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DINING OUT
(ダイニング・アウト)日本平

Local Action
vol.053

posted:2015.5.22   from:静岡県静岡市  genre:食・グルメ / 活性化と創生

〈 この連載・企画は… 〉  ひとつのまちの、ささやかな動きかもしれないけれど、創造性や楽しさに富んだ、
注目したい試みがあります。コロカルが見つけた、新しいローカルアクションのかたち。

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Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●コロカル編集部エディター・ライター。生まれも育ちも埼玉県。出張先でおいしいご飯屋さんを探すことが得意。

食を通して地域の魅力を掘り起こす。
プレミアム・レストラン「ダイニング・アウト」が人気の理由。

美食の国ニッポン。でもまだまだ知らないニッポンだらけ。
本当に美味しいものは地元でしか味わえないものばかり。
時間と労力とお金をかけて味わいに出向くことこそがプレミアムと言えるだろう。

「ダイニング・アウト」はそういった意味でも特別なレストランだ。
ひとつの地域の厳選食材で、一流のシェフが腕によりをかけてつくる料理を、
最高のロケーションでいただく。ディナータイムでの開催のため、
遠方からの人は現地で宿泊しなければならない
(パッケージツアーがあり、大抵の参加者は利用している)。
しかも、当日体験するまで情報は制限されているものだから、
いったいどんなロケーションで、どんなすばらしい体験ができるのだろうかと、
参加者はみな胸を躍らせて開催を待つしかない。
たった一食の食事のために!? と思うことなかれ。
この“わざわざ”感がダイニング・アウトの人気のポイントなのだ。
なんと言ってもこの機会を逃すと二度と再現できない。
そんな数日限りの極上の野外レストラン、それがダイニング・アウトだ。

ダイニング・アウトが初めて開催されたのは、2012年の秋。
場所として選ばれたのは新潟・佐渡だった。
能堂を前に繰り広げられた壮大なレストランは成功を収め、
メディアに紹介されたり、参加者の口コミで評判が広がっていった。
食を通じてその地域ならではの新しい魅力を伝えるために、
著名なクリエイターをパートナーとして招聘し、
自治体や賛同者とともにつくりあげていくというスタイルはこの頃から変わらない。

過去には、広尾<ア・ニュ・ルトゥルヴェ・ヴー>の下野昌平シェフ
(「DINING OUT YAEYAMA 2013」を担当)や、
赤坂<TAKAZAWA>の高澤義明シェフ
(「DINING OUT SADO 2013」・「DINING OUT SPECIAL SHOWCASE」を担当)など、
世界からも熱い視線をあびているシェフらを起用してきた。

もともとは、博報堂DYメディアパートナーズによる社内の新規事業であったが、
“食を通じて地方に残された美しい自然や伝統文化、歴史、地産物などを
再編集し新たな価値として顕在化させ、地域経済の活性化を目指す”
というコンセプトや、“良質な時間を提供する”、“驚きの体験を提供する”
という点で共感した高級車ブランドLEXUS(レクサス)が、
第2回目からパートナーとして参加しており、
よりダイニング・アウトの世界観やブランド認知も深まってきた。

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数日限りの野外レストランが日本平でオープン。

そんなダイニング・アウトが6回目の開催地として選んだのは、
世界文化遺産の富士山を臨む名勝・日本平。
3月23日に日本平ホテルで行われたダイニング・アウトは、
天気は良好だったものの強風のため野外での開催が中止になり、
ホテル内で開かれることとなった。

だが、メインダイニングにスマートに誘導され、
花人・赤井 勝さんが活けた桜並木に出迎えられて着席すると、
もうここが野外であろうがなかろうが関係なくなる。
このダイニング・アウトがすばらしい会であることを期待させるには十分な演出だった。
ダイニング・アウトの開演をしばし待つ間、眼前に広がる桜を鑑賞する。
ここに集められたのは赤井さんによる遅めの河津桜の装花。
まだまだ天候や気温が不安定な季節にも関わらず、
見事にこの日に合わせて見頃の花が用意されていた。

静岡の個性豊かな食材を調理するのは、
気鋭の料理人、神保町<傳>の長谷川在佑シェフ。
そして、ホスト役をつとめるのは、ご両親が静岡出身ということで、
静岡に縁の深い編集者・評論家の山田五郎さん。
これより日本一早く、そして日本一贅沢なお花見
「DINING OUT NIHONDAIRA with LEXUS」が幕を開ける。

左から、ダイニング・アウトプロジェクト総合プロデューサーの大類知樹さん、赤井 勝さん、山田五郎さん、長谷川シェフ、LEXUS Internationalの沖野和雄さん。

「花見だから楽しくなければいけない。ユーモアを持ってつくれる人を選びたかった」(大類さん)ということで花人の赤井さんが装花担当に選出され、その期待通りの斬新さをもって会場を華やかに盛り立てた。

