連載
posted:2015.5.1 from:栃木県宇都宮市 genre:暮らしと移住
〈 この連載・企画は… 〉
ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。
editor’s profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●コロカル編集部エディター。生まれも育ちも埼玉県。美味しいものに誘われ、西へ東へ全国行脚。
credit
撮影:千葉 諭
取材協力:宇都宮市
栃木の県庁所在地、宇都宮。
宇都宮の観光の盛り上げにひと役もふた役も買っているのは
何と言っても「餃子」なのだが、そのイメージがひとり歩きして、
なかなか土地の特色を打ち出せなかったのがこれまで。
最近の宇都宮は、「暮らす」というところに面白みがある。
何と言っても、東京から近い。
東京駅から宇都宮駅までおよそ2時間、新幹線なら50分弱。
高速でも2時間ほどで来られる“東京との適度な近さ”と、
市の中心部はショッピングビルや繁華街で利便性の高さを感じられながらも、
少し歩けば自然が豊かな住環境が魅力だ。
そこで、宇都宮市が打ち出したのは宇都宮の日常の暮らしの良さを感じられる
「ダブルプレイス(二拠点生活)」というライフスタイル。
「東京で働いて、週末は宇都宮で趣味などを楽しむ」
「宇都宮でのんびり暮らし、東京で仕事をする」
「宇都宮と東京を股にかけて仕事をする」「東京からのU・Iターン」など、
宇都宮とその他の地域(東京に限らず)に活動拠点を持ってもらおう
という試みなのだという。都心暮らしだけでは得られない、
地方暮らしの充実感を手に入れられるとあって、
これからの時代、確実に需要が増えることが予想される。
そんな宇都宮の日常の暮らしの良さをPRする宇都宮市と、
ダブルプレイスを実践する方にお話を伺った。
「地方への移住だとどうしてもハードルが高くなってしまいますが、
二地域生活なら気軽に始めていけるのではないでしょうか」と話すのは、
宇都宮市で都市ブランド戦略を担当する吉田和史さん。
確かに移住となると、仕事のことや住環境など、
めまぐるしく変わる身の回りの状況に、少なからず負担を感じることもあるだろう。
その点、ダブルプレイスは宇都宮に片足を置きながら、
その他の地域とも関係が持てるという柔軟性が受け入れられやすいのかもしれない。
また、完全な移住を将来的に考えている人でも、
徐々にその土地に慣れていくための「移住のお試し」という用途として、
ダブルプレイスはおすすめなのだ。
「東京などから来た人が、“宇都宮っていいところだね”と言ってくれるんです。
そういった外部からの評価によって、市民にも宇都宮の魅力に気づいてもらえれば」
という思いから、宇都宮に加えて他の地域にも活動拠点を置き、
宇都宮を(第1の、あるいは第2の)地元と捉えてもらう
「ダブルプレイス」を提唱したのだという。
吉田さんは、宇都宮でダブルプレイスを勧める理由として、
「宇都宮って“ちょうどいい”んです。東京との距離、自然と都会のバランス、
50万人都市という人口の規模。暮らしの拠点にちょうどいい環境と言えます」と語る。
「まずは、ダブルプレイス実践者に体験を語ってもらったり、
生活を見てもらったりして、希望者に“自分でもできそうだ”という
自信を持ってもらいたいです。今後は気軽に相談できるような
プラットフォームづくりを考えています。
最終的な狙いとしてはダブルプレイスを通じて、
宇都宮の暮らしの良さを知ってもらい
市民には宇都宮に対して“愛着”や、“誇り”を持ってもらい、
市外の方には、宇都宮に対して“行ってみたい”という思いや、
“好感”を抱いてもらえれば」と吉田さん。
そして、「宇都宮に来れば何か自分のやりたいことや面白いことがみつかるかも、
と予感させるようなまちでありたい」と話をしてくれた。
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坂田新聞店が発行している宇都宮市の情報誌
『TonTon(トントン)』の編集長を務める小森裕子さん。
彼女もダブルプレイスを実践しているひとりだ。
高校までを宇都宮で過ごしたあとに進学を機に上京。
その後も東京で出版社に勤めて多忙な日々を送っていたが、
2010年に『TonTon』の編集記者を打診され、
「また東京に戻ってくるんだろうな」と思いつつも、
新たな挑戦への魅力に惹かれて、宇都宮に戻ってきた。
居住地と仕事は宇都宮だが、月に1〜2回、美術館での展示を見に行ったり、
友人との食事会で、東京を訪れるのだという。
高校までは、宇都宮駅前やオリオン通りの
飲食チェーン店を利用することが多かったため、
宇都宮の魅力に気づけなかったと言うが、『TonTon』を始めてからというもの、
個人商店を取材してまわったことで、
地元の人も気づかないような面白いもの・人・ことが
このまちにはたくさんあるということに気づいた。
「高校生のときには“宇都宮には刺激がない”と思っていたのですが、
多くの人に取材をするうちに、単純に気づいていなかっただけだったんだな、と。
あとは、今宇都宮には多くの面白い人が集まってきていて、
その人たちと仲良くなったことで、いつのまにか“東京に戻りたい!”
