連載
posted:2023.9.20 from:大阪府大阪市 genre:食・グルメ
〈 この連載・企画は… 〉
ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多
音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
大阪市鶴見区。
カルロス(以下カル): このカフェ、ハウスバンドがいるんだってね。
コロンボ(以下コロ): そうなんだよ。
〈The Bird〉っていうグループ名で、お店に西陽がほどよく差し込む夕暮れ時になると、
スタッフたちがバンドに早変わりするんだ。
カル: バンド名はThe BANDから?
コロ: The BANDと店名の〈Bird〉から由来するんだって。
そういえば、この夏、The BANDのロビー・ロバートソンも星になっちゃった。
とても悲しい。
カル: マーティン・スコセッシ監督の追悼コメントが泣けたなー、
「愛する人ともう十分に過ごせたと思うことはありません」だってさ。
コロ: スコセッシ監督作品とロビー・ロバートソンの関係は深すぎるからね。
『ラスト・ワルツ』はもちろんだけど『レイジング・ブル』、
最近では『アイリッシュマン』とかなりの音楽担当しているものね。
彼には欠かせない才能だったはず。
カル: そのハウスバンド、編成はどんな感じ。
コロ: 3人編成でギター2本に、ウォッシュボードという楽器。
ヴォーカルは全員参加。
The BANDの「The Weight」なんかもやるらしいよ。
3人まわしヴォーカルがなかなかハマるんだってさ。
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カル: 〈Bird〉といえば、家具屋の〈TRUCK〉がやっているカフェだよね。
コロ: そうそう。なので内装はもちろんのこと佇まいからして、イカしてる。
ノスタルジックな建物と植物が意思を持っているかのようなあしらいはいい景色。
カル: 週末には行列ができるほどのカフェなんでしょ?
行列ができるほどの忙しさでも、音源は基本、レコード、
こちらも強い意志を感じる。
コロ: レコードプレイヤーはカウンターからはかなり遠いところにあるんだけど、
途切れないようにレコードの面倒をみているんだ。
カル: ドリンクやフードをサーブしながら、
レコードを選んだり、ひっくり返したりは、慣れてないとやれないね。
選曲はどんな感じ?
コロ: ボクが入ったときはジェイムス・テイラーだったけど、
西海岸のアコースティックとかロバート・ジョンソン的なブルースが多いみたい。
カル: 木をベースとした店内にはバッチリだね。すべてが整っている感じがする。
お酒とコーヒーじゃ、聴かせる音も変わるよね。
コロ: 混んできたらアップテンポのジャズとか、
雨の日はキース・ジャレットの『The Melody At Night, With You』とかね。
選曲も空間演出のひとつなんだろうな。
ボク的にはDJ Cam Quartet(『Rebirth Of Cool』)がハマっていたかも。
カル: ……フランスだけど(笑)。
そういえば、〈TRUCK〉といえば20周年を記念して
『GOOD DAY MUSIC』というコンピレーションアルバムを出しているでしょ。
コロ: CDだけじゃなく、アナログもね。
カル: なかなか芯を食った選曲だよね。
コンピレーションにはめったに入らない
ボブ・ディランの曲(「Don’t Think Twice, It’s All Right」)もあったり、
ハウスバンドのレパートリー、「The Weight」も入ってる。
コロ: オーナーの黄瀬徳彦さんが〈TRUCK〉の家具や店をつくっている背景で
ずっと流れていた音楽を編集したそうだ。
黄瀬さんのオリジナル曲も控えめなボリュームではいっているんだよ。
カル: CDのみ入った曲だよね。タイトルがいいよね。
「Today Was A Good Day, Too」。
ところで、〈TRUCK〉だけにレコード棚とか
オーディオラックなんかも凝っているのだろうか?
コロ: ヴィンテージ感はたっぷり、基本は家にいる感じを意識しているそう。
オーディオも業務用というより、家庭用を中心に選んでいる。
カル: へー、そうなんだ。たしかに〈マッキントッシュC24〉のアンプなんかも、
マッキンのこれみよがしのブルーライトのバージョンでなくて、
ミッドセンチュリー的だ。
コロ: スピーカーも〈ALTEC〉なんだけど、
これまたホーム用で音もやわらかければ、見た目もやわらかい。
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カル: やわらかいといえば、自家製ドーナツもやわらかくておいしいよね。
さっくりと軽い質感で懐かしい味がする。
コロ: オーストラリアのヌーサに行ったとき、
スーパーの前にあったドーナツ・マシンに気持ちを鷲掴みにされて、
〈Bird〉をやるときにつくっちゃったんだって。
カル: 試作に試作を重ねた傑作なんでしょう。
見た目はさりげないドーナツだけど、奥が深いというか。
コロ: 山崎まさよしが「DOUGHNUT」という曲を
『GOOD DAY MUSIC』のオープニングに捧げたくらいだからね。
カル: コーヒーだって、すべてサイフォンで淹れているんでしょ。
これまた昭和の喫茶店みたいで、どこか懐かしい。
コロ: こんなノスタルジックな空間にはやっぱりレコードだね。
ちなみにボクの家のオーディオラックも〈TRUCK〉にお願いしたんだ。
カル: そんな情報いる?
information
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
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