連載
posted:2015.7.29 from:群馬県高崎市 genre:エンタメ・お楽しみ
supported by オロナインH軟膏
〈 この連載・企画は… 〉
知リ100とコロカルがコラボレーションして、
全国のリアルに体験したほうがいいコトやモノを、体を張って体験してきました!
editor’s profile
Yu Ebihara
海老原 悠
えびはら・ゆう●コロカル編集部エディター。生まれも育ちも埼玉県。今回の取材前に群馬の祖母の家でもお蚕さんを育てていたことを知り、ただならぬ縁を感じる。
credit
撮影:津留崎徹花
〈知ったつもりにならないでリアルにさわってみたい日本の100〉
略して〈さわる知リ100〉が始まりました。
“さわるって、冒険”を合い言葉に、日本全国のさわれる体験を、
さまざまな年齢、性別の人がレポートしています。
〈コロカル×知リ100〉のシリーズ第1弾では
北海道・円山公園で鷹匠体験をしてきました。
あれから1年半。今回の体験は、「お蚕さんをさわる」。
繭やお蚕さんやサナギをリアルにさわって体験してきます。
コロカル編集部から体験者「サワラー」として任命されたものの、
虫が大の苦手な私、海老原。
企画倒れする可能性が高いのでは……? と一抹の不安が。
まずは見た目に慣れなければと思って画像検索で「蚕」「蛾」「サナギ」を見ても、
う〜ん、だいぶ厳しい!
でも、画像で見るのと、リアルで見てさわるのとでは違うはず! ですよね!?
こうして訪ねたのは、高崎市の〈群馬県立日本絹の里〉です。
JR高崎駅から車で30分。群馬の蚕糸業の歴史や技術を知る展示や、
糸織り体験、染色体験ができ、蚕や繭とふれ合うことができる施設です。
案内をしてくださったのは、展示案内役の原 登喜雄さん。
絹産業と言えば、記憶に新しいのが、
2014年の「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産登録。
富岡製糸場が創業を開始したのは明治5年ですが、
その質の高さから海外への輸出も軌道に乗り、
海外貿易の目玉として発展していきます。
しかし戦後、和装需要の衰退や、安価な外国産の絹製品の流通、
化学繊維の台頭、桑畑の減少などの複数の原因により、
8万軒あった群馬県内の養蚕家も、いまでは142軒に。
ただ、教育のために蚕を飼育している小中学校もいまだにあり、
身近に感じている人もいるのではないでしょうか。
「蚕はとてもおとなしい生き物です。歩いて遠くへ行かないし、
蛾に成長しても飛びません。
だから、エサを得るために、子孫を残すために、
人と共存しないと生きていけない生き物。野生には帰れないのです」と、原さん。
そして人間も、蚕と共生関係にありました。
成長が早くすぐに現金に換えられる蚕は一家の家計を支えてくれる存在でした。
だから感謝と愛情を込めて、
蚕のことをお蚕様(おこさま・おかいこさま)と呼ぶのだとか。
敬称に加えて“お”をつける。
「自分の子どもでさえ“お子様”とは言わないのに。
それだけ蚕は特別だということですね」と原さんは話します。
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一般的に、ひとつの繭から
1300〜1500メートルの糸が引き出されると言われていますが、
より病気に強く、より大きく、より質の良いものを
という研究のもとで品種の掛け合わせが行われて群馬県オリジナルの絹糸が出てきました。
日本種と中国種のふたつの系統を掛け合わせるそうで、
生糸量歩合(糸ができる量)や、繭糸繊度(太さ。デニールで表されます)、
色(真っ白だけでなく、薄く緑がかった白や黄色い品種も)に特徴を持つ、
〈ぐんま黄金〉、〈世紀二一〉、〈ぐんま200〉、〈新青白〉などの蚕品種ができました。
さて、繭玉をさわらせてもらいます。ザラザラとした和紙のような触感。
大きいものも小さめのものも、黄色のものも白いものも、同じ触感でした。
強く押すとへこみますが、密度が高く、蚕にとって頑丈な部屋という印象です。
これが1本の糸でできているなんて!
そして当然ですが、振るとコロコロと音がし、
たしかにこの中に“居る”感じがするのです。
展示室を先に進むと、2種類の絹糸が。
どちらもツヤツヤと美しい見た目。
しかし、片方をさわると……キシキシ、キュッキュッとしています。
まるで櫛通りの悪い人形の髪の毛のよう。
このキシキシの原因は、タンパク質の一種であるセリシンが3層に重なっているから。
これをアルカリ性の溶液に浸したもう片方の絹糸は、なんと不思議!
