連載
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Haruna Sato
佐藤春菜
さとう・はるな●北海道出身。国内外の旅行ガイドブックを編集する都内出版社での勤務を経て、2017年より夫の仕事で拠点を東北に移し、フリーランスに。編集・執筆・アテンドなどを行なう。暮らしを豊かにしてくれる、旅やものづくりについて勉強の日々です。
photographer profile
Yuki Chinen
知念侑希
ちねん・ゆうき/1992年東京生まれ。2020年に岩手県に移住。2023年より合同会社ホームシックデザイン在籍。
https://homesickdesign.com/
https://www.instagram.com/chineso/
岩手県一関市の里山に、
築およそ200年の古民家を改装した複合ショップ〈縁日〉がオープンした。
店内には衣・食・住の暮らしの道具を販売するショップスペースとカフェがあり、
敷地内にはワークショップができるスペースやギャラリーも有している。
企画や運営を担うのは大正7(1918)年に創業した〈京屋染物店〉。
城下町だった一関で着物の友禅染めから商を始め、
現在は半纏や手ぬぐいなど、おもに郷土芸能や祭の衣装を手がけている。
代表は4代目の蜂谷悠介さん。100年以上続く老舗だが、若い担い手が多く、
柔軟な発想で新しい取り組みに次々と挑戦している。
2018年には自社ブランド〈en・nichi〉を立ち上げ、
東北地方の伝統的な野良着「猿袴(さっぱかま)」から着想した〈SAPPAKAMA〉、
山仕事に用いられていた「山シャツ」から着想した〈YAMA SHIRT〉など、
東北ならではのエッセンスを盛り込んだ商品を開発してきた。
ほとんどの製品が永久修繕に対応。
東北に根づく刺し子の手法を生かしたお直しも受けつけている。
縁日では、こうした自社製品に加え、同社がセレクトした品も数多く並ぶ。
北日本のつくり手を中心に、心地良い循環が生まれている商品など、
製品づくりにおける思想に共感したことがセレクトの基準だ。
ものを買う場所としてだけではなく、食や祭り、ワークショップなどを通じて、
体験する機会も提供している同店。
こうした場をつくったのは、染め物屋という枠に留まらず、
土地ならではの伝統や手仕事の技術を後世に伝えていきたいという想いがあるからだ。
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店内では岩手県内で害獣駆除された鹿肉を使ったカレーをいただけるほか、
鹿の角を生かしたシャンデリアが飾られ、
一角には、鹿の皮で開発した〈山ノ頂〉の製品が並ぶ。
山ノ頂は、en・nichiのブランドラインのひとつだ。
長年、伝統芸能の衣装を手がけてきた京屋染物店だが、
悠介さんはじめ、スタッフの多くが約4年前から
当地に伝わる「舞川鹿子躍(まいかわししおどり)」の継承者となった。
生きものの命をいただく供養や感謝、
また、鹿の頭をかぶることで人間と動物の命が巡り巡るようにも感じるという鹿踊り。
命を循環させようという気持ちで狩猟を行う踊り手にも出会い、
9割は廃棄されているという駆除された鹿の命を生かそうと山ノ頂が生まれた。
「祭りを支える染め物屋としてやってきたので、
日本の土地から湧き上がったものをかたちにした商品づくりをしていきたいと思って
en・nichiを立ち上げました。
一部の製品は、漆の木や胡桃の樹皮など、
廃棄されていた地域資源を活用した染色を行っています。
山ノ頂も同じ想いから生まれたものなんです」と悠介さんは話す。
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こうした地域への強い想いはどのように育まれてきたのか。
そこには礎となる出会いがあった。
悠介さんは2010年、先代の父を病で亡くし、32歳の若さで代表に就任。
「当初は父が病気になったことや、斜陽産業の染物業、
人口減少率が著しい一関のまちに対してネガティブな気持ちしか持てていなくて、
俺ってなんて不幸なんだと思っていました」と話す。
そんななか、追い討ちをかけるように2011年に東日本大震災が発生。
全国の祭りが中止となり、多くの仕事がキャンセルとなった。
「終わった。もう店はダメだと思いました」
仕事がストップした悠介さんは、被災地ボランティアに参加。
一関から沿岸の陸前高田へ向かう道中、
高台にあるブルーシートのテントに人影を見かけ、避難を呼びかけに行った。
「そうしたら、こう言うわけです。“余計なお世話だと。
あんたこの景色を見てどう思う?
