連載
posted:2023.11.8 from:富山県富山市 genre:ものづくり / 活性化と創生
PR 富山県
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Rihei Hiraki
平木理平
ひらき・りへい●静岡県出身。カルチャー誌の編集部で編集・広告営業として働いた後、2023年よりフリーランスの編集・ライターとして独立。1994年度生まれの同い年にインタビューするプロジェクト「1994-1995」を個人で行っている。@rihei_hiraki
photographer profile
Eisuke Asaoka
朝岡英輔
あさおか・えいすけ●写真家。埼玉県出身。歴史や文化の薄い郊外のベッドタウンで育ち、茫漠とした青春を送る。その反動か、旅雑誌やメディアの仕事を通じて、国内外の暮らしや企業を取材するようになる。リサーチプロジェクト「住むの風景(東京編)」では、作家の温又柔氏を中心に『四十年目の都市』をテーマに建物の建て替えとともに変わっていく東京をリサーチしている。2022年末に写真集『over』を上梓。 @eisuke_asaoka_photography
ASAOKA EISUKE PHOTOGRAPHY富山県富山市に昨年9月オープンした、“家具の循環を体感できる”複合施設〈トトン〉。
非常にユニークなコンセプトのこの施設はどのようにして生まれたのか。
トトンの事業責任者を務める、富山市の家具・インテリア販売の老舗〈米三〉の
常務取締役・増山武さんに尋ねると、トトンの構想が生まれる以前から抱えていた、
あるもどかしい思いがきっかけだったという。
「我々は新しい家具をお客様に売るときに、
お客さまがそれまで使っていた家具を引き取っています。
その家具を一旦倉庫に持ち帰り、まとめて廃棄をしていたのですが、
それでいいのだろうかという思いがありました。
昔の家具は丁寧なつくりをしていてまだまだ使えるし、
とてもいい素材を使っているものも多いです。
しかも、廃棄するコストも高騰していました。
そうした状況にずっと“もったいない”という気持ちを抱いていたんです」
米三の倉庫に置かれた、購入者から引き取ってきた古い家具。
大量に生産し、大量に消費し、大量に廃棄する。
そうしたこれまでの一方通行型の経済活動から、
循環型の経済活動への転換が世界全体の課題となっている現在。
引き取って、もう処分されるだけの運命しかない家具で、
「循環」をつくり出すことはできないか。
そう考えた増山さんは、イベントで知り合った、
タンスや木彫りの熊のアップサイクル事業を手がけている〈家’s〉代表で、
のちにプロジェクトメンバーのひとりとして
〈トトン〉の立ち上げに関わっていくことになる伊藤昌徳さんに相談を持ちかけた。
「僕は家’sという会社で、引き取ったタンスをアクリルと掛け合わせ、
新たな価値をもたらすアップサイクルを行っています。
ただし、メインのスタッフが僕ひとりしかいないので、
どうしてもスピード感を出せないことから、
多くの家具を扱うことができません。
そこで、大量の中古家具を引き取っている米三だからこそできることとして、
中古家具の2次流通をやってみてはどうかと、増山さんに提案してみました」(伊藤さん)
株式会社家’sの伊藤昌徳さん。
家’sが手がける〈Re-Bear Project〉でアップサイクルされた木彫りの熊。
当初はそのように、引き取った中古家具の2次流通のみを目指した施設を構想していたが、
伊藤さんのほか、グラフィックデザイナーやコピーライター、設計事務所など
チームが拡大しさまざまな議論を重ね、
他の施設や企業の事例も知るなかで、次第にその思いは変わっていった。
「上辺だけ取り繕ってもダメだなと。はじめは家具の2次流通を
どううまく回すかというビジネス軸の考え方をしていたのですが、
そうではなくDIYやリメイク、アップサイクルの価値を高めていけるような、
ひいては富山のカルチャーをつくっていくような場所にしていこう、
そういう思いにシフトしていきました」
トトンを案内してくれた増山武さん。
そして、家具の循環を中心に新たなライフスタイルを提案する
複合施設〈トトン〉がオープンした。
富山駅から車で10分ほどの「問屋町」にあるトトン。
巨大なコンクリート造の倉庫が並ぶエリアの一角にある、
米三が保有する倉庫の1階と2階の広大なスペースを
リノベーションしてつくられた施設だ。
1Fには、サステナブルな雑貨やリペアした家具を販売するストアと
