アルゼンチンのアーティストユニット「メフンヘ」が、
冬の松代、山ノ家を拠点にフィールドワークを重ねる中で出会い、魅了された、
雪国の食品保存技術である「雪室」。
雪中に食品を埋めて保存することで、冷凍でもなく冷蔵でもない、
絶妙なチルド温度帯の中でじっくりと低温熟成して、食品を越冬させる雪室保存法。

雪の上に、かろうじて顔を出す目印のトーテムポール。


さて、「メフンヘ」のふたりが雪室というタイムカプセルに埋めた物体とは……?
どぶろく! でした。

この越後妻有の地は、魚沼産コシヒカリを産出する米どころでもあり、
地酒もとても美味。なかでも、ふたりはどぶろくが大のお気に入り。
これを雪中熟成させたらどうなるんだろう?と、お正月から滞在した後、
1月中旬に、そっとそれを雪中に埋め込んで、
来る春分の日に再び戻ってくることを誓って、
当時拠点にしていた九州は別府に戻って行ったのであった。
そのころ、山ノ家では、当地の名物料理を創作すべく、
メフンヘたちの雪室保存フィールドワークと並行して、
研究対象となった、この地の伝統料理「いちょっぱ汁」のフィールドワークを
シェフ ミナコさんが精力的に行っていたのでありました。

ミナコさん。
当初は、各家庭ごとに存在する製法を丁寧にヒアリングしていたものの、
このように多様に製法が存在するならば、どれが正解というものではない、
自分の舌がおいしいと感じる味がおいしいのだ、という確信に至り、
比較的濃いめの、いかにも雪国らしい当地風の味付けではない、
上品な薄味の、自分スタイルの「いちょっぱ汁」に到達。
そして、もうひとつの研究課題であった、やはり地元特産の「蕎麦」。
麺類としての蕎麦にこだわらず、何とマフィンに仕立て上げた。

香ばしい蕎麦粉と胡桃のマフィン。ころころとクッキーサイズに造形。
1月中に、山ノ家を含む松代の飲食店オーナーたちが、
ほとんど毎週繰り広げたお互いの試作発表・試食会は、
かなりのサプライズな「作品」の連続で、
伝統的な「いちょっぱ汁」を餃子の皮に包んだ小籠包仕立てなどなど、
この地の料理人たちの、何ともユニークな、とめどない発想力に絶句し、爆笑する日々。

この試食会への参加を通じて、もともと、飲食業が本業ではなかった
現地立ち上げメンバーの3人の女子たちは、
めでたく、地元飲食業界に仲間入りを果たしていたのでありました。

そして、迎えた「松代新名物創作料理発表会」は、大盛況!
いったい、この見渡す限りの雪の壁の中のどこにひそんでいたのであろうか?
という元気な地元のみなさんが、まつだい駅に直結する市民ホール、
その名も「常春ホール」に続々と集結し、
用意した試作たちはあっという間にあとかたもなく消費され、
私たちも、100メートル走を疾走した後のような心地よい疲労感に包まれて初の発表会を終了。

冬の空にひるがえる山ノ家のぼり!
そのおよそ、1か月後に、せっかくおいしく作った、
この山ノ家オリジナルいちょっぱ汁を、
冬の地元催事としては最大のイベント「冬の陣」(これも説明すると長いのだが、
まつだい駅から見える小高い丘の上に立つ松代城を征服する雪上トライアスロン
のようなもので、全国からトライアスラーが大挙して参加する名物イベント)
の屋台村にも初出店!

なんせ、人生史上、山ノ家女子たちは、屋台出店など経験がない。
右も左もわからぬまま、かなり手探りで準備して、
現場では、のぼりも自分たちで立てられないことをからかわれながらも、
山ノ家の良き隣人、鈴木家に手取り足取り助けられて、何とか決行。
この後も、毎年、この連合チームで出展準備するのが恒例となったのであった。

申し遅れましたが、当地では、2月中旬の「十日町雪祭り」に始まり、
その後およそ1か月、毎週末が次から次へと、息つく暇もなく
各地でさまざまな「雪」イベントが繰り広げられている。
そのような冬のイベントを、ふうふうと、こなしている間に春分が近づいてくる。
気がつけば、そうか3月も下旬なのだ、となる。
降雪期にこれでもかと雪で遊んでいるうちに春の足音がしてくるなんて、なかなかいい。
雪に閉じ込められて、落ち込んでいる暇などないのだ。
これも雪国をサバイバルする智恵なのかもしれない。

そして、雪は当地の人の心をつなぐ架け橋でもあるのである。