家もなくして、肉親も見つからない、それでももう1回この場所で生活を取り戻そうと、
この丘からの景色を見に来る人がいたときに、
一緒にやっていこうって肩叩いて勇気づける。
そんな役目を果たせる奴がいなくてどうするよ。
俺らはそんな仲間をここで待っているんだって”。
その話にめちゃめちゃ感動して、号泣してしまったんですよ」と悠介さん。
廃業も覚悟していた悠介さんは、被災者であるその人に、自分が染め物屋であることや、
苦しい現状の話を打ち明けた。
そうすると「俺の宝物を見せてやる」とブルーシートの奥へ。
持ってきたのは、ボロボロになった半纏だったという。
震災前に地域の祭りで使っていた半纏。
それを瓦礫の中から引っ張り出し、泥を洗い流して大切にしまっていたというのだ。
そして祭りと地域文化について、こう言ったという。
「日本中が自粛ムードで祭りが中止になっているけれど、
被災地のど真ん中にいる俺たちは1日も早く祭りをしたいと思っているんだ。
祭りには力があると信じているからだ。
県外に出てしまった仲間も故郷に帰って来るし、
当日までの準備の間にじいさんばあさんたちは昔話に花を添える。
そうやって俺たちは地域の文化を継承してきたんだよ」
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この話を聞き、悠介さんは頭をハンマーで殴られたような気持ちになったという。
「それまでは、染め物屋なんて世の中に必要とされていない存在だと思っていたんです。
いざとなったら捨てられる存在だって。だけどここに必要としてくれる人がいた。
考えてみれば、染め物って、祭りだったりお祝いごとだったり、
人の人生に寄り添わせていただいている
すごく大切ですてきな仕事だということを気づかせてくれたんですよね」
これを機に、悠介さんは被災地にある60団体以上の祭り装束の修復に奔走。
祭りが地域の結束力を高め、
被災したまちを復活させる原動力となっていくことを目の当たりにした。
こうした経験が、祭りや地域資源を軸とした現在の活動へとつながっているのだ。
2023年10月には、披露する場が無ければ伝承されていかないと考え、
鹿踊りなど伝統芸能を披露するイベント「ヘンバイバライ」を縁日にて開催。
伝統工芸の技に触れるワークショプや、
自然への畏敬・感謝を表現する現代アートの展示などを行った。
「祭りには、コミュニティを強くし、
文化を継承していく力があることを再認識しています。
それが地域の特性となり、アイデンティティとなっていく。
そこに僕らは、衣装づくりとして関わるだけではなく、
新しい場や仕組みをつくる担い手としても関わっていきたい。
ローカルを掘って掘って掘って、その先にはグローバルにつながる強みがある。
縁日をベースにして、地域の価値を創造して発信するということをやっていけたら、
一関や東北が来てみたいと思う地域になっていくんじゃないかなと考えているんです」
縁日には広大な敷地があり、創造できる余白がある。
土地にあるものを生かし、来訪者がやってみたいと思えることを実現できる場。
月1回、「里山整備」を行う里山サポーターズのアイデアでブランコがつくられたり、
葡萄畑がつくられる構想もあるそうだ。
次に訪れたときに何が生まれているか、ワクワクさせてくれる空間だった。
information
縁日
住所:岩手県一関市赤荻笹谷275
TEL:0191-34-8030
営業時間:11:00〜16:00
定休日:火・水・木曜(臨時休業あり)
Web:縁日
Instagram:@ennichi_iwate
*価格はすべて税込です。
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