連載
〈 この連載・企画は… 〉
北海道の道東・弟子屈(てしかが)町の「自然に住む心地よさ」に惹かれて移住した井出千種さん。
身近になった木や森を通して、「自然に惹かれる理由」を探ります。
writer profile
Chigusa Ide
井出千種
いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。
5年前、北海道に移住して初めての夏、
“マルシェ”が多いことに驚いた。
広場や公園や森の中で、
近隣の、ときには車で半日以上かかる遠くの市町村からも、
飲食店や雑貨店、農家や作家が出店するイベント。
北海道での生活においては、
市街地から離れた自分の店でお客さんを待つよりは
雪のない時期は、店の中身を車いっぱいに詰め込んで
自分から出かけて行ったほうが効率的なのだろう。
だから北海道では夏から秋の間、
いつもどこかで“マルシェ”が開かれる。
青空の下で本を自由に閲覧できる「あおぞら図書館」と、
薪割り体験をさせてくれる〈たき火屋さん〉と一緒に、
昨年秋、『森と本と木の椅子と』というイベントを開催した。
会場は、森の中のキャンプ場〈RECAMP摩周〉。
コンセプトは、
「森の中でのんびり過ごそう。
好きな本や気になる本を携えて。
そこには木の椅子があったらいい。
自分でつくった椅子だったら、もっといい」
2回目となる今年は、出店者を集めてマルシェの要素も加えた。
参加してくれたのは、移動古書店、お菓子屋、カレー屋、珈琲店。
さらに手編み靴下屋、くるみのかごや、お昼寝アートの撮影なんていうのもある。
人気が高かったのは、台湾式足もみやタイ式マッサージ。
“森の中での極楽気分”は、さぞかし心地いいことだろう。
「ビブリオバトル」「森ヨガ」「木のスツールづくり」といった、
プログラムも用意し、
日没の頃からは「Night Program」も企画した。
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「あおぞら図書館」は、芝生の上に広げたシートに絵本を並べ、
大きなテントの下に書棚を置いて、スタッフが持ち寄った本を
来場者が自由に閲覧できるというもの。
太陽の下、大人も子供も、それぞれに好きな本を選んで
それぞれに好きなリラックススタイルで読書に耽っている。
その光景は、とても贅沢な空間に感じられた。
驚いたのは、森の中に突如現れたバー。
直前に出店を決めてくれたマスターは、
自分の店にあるカウンターとスツールを、
そのままゴソッと持ってきてくれた。
シラカバの木を背景にしたロケーションの素敵だったこと!
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「木のスツールづくり」は、キャンプ場に積まれたトドマツの丸太を活用。
皮を剥いて、ヤスリをかけて、という2時間ほどのワークショップ。
「ほら、触ってみてください、ツルッツルで気持ちいい!」
参加者はそう言って、大きなスツールをうれしそうに抱えていた。
「焙煎体験」は、〈たき火屋さん〉が熾こしてくれた火で
珈琲豆を煎ってみるというもの。
弟子屈町で人気の珈琲店〈工房一丁目〉に出店の相談をしたときに、
店主が「ワークショップもやってみようかな」と提案してくれたのがきっかけである。
たき火での焙煎は時間がかかったけど(そして熱かったけど)、
途中から豆の色が変わり、次第に珈琲のいい香りがしてきて……。
最後には、その豆で店主が一杯を淹れてくれる。
五感をフルに活用する体験になった。
私がもっとも気合を入れて挑んだのが、「森ヨガ」。
事前にインストラクターと打ち合わせをして、
木の気分になるという「樹木呼吸」を取り入れる予定だったけど、
あまりの心地よさに忘れてしまったのか……。
普通のヨガを、樹木に囲まれた芝生の上で行っただけではある。
だけど、それが本当に気持ちいい。
約1時間のプログラム。
目を閉じていると、そよぐ風と葉の擦れる音を感じ、
マットから降りると足の裏にひんやりとした地面が心地いい。
ポーズを取って上を見ると、スコーンと青空が広がっている。
心身ともにたっぷり癒された。
「Night Program」で行った「夕暮れヨガ」では、
クリスタルボウルの演奏が響き、
その後は「星空朗読会」。選ばれたのは、宮沢賢治の『双子の星』。
画像が映し出されるわけでもなく、紙芝居があるわけでもなく、
話に集中しようとして、ふと見上げた夜空のドラマティックだったこと。
雲が流れ、星が瞬き、人工衛星が動いていく。
そんなシチュエーションのなかで、ふたごのお星さまの話に耳を傾けた。
自然の中でゆっくり過ごすことで、改めて気づく心地よさ。
参加者それぞれのアプローチを通して、
いろんな発見をすることができた一日だった。
森の中のイベントは、今後どんな風に発展していくだろう。
また来年が楽しみになった。
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