家具のリペア、DIYを行うスペース、
2Fにはカフェ、コワーキングスペースなど、
開放感ある施設内にはさまざまなエリアが設けられている。
さらに特筆すべきは、カフェやコワーキングスペースで使われている机や椅子、
食器や配膳のお盆まで、ほとんどすべての家具や道具が再利用、
あるいはアップサイクルされたものだということ。
まさに“家具の循環を体感できる”というコンセプトを体現した場所だ。
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トトンの中を増山さんに案内してもらった。
1階のエントランスを開けるとまず目にするのは、
器やアクセサリー、食器などさまざまな雑貨が並ぶエリア。
「サステナブルなものづくりをしているブランドのアイテムや、
少し傷があったり、形が整ってなかったり、
そうした事情で販売にまでは回らなかったB級品などを販売しています。
また、トトンオリジナルのアイテムとして、
B級品のTシャツを群馬の染工房〈桐染〉に染色してもらったTシャツも販売しています」
ロングライフやサステナビリティをテーマにした商品が並ぶ雑貨コーナー。
富山県砺波市の伝統工芸品「三助焼」のB級品を引き取り、焼き直して再販売している。
それらの雑貨エリアに続くスペースには椅子やソファ、机など大量の家具が置かれている。
これらは米三の事業のなかで引き取った家具を修繕・加工して再販売しているもの。
当初の構想にあった2次流通が実現したマーケットだ。
驚くのは、それらの家具の価格。信じられないほど安い。
普通のインテリアショップで買えば、おそらく数万円〜十数万円もするものが、
数千円〜1万円ほどの価格で売られていたりするのだ。
なぜこのような価格設定にしたのだろうか。
「まずは、廃棄予定の家具をもう一度流通させ、
その数を増やすことが大事だと考えています。
そうして家具の循環量を上げていくためには、
多くの人に手が届きやすい価格にしなければなりません。
〈カリモク〉や〈マルニ木工〉の昔の家具が数万円で売られていたりするので、
若い人たちが本物に触れるいい機会を提供できているとも考えています」
1階奥のスペースには、リペア・DIYゾーンが設けられていた。
ここは、持ち込んだテーブルの修理や椅子の張り替えなどをスタッフが対応したり、
トトンが回収した家具からバラしたパーツや端材を活用し、
利用者が自由にDIYなどができるスペースとなっている。
「リペアはお客さま自身で行うこともできます。
以前も、母親と娘さんがふたりで椅子の張り替えをしたいと訪れてきてくれて、
スタッフに教わりながら作業していました」(増山さん)
「自分で家具をリメイクしたりリペアできたりする文化が、
トトンから広がればいいなと思います。
そういう暮らしってとても豊かだと思うんですよね」(伊藤さん)
トトンの端材を活用した、初心者でも簡単にDIYが楽しめるBOXキット。
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2階には、コワーキングスペース、マテリアルライブラリー、
カフェ食堂〈トトンKITCHEN〉、フォトスタジオという4つのエリアが設けられている。
家具がずらりと並べられて開放的だった1階の空間と比べて、
しっかりとエリアごとでその用途が分けられている。
2Fの大半を占めるコワーキングスペースは、月額1万円で会員利用できるほか、
一般の方の一時利用も可能。
置かれた机や椅子は、すべて米三が引き取った家具を再利用したものだ。
なかには家具をユニークに活用した場所もある。
打ち合わせスペースの座席に
ベッドのカバーを取り外したポケットコイルが使われていたり、
個室ブースの扉が食器棚になっていたり、
どのように引き取った家具が活用されているかを考えるのも楽しい。
食器棚は隠し扉のようになっていて、奥には個室スペースがある。
増山さんはこのコワーキングスペースに、
サステナビリティやアップサイクルに関心を持つクリエイターや企業を集め、
新たなものづくりの拠点にしたいと考えている。
「富山市はビジネスパーソンが集うコワーキングスペースはあるのですが、
クリエイターに特化した場所はないんです。
クリエイターの方とともに、メーカーの新規事業部の人や
行政の人が出張オフィスのようなかたちでここにデスクを置いて、
自然とセッションが生まれて新たな何かにつながる、
シェアオフィスのような場所になってくれたらという思いがあります」
