連載
posted:2023.12.8 from:香川県まんのう町 genre:食・グルメ / 活性化と創生
PR ロッテ
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
writer profile
Miki Hayashi
林みき
はやし・みき●ライター/編集者。東京都生まれ、幼年期をアメリカで過ごす。女性向けファッション・カルチャー誌の編集を創刊から7年間手がけた後、フリーランスに。ファッション誌から地域プロモーション冊子まで、興味の赴くままにあらゆる媒体で活動中。
photographer profile
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。コロカルで「暮らしを考える旅 わが家の移住について」連載中。
カリンを使った粉末ドリンクにアイスクリーム、チョコレート。
これらの商品は、カリンのおもな産地のひとつである香川県まんのう町で、
地元の企業によって開発されたもの。
でもカリンそのものの味を想像できる人は少ないのでは。
それもそのはず、実はカリンは生では食べられず、加工も難しいことから、
シロップやリキュールなどに漬け込むような食べ方くらいしか知られておらず、
商品化にもつながりにくかったのだ。
そのカリンをなんとかおいしく食べてもらおうと、試行錯誤のうえ完成した商品は、
今回〈カリンのトリコ〉ブランドとして、
まんのう町で開催された「かりんまつり」で来場者に提供された。
甘すぎない爽やかな味わいに
「カリンは子どものときからある、身近な存在」
「懐かしい味にも感じた」と、カリンのまちならではの声が。一方で、
「シロップやのど飴くらいしかカリンのことを知らなかった」
「カリンって食べられるんだ!」という声も。
どうやらカリンのイメージは千差万別のようだ。
実はこの3商品、まんのう町と株式会社ロッテによる
取り組みのひとつとして開発されたもの。
1985年から〈のど飴〉を販売してきたロッテにとって、
カリンは大切な原料のひとつであり、シンボルマーク。
しかし、生では果実を食べられないこともあり、市場にはあまり出回っておらず、
実際にカリンの実を目にしたことがある人は少ないのが現状だ。
だが、カリンは1000年以上前から日本に根づいてきた果物。
家庭によっては寒くなり乾燥した季節になると、
カリンを漬け込んだシロップを飲むなど、古くから日常的に親しまれてきた。
そんなあまり知られていないカリンが持つ魅力を伝えるため、
ロッテは2022年9月に、商品に使用するカリン原料をすべて国産にリニューアル。
同時に、かねてよりカリンでまちを売り出そうとしていたまんのう町と
「まんのう町民のかりん認知拡大推進に関する連携協定」を締結し、
一緒にカリンを盛り上げていく仲間として、さまざまな取り組みを行っているのだ。
かりんまつりに先立ち実施された「かりん認知拡大推進に関する報告会」では、
ご当地カリン商品の開発に協力した、地元で活躍する3企業による商品の紹介と、
まんのう町のふたつの小学校で行われたカリンの魅力を伝える地域授業について報告。
ご当地カリン商品について、栗田隆義町長も
「カリンそのものを食べるのは難しいのですが、研究開発していただき、
おいしい商品ができたことを非常に喜んでいます」と太鼓判。
また、毎年7月頃になると約75万本が満開になるという、
まんのう町の夏の風物詩ひまわりと合わせて、
「春夏にはひまわり、秋冬にはカリンで、
まち、町民、カリン栽培者、企業みんなでカリンを盛り上げ、
ひまわりとカリンで元気あふれるまんのう町を推進していきたい」と、
まちぐるみでカリンを盛り上げていく意欲を語った。
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地域の3つの企業によるご当地カリン商品のひとつが、
1986年創業のイタリアンジェラートの専門店〈OTTIMO(オッティモ)〉による
〈かりんのアイスクリーム〉。
しぼりたての牛乳にカリンの濃縮シロップとエキスを合わせ、
レモンピールとキャラウェイシードでアクセントを加えたアイスクリームは、
ミルキーながらもカリン特有の爽やかさもあり、ついつい手が止まらなくなる味わい。
しかし、オッティモ代表の飯間広太郎さんいわく
「カリンは昔から近所のおばあちゃんにもらったりしてはいたのですが、
香りがいいから部屋や車の中に芳香剤がわりに置いておくくらいで。
正直、ロッテののど飴をきっかけに『あれ? カリンって食べられるものなんだ』と
知ったくらい。どちらかといえばアケビのように、
よくわからないけれど昔からある果物といった存在でした」
実は今回の商品開発の前にも、カリンのアイスクリームづくりに
挑戦していたことがあったという飯間さん。
