなめらかにサンディングするっていうか。
カル: なるほど、わかる。
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コロ: 山下達郎さんを3曲続けたんだけど、
「AMAPOLA」→「BLUE VELVET」→「SO MACH IN LOVE」と全部アカペラ、
全部『ON THE STREET CORNER』シリーズからなんだよ。
カル: クリスマス時期ならともかく、たしかにありそうでない流れ。
1日1回はかけちゃうレコードってあったりするのかな?
コロ: ベン・ハーパーだとさ。中2のときに買って、
ミックステープに入れて女の子に渡したら、「気持ち悪い」って言われて(涙)、
それ以来、ミックステープは2度とつくってないそうだよ。
カル: 多感な年頃にかわいそうに。
レコードバーをやるのは、その復讐なのかもね(笑)。
コロ: それもこれも夏の終わりのおセンチなメモリーかな。
カル: 西日の差し込む夕暮れから飲み始めれば、さらにいいかも。
東横堀川の川面の揺らぎもいいし。ロケーションも最高なんでしょ?
コロ: 夏の終わりにぴったりなお店だね。
それもこれも〈Wharfedale〉のスピーカーから流れる、
店主の注ぐビールの泡のようなまろやかな音のおかげかもね。
information
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
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