コワーキングスペースではイベントもよく開催しているという。
机やテーブルを移動すれば、200人規模のイベントの開催も可能だ。
さらにコワーキングスペース奥には、別途イベント用のスペースも設けられている。
ここではクローズドのイベントが開催でき、
サルベージパーティやワークショップなど、さまざまなかたちで利用されている。
2Fへ続く階段を上がったカフェ横のスペースにあるマテリアルライブラリーは、
富山の企業を中心に、製品の製造過程のなかで発生する端材や廃材などを紹介するエリア。
レーザー加工で切り抜いた金属の残材や、ガラス瓶を細かく砕いたもの、
木材の端材などが展示されている。
これらは展示されて終わりではない。
これまでは捨てるしか道がなかったこれらの素材を、トトンで展示することにより、
素材の特性に目をかけた企業や団体と
新たな商品開発へとつなげていくことを狙った場でもあるのだ。
実際にトトンでは、印刷工程の途中で破棄される紙を活用して、
スタッフの名刺を作成している。
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トトンの中を一通り見終わり、今どのような課題を持っているか増山さんに訊いてみた。
「我々がこれから取り組んでいかなければならないのは、
循環する家具のスケールをもっと大きくすること、
そしてトトン独自のアップサイクル技術を高めていくことです」
トトン横にある米三が引き取った家具が集う倉庫も見学させてもらった。
そこには大量の椅子やソファ、棚、マットレスなどが
再利用できるものとできないもので分けられていた。
米三の倉庫には、毎日お客様から引き取ってきた家具がたくさん運び込まれる。
トトンで販売したり、コワーキングスペースやカフェで再利用したりしても、
現状のままでは、2次流通のスピードが
まだまだ家具を引き取るスピードに追いついていない。
その現状をありありと感じさせられた。
この状況を改善するためには、
家具の循環の量とスピードをさらに上げていかなければならないのだ。
トトンのある倉庫施設は建築家・大谷幸夫の設計によるもの。手前の1、2階部分がトトン。
トトン独自のアップサイクル技術を高めること。
こちらに関しては、トトンは新たなプロジェクトを始めている。
今年に入り、オリジナルライン〈C±C〉を立ち上げた。
引き取った家具を単にリペアするだけでなく、デザイナーと協業し、
特殊なデザイン塗装を施したブランド。
いわばリペアとアップサイクルを掛け合わせた新たなアプローチで、
廃棄される家具を生まれ変わらせたのだ。
さらに、取材当日は、東京のサステナブルデザインブランド〈Ao.〉と
コラボレーションした椅子が展示・発売されていた。
廃棄される予定だった椅子を一度分解し、
元の塗装を剥がした後、藍染を施したものだという。
これらの例のように、トトンでは今さまざまなクリエイターやブランドとの
コラボレーションに力を入れ、
アップサイクルした家具の魅力をさらに高めていこうとしている。
Ao.とのコラボレーション家具の製造工程が展示されていた。
まだまださまざまな可能性を秘めたトトン。
今もいくつかのコラボレーションプロジェクトが動いているというが、
増山さんと伊藤さんにはやりたいことがさらにあるそうだ。
「アーティストインレジデンスがやれたらおもしろいと思うんです。
引き取った家具やライブラリーで展示されている廃材や端材を使って、
アート作品をつくってもらいたいなと」(伊藤さん)
「レジデンスはもちろん、
僕はデザインコンペをやってみたいなと、開業当初から思っています。
日本だけでなく世界中からデザイナーが集まり、トトンでエキシビションを開きたいです。
それが新たなプロダクトの誕生につながれば、本当にすばらしいと思います」
トトンが対峙しているのは社会の仕組みであり、経済の仕組みであり、
そして人々に根づいた“当たり前”となっている感覚だ。
不要になったら、捨てる。それは当たり前の感覚だったかもしれないが、
これから先の未来ではその感覚は変えていくべきものだろう。
捨てる前に、一度その状態や価値を考えて、
判断していくのがスタンダードになっていくべきだ。
トトンのコンセプトが頭の中にこだまする。
「捨てるをまわす、くらしをつくる。」
この言葉をもう一度、自分ごととして受け止めたい。
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