「自家製のカリンシロップにしても、家ごとに味わいが違うので、
みんなのイメージと一致する味がカリンにはないんですよね。
だから、できあがったものを『カリン味のアイスクリームです』と出しても、
返ってくるのは『?』という反応ばかりで。こんなに手こずる食材も珍しいです。
今回のアイスクリームづくりも、いかにみなさんが認知している
カリンの味わいに近づけるかという課題がありました」
そして完成したのが、キャラウェイシードを加えた、
かすかに香辛料の香りがする今回のアイスクリーム。
「カリンのリンゴに近い甘く爽やかな香りに近づけつつ、
苦味もちょっと残すという絶妙なバランスでつくりました」
ただ、味わいに関しては飯間さんは完全には納得していないのだそう。
「正直、まだ進化中だと思っていますね。
僕らの本来のアイスクリームのつくり方は、
果物そのもののおいしさをシンプルに味わってもらうもの。
でも今回はみんなが持っているカリンの味わいのイメージに近づけるために、
ちょっと複雑な味わいにしています。
今回はカリンを加工したシロップなどを使いましたが、
次はこういうことを試してみたいなというビジョンはありますし、
『カリンといえばこの風味』というものがもっと認知されれば、
シンプルな味にしてもいいのかなと思っています」
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お湯に溶かしてドリンクにする〈かりんの黒糖生姜パウダー〉を開発したのは、
食品の製造・卸業を中心に、地域の特産物を生かした
土産物づくりにも定評のある〈味源〉。
商品開発を担当したのは、商品企画室の西山夏海さんと吉田菜那さん。
ちなみにカリンを使った商品をつくるのは今回が初めてだっただけでなく、
ふたりともカリンがまんのう町の特産品であることも知らなかったそう。
またカリン独特の香りについても
「漢方のイメージが強いので、薬のような香りを想像していたのですが、
爽やかないい香りだったので驚きました」と吉田さん。
サバを原材料に使用したチップス菓子〈SABACHi〉など、
意外性のあるヒット商品でも知られる味源。
「最初は食べる商品、それこそカリンポテトなどを考えていたのですが、
思ったほどポテトとカリンの味が合わなくて。
それから塩トマトのようにドライフルーツにすることや、
スープにすることを試したりと、とにかく最初の試作が苦労しました」と吉田さん。
紆余曲折を経て、黒糖生姜ドリンクとカリンを合わせることに決まったものの、
またもや苦労したのが材料の配合だったそう。
西山さんいわく「生姜の風味の強さがカリン独特の苦味を消してくれるのですが、
本当に少しのさじ加減で味わいが変わってしまう」のだそう。
「カリンの粉末と香料を使用しているのですが、入れすぎると苦くなってしまうし、
黒糖を少なくすると生姜の風味が強すぎてしまう。
最終的には黒糖と粗糖を一番多くする配合に落ち着きました」
そして完成した〈かりんの黒糖生姜パウダー〉は、お湯に溶かすとほどよい甘さと、
カリンの爽やかな風味の後味を楽しめる、すっきりとした飲み心地のドリンクに。
これからの寒い季節、飲み物で温まりたいときに重宝しそうな一品だ。
カリンを使って今後どのような商品をつくってみたいかと尋ねると
「今回は黒糖生姜がベースなので、お子さんは少し飲みづらいかもしれませんが、
香りのよさを生かせば子どもの成長を手助けするようなドリンクもつくれると思います」
と西山さん。
また、「あまりなさそうな商品にも挑戦してみたいですね。
弊社はあるようでない商品をつくるのが得意なので。
カリンは本当にいい香りなので、プロテインのような、
そのままだと飲みにくいものに混ぜて飲みやすくしてあげるのもいいかも」と
新たなアイデアが生まれたようだった。
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最後に紹介するのは〈かりんのチョコレート〉。
開発を手がけたのは、讃岐山脈を見渡す里山に店舗を構える
〈SUNNYSIDE FIELDS(サニーサイドフィールズ)〉。
インドネシアから直輸入したカカオ豆とコーヒー豆を
店内の工房で焙煎・加工したクラフトチョコレートやコーヒーをはじめ、
農薬や化学肥料を使わない野菜でつくるお弁当なども販売しているショップだ。
果物とチョコレートなら相性がよく、商品化しやすかったのではと思いきや、
「カリンを使うのは初めてでしたし、カリンを使ったチョコレートの前例がないか、
かなり探したのですがまったくなかったですね」と話すのは、
ショコラティエの八十川(やそがわ)恭一さん。
「チョコレートは、基本となるチョコレートがあって
フルーツと一緒に食べるとおいしい味わいになるのですが、
カリンの場合は独特の渋みや酸味がある。
そこで逆の発想で、カリンにチョコレートを合わせるかたちにしました。