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<料理>

浜松名物『夜のお菓子』と言えばうなぎパイ。春華堂とのコラボレーションで実現した、ダイニング・アウト特注のうなぎパイはなんと本物のうなぎをパリパリに焼いて仕上げた「“おとなの”夜のお菓子」。桜海老と海老芋、海と山の“海老”を使った濃厚な「海と山のビスク」と共に。会場別室にてしみず芸妓の舞いを見ながらいただいた。ウェルカム・ドリンクは白隠正宗 誉富士(純米酒)を冷やで。

ビジュアルにびっくり! スッポンの甲羅の骨がかぶさったかたちで出てきた『明日はツルツル』。袋を開封するとふわっと立ち上る豊かな香りに二度びっくり。小松菜、にんじん、かぶなどの地元野菜で彩りを添えた滋味深いスッポンのスープ。

チキンハウス青木養鶏所の旨味が強いチキンと、ねっとりとした海老芋の唐揚げがユニークなボックスに収まった『DFC(静岡限定)』。海老芋は、磐田市が日本の生産量の約8割を占めるという隠れた静岡の名産。

『鯛VS鯛(たい・たい・たい)』は、金目鯛と真鯛をくっつけて駿河湾の海洋深層水を煮詰めた海のミネラル分(塩分)のみでいただく。脂ののった金目と淡白な真鯛の食感の違いや風味の違いを楽しみつつ、駿河湾を丸ごと味わえる一品。

『そして、そして、富士の山』は大地を嗅覚で感じるところから始まる。富士宮市の北山農園、馬場修一郎農園のミネラル豊富な土が渡され、土の匂いをインプットしてから料理をいただく。同じく富士宮市の岡村牧場の岡村牛のトモサンカク、ミスジ、ザブトンの3種は、わさび菜や食用花、焼いた海老芋、ビーツなどと一緒にサラダ仕立てで。

「僕たちが品種改良をしたらこんなイチゴになるんだろうな」と長谷川シェフがそのコンセプトを話す。長谷川シェフの創作魂に火がついた「からみひめ」。からみとは辛味、わさびのこと。大島桜の飴を崩したものがまぶしてあり、ショリッとした食感とマスカルポーネチーズ+わさびのまろやかな辛さがおもしろい。

うなぎの骨などを粉末にして肥料にして育てたという「うなぎいも」のデザート『うなぎいも蕎麦』。香ばしい蕎麦の実の食感がアクセント。自然な甘さが嬉しい。

『〆〼(しめます)』と、洒落でコースをお開きにするという粋な演出。升の中には、ホロホロと崩れるチョコレート。その上に菓子がふたつ。甘さが特徴の柑橘・はるみのジュースと一緒に。

一品ごとに静岡の地酒が用意された。ソフトドリンクには、お茶どころ静岡ならではの、さまざまな種類の「茶」を用意。

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長谷川シェフは、今回のメニュー開発のために静岡に何度も足を運び、
食材を厳選してきた。たくさんの生産者と出会ったが、
どの生産者も数珠つなぎのように知り合いの生産者を紹介してくれて、
ダイニング・アウトに向けてアドバイスしてくれたのだと言う。
生産者を通じてできた新たな食材との邂逅と、
長谷川シェフの創造力とたしかな腕でつくられた料理。
それらを盛りつける器は、地元の陶芸家やガラス職人、木工職人の作品を用いた。
ひと皿ひと皿に込めた大勢の関係者のメッセージやストーリーを、
ホスト役の山田さんが軽快かつユーモラスに長谷川さんから引き出していった。

東京から訪れた女性は、テレビを見てダイニング・アウトの存在を知り、
知人と初参加した。
「長谷川シェフはとても自由な発想をお持ちですが、
その発想がしっかりとかたちになっていたのが楽しかったです。
料理と静岡地酒の組み合わせもすばらしかったですね」と話した。

「すばらしかったのは食材だけではないんです。
さまざまな仕掛けや工夫のある演出とこの景色。
特に夕暮れから夜景への移り変わりを目にして、
まさに五感が刺激される夜だと感じました」と嬉しそうに話をしてくれた。

翌朝、日本平ホテルから見えた富士山は、春霞をまとわずくっきりと姿を見せていた。

日本平の魅力をどう伝えるか? ということを考えたときに、
この日本平ホテルからの景色はひとつの答えだったはずだ。
「桜・日本酒・富士山」というと古風な図になるところを、
ダイニング・アウトチームは見事に斬新でユニークな体験として
昇華させていたのが印象的だった。

次回以降のダイニング・アウトの開催地決めも気になるところ。
「やりたい! と熱い想いを持った地域に手をあげてほしいですね」と話すのは、
ダイニング・アウトプロジェクト総合プロデューサーの大類知樹さん。
まだ6回目、開催されたのは5地域。これからだ。
日本各地に眠る食のお宝を掘り起こすダイニング・アウト。
わざわざ行って、宿泊して、食べる価値アリだ。

宴席を終え、やっとひと息の長谷川シェフとスタッフ。ごちそうさまでした!

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