という気持ちが薄れてきたのを感じました」
小森さんの口からは、次々とお店の情報や取材先で出会った、
シャイだけど実は心に熱いものを秘めているという宇都宮人の話が飛び出してくる。
ドーナツ店の女性、コーヒー店の店主、ギャラリーオーナー、
センスのいい子ども服店の話……。小森さんは、東京とのつながりも保ちつつ、
宇都宮でも市民と関係性を構築している
(と言うと固く聞こえるが、小森さんいわく
「取材きっかけで飲み友達になることが多いんです(笑)」だとか)。
実にバランスの良いライフスタイルだ。
「意外とみんな東京の方向を向いているというわけではないと感じています。
以前は、東京で流行っていたものを
追いかけるようにして宇都宮でも展開をしていたけれど、
こちらからカルチャーを発信しようとする気概を感じます」
それは、外部からも体験や情報を取り入れて、
刺激的な生活をしている人たちの力が大きいのだと言う。
釜川近辺の地区では宇都宮市民を巻き込んでイベントを行うなど、
宇都宮のカルチャーをつくっていくという事例もできてきた。
シャイなひとが多いと言われている宇都宮の市民性だが、
アクティブなひとたちが、率先して宇都宮を盛り上げようと知恵を絞っている。
最近の宇都宮のトピックと言えば、3月14日の上野・東京ラインの開通。
東京駅まで乗り換えなしで行け、横浜や湘南エリアからのアクセスもよくなる。
「これが思った以上に便利だった!」と口を揃える吉田さんと小森さん。
夜11時過ぎまで東京で遊んでいたり飲んでたりしていても、
終電で帰ってこられるのが嬉しいとふたりは話していた。
どんな人にダブルプレイスをおすすめしたいか、と聞くと、小森さんはこう答えた。
「これだけ交通の便も良くなったし、誰でも実践できることだとは思いますが、
強いて言えば、“オンとオフの切り替えをしっかりしたい人”だと思います。
仕事も住まいも遊びも東京となると、そこの切り替えが曖昧になりがちですが、
ちょっと距離を置くからこそ、リセットできる。
生活にもメリハリが出るのではないでしょうか。
まさに宇都宮はそれに適した場所だと思います」
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今、宇都宮で注目されているイベントのひとつが、
宇都宮の中心地バンバひろばで第1、第3木曜日に行われる「サーズデーナイトフィーバー」。
ちょうど取材の日が開催日だったため、小森さんや吉田さんたちと参加してみた。
宇都宮市とその近辺の市町から、移動販売車やキッチンカーがやってきて、
夕方ごろから少しずつ市民が集まってくる。
大通りを歩く人も足を止め、なにやら楽しそうな雰囲気に飲み込まれていくよう。
この日は、新鮮なミニトマトを量り売りしている市内の若手の農家や、
イタリアンバル風の、総菜がおいしい屋台などが出ていたが、
出店者も毎回少しずつ異なるため、お客さんもリピーターになる人が多いというのも頷けた。
日もすっかり落ちたころには仕事を終えたサラリーマンや、
女子会を開くOL、家族連れなどで大繁盛だ。
我々もさっそく宇都宮グルメに舌鼓。
最初は数人で飲んでいたはずが、偶然会った小森さん、吉田さんの知人も加わり
またその知人が人を呼び、とどんどん輪は広がって、最後は大宴会に。
雨上がりの夜風も心地よく、楽しい宴席となった。
「知り合いの知り合いが意外と近くにいてこういう場でつながれる。
このほどよい距離感が宇都宮はいいんですよね」と小森さん。
店も閉まった9時半ごろに宇都宮を出て、東京・渋谷に着いたのは11時半過ぎ。
なるほど、やっぱり宇都宮は近かった。
3月9日に開設された
Facebookページ「宇のコト−宇都宮の、暮らしのコト」は、
広報紙や観光情報誌に載らない情報が盛りだくさん。
行政、民間、交通、メディアなどさまざまな業種の人が運営に携わり、
リアルな宇都宮の衣・食・住の情報や、
宇都宮の「日常の暮らし」について、発信されている。
投稿はどれも宇都宮愛が伝わってくるようなアツいものばかり。
こうして宇都宮のイメージがつかめたら、
次に宇都宮でアクションを起こすのもいいかもしれない。
Information
Facebookページ「宇のコト−宇都宮の、暮らしのコト」
宇都宮市に住む人々の手のよるリアルな宇都宮の暮らしの情報の宝箱。宇都宮の衣・食・住についての情報を集めます。
https://www.facebook.com/unokoto.utsunomiya
Information
住めば愉快だ宇都宮
宇都宮市のブランドメッセージ「住めば愉快だ宇都宮」をキーワードに、仕事、食、活動や交流拠点、自転車、コミュ二ティメディアなど宇都宮に拠点を置いて活動するうえで有益な情報などを発信しています。
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