インドネシアのカカオ豆はレッドベリーや南国系の果物に例えられる味わいなのですが、
その味わいとカリンの酸味がケンカしないような
チョコレートにするのに苦労しましたね」
カリンの酸味と合うように、カカオ豆の焙煎具合から工夫をして
完成したというチョコレートは、板チョコレートではなく生チョコレート。
通常、生チョコレートは生クリーム、チョコレート、
バターを混ぜ合わせてつくるものだが、ここでも八十川さんのひと工夫が。
「生クリームの代わりに、カリンのシロップとはちみつカリンペースト、
そしてローズマリーを加えて長時間炊いたものをチョコレートに合わせています。
ただ、それだけだと乳脂肪分が入らないため硬さが出てしまうので、
まんのう町産の〈まんのうひまわりオイル〉を入れて硬くなりすぎないようにしました」
そして完成した〈かりんのチョコレート〉は、チョコレートの濃厚さのあとに
カリンの程よい酸味を感じられる、かつてない味わいに。
カリンがもっと広く認知されれば、
チョコレートの定番にすらなれるかもしれないおいしさだ。
また、商品開発をするのが好きという八十川さんには、
まだカリンを使った商品のアイデアが。
「うちでつくっているフレーバーチョコレートで、
瀬戸内レモンの果汁をパウダーにしたものを
チョコレートに練りこんでいるものがあって。
カリンの果汁もパウダー状にできるのであれば、
ミルク風味のチョコレートにしてもおいしいと思うんです」
まだまだ加工技術が発達していないというカリン。
今後の技術の発展次第では、次々とおいしいスイーツが誕生しそうだ。
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今回誕生した3商品の開発にあたり、各企業をサポートしたのが
ロッテのキャンディ企画課の豊田直弥さん。
しかし豊田さんとしては、商品が完成して終わりだとは考えていないようだ。
「ロッテとしては、原料加工が難しいカリンのノウハウを持っているのが
強みだと思っています。今回はロッテの知見をもとにいくつかの原料を準備し、
各企業様に提供、カリンレシピの開発をご依頼させていただいたのですが、
みなさん想像を超える完成度の高いものをつくってくださり、
やっぱりプロフェッショナルだなと思いました。
ただ正直言うと、加工技術が追いついておらず、アイス、チョコ、ドリンクの
それぞれに最適なカリンの加工原料が準備できていないんですね。
それぞれの商品に最適な原料を用意できたら、もっともっと商品として
進化できるのだろうなと、みなさんのポテンシャルを感じました」
今回は商品企画だけでなく、地域の小学校での地域学習も行った。
まんのう町とロッテはともに、今後も引き続き
カリンの魅力を伝える活動を継続していくという。
次のステップについてはどのようなことを考えているのか尋ねると
「商品開発に関しては、地域の参画者を増やしたいと思っています」と、豊田さん。
「もうひとつは、その下支えのための原料の準備です。
原材料となるカリンの生果も生産を増やす必要がありますので、
役所の農林課と手を取って生産拡大を検討します。
また、各商品に合わせたベストなカリンの加工ができる企業も、
今後探していくのが次のステップだと思っています」
また、まんのう町の松下信重さんも
「いろいろなカリンの商品が誕生して、例えば
『じゃあ原料となるシロップをうちの会社でつくって売り出していこう』
というような新しい企業が出てくれば、まちはどんどん循環していく。
そこを目指したいと考えています」と話す。
豊田さんも、「その先のステップとしては、
まんのう町にとどまらず、香川や四国、さらには全国にまで広がり
『まんのう町といえばカリン』『カリンは香川でしょ』といった、
シンボル的な存在になればいいなと考えています」と展望を語った。
かつてカリンのワインやジュースなどをつくっていたものの、加工の難しさもあり、
事業としてなかなか根づかなかったという過去もあるまんのう町。
しかし豊田さんをはじめとした若い世代による創意工夫によって、
カリンの新しい魅力が、いままさに生まれ始めているところだ。
空海が唐から持ち帰ったといわれ、平安時代から日本にあるとされているカリン。
そんなカリンの新しい一面が、まんのう町から広まる日もそう遠くないかもしれない。
information
味源
Web:味源
information
SUNNYSIDE FIELDS
サニーサイドフィールズ
住所:香川県仲多度郡まんのう町長尾2237
TEL:0877-89-6342
営業時間:10:00~16:00(15:30L.O.)※土・日曜・祝日~17:00(16:30L.O.)
定休日:水・木曜
Web:SUNNYSIDE FIELDS
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