連載
〈 この連載・企画は… 〉
北海道の道東・弟子屈(てしかが)町の「自然に住む心地よさ」に惹かれて移住した井出千種さん。
身近になった木や森を通して、「自然に惹かれる理由」を探ります。
writer profile
Chigusa Ide
井出千種
いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。
北海道の東側、
弟子屈町にも本格的な冬がやってきた。
毎朝の気温は、マイナス10度以下。
そんな厳しい寒さのなかでも、
アカエゾマツは空に向かって真っ直ぐ、凛と立っている。
弟子屈町に蒸留所を構え、
「森林、樹木、草花の機能成分を有効活用し、
動物や人の健康福祉に貢献する」ことを
目的に掲げてアカエゾマツを研究している団体
〈一般社団法人Pine Grace(パイングレース)〉。
代表理事である酪農学園大学名誉教授の横田博先生は、
アカエゾマツの魅力を次のように語る。
「北海道の厳しい寒さや過酷な環境でも育つアカエゾマツには、
独自の強みがあるんです。
成長が遅いので、ほかの木にも適した好環境では負けてしまう。
ところが、谷地など水分を多く含む環境では
カビや害虫などが多く繁殖し、
普通の樹木は枯れるリスクが高いのですが、
アカエゾマツはそれらに対抗できる防御物質を持っているので
成長していくことができるんです」
横田先生をはじめとするPine Graceのメンバーは
こんな頑張り屋さんのアカエゾマツに恋焦がれて、
アカエゾマツが持つ防御物質の有効な活用方法を
日々探り続けている。
川湯ビジターセンターでは毎週末、
館内でアカエゾマツの蒸留をしている。
「うわぁ、森の香りですね」
「山から帰ってきたじいちゃんの匂いだ」などなど、
来館者のさまざまな感想はあるけれど、
それでもほとんどの人が好感を持ってくれる、
アカエゾマツの香り。
上品でやさしい(人によっては「甘い」という感想もある)香りを
「北海道の森」を象徴するものとして、
より多くの人に感じてもらいたいと、
ショップをオープンしてから1年間、
蒸留の実演を続けてきた。
「何に使うのですか?」「どんな効果があるの?」
香りの感想のあとに、来館者からはそんな質問が続く。
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改めて横田先生に、アカエゾマツの防御物質について教えてもらった。
効果その1、ストレス低減効果。
2020年に発表された論文には、
アカエゾマツ精油が入ったローションを塗った後に、
多くの人が、ストレス度を表す唾液中のコルチゾールの濃度が
減少したという結果がある。
精油の成分分析を見ても、
自律神経の緊張緩和効果が認められている
ボルニルアセテートが主成分(47%)であり、
アカエゾマツの香りは、
人間をリラックス状態へと導いてくれるという確信が持てる。
効果その2、抗菌作用。
「マツ科の樹木は抗菌作用があることで知られていますが、
それらを比較してみるとどうなのか……。
トドマツとカラマツに、ヒノキとヒバを加えて、
7種の菌に対して試験をしたところ、
アカエゾマツは、ヒバと並んですべての菌を阻止する効果がありました。
トドマツやカラマツに比べると、圧倒的に強いのです」
と、横田先生は誇らしげだ。
アカエゾマツの精油には防カビや消臭の効果があるのでは、と、
さまざまな実験を試みている。
2019年に発表された研究をもとに製品化された、
アカエゾマツ精油を入れたクリームは、
真菌(カビ)が原因とされる牛の皮膚病の治療薬となり
実績を上げている。
効果その3、害虫忌避作用。
虫除けスプレーとしても活用できるかもしれないとのこと。
確かに「アカエゾマツの森」の中は、夏でも虫が少ない。
一歩外に出ると、アブに追いかけ回されることも多いのに、である。
さらにもうひとつ、抗炎症効果の実験も進められている。
というのも、アカエゾマツ蒸留水を
サウナのロウリュに使用したとき、
「喉がすっきりする」「鼻の通りがよくなった」
という声があったのだそう。
たくさんの可能性を秘めているアカエゾマツ。
ショップ2年目は、香りだけにとどまらず
効能もアピールしながら広めていくことができたら!
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2024年1月11、12日に東京ビッグサイトで開催される
「WOODコレクション2024」に参加することにした。
今年の1月に続き、2回目の挑戦。
前回は、道内のアカエゾマツとトドマツを使った精油など
14点を展示・販売。これが予想以上に好評だった。
次回で8回目を迎える「WOODコレクション」は、
日本各地の木材製品が集まる見本市。
昨年の「WOODコレクション2023」では
全国39都道府県から250の事業者が一堂に会した。
香りを扱った商品は、本州のスギやヒノキが中心で、
それらに加えて、青森ヒバやクロモジなどもちらほら。
そのなかで「北海道の森」を代表する
アカエゾマツとトドマツの香りに、
「初めて知ったよ、いい香りだね」
「アカエゾマツ? 聞いたことなかったなぁ」
そんな声が多いことに気づかされた。
そこで今回は、スケールアップ。
北海道の針葉樹を使った木工品なども加えて、約40点を展示・販売する予定だ。
阿寒摩周国立公園でたくましく育つ
アカエゾマツの枝葉を抱えて、新春、東京へと向かいます!
information
WOODコレクション2024
「植える→育てる→伐る→使う」という、森林の循環への寄与を目的に、木材の需要喚起と利用拡大を推進する、東京都が主催する国産木材の展示商談会。今回は38都道府県から250以上の事業者が参加する予定。建材、家具、木工品から、精油をはじめとする木にまつわるさまざまな製品が集結する。
会期:2024年1月11日(木)、12日(金)
場所:東京ビッグサイト 西1・2ホール
*価格はすべて税込です。
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