しっとりとやわらかで「フワフワ」なさわり心地に。
「これを“精練する”と言います。表面のタンパク質が溶けることで、
やわらかくなるんです」と原さん。
美しい光沢も特徴のひとつ。
どの角度からみても光をよく反射し、落ち着いた輝きを放ちます。
また、吸湿性、放湿性にすぐれているため、パジャマなどの衣服で好まれています。
蚕がつくり出した天然素材。この美しさはまさに芸術的で、生命の神秘を感じます。
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いよいよ蚕とご対面。特別に、飼育場を見せてもらいました。
2000匹以上の5齢の蚕が桑の葉に群がってお食事中。
よく手を洗ったあとに(蚕にウイルスを移さぬよう! 大切に飼育されているのですね)、
原さんの導きのもと、おっかなびっくり一匹つまんで手のひらへ。
言葉で表すなら、“ぽて”。やわらかいのですが、
想像していたよりもふにゃふにゃしていなく、
掴むと筋肉質のようなかたさを感じました。
5齢というのは、4回脱皮を繰り返した状態のことで、
幼虫の最終形態という感じでしょうか。
すぐにでも糸を吐けるように準備をしている段階です。
蚕は本当におとなしく、常に桑の葉を探している様子。
時折見せる頭と胴を伸ばす姿がなんともけなげに思えてきます。
海老原「ひんやりしてますね」
原さん「蚕は変温動物なんですよ。気温によって体温が変わります」
4〜5齢の蚕の適温は25度で、20〜30度の範囲で育てるようにしているそう。
少し涼しい室内の飼育場で育てているのはそのため。
暑い場所では、蚕も体温が上がってしまい、
生活機能バランスが崩れやすくなるのだとか。
蚕の感触に慣れてきたところで、よく観察してみました。
足には吸盤と爪のようなものがついており、
これが桑の葉をがっちりキャッチするそうですが、
手のひらに乗せたときにもしっかり吸いついているのがわかります。
背中には勾玉のようなかたちの文様が。
原さんいわく、「この文様には何の役割もないのでは」とのこと。
『蚕と馬』という昔話を思い出しました。
馬と人間の悲恋の物語なのですが、
その話によれば、背中の文様は馬の足跡なのだとか。
先にある突起物(とげ)は天敵を威嚇するためと言われているそうで、
あまりにもやわらかいため害を与えるものではないそう。
子どもでも安心してさわれますよ。
ふ化から蛾になり産卵するまで50日間かかるうち、
食事をするのは5齢幼虫までの25日間だけ。
サナギになり、羽化しても飲まず食わずなのだそう。
つまり、これが最後の晩餐ということ。
食べ急ぐかのようにすごいスピードで桑の葉を平らげていきます。
蚕が一生のうちに食べる桑の葉の量はわずか20〜25グラムだそうですが、
そのほとんどをこの5齢の時期に食べるそう。
桑の葉と一緒に蚕を手に持つと、ショリショリと食べる振動が指先に伝わります。
桑の葉を小さな体にたっぷり蓄えた蚕は、いよいよ営繭(えいけん)へ。
1本の糸を休みなく吐き続けます。
糸を吐き始めて2、3日後、自室である繭が完成するとサナギになり、
通常12日〜14日ほどで羽化しますが、
そのほとんどが羽化することはないのですね……。
繭の中を割って、サナギもさわりました。
コロコロと茶色くかたいサナギが、あの白い蛾になるというのもなんとも不思議。
「蛾をさわると、鱗粉でかぶれたり、アレルギー反応が出ることがあるので、
さわるのはやめておきましょう」と原さん。
展示の最後は特別展。モダンな着物、反物が並んでいました。
1反をつくるのに、必要な繭は約5キロ、2600個が必要になるそう。
つまり、2600匹の蚕の命をいただいているということなのですね。
絹は“動物性の天然性繊維”だと頭ではわかっているつもりでしたが、
実際に蚕や絹を目の前にして、そしてさわって、そのことを強く実感しました。
自分たちが着ている服に〈シルク〉〈絹〉という表示があったら、
今回の体験を思い出すことでしょう。
(そして、少しだけ切ない気持ちになるかもしれません)
群馬の絹産業が、日本の産業革命の原点となったことも
日本絹の里でリアルに知れたことのひとつ。
体長7センチ。小さな蚕の大きなパワーを知った体験となりました。
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さわる知リ100 知ったつもりにならないでリアルにさわってみたい日本の100
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群馬県立日本絹の里
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