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連載

福生〈Cafe ToRamona〉
フォークを聴きながら
のどかにコーヒーブレイク

SOUNDS GOOD!!! 音のいい店ジャパンツアー
vol.018

posted:2023.12.21   from:東京都あきる野市  genre:エンタメ・お楽しみ

〈 この連載・企画は… 〉  ジャズ喫茶、ロックバー、レコードバー……。リスニングバーは、そもそも日本独自の文化です。
選曲やオーディオなど、音楽こそチャームな、音のいい店、
そんな日本独自の文化を探しに、コロカルは旅に出ることにしました。

writer profile

Akihiro Furuya

古谷昭弘

フルヤ・アキヒロ●編集者
『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。

credit

photographer:深水敬介

illustrator:横山寛多

音楽好きコロンボとカルロスが
リスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは
東京都あきる野市。

ブリティッシュ・トラッドの深い沼にはまったオーナーの
フォーク・ミュージック遍歴とは

コロンボ(以下コロ): ニーナ・シモンが描かれたポートレートに迎えられて
中を覗くと、ずらり5000枚近くのレコード。
まるでレコードコレクターのお宅に招かれたみたいなカフェなんだよ。

カルロス(以下カル): 福生にあるんでしょう。
福生といえばなんたって、横田基地と大瀧詠一さんの〈福生45スタジオ〉。
アメリカン・カルチャーたっぷりなエリア。

コロ: といっても、ここ〈Cafe ToRamona〉のロケーションは、
いわゆる横田基地のある国道16号線沿いの
アメリカン気分のストリートとはちょっと違って、のどかな住宅街にあるんだ。

カル: マスターの浦野茂さんも福生が地元で、
大瀧さんと電車で一緒になったことがあるんだってね。

コロ: 立川駅で見かけて、失礼かと思ったものの、勇気を出して声をかけたら、
立川駅から青梅線の拝島駅までお話できたんだってさ。
1974年の出来事。

カル: 〈ToRamona〉の屋号は
ボブ・ディランの「To Ramona」のローマ字読みなんでしょう。
この曲、ディランの4枚目となる
『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』に入った美メロ。
内省的なアルバムで、当時のディラン・ファンには肩透かし気味だったけど、
今聴くと素朴で端正ないいアルバムだよね。その影響からの命名なの?

コロ: ボクも最初はそう思ったんだけど、
お話を聞くと『深夜食堂』で使用されていることでもお馴染みの
弾き語りのスーマーが、
「トラモナ」という曲名で「To Ramona」を日本語カバーしたことが
きっかけなんだって。
浦野さんも『アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン』は当時それほど、
ピンと来なかったらしい(笑)。

カル: あらためて聴いたら、相当よかったんだろうね。
このお店の売りはなんたって、フォーク・ミュージックの奥行きだよね。

コロ: まさに! フォークの底力に圧倒されました。
ボクの知識がどんだけ浅はかだったかを思い知ったね。深い、深い。

カル: ボブ・ディラン、ポール・サイモン、ジョニ・ミッチェル、
ジェイムス・テイラー、ザ・バンド、
そんでもってCSN&Yをはじめとするローレル・キャニオンのコミュニティと、
ボクらの知識はその程度だものね。

コロ: 1954年生まれの浦野さんも当初は、
そんなシンガー・ソング・ライターたちに傾倒していたそうだよ。

約5000枚のレコードコレクション。浦野さんは『レコード・コレクターズ』誌の「レコード・コレクター紳士録」への出演経験もある。

約5000枚のレコードコレクション。浦野さんは『レコード・コレクターズ』誌の「レコード・コレクター紳士録」への出演経験もある。

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渋谷のロック喫茶からはじまった

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カル: そこから掘り進めて、フォークの沼に?

コロ: いまはなき渋谷の〈ブラック・ホーク〉に出入りするようになって
世界が一変したんだって。

カル: 〈ブラック・ホーク〉というと、ジャズ喫茶の流れを汲むロック喫茶。
リスナーとしての力を育む道場ともいわれる伝説のお店。

コロ: 〈ブラック・ホーク〉の松平維秋さんの選曲に、
とことん圧倒されたんだってさ。
松平さんが選んだ「ブラック・ホーク99選」はすべてコンプリート、
レコードラックの1コーナになっている。

カル: それだけでも大したコレクションかも。

コロ: そうだね。浦野さん、ディラン、ジョニ・ミッチェルでフォークの扉を開け、
次第にフェアポート・コンベンションなどの
いわゆるブリティッシュ・トラッドへと傾倒して、
それ以来、イギリスのフォークにどっぷり。

カル: 最近はブリティッシュ・トラッドってあまり聞かなくなったかも。
以前は『レコード・コレクターズ』誌とかが特集を組んでいたけど。

コロ: 浦野さんの衝撃の1枚は「スカボロー・フェア」をフィーチャーした
マーティン・カーシーのファーストだそうだ。

カル: 「スカボロー・フェア」って、
元々はイギリスのトラディショナル・フォークで、
これを聴いていたポール・サイモンが
サイモン&ガーファンクルとして取り上げたんだってさ。

コロ: 聴かせてもらったんだけど、イギリス訛りが強い、
独特の節まわしが新鮮だったな。
これもブリティッシュ・トラッドの大きな特徴なんだって。
お気に入りの5枚を選んでもらったけど、これまたマニアックなセレクト。

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ライナーノーツにもらったサインとは?

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カル: 最近のおすすめだと、どんなところ?

コロ: CDだけど、アメリカからイギリスに移住したアーティストの
JEB LOY NICHOLS。ダブやレゲエの影響を受けたフォークで、
個人的にはデビューしたてのダイアー・ストレイツの感じがしなくもない。

カル: 今度聴いてみよう! 
話を聞くだけで浦野さんの知識が半端じゃないのがわかるね。ついていけた?

コロ: いや、迷子になっちゃった(笑)。
でも、おかげでボクのにわか知識がうまいこと補填されたね。

カル: 音楽だけでなく、ライナーノーツ・マニアでもあるんだってね。
暗記するくらい読み込んじゃうらしいじゃない。

コロ: 特に音楽評論家の中川五郎さんの論評が好きらしく、
デビッド・ブロムバーグのセカンド『変装した悪魔』のライナーノーツで
中川五郎さんとギタリストの中川イサトが対談しているんだけど、
そのライナーノーツにふたりのサインをもらっているんだよ(笑)。

カル: ミュージシャンのサインならわかるけど、
ライナーノーツの書き手のサインっていうのはお見事。
ところで浦野さんは日本のフォークシーンは、どんな経緯をたどったの?

コロ: ザ・フォーク・クルセダースで扉を開いて、高石ともや、岡林信康、高田渡、
五つの赤い風船と西に向かったそうだよ。

カル: 高田渡といえば「コーヒーブルース」。
だからトラモナではイノダコーヒーが飲めるんだね。
フォークとイノダコーヒーはとても相性がいい気がする。

コロ: おまけにマグカップは武蔵野タンポポ団のシバさんがつくってくれたんだって。

カル: まあ、フォークづくしだね。

コロ: ちなみにシバさんははっぴいえんどの『風街ろまん』で
ブルースハープを吹いていた人。
そうそう、はっぴいえんどといえば、
73年の文京公会堂でのチケットが飾ってあるんだけど、
なんと半券がもぎられてないんだよ。

カル: なんかの事情で行かれなかったの? 

コロ: いや、会場まで行ったんだけど、
並んでいるお客さんを見て帰ってきちゃったんだって。
思っていたより多くて、違和感を感じたらしい。
いまではちょっと後悔しているみたいだけど。

カル: わー、青春だね。
青春ついでに浦野さん的クリスマスアルバムのオススメってなんだろう?

コロ: A Winter Unionといってクリスマスシーズンになると集まるユニットで、
その彼らの新譜
『Sooner After Solstice~A Transatlantic Folk Christmas』だってさ。

カル: うーん、聴かねば。きっとフォーキーなんだろうな。

information

map

Cafe ToRamona 

住所:東京都あきる野市草花816-1 ラルジュ・アー101

TEL:042-842-3488

営業時間:10:00〜19:00

定休日:木曜

Web:Cafe ToRamona

 

SOUND SYSTEM

Speaker:Bowers & Wilkins 705 S3

Turn Table:TEAC TN-300

Intergrated Amplifer:DENON PMA-2500NE

CD Player:marantz CD5004

旅人

コロンボ

音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。

旅人

カルロス

現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。

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